医療福祉費が果たして国家財政を圧迫しているのでしょうか


  医療福祉費が果たして国家財政を圧迫しているのでしょうか

 政府,厚生省が、老人医療の1割負担や薬剤費自己負担3割など、最近では老人外来1日500円と薬剤費の1日1種類15円など患者に負担増を求めることを正当化するために持ち出しているのが、医療保険財政の危機論です。l993年度、政管健保はそれまで黒字を保っていましたが、はじめて935億円の赤字となりl997年度は3.l00億円の不足を生じました。
 この根本は政管健保黒字の時代に国庫補助率を16.4%から13%へ引き下げたこと、大蔵省により黒字分が一般会計に繰り込まれ、その後返済が為されていないことが原因で、これらの返済が行われているならば医療保険財政の危機は、国の予算の危機ほど深刻にはなっていないはずである。
 国家財政の危機は主に過剰な公共投資、国債発行による負担が大きくなったためであり、国の財政政策の失敗を、これを医療保険にも転嫁することには問題があるのではないでしょうか。勿論国の財政危機は本物であり、このまま次の世代に引き継ぐことは出来ません。しかしだからと言ってこの問題を同じ土俵で論議する実とは出来ません。と言うのも医療福祉に関する国の保障は諸外国に比べまだまだ低いレベルであり、しかも医療福祉の分野での医療費の増加は当分は内部の改革で抑えられ、すぐに患者負担をあげなくても財源は確保できる試算があるからです。
 今で思えば誰でもが不思議に思った、あちこちにその場に不相応の建築物が出来たり、温泉を掘ってみたり、金の鯱を作ってみたり、の思いやり予算のばらまき、バブル時代の皆が浮かれた国家施策の付けが廻っているのです。

  国民医療費に占める国の負担の割合が83年度の30.6%から93年度には23.7%に落ち込んでいるのを83年水準に戻せば93年レベルで1兆7000億円の財源となり、政管健保、国保の赤字問題はなくなるといってよいとのデータもあります。また社会保障全体から見ても国民が受け取る社会保障給付費の対国民所得比は15.3%でスェーデン49%、フランス34.9%、ドイツ29.7%、イギリス24.5%と比べ格段に低く、政府が国民生活に対していかに出し渋っているかが明らかです。
 国民は保険料と言う名目の医療費税や窓口の自己負担ですでに負担の義務は行っていると考えられ、国家財政の危機を医療福祉財政の危機に転嫁するのならば、これらの内部調整を行った後に、将来の医療福祉政策についての十分な審議と、国民の理解、納得が得られなければならないと思います。
 低負担低福祉なのか高負担高福祉なのか、みんなが考えねばなりませんが、高負担低福祉はごめんです。
         平成8年12月     玖珂中央病院 吉岡春紀  


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