「社会的入院」療養型病床の長期入院排除政策

「社会的入院」を解消するため、厚生労働省は、入院の必要性がないのに6カ月以上、入院を続けている患者を対象に、入院費用分については医療保険からの給付をやめ、患者の自己負担とする方針を固めた。患者には負担増となるが、医療保険財政が厳しさを増すなか、本来は必要でない医療費を節約するという意味で合意が得られると判断した。ただ、退院して自宅に戻ることが難しい人のために、介護保険と連動した対策などが必要となるため、論議となりそうだ。 厚労省の推計では、全入院患者の2割にあたる約27万人が社会的入院とみられる。

 こんな記事もありました。社会的入院の解消と称して、「入院の必要性がないのに」という言葉をつけて療養型病棟に6ヶ月以上入院している老人の入院費の大半を自己負担にする。」とも発表されましたし中医協でも検討されているようです。

 退院が出来ない理由には色々問題はあると思いますが入院の必要性がなければ当然入院していないのではないでしょうか。とにかく社会受けする言葉で老人を追い出そうとしているのです。

 そもそも療養型病棟とは長期入院者の療養の場として考えられたもので、長期療養型病床群」と呼ばれていました。重度の医療は必要ないが、介護と言うより医学的・社会的に在宅医療が難しい老人の長期療養場だったのです。そして介護保険制度の実施を前にして一般病棟の社会的入院の受け皿づくりとして作られた施設なのです。しかし今回の改定ではこんな病棟での長期療養を出来なくさせてしまっているのです。

 社会的入院の27万人については別のページでも問題点を指摘していますが、27万人の統計は平成11年10月の「患者調査の概況」の介護保険前の資料であり、介護保険後はここで言う長期療養型の11-12万人分は介護施設に移行しており、統計上は27万人にはならないこともお伝えしておきます。

 また長期療養型病床群は急性期の医療中心の一般病棟とは区別して、長期の医療・看護が可能な施設となるのではなかったのでしょうか。これらはアメリカで言う「ナーシングホーム」的な施設としてある程度の医療は継続しながら療養出来る療養施設と考え、一般病院・一般病棟とは切り離して考えるべきだと思っています。

 そうすれば日本の平均在院日数も正確な数字が出るでしょうし、報酬制度も長期の療養施設として妥当な人員配置や療養報酬を決め、自己負担も見直せば良いと思います。

 当然今の介護施設との施設基準・人員配置・報酬の整合性も必要となりますが、これもせずただ療養病棟の入院を6ヶ月で制限することは、一般病院や介護施設の受け皿づくりも出来ていない状況・また介護施設の地域差(都会での介護型療養施設の申請の遅れと地方での過剰)など、もっと全体を調整してからでないと現場での混乱は目に見えています。

 老人は急性期治療も3ヶ月でうち切られて、急性期病院(一般病院)には3ヶ月以上入院できないシステムをつくり、また今度は長期療養が出来ると思っていた、療養病棟でも6ヶ月で追い出されるシステムを作ろうとしているのです。受け入れ先のない老人に、支払うことの出来ない金額の負担を求める、こんな事を勝手に決めてしまう厚労省の役人はどんな気で発表するのでしょうか。

 いわゆる「社会的入院」を全て認めろと言っているのではありません。これらの施設入所・入院費は医療制度でも大きなウエイトを占めています。全体の医療費削減には避けて通れないものです。しかし受け皿も作らずただ6ヶ月の縛りで老人を追い出しただけでは何の解決にもならないと思います。そして追い出された後には新たな入院でベットは埋まってしまうので、医療費削減にはなりません。むしろ医療費は高くなるはずです
 必要なのはこれからの医療供給体制の中で、急性期治療や高度先進治療の出来る病床数、一般病床数、長期療養可能な病床数、精神科病床、感染症病床などを全体で考え必要病床を決める必要があります。その上で介護施設の病床数も決定されるべきです。

 そして本当の「社会的入院」を減らす為には、出来るだけ安価に介護環境にも乏しい老人が心配なく過ごせる施設の設立を考えて欲しいものです。
 私の提案は養護老人ホームの見直しです。

 金に糸目を付けない豪華な特別養護老人ホームはこれ以上いりません。特別養護老人ホーム・ケアハウスの増加は、すぐにその地域の介護保険料の増額に繋がります。地価の高い都会での建設が出来ず、周辺の町村に設立が偏り、大都市の周辺の地価の安い自治体の大きな負担の問題となります。

 そこで医療保険にも・介護保険にも属さない(医療保険も介護保険も使わない)自治体主体の軽費養護老人ホームの設立を考えることはその自治体の介護福祉政策の目玉となるでしょう。

 養護老人ホームは「65歳以上の、身体、精神、環境(住宅事情や家族との関係等)および経済的な理由により自宅での生活が困難な人たちが入り、生活援助を受ける施設」とされ全国で施設数は約950、入居者数約64,000人と言われています。
 現在の低所得者を対象とする入居の基準を緩和し、軽介護の老人や疾病を持っている独居老人なども自己負担しても利用できるようにすれば、本当に入院の必要性がない・環境(住宅事情や家族との関係等)が主因の社会的入院の受け皿になり、足らない介護施設の不足も解消する事ができます。いかに在宅介護を勧めると言っても、高齢化社会に向けて今の介護施設数では圧倒的に施設数は少ないのです。特に介護施設としては自己負担の少ない特別養護老人ホーム(介護福祉施設)の入所待機者が限界を超えています。

 養護老人ホーム入所には介護保険制度の要介護認定も必要ありません。この施設の建設なら設立自治体の保険料の増加の問題もなく賛成も得られるものと思います。豪華な施設は必要ありません。質素でも良いから過ごしやすいホームの設立を考えてみませんか。これを全国に20万人規模で設立すれば社会的入院は確実になくなります。

 一方、同じ発想の施設で国が推奨しているケアハウスは「身体機能の低下があったり(自炊ができない程度)、高齢のため独立して生活するのに不安がある人たちが利用できる施設で、住宅と同じような位置付けで必要な場合には、ホームヘルプサービスやデイサービスセンターなどの在宅サービスも利用できるのが特徴である」とされています。
 施設に入っていながら外部のホームヘルプサービスなどの介護保険のサービスを介護保険で利用できるのですが、限度額いっぱいのサービス利用や施設入所費と介護保険の自己負担など、何かすっきりしません。入所費に要介護度の限度額を加えれば、他の介護福祉施設・介護保健施設などより医療・介護費は高い場合があります。また多くの介護サービス事業がケアハウスの関連施設となっていることも問題です。
 ケアハウス推進を声高に叫んでいる経済諮問会議の委員もおられますが、果たして現場の意見・自治体の苦悩などご存じなのでしょうか。ケアハウスは小さな町村の介護保険制度を潰してしまう恐れがありますよ。

今回は社会的入院について、個人的な意見を述べてみました。

                     平成13年10月16日  吉岡春紀


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