経済財政諮問会議 今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(案)

 小泉内閣の経済・財政運営基本方針が、先日決定されました。この資料における医療制度の改革の部分を下記に抜粋します。
 全ての資料は経済諮問会議議事次第をご覧下さい。

 小泉内閣の人気は凄まじく、我々もこれまでの自民党の総裁になかった個性的な小泉総理の決断力や統率力に拍手を送らざるを得ません。しかし、基本方針の実施となると医療制度だけでなく日本全国この改革案には「総論賛成・各論反対」の様相を呈しています。

 改革の成否は「各論反対」をいかに排除していくかだ、という言い方も聞こえてきています。医療に限って世論を説得しようとしても「例外を認めろと言う医師会の見苦しい悪あがき」とレッテル貼りされてしまう可能性もあると思います。小泉総理が「聖域はない」「総論賛成、各論反対は許さない」と言い、全マスコミがその尻馬に乗って「いかに各論反対勢力を打破するか」と国民を扇動にかかっているのが今だとすれば、各論反対の訴えは非常にやりにくい状態だと思います。

 この改革案について、医療制度で実施されるならば日本の国民皆保険制度の崩壊というシナリオが見えてきます。
 小泉改革には「聖域はない」。誰もが痛みを覚悟しなければならないようですが、基本方針では医療や福祉も公共事業や特殊法人の統廃合などの無駄と同じように考えているのかと思うと悲しい気もします。
 坂口厚労大臣も記者会見で「無駄があればこれはどうしても抑制をしなきゃならない、それは当然のことだというふうに思いますが、高齢者がこれから増加をする、高齢者の増加によって起こるところの伸びというのは、これはやっぱり認めてもらわないといけませんね。高齢者が増加しても、それもカットしようと言われても、それはできませんということを申し上げました。」と発言されているように、どうもこの改革案は現場・厚労省・医療専門家などを無視した、財政関係だけの改革案のような気がします。

この改革案にも色んな問題点があります。
 青森の本田医師による医療抜本改革要約を示します。

 1)DRG/PPS等の拡大 医療の裁量権の制限。
 2)薬価制度の見直し
 3)医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価 警察機能の追加
 4)株式会社方式による経営 医療の市場化
 5)保険者機能の強化を図る。保険者の権限を強化
  審査員の排除?保険者による直接審査。
 6)保険者と医療機関との直接契約
  日本版マネジドケア。保険者の権限強化。契約
 7)レセプト審査、支払事務等の抜本的効率化 電算化、機械審査
 8)混合診療の拡大
  保険によらない診療(自由診療)との併用に関する規制を緩和
これらはいまの医療制度を壊し、国民皆保険制度を崩壊させてしまう事になります。またその他に医療費の伸びの抑制・特に老人医療費の伸びを総枠で規制しようと言う動きがあります。

 老人医療費の総額を規制すると言っても、入院の場合の病床規制は年々進んでおり総額規制は、在宅医療の削減しかありません。と言うのは、この10年位病院のベッド数は地域医療計画で全国的に新規の認可は難しくなっていますし、増えないばかりか、長期療養型病床群に誘導した際に、一部一般ベットの削減をすれば療養型病床群への認可がスムーズにを認められた事、ベット数は少し減りました。またその後介護保険制度発足後、この療養型病床群のうち現在約12万床は介護保険へ移行し、今後計19万床は医療ベットから介護保険に削減予定されています。
 (介護保険発足後にこの12万床分の医療費が削減されたはずですが、昨年の老人医療費には目に見える減少がなかった事も厚労省が危機感をもった原因だと思います。今まで諸悪の根元といわれていた「社会的入院」のベット数が12万床の削減されたのに、総医療費はあまり減らなかったのです。その分介護保険施設の保険料は増え、「社会的入所」も増えるのですが、そこは厚労省のあずかり知らぬ事で医療費が下がれば良かったのですが、あまり下がらなかったわけです)
 そして、また来年以降の改革では病院間に格差を付け、一般病床は減らして、慢性病床に転換すると言うことです。と言うことは入院の病院ベット数は今後も今以上に増えないのです。
 このあたりが日医の2015年のグランドデザイン予測でも少し勘違いされていた事柄で、老人が増えれば、その分老人入院がふえ、病院の病床がそれに伴って増えるという予測がなされていますが、これは間違いです。

 だから将来的にも本邦では今のベッド数はこれ以上すぐに増えることはなく、高齢者が入院しようにもベットがなければ入院のしようがありので、将来的に高齢者の入院医療費は大きく増えません。むしろ入院するベットがないことが将来は問題になると思います。

 このように高齢者の入院医療費総額は一部の救急医療・高度医療と、短期間の入院で回転させる生命に関係ない・QOL改善医療(例えば白内障の手術など)以外には増えないと思います。

 とすれば老人医療費の伸びはやはり高齢人口の増加による伸びであり、人口を操作することはできないので(と言っても最近の制度改革は「年寄りは早く死になさい」という政策ばかりですか)、ここに総枠を規制されれば、一般の日常診療・在宅医療に直接影響があるわけです。
 総枠を決められれば老人人口が10%アップしたなら、医療点数は10%ダウン(1点9円)で帳尻を合わせるというのでしょうか。

 老人人口の伸びはこれからで、私の年齢55才以後に「終戦子」のピークがあるので、これらが70才とすれば15-20年先です。総枠規制とはまさかここまで予測して規制するとは思えませんがもっと根本的な改革が必要なのは明かです。

 このまま黙っていて良いのでしょうか。
 今回の選挙結果によっては、この改革を認めた事になり国民皆保険制度の崩壊が現実のものと成りかねない状況は誰にも理解できるところと思います。

                平成13年7月5日  吉岡春紀


第3章社会保障制度の改革− 国民の安心と生活の安定を支える

1.国民の「安心」と生活の「安定」を支える社会保障制度の確立・・・・・17
2.社会保障制度全体に共通する課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
3.医療制度の改革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
4.年金制度の改革・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
5.介護・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
6.子育て支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(案)

第3章社会保障制度の改革− 国民の安心と生活の安定を支える
3.医療制度の改革

(1)持続可能な制度に向けて

 我が国の健康指標は世界最高水準にある。これは戦後の我が国の医療政策・国民皆保険体制の成果であるといってもよいであろう。
 しかしながら、医療費は高齢化の進行、医療コストの上昇などから、近年、国民所得の伸びや経済成長率を大きく上回って急速に増加している。医療保険財政は深刻な状況に陥り、制度の持続可能性が大きく揺らいでいる。また、現在の医療制度は疾病構造の変化や健康に対する国民の意識の向上、多様化に十分対応できておらず、医療に対する国民の期待に十分応えられていない。
 我が国の医療制度はいわば「制度疲労」を来たしており、現状のままでは医療費増大と、その結果としての負担の増大に、国民の合意は得られない。

 医療制度を改革する上で最も重要なことは、医療供給体制を効率化することなどにより、国民皆保険体制と医療機関へのフリーアクセスの下で、サービスの質を維持しつつコストを削減し、増加の著しい老人医療費を中心に医療費全体が経済と「両立可能」なものとなるよう再設計することである。持続可能性を持つ「価値」ある保険制度の確立を通して国民の信頼を取り戻す必要がある。

(2)「医療サービス効率化プログラム(仮称)」の策定

 医療機関、保険者、消費者(国民)のそれぞれが痛みを分かち合い、医療サービスの効率化に取り組み、質が高くムダのない医療を実現するため、次のような事項を考慮して「医療サービス効率化プログラム(仮称)」を策定し、これを推進する。

(i)医療サービスの標準化と診療報酬体系の見直し

 医療の専門性に立脚し、科学的に分析・評価を行って得られた情報を活用して医療を行う「根拠に基づく医療」(EBM)を推進し、国民が理解し納得できる医療サービスの標準化を行う。

 医療サービスの費用対効果(value for money)の向上を図るとともに、それを踏まえた支払い方式の見直し(包括払・定額払(診断群別定額報酬支払い方式(DRG/PPS)等)の拡大等)や薬価制度の見直しを行う。また、診療報酬・薬価改定に当たっては、近年の賃金・物価の動向や経済財政とのバランス等を踏まえて行う必要がある。

 (ii)患者本位の医療サービスの実現

 患者自身が理解し納得して選択できる患者本位の医療サービスを実現する。このため、インフォームドコンセントの制度化、医療・医療機関に関する情報開示、医療情報のデータベース化・ネットワーク化による国民への情報提供の拡充、医療関係者相互の評価・チェック体制の充実による適正な診療の確保、医療機関の広告規制の緩和等を行う。

 (iii)医療提供体制の見直し

 病床数の削減、病院・診療所の機能分化の促進(慢性期・急性期の機能分化・かかりつけ医機能の充実・在宅医療の推進・包括的地域医療体制の整備等)、公的な医療機 関の役割に沿った運営、高齢者医療の介護サービスへの円滑な移行を推進する。

 (iv)医療機関経営の近代化・効率化

 医療機関の経営に関する情報の開示・外部評価(外部の専門家による経営診断・監査の実施)等を行うことにより、医療機関経営の近代化・効率化を進める。また、設備投資原資の調達の多様化や医療資源の効率的利用(高額医療機器の共同利用・稼働率の向上等)を促進するとともに、株式会社方式による経営などを含めた経営に関する規制の見直しを検討する。

 また、医療サービスのIT 化の促進、電子カルテ、電子レセプトの推進により、医療機関運営コストの削減を推進する。

 (v)消費者(支払者−患者・保険者)機能の強化

 患者の選択による医療機関相互の競争の促進を進めるとともに、保険者機能の強化を図る。このため、保険者の権限を強化し、保険者と医療機関との直接契約や保険者と医療機関の連携強化(健診、予防)、レセプト審査、支払事務等の抜本的効率化を進める。

 (vi)公民ミックスによる医療サービスの提供など公的医療保険の守備範囲の見直し

 公的保険による診療と保険によらない診療(自由診療)との併用に関する規制を緩和し、患者の選択による多様な診療の組合せを可能にするなど公的医療保険の対象となる医療の範囲を見直す。

 (vii)負担の適正化

 患者・国民にも、真に必要な医療に対する負担を求める。このため、適正な患者自己負担の実現・保険料負担の設定を行う。
 特に高齢者医療については、医療と介護・施設と在宅を通じた患者負担の均衡を確保し、サービス利用の適正化を実現する。

(3)医療費総額の伸びの抑制

(2)の「医療サービス効率化プログラム(仮称)」等の改革を推進することにより、医療の質を落とさずに、コストを下げることによって、「価値」ある医療制度を実現し、医療費総額の伸びの抑制を行う。

 また医療費、特に高齢化の進展に伴って増加する老人医療費については、経済の動向と大きく乖離しないよう、目標となる医療費の伸び率を設定し、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。

 あわせて高齢者医療制度などについて、費用負担の仕組みをはじめ、そのあり方を見直していく。

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