新型インフルエンザワクチン

 今年は1回接種で、出来るだけ早く多くの人に

「10月19日の週からワクチン接種開始」という報道は新聞でもなされており、最初の優先接種対象の医療関係者に、各都道府県で調査が始まっています。新型インフルエンザワクチンは、特に今回のように、見込み違いでワクチンの国内製造が間にあわない場合、優先順位を定めることは否定しません。

 しかし、国の広報活動・マスコミの対応は新型インフルエンザの恐怖を煽る報道が目につき、国民としては冷静な対応がとれず、ワクチンで新型インフルエンザの予防が出来るなら我先にワクチン接種を望むはずです。

 そして今。国が考えているワクチン接種の基準は、まさに現場を混乱させるものですし、国民の何割か接種を希望しない人があったとしても、このままでは最終的には希望しても多くの接種出来ない人たちがでます。それも青壮年の人たちです。また接種対象の問題だけでなく、今の基準はそれ以上に委任状や申請書など書類書きがたくさんあり、まだ十分な通達は現場にも周知されていません。


 まず最初に接種予定の医療関係者の選択でも、各都道府県で予定の100万人の配布予定量を大幅に超える希望があり、各都道府県で独自の基準を策定しています。当地でも昨日医療関係者の配布基準がメールで通達されましたが、国の配布予定を大幅に超えたため、医療関係者の接種も予定通り出来ないことになっています。診療所では内科・小児科・産婦人科や救急・外科・耳鼻科などは何とか医師・看護師には接種出来ることになりましたが、その他の診療科は今回は医師だけしか配布できないようですし、配布される医療機関も医師・看護師以外のその他の職員は希望の半数しか認められていません。
 到底足りないとわかっていたので診療所の基準は理解したとしても、病院の接種基準は納得できるものではありませんし今後混乱することは目に見えています。

 地域での新型インフルエンザ患者の入院医療体制については、今は強毒の致死率の高いトリインフルエンザの体制のままで、この新型インフルエンザの入院医療については医療圏でも連携体制はまだ決まっていません。トリインフルエンザと異なり、今の新型や季節性インフルエンザなら、軽症者で入院が必要なら地域の医療機関で入院治療し、重症者は中核病院での入院対応する早急な対策作りが必要ですが、まだ全国の多くの地区は対応はとれていません。そんな協議の前に、今回医療従事者用のワクチンが一般病院にも必要量が配布されないなら、地域の医療機関ではインフルエンザ患者の入院に戸惑うと思います。

 そして医師・看護師以外でも病棟職員の感染防止は病院機能を維持するためには絶対条件で、病院の職員が感染して職場を休めば、その地域の医療は維持できなくなります。死亡率を減らすためのワクチン接種ではないことが理解されていないのではないでしょうか。

 また複雑な基礎疾患を持った人に対する基準も今では曖昧なもので、その接種判定を現場に任されては公平な接種は困難だと思います。

 国は、「今般のワクチン接種については、 死亡者や重症者の発生をできる限り減らすこと及びそのために必要な医療を確保することという目的に照らし、優先順位を決めた」としていますが、死亡者や重症者を減らすことは、感染の拡大を減らすことが必要では無いでしょうか。


 それには出来るだけ希望者には全員接種出来ることが必要であり、幸い今年は国産ワクチンと輸入ワクチンで、当初の計画では優先接種者は5400万人分で、確保できる予測量は最新の情報では国産・輸入あわせて7700万人分が確保出来たという事です。それなら出来るだけ早く多くの人に接種することが流行期には必要ですが、国産は年内に少しずつ配布され、輸入ワクチンは年内に配布できるかどうか不明でこれは難しいと考えられます。3月の年度末までに終了できれば良いのが現状です。

 先日米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表された米国疾病対策センター(CDC)の報告では豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)の予防接種は1回で十分な効果があることが示されました。続いてアメリカ政府からも「10歳以上の健康な子供への新型インフルエンザワクチン接種は1回で十分とする臨床試験の結果を発表された」とのことです。

 現在予定されている国内の接種計画では、新型インフルエンザワクチンは2回接種と決まっており、現在1回接種も検討中とのことですが、まず1回接種にすれば、5400万人分の倍で1億人を超える接種が可能になるわけで、希望者にはほぼ全員接種が出来ると思います。また7700万人分確保できるのなら、2回接種も可能な数字ですが、現場での混乱を避けるため、まず希望者全員に1回目を接種し、2回接種が必要かどうかは少し時間をかけて検討したらいいことです。複雑な優先順位の基準やワクチンの流通経路や配布の手続きなど考えると、早急に判断して貰いたいことです。 1回接種で良いかどうかの国産のワクチンの臨床テストでは無いので、国産ワクチンの検討の必要はありますが、今の季節性インフルエンザも成人・高齢者は1回で済んでいます。

 厚労大臣が国民に、「今年は緊急避難的に小学生以上は全員1回の接種とします。ただし予防効果は少し薄いかも知れませんが、海外での調査では1回接種で十分な効果があるといわれています。また接種後に新型インフルエンザに感染した場合にも、今の日本ならタミフルやリレンザなどで治療は出来ます。これならほぼ新型インフルエンザの希望者には数ヶ月以内に接種出来ます。次年度からはワクチン製造の過程を見直し、ワクチン接種に関して正しい対応が出来るようにします。」とマスコミを使ってコメントすれば、現場での混乱は少しでも防げるのではないでしょうか。


 国は1回か2回か検討中の様ですが、全国民の安心感・公平感を考えて、早急に1回接種変更することを期待し、特別な理由や効果実績などある場合を除いて希望者全員に1回接種を希望します。特に感染の主体である小児を最優先に接種すべきだと思います。現場での感染の時期に医療機関で接種するよりも、学校での集団接種を見直しても良いのではないでしょうか。

                10月12日 玖珂中央病院 吉岡春紀