『医療費2000億円払いすぎ』

 診療報酬明細書95年度を再調査 不正や過剰請求


 この様なタイトルで8月31日の一面に載せたのが朝日新聞でした。

「改革は誰のために・時時刻々」なる表題で、その後、連載され3日間の報道でした。皆さんの中にもこの記事を読まれた方は多くおられたと思います。また、この記事を読んで、どこの病院も診療所もこんな「悪いことをしているのか」と憤慨された方もあるかも知れません。

ちょっと待って下さい。私たちの言い分も聞いて下さい。

 この記事の内容は病院や診療所が医療費を請求する診療報酬明細書(レセプト)を、社会保険支払基金や国民健康保険団体連合会が再審査した結果を公表したもので、1995年度だけで2000億円規模の過剰な支払いがあることがわかり、その分の医療費が減額されたことが明らかになったとしています。更にこの原因は医療機関側の「架空診療」などによる不正請求や不必要な投薬や検査による過剰請求が一つの要因で、こうした水増し請求やレセプトのいい加減さが医療費の膨張の温床となっていると結論づけています。

 しかし、この記事を読むと一般の方には分かり難い医療関係の記事ですが、その内容が憶測と事実の誤認・歪曲で書かれており、記者の不勉強と思われる部分が多く見られます。特に「不正や架空請求」と記者が書いている部分では、認識が全く異なります。

 どの医療機関でも、医師が患者さんのためと考えて行った検査や治療が、審査では『不必要』と判定されたり、また、投薬内容とその薬の適応症が異なり、投薬しているのに支払いを減額される事はあります。これは医療機関の側の減点で、査定されれば検査代や投薬した薬代はどこからも支払われませんので全くの赤字となります。しかも、それは『私は必要だと考えた』が『審査側は不必要だと考えた』という『見解の相違』的次元のものや、保険の事務請求上の間違いで、朝日新聞が指摘しているような『不正請求』でも『架空請求』でもありません。また、患者さんの保険証番号が間違っていたり、古い保険証を持ってこられて支払いの延期や減額される事もあります。

 レセプトの審査に関しても、現在はそれこそ重箱の隅をほじくるような小さな事まで審査されます。嘘だろうと思うような例があります。入院の患者さんに便秘がひどく1回浣腸を行ったり、腰痛で湿布剤を2-3日使っても便秘症や腰痛症の病名がレセプトに抜けておれば査定で認めてもらえません。私の所でも浣腸の件で、浣腸した理由を書きなさいと返戻された事実があります。これらの医療行為も患者さんのために行っても単純なミスで減額されるのです。またこの審査は支払い基金での一次審査と、その後に各市町村・企業でも医療費を減らそうと考え、医療事務の専門家を別に雇って、重箱の隅のまた隅をほじくる様な二次審査を行い、この審査は医師の審査ではないため、むしろ病名と合わない検査や投薬を探し出すチェックで、日常の診療の場の医療行為の常識とかけ離れた審査が行われます。これが再審査です。

その意味で、この記事は不正確であり、再審査の減額が即「不正」と考える一般論にまで拡大するところに恣意性を感じます。

 残念ながら、安田病院事件に見られるように、この記事のような不正行為をする医療機関が一部に存在するのは事実です。我々医療関係者も反省するべき事は多くあると考えます。しかしそれを一般論にすり替えて、あたかもほとんどの医療機関が不正をしているような印象を植え付けようとするのは報道機関の姿勢として問題ではないでしょうか。

もし一般的に横行しているというのなら、そのデータを公表するべきでしょう。

 9月1日より始まった医療法改悪と今後の医療の危機的状態に医療関係者もマスコミも患者さんも、みんなで考え、よりよい医療制度の確立を行おうと言う時に、薄っぺらな取材と憶測で医療機関だけを攻撃して国民世論から分断を図ることを、この記者は結果として何が生まれると思っているのでしょうか。何も生み出さない「不信感」を煽るだけの不毛の記事、不毛の論議としか言いようがありません。記者以外にも編集者の、強いては朝日新聞の体質の問題でしょうか。

 朝日新聞も以前は今回の医療制度改悪に反対する立場の社説を掲げ、その場しのぎの改革でなく、国民の納得の出来る医療制度の抜本的な改革を訴えていたはずです。この様変わりはどうしたのでしょうか。疑いの目で報道を読むようになり、マスコミ不信が生まれます。

 8月31日の「医療保険2000億円過剰払い」記事の右下に沖縄での海底散歩の写真があり「きれいな珊瑚」が写っていたのが印象的でした。いつかの「朝日新聞・珊瑚礁事件」の、彼らのブラックジョークだったのでしょうか。

          平成9年9月9日   玖珂中央病院 吉岡春紀


このページも朝日新聞に抗議する目的で背景を黒にしています。

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