厚労省の暴挙

 介護療養病床の廃止・医療療養病床の大幅削減計画について

 
 厚労省発表によると、「患者の約半数が入院医療の必要性が低く、退院が可能と指摘された」と結論付け、「介護型療養病床(13万床)は2011年度末まで に全廃、医療型療養病床(25万床)も12年度までに15万床にまで減らすというもので、廃止される介護型と、医療型のうち医療の必要度が低い病床の患者には、コスト的に割安な老人保健施設などの介護施設に移ってもらったり、在宅 での療養に切り替えたりしてもらう。療養病床の介護施設への転換も促進する」という現場では衝撃的な発表でした。
 まさに、現実を知らない厚労省の暴挙で、介護療養病床の廃止・療養病棟の大幅削減という厚労省の発表に現場では、 厚労省への不信感が益々深まっています。
 
 医療型療養病床の18年度診療報酬改定についても、7月からは病院つぶしとも言うべき現場を無視した改悪で、言いたいことは山ほどありますが診療報酬の話は別の機会に譲り今回は、「厚労省の介護療養病床の廃止・医療療養病床の削減」について述べたいと思います。


介護療養病床の廃止
 療養病床が、制度上介護型・医療型に区分されたのは介護保険制度が始まってからで、まだ5年にしかなりません。今回、介護型・医療型の入院患者にはほとんど差がなく、医療の必要度は低いので病院に併設された介護型をまず廃止するという事ですが、医療と介護に分けた元々の理由は、医療費を削減するため、医療の入院ベッドを減らし、介護保険にまわして見かけ上の医療費を削減するためだったと思います。


 介護型・医療型ともに、施設の設置基準や人員配置基準はほぼ同じであり、 診療報酬も介護報酬もほぼ同じでした。また介護型と言っても病院に併設して造られたため、同一病院に介護型と医療型の併設が多く、病院内部でも患者さんの差はあまりないのが普通で、特に身体介助が必要な要介護度の高い人たちはどちらの病棟にも受け入れられていました。

 そして介護療養病床13万床の費用は介護保険から支払われ、国の医療費から減っていたのは現実です。しかし、介護型は要介護認定申請や報告書 ・申請書類など大量の書類書きの煩雑さがケアマネに求められ、介護病棟のケアマネの仕事は介護よりも書類書きとまで言われるようになりました。それに昨年10月の介護施設の食費・居住費の自己負担増加が引き金になり、介護型療養病床は次第に敬遠され、昨年末には介護療養病床を医療療養病床に変換する病院が増加しました。そのため入院・入所者に差がないから必要ないという事ではなく、制度の問題で介護療養病床は減少しているのです。しかし逆に医療費はその分増加してゆきます。


 介護型の療養病床を廃止するという発想は、医療と介護をはっきり区別して金のかかる介護病棟はいらないと言うのですが、現実には介護福祉施設・老人保健施設の待機者は多く、将来的に大幅な要介護者の受け皿作りが必要で介護施設を増やす必要があるのなら、むしろ医療ニードの少ない重度の要介護者は医療型から介護型の療養病床への転換を勧め、介護型療養病床を増やしてゆくべきだと思います。介護保険の破綻も気になりますが、本当に困った方たちを見捨てるような廃止論には背筋の寒い思いです。介護型のサービス報酬は、施設の基準・人員配置や他の施設との関係で介護保険の収支に見合った介護報酬を調整すれば良いことです。
 重度の介護が必要な障害者は、いつ急変するか・悪化・再発するかわからず、医療の行えない介護福祉施設や在宅への通過施設としての老人保健施設ではなく、制度上も介護型療養病床は、一般病院ベッドとは別に、ある程度の医療継続の行う事の出来る施設であるべきで、介護・医療に適切に配分できれば廃止する必要はないと考えます。
 現実に介護型療養病床の入院患者さんの平均の要介護度は4以上であり、ほぼ寝たきりで日常生活全般に全介助が必要な方たちであり、当然医療行為も行われています。そして在宅での介護が困難なために入所継続されているわけで、13万床を廃止したとき、どこに出てゆけというのでしょうか。誰もが不安のある廃止論が経済的な理由だけで一人歩きし、 厚労省はこれも社会的入院・入所として、潰そうとしているのです。

医療療養病床の大幅削減
 また医療型療養病床を潰して介護施設にと言う発想は現場の介護度を全く理解できていない机上の空論です。
 もう一つ厚労省の発表に大きな問題は、医療型も12年までに10万床の削減を するということですし、マスコミも一般病床と療養病床の差については、「療養病床とは長期療養の必要な患者が入院するベッド。高齢者の利用が多い。かつて老人病院と呼ばれていた病院のベッドで、急患を受け入れる一般病床と比べて医師、看護師数が少なく、介護に力を入れているのが特徴。」程度の認識であり、それが社会的入院の温床で医療費高騰の原因なら減らせばよいという意見になっています。

 一般病棟と療養病棟の大きな差は、人員配置とともに施設設置の基準であり療養病床の認可を得るためには、機能訓練室、食堂、談話室、浴室などの設置とともに、1ベッ ド当たり居室面積6.4平方メートル以上の部屋の広さと、1室4人以下・廊下幅 1.8m以上・両側に病室ある時2.7m以上という建築の基準が定められています。(一般病床では1ベッ ド当たり居室面積4.3平方メートルですし、廊下幅の基準もありませんでした。車いすの通過にも支障がある幅です。)

 しかしこの「療養病床」の施設構造基準は、居室面積の拡大や廊下幅の拡大など、古い基準の時に造られた病院ではそのままでは変換できず、建物の大改造やむしろ造り直しの新築が必要であるため、どの療養病床も一般病棟のベッドを削減したり、廊下拡張などの大増改築をおこなったり、あるいは新築など大きな投資をして療養病床の認可受けたものです。それが介護保険制度開始後5-6年で、突然大幅削減の方針転換では、それこそ架けた梯子を見事に外されたと言っても良いでしょう。
 しかし、まだ資金投資の回収の目途もたたない施設が大半で、その目途も立たないうちに、廃止削減しろという通達は、国の医療供給体制への無策であり、別の介護施設に転換再投資など考えられないと思います。
 厚労省の見通しの甘さや無策・方針の誤りではないのかと思います。

 また、都会ではある程度一般病床と療養病床の診療の棲み分けが出来ていますが、 過疎地では医師の確保は困難で、中小病院が一般病院として生き残るためには 平均在院日数がネックとなり、高齢者の多い地域では、一般病床をやめて療養病床として病院を運営するしかないのも現実です。
 しかし、これらの療養病院も、慢性の入院だけでなく外来診療も行っており、患者さんの急変には急性疾患の入院も担当し、休日診療 ・救急当番なども行っており、地域医療の確保という意味からも、医療施設として地域医療に欠かすことは出来ない施設であり、医療療養病床の削減や中小病院に医療と介護の療養病床併設を認めないという今回の改悪は地域の医療供給体制の破壊であり、また 療養病床は、緊急性はないと考えている役人がいるようで、療養病床数の大幅削減は地域医療にとって大きな問題となると思います。

 また現在でも、急性期の一般病院からの重度障害者は、行き場もなく特に医療処置が必要な場合には介護施設では受け入れはないし、医療型療養病床の転院待機者も多く直ぐには転院できません。多くの合併症を抱えて医療の療養病床でも受け入れが難しくなる症例も増え、それに病床数が削減されることになれば、高齢の病人は、在宅で死ねということしか考えられません。医療費の自己負担をあげ、公的負担は増やさず、高齢化時代に高齢者の病床や介護施設まで削減して、福祉社会と言えるのか、厚労省の役人は何を考えているのだろうか、医療費が減れば満足なのでしょう。
 これからの高齢化社会・核家族時代に高齢者が安心して過ごせるためには、 医療・介護・社会保障関連の費用は削減すべきではなく、むしろ高齢化時代に 合わせて、療養病床は増やすべきだと考えます。

   平成18年3月2日


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