介護施設は終の棲家になれるのか

 「日本人は8割が病院で死亡 米英では5割」ある新聞のタイトルである。
 介護施設が「終の棲家」となりうるのを考える資料でもあり紹介する。

 「日本では病院や診療所で亡くなる人の割合が死亡者全体の約80%に上る一方、米英両国では50%強にとどまっていることが、厚生省所管のシンクタンク「医療経済研究機構」がまとめた終末期医療に関する報告書で明らかになった。

 日本では長期入院の末に病院で亡くなるケースが多いのが原因。特に介護・看護施設で亡くなる人の割合は米国の十分の一程度、英国の六分の一程度と極めて低かった。報告書は「終末期のケアを医療中心から看護・介護中心に変える必要がある」と指摘している。

 報告書は1998年度までの各国のデータを分析。死亡場所が医療機関だったのは日本が79%でトップ、英国は54%、米国は52%だった。自宅で亡くなったのは英国が23%、米国が22%と同水準だったのに対し、日本は16%と低かった。
 英米のナーシング・ホーム、日本の老人保健施設や特別養護老人ホームなど「入所施設」で亡くなった人の割合は、米国の21%、英国の13%に対し、日本はわずか2%だった。」

 タイトルだけなら米英では5割が自宅でなくなっているのかと思ったがよく読むと、自宅で亡くなる割合は数%の差しかないようで、施設での死亡数がこの差の原因のようある。

 日本の特別養護老人ホーム(介護福祉施設)・老人保健施設(介護保健施設)での死亡がほとんどなかったのが原因だが、これにはいろんな要因が考えられる。

 そしてこれらの施設が現在は介護保険制度の「介護施設」に組織替えになっている事を考えると、これらの施設ではこの調査の時期よりもっと医療を行うことが難しくなっており、ますます施設での死亡は少なくなっている行くと思われる。

 これらの施設には病院の介護療養施設(介護型療養病棟)以外は、保険医療機関ではないので医療を行う施設ではないため医師の常駐は定められていないし、特に夜間や休日などの常勤医がいない事、末期医療や死亡時の対応がとりにくい事、緊急の際の治療や処置・検査が出来ないこと、施設基準では看護婦の人員配置も少なく医療の看護には手が回らないこと、緊急時や末期医療を行っても診療報酬制度などは全く考慮されていないこと、などの施設側の要因が考えられ、これらの施設で最後を見届けることが難しくなり、多くは病状の急変・悪化や末期には他の病院や併設された一般病棟に転送と言うことになっている。

 また家族側の要因として、日本の場合、これらの施設入所者も、病態の悪化時には、家族の希望の多くは「最後まで出来るだけの治療を希望する」であり、もともと治療が出来ないためやはり多くは転院されることとなる。

 病態の悪化時には施設での対応は難しいが、老衰に近い状態でも施設で静に看取る(何もせずに見守る)ことは出来にくいのが現実である。家族の認識も変えなければ今後も施設入所者の大半の死亡場所は病院と言うことになるであろう。

 と言うことは、今のままでは介護施設は「終の棲家になり得ない」のである。
 そして寝たきりであろうが植物状態であろうが、急変や末期には病院での医療が行われることになり、また最後には延命のための医療が行われることもあり、医療費が必要になる。

 個人的には、在宅での死亡はもっと難しくなっており、これらの施設は、欧米のように施設で死亡する事が多くなり本当の「終の棲家」になって良いと考えるし、積極的な治療行為は行わず見守る事が出来、病院での死亡を減らす方向にならないと行けないと考えているが、このコンセンサスを得るためにはもっと時間がかかるものと思う。

 または積極的な延命治療はしないまでも、これらの施設でも最後にはある程度の終末期医療も行えるような報酬設定や看護体制がとれるなら、将来は施設も「終の棲家」になれるかも知れない。
 今のままなら、介護保険の重度の対象者も最後にはまた医療保険を使うことになっている訳で、これでは医療費の削減にはならない。

「終末期のケアを医療中心から看護・介護中心に変える」といっても、今ののままの施設基準や診療報酬・介護報酬で施設での末期医療を義務づけることは出来ない。日本の医療費・入院費や施設介護費はなにしろ安上がりに設定されているのである。少ない人員で十分な看護・介護が行われる訳はなく、施設の人員配置を増やす方向で改善を求めて行く必要がある。

 以前デンマークのナーシングホームの料金が月50万円程度と聞いたことがある。日本の介護福祉施設(特別養護老人ホーム)に準じる施設だっと思う。日本のほぼ倍の料金である。これならもっと人員配置基準が厳しくても十分な介護要員を確保でき、夜間の介護者を増やしたり、介護の充実が図れそうである。

でも現実は無理だと思う。となると日本ではやはり施設は今後も「終の棲家」にはなり得ないであろう。

                         平成13年4月6日 


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