療養病床について

 療養病床とは、どんな病床なのか、多くの国民も医師も詳しく説明できる人はいないと思います。このホームページでも「病院の病床区分・ 「一般病床」と「療養病床」について」で療養病床について説明していますが、今回、スズケンコンサルティングの発行した資料を元に、改めて「療養病床」の現状と問題点について、紹介します。

 1.療養病床の経緯
 2.療養病床の設置基準
 3.療養病床の診療報酬について
 4.療養病棟入院基本料に含まれる点数項目
 5.処置包括の問題
 6.他施設受診時の取扱い

1.療養病床の経緯


 平成4年の医療法改正で入院病床に一般病床と区別して「療養型病床群」という制度がスタートました。
「療養型病床群」とは「病院または診療所の病床のうち、主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容するための一群の病床で、人的・物的に長期療養患者にふさわしい療養環境を有する病床群」であると定義されていました。
 その後暫くは病床の区分はこの区分で分類されていましたが、平成13年3月第4次医療法改正の結果、今後病院の入院ベッドは結核病床、精神病床、感染症病床のほかに、主に急性期の疾患を扱う「一般病床」と、主に慢性期の疾患を扱う「療養病床」の二つが新たに定義され、病床の区分を通じて病院の機能の違いが明確にされました。その上で、各病床(病棟)ごとの構造設備基準や人員基準があらためて決められました。「療養型病床群」は「療養病床」に名称変更されました。
 一方、保険請求については平成12年4月の介護保険法の施行により、従来からの医療保険の対象となる病棟と、介護保険の対象となる病棟のいずれかに区分されることとなっています。
 従って現在「療養病床」とは、医療保険の医療型療養病床と介護保険の介護療養型医療施設の2つの施設を指すことになります。国は将来この2つを統合させる事を目指していますが、今回の説明は「医療型療養病床」を指します。

2.療養病床の設置基準


 病院の設置基準、病室や食堂の広さや廊下の広さなどを定めた基準と、医師・看護師・看護補助者などの人員配置基準があり、病院の勝手に療養病床と定めることはできません。
 「療養病床」は居室面積6.4平方メートル以上 
        一般病床において必要な施設の他
         機能訓練室、食堂、談話室、浴室
        機能訓練室40平方メートル以上・食堂1人平方メートル以上
       (1室4人以下・廊下幅1.8m以上・両側に病室ある時2.7m以上)
 などが定められています。
 しかしこの「療養病床」の施設構造基準は、居室面積の拡大や廊下幅の拡大などそのままでは変更できず、建物の大改造やむしろ新築が必要であるため、土地に制限があり増改築が行いにくい都会の中小病院や、改築費が調達できない町村立病院などでは未だに対応が遅れてるのが現状です。

3.療養病床の診療報酬について

 療養病床の入院基本料は、看護職員配置・正看比率・看護補助配置などで違いますが、

  「入院基本料1」では老人1151点、一般患者 1209点となっており、それに療養環境加算など最大105点の加算がありますので、老人患者さんは最大1日1256点となります。(1ヶ月では37,680点)

  その点数に、下記の日常生活加算・認知症加算や特別な検査や個別リハビリをあわせたものが療養病床の入院料となります。


<療養病床の入院基本料の特徴>
 療養病床の入院料については、一般病床の入院と比べてかなり制限もあり、診療報酬が大きく違いますので、この点は多くの方たちに知っておいてもらう事が必要です。
 その特徴の一つは、医療と介護の療養病床でも違いますが、「包括医療」が徹底されている、いろいろな治療・処置や検査を行っても1日いくらの包括点数であることです。
 そして、外泊での点数や、専門的な治療や検査を他科の専門医に紹介するときに、これにもいろんな制限があり、制度を知らない紹介医や診察医でトラブルの原因にもなっています。

 その他、入院日数が通算180日を超えた患者は、入院基本料が15%減額される特定療養費制度も療養病床に適応されています。
 入院患者さんの検査や治療について説明します。

4.療養病棟入院基本料に含まれる点数項目
      
○検査
 検査については点数表の「検査」の全項目が包括されます。心電図、超音波(エコー)、内視鏡は「検査」であるため算定不可ですし、検査で使用した薬剤、特定保険医療材料も算定できません。
 但し、C T 、M R l は「画像診断」であるため算定できます。
 しかし、画像診断でも、胸部写真や、腰椎などの単純撮影はフイルムの費用も含めて算定できませんし、デジタル映像化処理加算も算定できません。
 造影剤撮影や前述のC T 、M RIについては別に算定可能となっています。

○投薬
 投薬についても点数表の「投薬」の項目すべて算定できません。調剤技術基本料は「投薬」であるため算定不可ですが、薬剤管理指導料は「指導管理等」であるため算定可能、退院時に投与した退院後に居宅において使用する薬剤料は算定可などわかりにくいところもあります。

○注射 
 注射に関しても点数表の「注射」の項目は包括です。特にMRSA対応の高額な抗生剤や、補液治療・IVHなども包括されています。ただしエリスロボ工チン(人工腎臓又は腹膜濯流を受けている患者のうち腎性貧血状態にあるものに対して投与された場合に限る)の薬剤料のみ算定可となっていますが、療養病床に現実的な者ではありません。

○リハビリテーション
 点数表の「リハビリテーション」のうち、理学療法、作業療法、言語聴覚療法(それぞれ集団療法のみ)は包括されていますが個別療法は算定可です。

○処置
 包括された療養病床の診療報酬で、現場で一番困っているのが処置の包括ではないかと思います。
 点数表の「処置」のうち、ほぼすべてが包括されています。
 創傷処置(熱傷に対する処置を除く)、喀痰吸引、摘便、酸素吸入、酸 素テント、皮膚科軟膏処置、膀胱洗浄、留置カテーテル設置(老人留置 カテーテル設置を含む)、導尿(老人導尿料を含み、間歇的導尿を除く)、膣洗浄、眼処置、耳処置、耳管処置、鼻処置、口腔・咽頭処置、喉頭処 置、ネブライザー、超音波ネブライザー、介達牽引、消炎鎮痛等処置、鼻腔栄養、老人処置料、浣腸・注腸・吸入その他簡単な処置で基本診療料に含まれるもの、上記処置で使用した薬剤、酸素・窒素、特定保険医療材料も算定不可です。

5.療養病床の処置包括の問題


 最近、嚥下障害のため鼻腔栄養や胃瘻造設した患者さん、呼吸不全により気管切開、酸素療法を受けている患者さん、長期の入院で難治性・多発性の褥瘡形成された患者さん、一般病院でMRSA保菌感染をなどをもった患者さんなど重度の障害をもった患者さんが増え、一般病床から、療養病床への転棟を勧められることは多いのですが、これらの処置は療養病床では全く認められていません。

 むしろこんな重度の障害を持った患者さんには、療養病床の包括点数に加算される、日常生活加算や痴呆加算もつかないので、一番手のかかる・医療費のかかる患者さんが、一番点数が低いという、大きな矛盾が続いています。

◎日常生活障害加算・認知症加算について
 1.日常生活障害加算(40点/日)の対象患者
 「障害老人の月常生活自立度(寝たきり度)判定基準」におけるランクB以上に該当するもの。ただし、経管栄養を実施しており、かつ、留置カテーテル設置又は常時おむつを着用しているものを除く。

 2.認知症加算(20点/日)の対象患者
 「認知症である老人の日常生活自立度判定基準」におけるランクUb以 上に該当するもの。ただし、重度の意識障害のある者(JCS(JapanComaScale)でII−3(又は30)以上又はGCS(Glasgow Coma Scale)で8点以下の状態にある者)を除く。

 この加算の基準でおわかりのように、寝たきりで意識障害のある患者さんには、日常生活や認知症の加算もとれないのです。
 もっとも看護介護に手がかかる患者さんの加算点が、むしろ算定できないとされる理由がわかりません。
 しかも院内感染防止対策、医療安全管理体制、褥瘡対策などの対策は、療養病床にも求められていますが、これらの対策を実行しても加算ではなく、対策を行わなかったときに減算される未実施減算という仕組みなのです。
 重度の褥瘡をもって急性期病院から転院されることもありますが、療養病床ではその治療処置や治療薬剤も算定できないのです。
 嚥下障害による誤嚥性肺炎の予防のために、胃瘻造設も、療養病床では普通に診られるようになりましたが、一般病床で算定できる経管栄養処置は算定できませんし、胃瘻チューブの交換時のチューブ代も算定できません。
 ましてや、経口摂取ができないため、IVH(中心静脈栄養)で、転院を求められることもありますが、点滴も食事代も算定できませんのでよほどの事情がない限りIVHのまま転院は難しいとおもいます。
 酸素療法・酸素代、糖尿病のインシュリン治療なども算定できません。

 このように、療養病床ではほとんどの処置が包括され算定できませんが、簡単な処置でない、褥瘡処置や薬剤、慢性呼吸不全の酸素療法や酸素代、糖尿病のインシュリン治療の薬剤、経管栄養の胃瘻の処置と、胃瘻チューブの交換などは、包括点数と別に算定できるようになるべきだと思います。
 それが算定できるようになれば、重度の介護を必要とする人たちの転院も、もう少しスムーズになるかも知れません。

6.他施設受診時の取扱い


 次に療養病床入院中の患者さんの他施設受診について説明します。

 一般には「入院中の患者が、入院の原因となった傷病以外の傷病に雁患し、入院している医療機関以外での診療の必要が生じた場合は、他の医療機関へ転医又は対診を求めることを原則とする。」と定められていますが、療養病床や老人保健施設などの包括医療の施設では、それほどすんなり他科紹介は認められていません。

 「入院医療機関において、療養病棟入院基本料を算定している患者について、入院基本料に含まれる診療を他医療機関で行った場合には、他医療機関は費用を算定できない。」という決まりがあるからです。わかりやすくいえば「包括対象の医療が他施設で提供されても別に請求できない」と言うことで、もしその診療を、他科受診を頼んでも「他医療機関でかかった費用の分配は、入院医療機関との合議で決める。」という決まりもあり、複雑な仕組みで、療養病床に入院の患者さんが勝手に他施設を受診することは出来ないと言っても良いでしょう。

 ただし、専門的な診療を他科に求めることは出来ますが、他科受診を認める場合の説明では「眼科等専門的な治療が必要で、その診療科が入院の医療機関になく他施設受診をした場合、他施設で提供された包括対象の医療(あくまでも専門的な治療の部分)は、他施設から保険請求できる。」とされ、専門的な治療は他科で請求できます。
 要するに自院に無い専門的な診療が必要になった場合には、別の医療機関での診療は認めるが、治療や投薬も専門的な診療に必要なものだけであるという決まりです。
 また、この他にも科受診を制限させる要因に、他科受診日の入院料の減算の決まりがあります。それも入院基本料の70%が控除されますので、紹介して、当日帰院されても、その日の入院医療費は30%しか算定できないのです。

 このことは「他医療機関において費用を算定することのできる診療を行わせる場合には、患者が入院している保険医療機関において、他医療機関に対し、診療に必要な診療情報(入院医療機関での算定入院料及び必要な診療科を含む)を文書により提供する(これらに要する費用は患者の入院している保険医療機関が負担するものとする)とともに、診療録にその写しを添付する。この場合においては、他医療機関において診療が行われた日に係る入院基本料は、入院基本料の所定点数から入院基本料の基本点数の70%を控除した点数により算定するものとする。」と記載されています。

 療養病床などの、包括医療算定施設から、病状の変化や、経過観察のために患者さんを専門医に紹介しても、その日の医療費は3割しかとれないのです。
 そのため医療機関の中には、どうしても紹介が必要な場合には、紹介日にいったん退院してもらい、同日に紹介先を受診し診察を受ける、そして翌日再入院する。 そうすれば入院費も、他科受診も、退院された患者さんの診察ですから療養病床の他科受診とは異なり、なにも制限を受けずに検査や治療を実施できることになり、お互いが満足できる方法で、全くよく考えた方法だと思います。
 報酬のためだけに、この方法を採れるかどうかだけで、違法ではないと思います。
悲しいことですが。
 因みに、療養病床などでの、外泊は認められていますが、外泊時の入院基本料は15%しか算定できません。外泊がたくさんあれば、大幅に減収となりますので、退院前の試験外泊なども制限されると思います。

 もう一つの他科受診の問題ですが、専門的診療を必要とする「他科」とはどこまでを指すのかは、決まりがありません。一般的な内科の療養病床なら、眼科・耳鼻科・皮膚科等や、骨折や外傷での整形外科・外科などすべて「他科」なのか、また内科といっても、臓器別の専門性があり日常の診療では、主治医の専門以外の診断や特殊検査を依頼することは良くあることですが、標榜科目に標榜していれば「他科」との判断はできないというのでしょうか。

 悩ましい判断ですが、いずれにしろ療養病床や老人保健施設では「他科受診」は制限されているのです。



 以上が、現在の療養病床の問題点と言うべき事柄ですが、誰が考えても理解できない制限が多く、重度の看護・治療の継続が必要になった方たちの、行き場を確保する意味から、診療報酬検討委員会でも考えてもらいたい事項です。

   17年7月26日 玖珂中央病院 吉岡春紀