療養病床1割削減、病棟ごと老人保健施設に転換へ
「厚生労働省は8日までに、長期療養ベッド(療養病床)を1割程度削減、介護施設用に転換させる方針を固めた。治療の必要がないのに入院する「社会的入院」を減らし、老人医療費の無駄を省くのが目的で、2002年度中にも実施する。
高齢者の長期入院が多い療養病床は、現在約26万床だが、入院患者の4割(10万人)は「社会的入院」と見られている。こうした状況を改善するため、同省では医療機関を病棟ごと老人保健施設(老健)に転換させ、当面2―3万の病床を削減することにした。
老健への転換で、入院費用は介護費に移るため、医療費は減少する。介護保険料は上がる可能性がある。
社会的入院解消のため、同省ではすでに、治療の必要がないのに6か月以上入院している患者に対し、自己負担を増やすことで退院を促す方針を打ち出している。しかし、こうした患者には自宅に戻れない高齢者が多いため、病床を老健に転換することで、介護保険と連動した受け皿作りを併せて行う。
老健への転換は、利用者にとっても、部屋が広くなるなど療養環境の改善につながるうえ、自己負担が軽減されるというメリットがある。
日本の病床数は、人口1000人当たりで比較すると米国・英国の3倍以上と多く、平均入院日数も長いことから、医療費膨張の一因と指摘されており、その削減が課題になっていた。
」
昨日9日の読売新聞の記事です。
とんでもない記事を目にしてしまいした。
厚労省の役人は何を考えているのでしょうか。本当にこれで老人医療費削減と社会的入院も解決できるとでも思っているのでしょうか。
急ぎ反論します。
国は老人医療費を抑制する事が命題であり、社会的入院を減らす為に介護保険制度をつくりました。そして介護保険制度実施の前に、まず一般病床を減らす為に「長期療養型病床群」という名目で一般病棟とは違った施設基準で、一般病床からの転換を進めてきました。
その基準では部屋の広さ・廊下の幅・入浴施設・食堂などは一般病院の基準より厳しくしました。ただし一番のネックは「廊下の幅」の基準で既存の病床をそのまま転換できなくし、そのため療養型病床群に転換した、どの病院も大きな設備投資をし、一部病床を減らしてまで(国は病床を削減すれば認可がスムーズに行われる配慮をしていました)対応してきたはずです。特に都会の病院では廊下幅は規定通りに取れない施設もありこれらには報酬の低減もありました。しかし多くは長期療養型病床群の診療報酬が、それまでの老人の長期入院の報酬よりも高めに設定され、設備投資をしても長い目で見れば回収可能な金額であり、これに政策誘導されたことは事実だと思います。
国は認可した療養型病床群を、介護保険と医療保険に分けてしまい老人医療費の一部を介護保険の介護費に振り替えようとしたのです。現在その数は全国で26万床ですが、本来厚労省の目論見では介護保険の発足時に19万床は介護保険に移行する予定でした。19万床は介護保険の適応にして医療費削減を図ったわけです。(大雑把に計算すれば療養型病床群の入院費月35万円として年間420万円X19万人は7980億円の医療費削減です)
しかし、介護報酬の決定過程や要介護認定の問題・介護手続きの面倒、転換のメリットのない事などで療養型病床の介護型療養施設への転換が進まず、介護保険制度発足後1年半を経過しても今のところ全国で転換したのは12万床程度だと思います。ということは7万人分の老人医療費がまだ介護保険に移行できないということです。(420万円X7万人は2940億円)
特に都会での転換が進んでいないようですし、都道府県での格差がひどいようです。転換どころか施設基準の問題で療養型病床自体少ない都道府県もあります。しかし進んでいる県ではほぼ予定通りの転換となり、例えば山口県では一昨年の介護保険制度導入時に、県が予定していた数の介護保険の介護型療養施設に変わりましたし、現在これ以上は転換を認められません。転換推進どころか、逆に県の指導や町村の要望により介護型に転換していた病棟を医療型の療養病床に戻された事例もあるのです。介護型療養施設がある町村ではこの施設が増えれば介護保険料に反映されてしまうからです。特に都会の周辺の小さな町村では一つの町に大きな施設が出来ると負担は大変になります。これを防ぐためには医療圏内の広域で介護保険制度を進めるべきで、ここにも介護保険制度運営の大きな矛盾があるのです。
こんな実情を無視して、今の療養型病床を「病棟ごと老人保健施設に転換」するなどと言う発想がどこから生まれるのでしょうか。介護療養型医療施設の転換が進んでいない都道府県を対象に転換を指導し勧めてゆくのならまだ理解できますが、先に述べたほぼ転換の終わっている都道府県や市町村ではこれ以上介護の施設が増えることは、了解できないことだと思います。
それにもまして、療養型病床を介護保健施設(昔の老人保健施設)に転換すると言う計画は、何を考えた発想なのか分かりません。施設基準で療養型病床と介護療養型医療施設は施設の建築基準も人員もほぼ同じ基準で認可されています。この転換ならスムーズに転換できるはずですが、これが進んでいないのです。それなのに介護保健施設に転換を進めるというのです。
療養型病床と介護保健施設とはこれも設置の基準が異なり、部屋の広さなどは介護保健施設が広くなっていますが人員配置は医師の数、看護婦の数は圧倒的に少なく、主に介護職員で介護されています。と言うことはこれらの基準を満たして運営されている医療療養型病床施設から、人員を減らしてまで、そして介護報酬を減らしてまで転換する施設がどこにあるというのでしょうか。失業者を出せとでも言うのでしょうか。
どうしても人員確保に現在困っている療養型病床があれば報酬を犠牲にしても転換することがあるかも知れませんがほとんど考えられないことです。設備投資の返済計画も狂ってきます。
まして介護施設に転換すれば、医療型の療養病床では必要のない、入所者に要介護認定を受けて貰う必要があり、この手間は大きな問題ですし、特に要介護認定は肢体不自由の認定に重きが置かれ、いわゆる「社会的入院」と言われているような方が多い内臓疾患の認定は全く考慮されていません。従って介護・看護の環境が整わない独居老人は在宅へも帰れず、医療型療養型病床に長期入院するしかないのが現状なのです。そんな人たちを長期療養型病床から追い出そうというのが、6ヶ月以上の入院の自己負担を大幅にアップするという医療制度改革の方針ですし、今回の病棟転換報道です。転換を指導し進めるのなら、要介護認定そのものの矛盾や欠陥を治してからだとも思います。
今回厚労省がまた「社会的入院」という言葉をさかんに使って老人医療費抑制政策キャンペーンをはっていますが、元々療養型病床というのは長期療養型と名前が付いたように「長期医療の出来る看護施設」なのです。
欧米で言うナーシングホームと同じような基準の施設であり、施設自体も一般の病床とは考えていません。医療費も入院費も全て包括化され、薬代も検査代も、酸素吸入・胃瘻栄養・褥瘡の処置なども算定できない病床なのです。これを一般病床と一緒にして平均在院日数などを比べていますし、この施設の入院を社会的入院なども言われる筋合いはない病床だったのです。
日本の病院・病床の基準をはっきり区別する必要があり、第4次医療計画で急性期医療の一般病床と長期医療・看護の慢性期病床を区別する政策も発表されていましたが、今回の医療制度改革ではまたどこかに行ってしまいました。
療養型病床は一般病床ではないのです。
一方、同じ基準の介護型療養施設なら「社会的入所」ではないと言うのでしょうか。老人医療費費だけ削減できれば、介護費の方はどうなっても良いというのでしょう。今は在宅介護の費用が使われていませんし、介護療養型医療施設の認可も少ないので、介護費は余裕があるのでしょうか。でも将来は介護費用の高騰は避けられませんし、医療費以上に介護費用は高く設定されています。いずれにしろ今回の「療養病床1割削減、病棟ごと老人保健施設に転換へ」は医療費の増加を介護保険に回しただけの、厚労省の縦割り行政の欠陥の最たるものだと思います。
13年12月10日 吉岡春紀
療養病床:介護老人施設への転換認める特例案を提示 厚労省
厚生労働省は「社会的入院」と言われる高齢の入院患者が多い医療保険適用の療養病床を、特例的に介護老人保健施設に転換することを認める転換特例案を10日開かれた介護給付費分科会に提示した。
中央社会保険医療協議会(中医協)は老人医療費を軽減するため、医療的必要性が薄いのに6カ月以上入院している「社会的入院」患者の自己負担を増やすことを検討している。転換特例案は、こうした事情で退院しなければならなくなった患者のうち身体的、家庭的事情で、すぐ自宅に戻れない高齢者の一時的な受け皿を設け、在宅介護を進めるのが目的。
特例介護老人保健施設は、一部屋の広さが1人当たり8平方メートル以上との基準や、廊下の幅、機能訓練室の設置などの基準を満たしていなくても、5年以内に改善するとの条件付きで、病棟単位の転換が認められる。
厚労省の調べでは医療保険適用の療養病床は24万床で、4割を超える10万人が「社会的入院」といわれる。当面、5万人程度を、老人保健施設をはじめ介護保険適用の療養病床(現在、11万9000床)に移したいという。
これに伴い介護保険の施設入所者(グループホーム、有料老人ホームなどを含む)の目安を65歳以上人口の3.5%にする方針だ。[毎日新聞12月10日]
「特例的に介護老人保健施設に転換することを認める転換特例案」と言うだけで指導なのか、お願いなのか分かりませんし、上で述べたように療養病床はすでに一般病床を一部削減して、大きな設備投資を行って改築や新築を行っているのです。それを介護報酬が低い介護保健施設に転換を希望する施設があるわけがありません。「身体的、家庭的事情で、すぐ自宅に戻れない高齢者の一時的な受け皿」を療養病床の転換に求めるという発想自体現場を知らない発想だと思います。部屋の広さの基準にしても「5年以内に改善」なんて簡単に言いますが既存の建築を簡単に改築できるとでも思っているのでしょうか。
「5万人程度を、老人保健施設をはじめ介護保険適用の療養病床(現在、11万9000床)に移したいという。」これは介護保険制度発足時の介護療養型医療施設の目標値です。これが出来れば当分予定通りだったのだと思います。この転換が出来なかった理由や障害を考えることが先決ではないかと思います。
都道府県別 介護療養型医療施設の計画と実際の申請数 2000年4月現在
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12974 |
13088 |
101 |
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2060 |
700 |
34 |
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1707 |
1137 |
67 |
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4611 |
3921 |
85 |
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849 |
849 |
100 |
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15930 |
7004 |
44 |
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1759 |
607 |
35 |
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4977 |
4776 |
96 |
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1868 |
862 |
46 |
|
696 |
543 |
78 |
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1530 |
262 |
17 |
|
1720 |
754 |
44 |
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1830 |
570 |
31 |
|
1131 |
602 |
53 |
|
1337 |
1375 |
103 |
|
1522 |
1113 |
73 |
|
2313 |
807 |
35 |
|
2483 |
2252 |
91 |
|
1821 |
1142 |
63 |
|
5413 |
3682 |
68 |
|
8916 |
2958 |
33 |
|
4980 |
4443 |
89 |
|
6712 |
2638 |
39 |
|
2571 |
2113 |
82 |
|
10065 |
3707 |
37 |
|
1328 |
1372 |
103 |
|
8490 |
4221 |
50 |
|
3295 |
2476 |
75 |
|
3072 |
2185 |
71 |
|
3548 |
3430 |
97 |
|
2629 |
2629 |
100 |
|
9975 |
8814 |
88 |
|
2330 |
1913 |
82 |
|
2046 |
1619 |
79 |
|
1210 |
1017 |
84 |
|
2758 |
2136 |
77 |
|
926 |
389 |
42 |
|
5580 |
5041 |
90 |
|
1303 |
1353 |
104 |
|
1957 |
1459 |
75 |
|
2261 |
973 |
43 |
|
2836 |
2101 |
74 |
|
6323 |
2482 |
69 |
|
3181 |
3948 |
124 |
|
4087 |
4087 |
100 |
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2209 |
2209 |
100 |
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1368 |
825 |
90 |
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174487 |
118584 |
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介護保険導入時の都道府県別、介護療養型医療施設申請数と計画との認可割合を示します。
全国平均68%ですが、山形県の17%を筆頭に、主に東北、関東地区での申請が少なく肌色の背景は50%未満の都道府県を示しています。逆に緑の背景は80%を超える都道府県です。鹿児島県は計画を大きく超えています。
この様に各都道府県で申請・認可の割合は大きく違うのですから、それを全国一緒にして介護療養型医療施設が少ないとは言えないのです。まず計画数に届いていない地域のその後の認可数や、原因調査と指導が必要ではないでしょうか。層でないとすでに計画を超えている都道府県ではこれ以上増えると介護保険料の見直しが必要になります。
平成13年 12月12日 修正・資料追加 25日