第49回 日本心臓病学会 モーニングセミナー 広島
  介護保険制度下における心臓病患者の在宅介護
                      2001年9月25日 

先日広島で開催されました第49回日本心臓病学会で、介護保険関連の話題を取り上げていただきました。
学会長の山口大学医学部 松崎教授には改めてお礼申し上げます。

このセミナーでは
 戸嶋裕徳先生(戸嶋医院・久留米大学名誉教授)の司会で 
 館 啓二先生(豊田地域医療センター) (彼によく似た俳優さんがいます。分かりますか) 
 小林邦代さん(横浜市中区医療センター訪問看護ステーション) と
 私が発表しました。

   

          館先生     小林さん       戸嶋先生    私

館先生は豊田地域の開業医や勤務医へのアンケート調査を行われ、介護保険制度についての意識調査・主治医意見書の書き方を調査されました。
 その結果要介護度の認識など開業医と勤務医で差があること、心臓病患者の要介護度が低いと主治医も感じていること等を述べられました。また「主治医意見書の作成の約1/4は病院勤務医であるが、なかでも心臓病患者は病院の専門医が診ているケースが多い。しかし、専門医は在宅患者の生活環境を良く知らないことや、介護保険制度についての認識が十分でないことが多い」とも言及されました。

また小林さんは「介護保険認定者のうち心臓病を持つ人は約2割で、そのうち約半数は慢性心不全であり、心不全の管理にあたり、服薬の管理、食事指導、生活指導など在宅看護の役割は大きいこと。在宅現場で連絡ノートを使用し、各サービス事業者の連携に役立たせることも有用であろう。」と発表されました。

私は在宅介護の現場とは別に、介護保険制度の要介護認定制度が心臓病患者や内臓疾患患者の認定が正しく行われているか、また介護サービスが受けられる認定なのか、認定制度の問題点を中心に述べました。


私の発表の内容です。発表原稿

はじめに
 介護保険制度が発足し約1年半を経過しました。要介護認定や制度そのものにも多くの問題点が指摘されています。本日のテーマの「介護保険下の心臓病患者の在宅介護」について司会の戸嶋先生より相談を受けた時、「私は介護保険下での在宅介護なんてありませんよ」と答えました。それほど現場では心臓病患者の要介護認定は疑問だらけで、特に心疾患ではほとんど要介護度が上がりません。
 しかしそれでは問題解決になりませんので本日は「果たして介護保険制度下で心臓病患者の要介護度は正しく認定され、在宅で十分な介護サービスを受けているのだろうか。そして問題があるとすればその解決法はあるのか」と言う点を中心に私の考えを述べさせていただきます。

内臓疾患の要介護認定の現実
 心疾患を含め、在宅酸素療法中の呼吸器疾患・透析中の腎疾患・肝疾患・悪性腫瘍や術後などの内臓疾患でも、介護は必要ですし、疾患の予後に在宅介護の有用性も認められていますが、介護保険制度ではこれらの内臓疾患の要介護度は低く、満足した介護サービスが受けられない事が問題となっています。
 また介護保険制度では65歳以下40歳までの申請は特定疾患だけしか認められず、心疾患はありません。
 この点に関して東京都老人医療センター栗原先生らの報告「在宅の高齢慢性心不全患者の介護保険導入後の現状調査」の報告がありますので、ご紹介します。
 調査例数は21例 (男性9例 女性12例 平均年齢80歳)です。
 調査時のNYHA分類は、度13例、。度7例、「度1例で、要介護認定は要支援3例、要介護1は3例、要介護2は4例、要介護3は1例、でした。しかし約半数の10例は認定申請を行っていません。
 調査の結果NYHAが重度になるに従い基本的日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL)の低下が認められ、要介護度も重度になるに従いこれらの生活動作の低下が認められたがNYHAの重症度と要介護度との関係は認められられず、また独居生活をしている89歳女性は、NYHA 「度で家事動作を訪問介護に頼っていたが、要介護1と認定され訪問介護の頻度を減らさざるを得なかった。と結論しています。
 他にも在宅酸素療法を行っている慢性呼吸不全例でも、重症度と要介護度の相関が無く低い認定で十分な介護サービスを利用できないとの報告もあります。

現在の要介護認定審査の流れ
 調査員の訪問調査から始まります。
 調査員は申請者との面談で73項目の調査項目と12項目の特別な医療の計85項目を調査票に記入し、必要に応じて各項目ごとの特記事項を記載します。その基本調査の結果をコンピューターに入力するとコンピューターによる一次判定が出ます。

 認定審査会では
 @一次判定の結果 
 A調査員の特記事項 
 B主治医による意見書を基に検討し、厚生省が示している要介護度ごとの「状態像の例」に照らし合わせて,二次判定(要介護度の判定)を行うことになります。
 
 要介護認定調査ではコンピューターによる一次判定の為の73項目の調査項目がありますが、麻痺や拘縮などの身体障害度と痴呆の問題行動以外の項目は日常生活動作の調査しかなく、その調査もがんばって・時間がかかっても「できる」なら自立と判定される仕組みですし、医療が必要な介護者の調査項目はなく一次判定調査では反映されません。

 それならば医療行為は一次判定に反映されるかと言えば、調査項目に特別な医療という項目があります。点滴や中心静脈栄養、透析、酸素療法などの特別な医療や処置には一次判定で加算点が与えられていますが、ご覧のように在宅酸素療法の加算点は0.8分という考えられない加算になっていますし、これ以外の項目には配点はありません。

 一次判定の不備は二次判定で考慮されるべきですが、認定審査会の構成は通常5人程度の審査員で審査を行います。医師は1-2名ですが専門性は問いません。
 従って医師の審査員も心臓疾患・内臓疾患の主治医意見書を全て理解し審査に反映できるかどうかは不明です。また二次判定に反映するにしても、その程度はどうするのか何も基準はありません。公平性は保てません。
 従って現在の認定制度では、二次判定で内臓疾患を理解した審査会に当たってくれることを祈るか、そのために主治医意見書に心臓病の診断名や重症度でなく、心疾患によりどのような介護が必要かを具体的に記載をするしか要介護度をあげる方法はないと思います。が、現実には記載例は極わずかです。

 もう一つ認定審査において、二次判定の大きな縛りとなっているのがスライドの様な項目です。これらの項目は二次判定で考慮できないこととなっているのです。(1)年齢 (2)本人の意欲の有無 (3)施設入所・在宅の別、住宅環境(4)家族・介護者の有無 (5)本人の希望 (6)現に受けているサービス などです。
 住宅環境・介護環境は二次判定には無視するようになっています。独居・老老なども勘案できないのです。本当の在宅介護とはこれらを勘案する事ではないでしょうか。

身体障害者制度と介護保険
 他にも問題があります、心疾患患者の介護保険制度の問題は他の制度との関係です。特に身体障害者制度は介護保険で問題となっています。身体障害者では等級により医療費は免除もあり、今までは医療介護サービスは補助されていました。しかし介護保険制度発足後、身体障害者への補助は医療制度での医療費補助であり、介護保険への補助はなくなりました。
 同一サービスについて介護保険が優先し医療保険と重複するサービスは介護保険制度となります。このため重度の身障者でも介護サービスを利用すれば自己負担が必要となっています。これによって在宅サービスが受けられなくなった事例も経験しています。早急に改善して欲しい制度上の問題だと思います。

特定疾患について
 介護保険制度では40才から65才未満の申請者は特定疾患に指定された15疾患以外の疾患や怪我等で日常生活に障害があり介護を必要としても介護保険制度では、要介護認定は受けられません。
 特定疾患の内臓疾患は 9. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び  糖尿病性網膜症と14. 慢性閉塞性肺疾患 だけです。心疾患で介護保険の申請が出せるのは65歳となってからです。

内臓疾患の要介護度補正基準 
 そこで 心臓病患者を含む、内臓疾患全体の要介護度を二次判定で補正する基準を考えてみました。
 そのためには日常生活における介護の必要度をチェックすることが必要ですが、色んな疾患でその分類は異なっています。そこで身体障害者の申請時に記載する生活区分の分類を調べてみました。
心臓疾患では「活動能力の程度」や学会では「NYHA機能分類」が使われます。
腎臓機能障害「日常生活の制限による分類」
呼吸器機能障害「Hugh-Jones分類」などです。

 ここで要介護認定審査では「日常生活に制限がいるのかいらないのか」が問題であり、「日常生活の制限による分類」が介護保険制度の中で、どの内臓疾患にも利用できるのではないかと思います。

「日常生活の制限による分類」とは
簡単な分類で、これを意見書の寝たきり度や痴呆度と一緒に記載すればいいと思います。

ア 家庭内での普通の日常生活活動又は社会での極めて温和な日常生活活動については支障がなく,
 それ以上の活動でも著しく制限されることがないもの。
イ 家庭内での普通の日常生活活動又は社会での極めて温和な日常生活活動には支障がないが,
 それ以上の活動は著しく制限されるもの。
ウ 家庭内での極めて温和な日常生活活動には支障がないがそれ以上の活動は著しく制限されるもの。
エ 自己の身辺の日常生活活動を著しく制限されるもの。

 この日常生活分類を参考にして二次判定で要介護度を推定するには、やはり身体障害者の等級認定と同じように考え、日常生活制限分類のイ以上では身体障害度にあわせて推定要介護度を決めておけば判定が公平に行えると思います。
 また内臓疾患では生活指導で在宅の日常生活の制限を指導している場合も多くこの生活制限分類は主治医として患者さんを診察していれば当然必要なことで、臨床医にとって「寝たきり度」「痴呆度」よりは性格に把握できると思います。

日常生活制限分類と推定要介護度
  日常生活制限          身体障害度   推定要介護度
ア 家庭内支障無し         非該当     非該当
イ 家庭内の普通の生活       4級相当    要支援
ウ 家庭内の極めて穏和な生活    3級相当    要介護1-2
エ 身辺の著しい制限        1級相当    要介護2-3

 このような推定要介護度を決めておけば、内臓疾患で介護が必要で、日常制限「ウ」の記載があれば、要介護1-2の認定で審査を始める事です。あくまで二次判定の参考資料です。
 内臓疾患でも身体障害があり、一次判定でこれ以上の要介護度があればどちらか重度の要介護度を選択する事にしても良いでしょう。

認定審査会への提案
 
1. 主治医意見書の日常生活の自立度についての項目 寝たきり度・痴呆度とともに
  「生活制限による分類」の程度を記載するようにする
 2.「生活制限による分類」から推定できる「要介護度」決めておく
 3. 内臓疾患で一次判定結果が低く、かつ介護サービスが必要な申請者にはこの基準で
   二次判定補正を行う

まとめ
 1.内臓疾患の要介護認定が介護度を反映していないことや、在宅介護が必要な身体障害者の
  介護費の補助・特定疾患の追加などの改善を学会から厚生労働省に要望してほしい

 2.要介護認定審査では内臓疾患の申請時には主治医意見書に具体的な介護の必要度や日常生活
  制限度を記載する。審査会ではこれを参考にして二次判定で要介護度の補正を行う

 3.とくに病院の勤務医や専門医も介護保険制度を理解し、制度の研修を行うとともに認定審査に
  合わせた主治医意見書の書き方を研修すること

 4.在宅介護サービスが必要な心疾患患者の管理は勤務医でなく、介護保険制度を理解し、地域の
 介護サービスを熟知した地域のかかりつけ医に任せることも検討してほしい

 以上大急ぎで問題点を述べたためわかりにくい発表となりましたが、介護が必要な内臓疾患患者は多く早急に改善されることを、今後もホームページなどを通じて訴え続けたいと思います。
 一部時間の都合で省略しました。

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