インフルエンザの予防と治療 アマンタジン情報


メルクマニュアル・インフルエンザの予防と治療

 予防
 アマンタジン100mg経口1日2回(成人用)は,インフルエンザAに対して予防的に用いられうる。それはインフルエンザBに対しては無効である。インフルエンザAの流行中,家族の構成員および患者の他の親密な接触者そしてインフルエンザによって罹病が高まる危険性のある人に投与されるべきである。アマンタジンの投与中,以前に予防接種を受けていない人はワクチンを受けるべきである。そして,アマンタジンは,2から3週間で中止する。

 もしワクチンが与えられなければ,流行が持続する間,通常は6から8週間続けなければならない。アマンタジンは,神経質症,不眠症,あるいは他の副作用を約7%の人々に起こす。これらの副作用は,高齢者やCNS疾患または,腎機能障害を持つ人でより顕著である;よって,これらの患者では減量が必要である。リマンタジン(米国で認可を受けつつある新薬)は,アマンタジンのアナログであるが,別の薬物動態を持ち,同等の用量で副作用はより少ない。それはほぼ同等の効力で,アマンタジンの代替として使用しうる。

 治療

 アマンタジンは,合併症のないインフルエンザAで早期に与えられれば,発熱および呼吸器症状に有益な効果がある。それは肺炎に使う時には臨床的な便益はないが,肺機能の回復を早めうるだろう。
 リバビリン(194章「ウイルス感染症」の「呼吸器シンシチウム(RS)ウイルス」,参照)を微粒子エアゾルまたは大量に経口で投与すると,発熱期間を短縮し,インフルエンザAまたはBにおけるウイルスの脱殻を減少させることができる;それは一次性インフルエンザ性肺炎の経過を逆に好ましく戻しうる。


インフルエンザ対策

 1997.1.30、毎日新聞インフルエンザ対策の特集記事より。

インフルエンザワクチンの予防接種は、通常1〜2週間あけて2回注射する。徐々にウイルスに対する抗体が体内に出来て、約1カ月後には免疫機能がピークになる。但し「今流行しているA香港型は、過去の流行で多くの高齢者は感染して免疫の記憶を残しているので、抗体は出来やすくなっており、1回の接種でも10日ほどで感染防御機能は高まるはず」と後述の加地医師は指摘する。
 風邪の病原体、臨床と治療に詳しい久留米医大・名誉教授(内科学)加地正郎医師は「今、全国的には広がっているので、流行そのものを抑えることは難しいが、2〜3月にかけて流行する地域もあるだろうから、その地域(大都市・県単位)での接種は有効である」と指摘している。 現在先進19カ国で、インフルエンザ予防接種を勧告していないのは日本だけである。
 さて予防接種に変わる有効予防対策として何があるかという点もこの日の毎日新聞は伝えております。それがアマンタジン(商品名:シンメトレル)という薬で、パーキンソン病の薬として非常によく使われている薬です。同名誉教授は「アメリカではインフルエンザにかかって48時間以内の内服と(←治療薬として)、予防薬として2〜3週間の連続服用を勧めている」と言う。日本では67〜69年に治験が行われ、アマンタジンがA型ウイルスのインフルエンザに有効であることを認めた(B型には無効)が、認可申請は立ち消えとなったそうである。これに対して厚生省は「インフルエンザの治療薬としては登録されていない。医師と相談の上で保険外処方なら構わない」としている、と毎日新聞は伝えた。


今日の治療 1997

北原光夫  東京都済生会中央病院・内科部長

 3)インフルエンザAの予防
 インフルエンザAの感染により,重症感染を引き起こすと考えられる高齢の心疾患例,肺疾患例にはワクチンの抗体価が上昇するまで流行中にアマンタジン100mg/日を投与する.
 抗ウイルス薬 アマンタジン(シンメトレル)
 インフルエンザAの予防として,インフルエンザAの流行期間中200mg/日投与する.適応例は糖尿病や慢性肺疾患や心疾患を有する高齢者となる.投与期間は5-7週に及ぶので,インフルエンザAワクチンを投与して10-14日間アマンタジンを投与する方法もある.
 アマンタジンはワクチンの効果には全く影響しない.


特集 かぜ症候群とインフルエンザ

   治療 抗インフルエンザ剤の現状 加地正英 大泉耕太郎 
   臨床と研究 73巻12号 平成8年12月

アマンダジン

  Davies らがこの薬剤が抗インフルエンザ作用を持つことを報告したのは1964年のことである。ただしインフルエンザA型ウイルスに対しては効果を示すが、B型には無効である。
 アマンタジンによるインフルエンザAの治療効果については、欧米からはすでに多くの報告があり、その有効性は広く認められているところであるが、我が国でも北本らの報告がある。その成績の一部を引用すると、アマンタジンの投与により有熱期間の短縮が認められているが、この他各種の全身症状、呼吸器症状に対しても効果が見られている。
 診療に当たっての投与量は、通常1日200mgを2回に分けて内服(副作用の1つに不眠があげられているので、朝、夕の2回に投与)、小児では適宜減量する。
 投与はなるべく早くから(発病後48時間以内)開始し、症状軽快後48時間まで続ける。最近ではアマンタジン耐性の問題が浮上しており耐性ウイルス株出現の可能性を警戒して、アマンタジンの投与は一般的には3-5日間あるいは所見、症状消失後24-48時間までとされている。
 また、アマンタジンは体内で変化を受けず腎から排泄されるので、腎機能低下が見られる症例では投与量を減ずる必要がある。
 副作用としては不眠、興奮、集中力低下などの中枢神経系の症状と悪心、食欲不振などの消化器症状があげられているが、これらの副作用は通常軽度で投与を中止すれば消失する。しかし時には腎不全患者、高齢者で重篤な副作用が見られることがあるとされている。
 また、高齢者(65歳以上) では一般的に腎機能が低下する傾向にあり、その投与には、慎重を要する。


新型インフルエンザ対策報告書。

 国立感染症研究所より、病原微生物検出情報編集委員会による

これは、厚生省新型インフルエンザ対策検討会(座長:山崎修道・国立感染研所長)が

9年5〜10月に計9回の検討会を開き、10月24日報告書を公表したものです。
その中の一部ですが、

(3)予防内服薬
 1)基本的な考え方:1964年に米国で開発されたアマンタジンは、A型インフルエンザに対する予防内服・治療薬として米国で用いられている。日本では、この薬はパーキンソン病の治療薬として承認されている。アマンタジンは基本的にワクチンを補完するものとして考える。

 2)有効性・安全性と供給体制:欧米での研究では、アマンタジンはA型インフルエンザの発症を50〜90%程度予防するとされている。一方で、10〜20%に精神神経への副作用がある。

 3)政府による購入・管理:アマンタジンは5年間保存できる。日本では抗パーキンソン薬として、米国の5〜6倍の使用量になっている。

 4)指針の作成:アマンタジン使用に関する指針をあらかじめ作っておく。

 5)予防内服薬に対する今後の方向性:新型インフルエンザ発生の場合には、緊急に使用できるよう検討を行う。

 日本醫事新報 No.3804(平成9年3月22日)


インフルエンザ(H5N1)感染症に対するアマンタジン(Amantadine)の使用

     平成9年12月9日
     香港政庁保健局からの勧告

 インフルエンザ(H5N1)感染症に対するアマンタジン(Amantadine)の使用

 2人の患者から分離されたインフルエンザ(H5N1)ウイルスに対する薬物感受性の研究がアメリカ疾病予防管理センター(CDC)により行われた。これにより、インフルエンザ(H5N1)ウイルスがアマンタジンに対して感受性を有することが明らかにされた。

 アマンタジンは、インフルエンザAの治療と予防のために効果的な薬剤である。ただし、インフルエンザBには無効である。(なお、インフルエンザ(H5N1)ウイルスは、インフルエンザAウイルスの一種である。)

 しかし、インフルエンザウイルスが急速にアマンタジンに対する抵抗を獲得するであろうことを指摘することは、実に賢明である。
 それ故、医師は、インフルエンザの治療または予防に際して、アマンタジンを適切に使うように忠告される。医師への参考として、CDC専門家からのアドバイスを含んだ次のガイドラインが勧められる。

 1.インフルエンザ(H5N1)感染が確認された症例

 インフルエンザ(H5N1)患者を治療するために、アマンタジンを1回100mg、1日2回5日間、使うことができる。もし、発病から48時間以内に治療が開始されれば、アマンタジンは病気の重症度を減らして、病気の持続時間を短くすることができる。基礎疾患として腎臓病を有する人々、子供、高齢者に対しては、投薬量を減らすべきである。1歳から9歳までの小児に対しては、5mg/kg/日、最高1日150ミリグラムを2回に分けて、投薬する。9歳以上の小児に対しては、成人と同じ量を投薬することができる。しかし、もし小児の体重が45kg以下であるならば、5mg/kg/日、最高1日150ミリグラムを2回に分けて処方する。

 2.インフルエンザ(H5N1)患者に対する臨床的あるいは積極的な接触者

 密接な接触者、すなわち家庭内の接触とインフルエンザ(H5N1)感染患者に対して直接の介護を提供する医療従事者は、医学的な監視下におかれるべきである。もし、彼らがインフルエンザと合致する徴候(咳あるいは咽頭炎を伴う38℃以上の発熱)を生じたならば、ウィルス培養のために咽頭分泌物を採取すべきである。 アマンタジンを使っての治療(1回100mgを1日2回5日間)は、ウィルスの培養結果を待ってから、始めるべきである。

 3.接触者に対する化学予防

 組織的な発生の調査について責任を有する保健担当官のアドバイスがある場合にのみ、 アマンタジンは、密接な接触者に対する化学予防として、処方されるべきである。

 4.副作用

 アマンタジンは神経系と胃腸の副作用を起こす。 健康な成人を対象とした研究によれば、アマンタジンを投与された人の約14%に副作用が発生した。
 神経系の副作用は、神経質、不安、集中困難、めまいなどである。
 顕著な行動変容、精神錯乱、幻覚、興奮、発作のような、より重篤な神経系の副作用も観察されている。
 胃腸の副作用は吐き気、嘔吐、腹痛、便秘などである。
 これらの副作用は、投薬が中止されれば、治まる。
 腎機能障害者と高齢者については、副作用に十分に注意すべきである
 アマンタジンは、てんかん発作障害者に対しては、禁忌である。

 5.その他

 冬季がインフルエンザのピークではないことに注意すべきである。
 インフルエンザではない多くの普通の風邪、あるいはインフルエンザに似た病気がアデノウイルス(adenovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)などの他のウイルスによって起こされる。(これらの風邪の治療または予防には、アマンタジンは効果がない。)


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