「医療機能強化型老人保健施設」って何
  新たな療養病床転換促進の緩和策

 療養病床削減の計画が進まないため、厚労省は色んな緩和策を発表し始めました。
新しい地域医療計画の策定にも、地域の医療供給体制の確保のために療養病床の転換が早急に明確にならなくてはならないのですが、先の見えない、現場の混乱だけの緩和策では手を上げる療養病床は無いのではないでしょうか。
 今回は新たに示された療養病床の介護施設への転換促進の緩和策について述べてみたいと思います。

療養病床削減計画とは、
 もう一度、療養病床削減計画について説明しますと、現在,医療保険を使って入院するベッド医療療養病床は25万床で、介護保険を使う介護療養病床13万床があります。厚労省は医療費を抑えるために2012年度末までに、介護保険の介護療養病床12万床を全廃し、医療保険の医療療養病床25万床を15万床に減らす事を決定しました。
 これにより厚労省は、「療養病床の削減で医療保険給付は12年度時点で年4000億円減る一方、介護保険は1000億円増え、差し引き3000億円の給付抑制につながる」としていますが、具体的な数値は示されていませんし、病床が削減されれば医療費の抑制が出来る事は当然ですが、逆に介護保険はもっと確実に増えるため、療養病床削減は介護難民・医療難民を生み出し現場の混乱を生み出すだけで、国の医療収支は予測通りになるかは疑問です。差し引き3000億円の具体的な根拠を示すべきだと思います。
 また、昨年の医療制度改革法案では、介護保険の介護療養病床12万床の全廃は決定しましたが、医療療養病床の削減数は、各都道府県での計画もはっきりしているわけではありませんので、目論見通りの医療費削減は難しいものと思います。

 国民の医療費・介護保険費の全体の削減が出来るかどうかは別にして、法案で決められたため、療養病床をもつ医療施設では、「病院の療養病床」を、「介護施設の介護病床・主に老人保健施設」に転換するように指導されています。

 ただ簡単に「転換しろ」と言われても、医療法と介護保険法では全く法律が違うため、療養病床を、そのまま介護施設に転換することは出来ないのです。
 逆に制度の違いを取り入れて、転換型の老人保健施設では、施設基準は療養病床の基準のままで、医師数・薬剤師数・看護職員などの人員配置基準が緩和されるならば、転換もスムーズに行えるかもしれません。ただ医療の強化を謳うなら看護職員数は今の老人保健施設では明らかに不足です。

表- 3施設の基準 

介護療養病床
老人保健施設
介護福祉施設
医師数
3名
1名
非常勤可
薬剤師数
1名
1名
/
看護職員
17人(20人)
9人
3人以上
介護職員
17人(20人)
21人
20人
34人
30人
23人
構造基準
病室(4床以下)
療養室(4人以下)
居室(4人以下)
一人当たり面積
6.4m2
8m2
10.65m2
施設整備補助
補助無し
基本額2500万
国1/2、都道府県1/4

 職員数は100人当たり ( )医療療養病床の看護職員


 表に療養病床・老人保健施設・介護福祉施設の施設基準や職員配置基準を示しますが、一番の問題は病床の占有面積が同じではなく(療養病床は6.4m2、老人保健施設は8m2)、また廊下幅なども違います。
 そして普通の老人保健施設では、医療の病床とは別の建物として取り扱われ、入り口やエレベータも別にしなければならず、リハビリ施設等も共有は認められていません。
 ということは、そのままの基準で転換するには病床数(入所数)を減らすしかなく、減らせば収入も大幅にダウンしますので、経営上簡単に受け入れられないのです。

 例えば現在の療養病床の4人病室では、老人保健施設なら3人、療養病床の2人部屋は、老人保健施設では個室にするしかないのです。

 すでに、医療療養病床では、現場の医療や看護の実情を無視した、また人件費を含むコストを無視した医療区分とその診療報酬により、存続が危ぶまれる状態となっています。
 また、現在の病院を介護施設に転換しろと言われても、今まで国の医療政策通りに協力して、金をかけて施設を改築・新築して一般病床を療養病床に転換してきたのに、その変換も済まないうちに今度は病院をやめて、一部はもう一度病室を改造して介護施設に転換しろと言うのですから、そう簡単に協力できるわけはありません。
 これまで何度か政策に誘導されて協力したら突然「梯子を外され」てきたのです。 今回はすぐに誘導に乗るわけには行かないのが現実です。医療法改定後、転換政策の予定数はまだ8%程度であるのがその現れだと思います。

転換緩和策
 そこで厚労省は、療養病床から介護施設に転換する場合の誘導策・緩和策を少しずつ小出しし始めました。
 というのも、医療制度による病院と介護保険制度による老人保健施設とは、これまでも制度の違いで施設基準色んな制限がありました。
 まず5月に
(1)施設基準の緩和
   老健へ転換:床面積(〜平成23年)、廊下幅、食堂、機能訓練室の基準緩和
   特養へ転換:          廊下幅、食堂、機能訓練室の基準緩和
(2)医療機関と老健施設が併設する場合の設備基準の緩和
   診察室、階段、エレベーター、出入口等の共用を可能とすること

 この緩和策では、老人保健施設へ転換する場合には、23年までは床面積を6.4uのままで良い事や、廊下幅など施設改築は必要ないというもので、同じ建物に医療施設と介護施設がある場合に、階段、エレベーター、出入口等の共用を可能とすることは認められました。
 これにより23年までは老人保健施設に転換しても病床数は確保されましたが、これは時限緩和策で、いずれ4年後には、病床数は大幅削減しなくてはならなくなります。
 この他、転換後の改修等に関する特別償却制度(法人税)の創設なども提案されましたが、これも決定的な緩和策にはなりませんでした。

新たな緩和推進策
 そこで先日の新聞に報道されたように「厚生労働省は、慢性疾患を抱えるお年寄り向けの療養病床を減らすため、療養病床から老人保健施設に転換した場合、終末期のお年寄りのみとりや夜間看護などを充実させた新しいタイプの老健施設とすることを認める方針を固めた。削減で療養病床に入れなくなるお年寄りの受け皿とし、転換を促す狙いがある。09年の介護報酬改定で、療養病床から新型の老健施設に移行した施設への報酬を手厚くする。」という追加の緩和策を発表しました。

これは厚労省の「介護施設等の在り方に関する委員会」が考えた緩和策で、全部の緩和策は省略しますが、一番の転換策は「医療機能強化型老人保健施設の創設」です。
                       
「介護施設等の在り方に関する委員会」の報告では、 (仮称)医療機能強化型老人保健施設の創設について、このような説明をしています。
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 ○ 療養病床から転換した老人保健施設の入所者に対して適切な医療が提供できなければ、療養病床の転換が円滑に進まないのみならず、入所者の状態が悪化した場合に急性期病院へ転院せざるを得なくなり、療養環境が整つた老人保健施設での継続的な入所が困難となる可能性がある。

 ○このため、入所者へのサービスを向上させながら、療養病床の転換を円滑に進めるため、療養病床から転換した老人保健施設における医療提供の機能を強化する措置((仮称)医療機能強化型老人保健施設の創設)を講ずることが適当である。

医療機能強化型老人保健施設において強化すべき医療サービスについて

(1)夜間等日勤帯以外の時間帯の対応
 ○ 療養病床から転換した老人保健施設には、急性増悪により緊急対応を要する入所者や、喀疾吸引、経管栄養等の日常的な医療処置を要する入所者が一定程度存在すると想定されることから、夜間等においても必要な医療提供を行う体制の整備が必要である。
 ○この場合、医師による夜間等の医療提供については、対応が必要と見込まれる入所者数等に鑑みれば、老人保健施設の医師のオンコールや他の保険医療機関の医師の往診により対応可能と考えられる。
 ○ 一方、看護職員による夜間等の医療提供については、対応が必要と見込まれる入所者数等に鑑みれば、夜間等における看護職員の継続的な配置や、必要に応じ、経管栄養への対応のため、朝夕の時間帯について、日勤帯の勤務者の早出'遅出勤務
による対応が必要である。

(2)入所者の看取りへの対応
 ○ 療養病床から転換した老人保健施設では、看取りを要する入所者が一定程度生ずると想定されるが、入所者や家族の意向に沿つた安らかな最期を迎えることができるよう、入所者の看取りに際して、適切な医療サービスが提供可能な体制の整備が必要である。

(3) リハビリテーション
 ○ 療養病床から転換した老人保健施設においては、理学療法士や作業療法士を適切に配置し、入所者に対する適切なリハビリテーションが提供可能な体制の整備が必要である。

(4)従来の老人保健施設との関係について
 ○ 老人保健施設は、これまで医療提供施設としての機能を果たすとともに、入所者の居宅復帰を支援してきており、今後ともリハビリテーションを始め、入所者の居宅復帰支援機能の強化に向けた取組を進めていく必要がある。
 ○一方、療養病床から転換した老人保健施設においては、一定の医療ニーズを有する入所者に適切な医療サービスを提供するため、夜間等の時間帯の対応や看取りへの対応等が必要であり、療養病床から転換する施設を対象として(仮称)医療機能強化型老人保健施設を創設するものである。

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こんな説明がなされていました。 
ここで疑問なのは、何故いま、医療機能強化型老健施設の創設が必要なのかです。
そんな施設を創設するくらいなら、介護保険の介護療養病床がこれまでその役割を担ってきたのではないでしょうか。その介護療養病床を全廃し、新たな医療機能強化型老健施設を創設する意味は全く疑問です。

 医療が必要なので医療を強化した介護施設が必要というのなら、現在の介護療養病床をそのまま残せば良いわけだし、新たに医療強化老人保健施設を作る意味はありません。

 これでは医療費の削減が出来ないと言うのなら、療養病床の看護部門以外の定数を減らして人件費コストを減らし、そのコストを賄える範囲で、療養病床入院・入所の報酬単価を抑える事で、医療費削減は可能ではないでしょうか。
 それなら施設の改築や新築などの余分な支出は抑えられ、医療施設の有効利用も可能です。
 また、医療強化型老人保健施設では、夜間の医療体制や看護体制の強化がうったてありますが、療養病床なら、病院の基準ですので夜勤の医師・看護師も確保され急変時の医療行為や看取りなども行われていますが、老人保健施設では、常勤医師は1名で当直は義務化されておらず、看護師も定員数から毎日夜勤は難しい施設なのです。老健施設の医師のオンコール、他の保険医療機関の医師の往診を可能とすることで転換を進めていますが、現在転換を進めているのは新たに別の建物につくる老人保健施設では無く、同じ病院の中に転換する施設なのですから、別の保険医療機関の医師の往診という発想など、本当に現実をわかっている人が考えた転換策なのでしょうか。

 こんな緩和策を出すくらいなら、介護療養病床の全廃をすぐに廃止し、介護療養病床を残し、医療療養病床から介護療養病床に転換を勧めるべきです。その方法が一番転換しやすい方法です。

 もう一つすぐに手が上がらないのは、転換緩和策に対する介護報酬が決まっていない事です。来年4月に、診療報酬改定を前倒しして決まるとの事ですが、報酬が決まる前に転換の決定を迫るやり方も納得できません。

療養病床内に、新たな医療も可能な介護施設の創設を

 それでも、決まった法律は変更できないと言うのなら、療養病床から転換する老人保健施設(医療機能強化型老健施設)は、老人保健施設という名称を使う必要はなく、施設基準や人員配置も、介護保険制度の老人保健施設とは別のルールで創設し、病院の中に併設する新たな介護施設として、医療の継続もでき、経営が維持できる報酬が設定できれば、大幅な施設の改築や借金も増やす必要がなく、スムーズに転換(いやいやでも)出来るのではないでしょうか。

 また、「医療療養病床から介護施設に転換するのなら、療養病床転換の受入の円滑化転換分については、定員枠を設けずにすべて受け入れを可能とすること」は当然だとは言え、医療費を削減するが、介護費の増加は知らないという無責任な政策としか言えません。当然まだ転換後の診療報酬も決まっていませんので、すぐに飛びつくとは思えません。

 療養病床削減は、新しい地域医療計画では必須の項目で、国は8月までに、転換の手上げを求めていますが、これでは誰も手を上げる緩和策にはならないのではないでしょうか。

 勿論、医療制度改革の際に、今後医療区分の見直しや、医療コストに見合った診療報酬の改定は附帯決議で決まっていた事です。附帯決議の実施も無視した転換策もありません。

 以上新たな緩和策について個人的な意見を述べてみました。


 平成19年7月19日 一部改定 21日