2003年平和宣言  


2003年 「広島市原爆死没者慰霊式並びに 平和祈念式」


 今年もまた、58年前の灼熱(しゃくねつ)地獄(じごく)を思わせる夏が巡(め
ぐ)って来ました。被爆者(ひばくしゃ)が訴(うった)え続けて来た核兵器(か
くへいき)や戦争のない世界は遠ざかり、至(いた)る所に暗雲が垂(た)れこ
めています。今にもそれがきのこ雲に変り、黒い雨が降(ふ)り出しそうな気
配さえあります。

一つには、核兵器(かくへいき)をなくすための中心的な国際(こくさい)合意
(ごうい)である、核(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)体制が崩壊
(ほうかい)の危機(きき)に瀕(ひん)しているからです。核兵器(かくへいき)
先制(せんせい)使用の可能性(かのうせい)を明言し、「使える核兵器(かく
へいき)」を目指して小型(こがた)核兵器(かくへいき)の研究を再開(さいか
い)するなど、「核兵器(かくへいき)は神」であることを奉(ほう)じる米国
の核政策(かくせいさく)が最大の原因(げんいん)です。

しかし、問題は核兵器(かくへいき)だけではありません。国連(こくれん)憲
章(けんしょう)や日本国憲法(けんぽう)さえ存在(そんざい)しないかのよう
な言動が世を覆(おお)い、時代は正に戦後から戦前へと大きく舵(かじ)を
切っているからです。また、米英軍(べいえいぐん)主導(しゅどう)のイラク
戦争が明らかにしたように、「戦争が平和」だとの主張(しゅちょう)があた
かも真理であるかのように喧伝(けんでん)されています。しかし、この戦争
は、国連(こくれん)査察(ささつ)の継続(けいぞく)による平和的解決(かい
けつ)を望んだ、世界の声をよそに始められ、罪(つみ)のない多くの女性
(じょせい)や子ども、老人を殺し、自然を破壊(はかい)し、何十億年も拭
(ぬぐ)えぬ放射能(ほうしゃのう)汚染(おせん)をもたらしました。開戦の口
実だった大量(たいりょう)破壊(はかい)兵器も未(いま)だに見つかっていま
せん。

かつてリンカーン大統領(だいとうりょう)が述(の)べたように「全(すべ)て
の人を永遠(えいえん)に騙(だま)すことはできません」。そして今こそ、私
(わたし)たちは「暗闇(くらやみ)を消せるのは、暗闇(くらやみ)ではなく光
だ」という真実を見つめ直さなくてはなりません。「力の支配(しはい)」は
闇(やみ)、「法の支配(しはい)」が光です。「報復(ほうふく)」という闇
(やみ)に対して、「他(ほか)の誰(だれ)にもこんな思いをさせてはならな
い」という、被爆者(ひばくしゃ)たちの決意から生まれた「和解(わかい)」
の精神(せいしん)は、人類の行く手を明るく照らす光です。

その光を掲(かか)げて、高齢化(こうれいか)の目立つ被爆者(ひばくしゃ)は
米国のブッシュ大統領(だいとうりょう)に広島を訪(おとず)れるよう呼(よ)
び掛(か)けています。私(わたし)たちも、ブッシュ大統領(だいとうりょ
う)、北朝鮮(きたちょうせん)の金総書記(そうしょき)をはじめとして、核
兵器(かくへいき)保有国(ほゆうこく)のリーダーたちが広島を訪(おとず)れ
核戦争(かくせんそう)の現実(げんじつ)を直視(ちょくし)するよう強く求め
ます。何をおいても、彼(かれ)らに核兵器(かくへいき)が極悪、非道(ひど
う)、国際法(こくさいほう)違反(いはん)の武器(ぶき)であることを伝えな
くてはならないからです。同時に広島・長崎(ながさき)の実相が世界中によ
り広く伝わり、世界の大学でさらに多くの「広島・長崎(ながさき)講座(こ
うざ)」が開設(かいせつ)されることを期待します。

また、核(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)体制を強化するため
に、広島市は世界の平和市長会議の加盟(かめい)都市(とし)並(なら)びに市
長に、核兵器(かくへいき)廃絶(はいぜつ)のための緊急(きんきゅう)行動
(こうどう)を提案(ていあん)します。被爆(ひばく)60周年の2005年にニュー
ヨークで開かれる核(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)再検討(さ
いけんとう)会議(かいぎ)に世界から多くの都市の代表が集まり、各国(かっ
こく)政府(せいふ)代表(だいひょう)に、核兵器(かくへいき)全廃(ぜんぱ
い)を目的とする「核兵器(かくへいき)禁止(きんし)条約(じょうやく)」締
結(ていけつ)のための交渉(こうしょう)を、国連で始めるよう積極的に働
(はたら)き掛(か)けるためです。

同時に、世界中の人々、特に政治家(せいじか)、宗教者(しゅうきょう
しゃ)、学者、作家、ジャーナリスト、教師(きょうし)、芸術家(げいじゅつ
か)やスポーツ選手など、影響力(えいきょうりょく)を持つリーダーの皆(み
な)さんに呼(よ)び掛(か)けます。いささかでも戦争や核兵器(かくへいき)
を容認(ようにん)する言辞は弄(ろう)せず、戦争を起こさせないために、ま
た絶対(ぜったい)悪である核兵器(かくへいき)を使わせず廃絶(はいぜつ)さ
せるために、日常(にちじょう)のレベルで祈(いの)り、発言し、行動してい
こうではありませんか。

また「唯一(ゆいいつ)の被爆国(ひばくこく)」を標榜(ひょうぼう)する日本
政府(せいふ)は、国の内外でそれに伴(ともな)う責任(せきにん)を果さなく
てはなりません。具体的には、「作らせず、持たせず、使わせない」を内容
(ないよう)とする新・非核(ひかく)三原則(さんげんそく)を新たな国是(こ
くぜ)とした上で、アジア地域(ちいき)の非核(ひかく)地帯化(ちたいか)に
誠心(せいしん)誠意(せいい)取り組み、「黒い雨降雨(こうう)地域(ちい
き)」や海外に住む被爆者(ひばくしゃ)も含(ふく)めて、世界の全(すべ)て
の被爆者(ひばくしゃ)への援護(えんご)を充実(じゅうじつ)させるべきです。

58年目の8月6日、子どもたちの時代までに、核兵器(かくへいき)を廃絶(は
いぜつ)し戦争を起こさない世界を実現(じつげん)するため、新たな決意で
努力することを誓(ちか)い、全(すべ)ての原爆(げんばく)犠牲者(ぎせい
しゃ)の御霊(みたま)に衷心(ちゅうしん)より哀悼(あいとう)の誠(まこと)
を捧(ささ)げます。

2003年(平成15年)8月6日

広島市長 秋葉忠利
 




・『小さな歴史の物語』


木原税理士事務所