医療区分と算定日数制限の疑問 ・慢性期医療崩壊の危機

 医療区分の設定について、関係団体から「新たに4月13日に突然付加された8項目の疾患等に対する「算定日数制限」は全項目について撤回すること」が求められていましたが、これも、日数制限自体は削減されず、一部の疾患で「回復後、増悪した場合には再度該当する」という再算定が認められたようです。


 定額制の医療区分に、病名や症状名・状態名をつければ、医療区分をランクアップする・それも算定に日数制限を求めるという発想自体医療現場では理解しにくい医療区分分類をもっと解りにくくしたものだと思います。
 もし症状悪化や状態変化に加算を認めるならば、本来の医療費に応じた出来高払いの加算にすべきで、医療区分をあげるという根拠は全く理解に苦しみます。
 医療区分そのものが介護のケアタイムで決められた分類ですので、病態の変化や合併症など治療の薬剤費・検査費・処置費などの医療費のコスト計算が為されないランクアップのままでは何の解決にもならないと思います。
 医療区分の変更時には家族に説明する義務も増えましたが、そしてこんな日数制限が行われていることは一般の人にも、医療関係者にも知らされていないと思いますし、理解しにくい事項です。
 
 例えば前回紹介した「医療区分1」という最低ランクの状態でも、下記のような症状や処置が必要なときは日数制限をしてその決められた間だけ「医療区分2」として認めるというものです。
 ではどのような疾患や状態が「医療区分1」以外のものなのかを示します。

「医療区分3」とは
【疾患・状態】
 ・スモン
 ・医師及び看護師により、常時監視・管理を実施している状態
【医療処置】
 ・中心静脈栄養
 ・24時間持続点滴
 ・人工呼吸器使用
 ・ドレーン法
 ・胸腹腔洗浄
 ・発熱を伴う場合の気管切開、気管内挿管
 ・酸素療法
 ・感染隔離室におけるケア

「医療区分2」とは
【疾患・状態】
 ・筋ジストロフィー・多発性硬化症・筋萎縮性側索硬化症
 ・パーキンソン病関連疾患
 ・その他の難病(スモンを除く)
 ・脊髄損傷(頸髄損傷)
 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 ・疼痛コントロールが必要な悪性腫瘍
 ・肺炎
 ・尿路感染症
 ・リハビリテーションが必要な疾患が発症してから30日以内
 ・脱水
 ・体内出血
 ・頻回の嘔吐
 ・褥瘡末梢循環障害による下肢末端開放創
 ・うっ血性潰瘍
 ・せん妄の兆候
 ・うつ状態
 ・暴行が毎日みられる状態
【医療処置】
 ・透析
 ・発熱又は嘔吐を伴う場合の経腸栄養
 ・喀痰吸引
 ・気管切開
 ・気管内挿管のケア
 ・血糖チェック
 ・創傷(皮膚潰瘍・手術創・創傷処置)

 現在国が示した医療区分では、上記ような【疾患・状態】・【医療処置】以外の疾患や状態はすべて「医療区分1」なのです。

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このうち算定日数制限とその説明があったものは。
<医療区分3>
 ・24時間持続点滴
   24時間持続して点滴を実施している状態とは、経口摂取が困難な場合、循環動態が

   不安定な場合又は電解質異常が認められるなど体液の不均衡が認められる場合に限る

   ものとする。(初日を含む。)また、連続した7日間を超えて24時間持続して点滴を

   行った場合は、8日目以降は該当しないものとする。
<医療区分2>
 ・尿路感染症
   尿沈渣で細菌尿が確認された場合、もしくは白血球尿(>10/HPF)であって、尿路

   感染症に対する治療を実施している状態。連続する14日を超えた場合は15日目以降

   は該当しない。
 ・脱水
   尿量減少、体重減少、BUN/Cre 比の上昇等が認められ、脱水に対する治療を実施し

   ている状態。連続した7 日間を超えて脱水に対する治療を行った場合は、8日目以降

   は該当しない。
 ・せん妄(連続する7日を超えた場合は8日目以降は該当しない)
 ・経鼻胃管や胃瘻等の経腸栄養を行われており、且つ、発熟又は嘔吐を伴う状態

   発熱又は嘔吐に対する治療を行っている場合に限る (連続する7日を超えた場合は8

   日目以降は該当しない)
 ・体内出血
   本項目でいう消化管等の体内からの出血が反復継続している状態とは、例えば、黒色

   便、コーヒー残渣様嘔吐、喀血、痔核を除く持続性の便潜血が認められる状態をいう。
   出血を認めた日から7日間まで、本項目に該当するものとする。
 ・頻回の嘔吐
   頻回の嘔吐に対する治療を実施している状態(1日に複数回の嘔吐がある場合に限る。)

   嘔吐のあった日から3 日間は、本項目に該当する。
 ・頻回の血糖検査
   糖尿病に対するインスリン治療を行っているなどの、1 日3 回以上の頻回の血糖検査が

   必要な状態に限る。なお、検査日から3 日間まで、本項目に該当するものとする。

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 このような説明と算定の日数制限がされていました。
 この日数内に治癒が期待できるということが、専門医の判断であるということですが、重度の障害者を看護している現場では全く理解に苦しみます。
 たとえば、消化管出血は出血を認めた日から7日間という区分アップが認められていますが、高齢者の消化器のがんなどもも積極的な治療行えず転院される場合もおおく、進行胃がんや大腸がんの出血が7日で治まるはずはありません。原因の解らない・検査も出来ない消化管出血も経験します。
もし良性の胃潰瘍の出血だと診断されてもPPIやH2ブロッカーの治療は通常8週間治療しますので、7日間しか認めない、その間の医療費を無視した日数制限と言えます。
 意識障害・嚥下障害の患者さんに経管栄養を行っても医療区分1ですが、発熱のあるときには7日間区分アップというのもわかりません。
 この日数制限については、多くの疑問や削除要求があり、下記に示しますように一部、日数制限が緩和されています。

本日の日医インターネットニュースによると「厚生労働省保険局医療課は、医療区分に応じた療養病棟入院基本料の7月スタートを前に、留意事項をまとめた事務連絡を地方社会保険事務局や都道府県に送付した。

 4月の「療養病床に関する説明会」で提示した内容に若干の修正を加えた。日本医師会が撤廃を求めていた算定日数制限は基本的にはそのまま残ったが、尿路感染症の日数制限だけは、「7日間」から1週間延長して「14日間」に変更された。

 今回の事務連絡によると、尿路感染症で算定日数が延長した以外は、日数制限に変更はない。ただ、「区分3」の24時間点滴や、「区分2」の尿路感染、脱水、経腸栄養などで、「いったん非該当となった後、再び病状が悪化した場合には、本項目に該当する」との文言が付け加わった。

 尿路感染症の算定日数をめぐっては、日本療養病床協会が今月9日付で医療課に提出した要望書の中で、「尿路感染症の治療は長くなることもあり、7日より延長すること」と日数延長を求めていた。

 尿路感染症での算定日数の延長について、医療課では「エビデンスがあったため」としている。 」

本当にエビデンスがあったのかどうか、定かではありませんが厚労省の説明会資料では評価に当たっての留意点が変更がありますので変更項目をまとめておきます。

○1日開けて再算定可能になったもの。
 たとえば規定の日数で改善していない場合、1日開けて再算定できる。
 連続して該当すると判定できる日数の上限が設定されているもの
 急性期の症状が、一般的には設定した日数以内で回復することを踏まえ、連続して該当する上限として設定したもの。いずれも回復後、増悪した場合には再度該当する。


<医療区分3>
・24時間持続点滴(連続する7日を超えた場合は8日目以降は該当しない)
<医療区分2>
・尿路感染症(連続する14日を超えた場合は15日目以降は該当しない)
・脱水(連続する7日を超えた場合は8日目以降は該当しない)
・せん妄(連続する7日を超えた場合は8日目以降は該当しない)
・経腸栄養を行われており且つ発熱又は嘔吐を伴う状態(連続する7日を超えた場合は8日目以降は該当しない)

○期間毎の再判定で、連続算定可能になったもの
 たとえば出血後7日目に出血が続いていれば連続算定が出来る

 当該状態にあった日から連続して該当するものとした日数が設定されているもの
<医療区分2>
・体内出血(出血が見られた日から7日間該当)
・頻回の嘔吐(嘔吐のあった日から3日間該当)
・頻回の血糖検査(検査日から3日間該当)


慢性期医療の崩壊


 療養病床は、脳卒中などの片麻痺や意識障害、寝たきりの患者さんのように肢体不自由の患者さんが入院し、介護施設と入院患者さんに差がないとの先入観があるようですが、こんな患者さんも前のページ「医療区分1」で紹介したように、がんや心不全・腎不全、などいろんな内臓疾患で在宅治療が困難な疾患も多く入院されています。

 そんな重度の内蔵疾患は全く無視したこの医療区分分類は、神経難病以外は全く認めないという発想ですから、慢性期医療そのものを否定した区分分類なのです。
 医療区分2・3に該当しない状態の長期入院は認めないということでもあり、または医療区分1の疾患で療養病床に入院を続けても入院医療費は満足に支払われない報酬(むしろ治療継続もできない料金設定)ですので、今後急性期病院からの転院受け入れも制限されてしまうと思います。
 都道府県が認めた、重度の身体障害認定者は、寝たきり・意識障害の重度肢体不自由も、心臓病で寝たきりの重度の心不全も、慢性腎不全も医療区分1になりまので、身体障害者の認定そのものの妥当性も否定され、将来的には「医療区分1」では療養病床での治療・看護継続もできません。
 もちろん、在宅治療の難しい「がんの末期」も「がんの疼痛管理」に医療麻薬使用する場合のみ医療区分2になりましたが、痛みのないばあいの「がん」は認められていません。

 追加

 (今回の改定で医療麻薬の算定は出来高払いが認められたようですので、がんの薬物治療と疼痛管理は薬代算定が出来るようになったようです。これは今まで訴えてきたことですので好ましいことですが、麻薬の疼痛管理の無い進行がん患者さんでも、医療区分は1ですので、この報酬では到底満足の出来る治療は行えません)。

この改定に合わせて国は「障害者施設への配慮」と称して
 ○児童福祉法に規定する肢体不自由児施設及び重症心身障害児施設
 ○児童福祉法及び身体障害者福祉法に規定する国立高度専門医療センター及び(独)国立病院機構の施設
の医療機関の療養病棟であって、平成18年6月30日に現に特殊疾患療養病棟入院料又は特殊疾患入院施設管理加算を算定する療養病棟に入院している患者(重度の肢体不自由児(者)又は知的障害者に限る。)については、医療区分1の者を2と見なす

 という通達をだしました。
ただし、これも特殊な施設の特殊病棟だけの緩和策ですので、一般の身体障害者には適応されない、身体障害者をも無視した改定といえます。


 せめて身体障害者3級以上の認定をうけた重度の障害者か、同じような状態の内臓疾患・整形外科疾患で、入院が必要な患者さん・在宅での治療看護が難しい患者さんは、「医療区分1・社会的入院」という判定から外すべきです。というか医療区分そのものの見直しが必要だと思います。

 このように慢性期治療を行えない療養病床の医療区分分類は、日本の慢性期医療の崩壊の危機と言っても過言ではありません。平均在院日数の短縮のため、急性期病院では極く急性期の治療だけで退院を勧告されますし、その後は疾患によって別の一般病院を経由するか、回復期リハ病棟を経由するか、そのまま療養病床に転院紹介されるか経緯は違いますが、最終的に在宅での管理が出来ない環境では最終的に療養病床での入院治療が必要になります。

 介護施設に転換して、そこでの介護をしてもらえば良いという発想はありますが、何度も言いますように、特に内臓疾患は介護というよりも、治療の継続や生活看護が必要で、介護施設では急変時の対応が出来ないことや、医療行為・処置が難しいことなどで引き受けてもらえません。

 したがって「医療区分1」と判定された患者さん達には、長期の入院治療が否定された分類と言っても良いと思います。
 疾患や状態を全く無視した「医療区分分類」「日数制限」はその診療報酬の決め方とともに、疾患内容を早急に見直し制限排除などの必要があると思います。

 平成18年6月26日  玖珂中央病院 吉岡春紀

  28日一部修正