通所リハと医療保険

 介護保険制度と医療保険の矛盾点は訪問看護でも述べてきました。主に介護保険制度が優先され医療保険は算定できない事があります。最近「通所リハ・ディケア」についても医療保険との大きな矛盾が表面化しました。
 このことは制度発足当時から医師会などでは廃止を強く訴えて来たことですが、現場ではあまり問題化せず、診療報酬の審査会でも大きな問題はなかったようです。しかし、制度が少し落ち着き、自治体も介護報酬レセプトの見直しや、医療の診療報酬レセプトとの照らし合わせ(突合)を行いはじめ、改めてこの問題がクローズアップされはじめたのです。

先日10月11日発行の県医師会報にこんなお知らせが載っていました。
介護保険と医療保険の算定禁止事項の通達です。


お知らせ  医療保険・介護保険関連留意事項
 下記のとおり、介護保険との調整により、医療保険では算定できない項目がありますのでご留意下さい。

1 介護保険で通所リハビリテーションを算定している月においては、医療保険による次の項目は算定できない。
 (1)外来管理加算
 (2)老人慢性疾患生活指導料
 (3)老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)
   *適所リハをしている月においては、外総診は算定できない(出来高で請求)

2 介護保険で在宅介譲を受けている利用者に対して、医療保険による次の項目は算定できない。
 (1)在宅患者訪問看護・指導料(癌末期患者等を除く)
 (2)在宅訪問リハビリテーション指導管理料
 (3)在宅患者訪問薬剤管理指導料
 (4)在宅患者訪問栄養食事指導料

3 その他
 (1)介護保険適用病床からの退院時には、退院患者継続訪問指導料は算定不可。
 (2)介護保険で居宅療養管理指導費を算定している利用者に対して、診療情報提供料Aは算定不可。
                 山口県医師会 保険担当


 特に問題なのが(1)の「通所リハ」と医療保険の算定の問題で、制度発足時からあった規則ですが、いろんな解釈がされ、これは「通所リハを行っている医療機関、ないし特別の関係にある医療機関に対しての告示」という捉え方があり、実際に保険医協会発行の診療報酬説明のQ&Aでも「通所リハの施設とは関係のない医療機関では算定できる」としている説明もありました。

 しかし、今回は「同一医療機関や特別な関係にある医療機関だけではなく、全ての医療機関に当てはまる通達である。」とされ再確認されました。

 「通所リハ」を行っている医療機関やこの関連施設での外来診療ではリハビリの指示や指導はその医療機関で行うため、外来管理料や生活指導料は算定できなくても仕方ない思っていましたが、「通所リハ」に関係のない医療機関の外来診療で、これらの外来管理料や生活指導料に制限が加えられること自体が納得できませんし、特に、その患者さんに「通所リハ」の指示もしていない場合も多く、制限が加えられることが問題なのです。

 関係のない医療機関の場合の外来管理料や生活指導料の算定は当然だし、問題ないものとおもいます。むしろ今でも「通所リハの施設とは関係のない医療機関では算定できる」という考え方の方が普通だと思います。

 この矛盾は当初から問題化され日医も厚労省に廃止・見直しを申し出ていますが、制度発足後も改訂はありませんでした。また介護保険と医療保険のレセプトの突合も行われていなかったためかあまり表面化しませんでした。
 敢えて表面化させなかったのかも知れません。

 このまま改善されねば、主治医として、通所リハの必要性に乏しいケースでは、通所リハを中止し、診療報酬の算定に制限のない「通所介護」を勧めることになりますし、介護施設と主治医のトラブルの原因ともなりかねません。通所リハ施設の存立にも関わることになりますし、地域によっては「通所リハ」と「通所介護」の両方サービスのないところもあり、現在「通所リハ」に通っている患者さんの主治医は今後どう対応するか困惑しています。

 月1回でも数回でも、どこかの「通所リハ(デイケア)」に行った事実があれば、それを知らないで外総診を算定していると、あとで出来高に査定されるということですし、その際 外来管理料・老人慢性疾患生活指導料も算定できないのです。最近県内のあちこちでこの返戻が始まったようです。大きな問題ですが、もう一つ診療所で簡単に確認できないことも別の問題です。

 「通所リハ」を行っている事の確認は、介護保険では主治医には当然ケアマネからケアプランを提示されることが必要ですが、現実にケアプランの通知を貰うことはほとんどありません。また、老人手帳に記載する義務があるとのことですので、老人手帳を確認しておくことも必要ですが、毎回の診察に老人手帳を持ってくる患者さんは少なく、記載されていない場合どうするのかの問題もあります。

 また「通所リハ」は介護サービスですので、要介護認定が必要で、主治医として意見書を提出した患者では要介護度の把握と、どんなサービスを受けているのかを確認しておく必要がありますが、患者も「通所リハ」と「通所介護」の区別も分からないことが多いようです。複数の医療機関に通院し、他の診療所で主治医意見書が提出されていれば、別の診療所では気がつかない場合もあると思います。

 ただ、要介護認定申請時の主治医意見書に「通所リハが必要」とか、「身体リハビリを要す」などと意見を記載しており、ケアプラン作成にこの事が考慮され、ケアマネからケアプランが示された場合は、「通所リハ」はその主治医の指示とされ、主治医が必要と判断した「通所リハ」は積極的に行うべきです。
 そしてこの場合に、外総診等の算定が出来ないことは、この通達がある限り理解すべきですし、後で返戻されても仕方ないかも知れません。リハビリの必要がない例に、安易に「通所リハ」にチェックしないことも必要です。
 また本人や家族の希望とは言え、通所リハ施設の強引な勧誘やケアマネ間のトラブルも見聞きしますし、その地域に「通所介護」施設がないと言う理由だけで、主治医からの指示もない「通所リハ」が勝手に行われている現実では、施設やその従業員の意識改革も必要です。特に現在「通所介護」と「通所リハ」のサービス内容の差が見られないことと、患者の選択の自由がないことも問題です。同じ関連施設内に「通所介護」と「通所リハ」の二つの施設を持つ場合もあり、この際は単価の高い「通所リハ」から定員が埋まっていくようです。

 このように、この規定では介護保険を優先し医療の、それも直接関係のない医療機関の診療報酬を算定不可としているのですが、算定不可の理由は見あたりません。正当な診療行為をを否定されているのです。
 この通達破棄を訴え続けるべきですし、万一査定された場合には再審査の訴えをすべきです。診療報酬請求上、介護保険が優先し医療保険の指導料や外総診は算定できないと言われても到底納得できることではないと思います。

 また医療保険では、通院場合の理学療法(リハビリ)の診療請求するためには、リハビリの事実とともに、それなりの「病名」が必要です。しかし介護保険の「通所リハ」は要介護認定があれば、病名は必要ないようです。介護保険制度でもレセプト審査があるなら通所リハビリが必要な適応病名や主治医の指導方針など確認すべきです。それほど介護保険の報酬は高いのです。

 現実には「通所介護」の空きがないから、同一施設の「通所リハ」に回っている人、どう考えても医学的な身体リハは必要ない人、逆に心不全などで積極的なリハはむしろ好ましくない人たちも「通所リハ」に通っています。

 理由はどうであれ、何度も言いますが「通所リハ」をどこかで受けているから、医療を受けている医療機関での外来管理加算・慢性疾患指導料・外総診は算定できないという事自体がとんでもない解釈だとおもいます。一方通所介護(ディサービス)なら、医療保険は制限なく算定できること、70歳以下の方(老人医療以外)の介護サービスはこの通達の対象でないことなども理解しにくい規定です。

 このことは多くの医療機関に影響があることです。原則は厚労省に見直し・廃止の要求を続けることだと思いますが、それまでは各医療機関・医師会内で確認しておく必要があります。

 またケアプランを作成するケアマネにも十分認識して欲しい事です。

                 平成13年10月29日  吉岡春紀


 注 この問題は14年4月からすべて「算定可能」と決まりましたので解決します。 
 自院でも、自院や関連施設でも同様で外来医療と介護保険の通所リハは別の問題だと理解されたことが認められた訳です。
   14年3月25日 県医師会通達


 通所リハと通所介護の違い

 この違いを患者さんはあまり知りません。しかし両者は同じ様な通所系の介護サービス施設ですが介護報酬も医療保険への影響も大きく違うのです。

 通所リハは介護保健施設(老人保健施設)・診療所など医療機関が行う通所系介護サービスで、通所介護・日帰り介護(デイサービス)は介護福祉施設(特別養護老人ホーム)がおこなう介護サービスです。

インターネットで、ある施設の紹介文を見ますと(同じ経営母体です)

「通所リハビリステーション」
 障害者、高齢者の在宅生活維持、向上、家族の負担の軽減等をはかり、リハビリテーション(理学療法士、言語聴覚士による)、レクリエーション、入浴と充実したサービスを提供致します。

  理学療法による適切な機能訓練
  四季折々の年中行事(クリスマス会、春の花見、ひなまつりetc)
  レクリエーション・講座(カラオケ、墨絵、フラワーアレンジメント)
  平行棒、プラットホーム、温熱療法器具、また滑車、重鐘などの自主トレーニング  器具もそろっています。
  理学療法士、言語聴覚士が利用者個々を評価しその人に合ったメニューを立て、リハビリが進んでいきます。

「通所介護」
 個性、身体機能を重視し、家族と共に自宅での生活が有意義に過ごせる様、心身の機能回復、維持を目的にサービスを提供致しております。

 理学療法による適切な機能訓練
 四季折々の年中行事(クリスマス会、春の花見、ひなまつりetc)
 レクリエーション・講座(カラオケ、墨絵、フラワーアレンジメント)
 平行棒、プラットホーム、温熱療法器具、また滑車、重鐘などの自主トレーニング  器具もそろっています。

 その差は理学療法士・作業療法士がいるかいないかですが、現実には常勤の理学療法士のいない施設や、いない曜日もあるようです。

 「通所リハ」の施設の管理者は医師ですので、他の医療機関で外総診算定や慢性疾患管理されている患者の「通所リハ」を行うのなら、その施設の医師・理学療法士やケアマネにケアプランやリハビリの報告を義務づける必要があると思います。またリハビリの対象でない強引な勧誘は良く聞くことです。

 我々も自衛のため、患者教育を行いカラオケ・入浴程度の「通所リハ」の中止・算定に関係のない「通所介護・デイサービス」への変更などを考えるべきでしょう。

通所リハ(ディケア)・通所介護(日帰り介護・ディサービス)の報酬

 介護保健サービスの報酬は、医療保険と比べてびっくりするような報酬になっているものもあります。通所リハ・通所介護の報酬を簡単にお知らせします。

通所リハ(ディケア)

 通所リハ(I)から(III)まで、設立施設別に通常規模医療機関・小規模診療所・老人保健施設によって3ランクに分けられ、その上で介護時間の所要時間によって3ランク・そして要介護度によって各々3ランクと計9ランクの設定があります。

 例えば介護時間(所要時間6-8時間)で介護老人保健施設の通所リハの点数
   要支援      648単位
   要介護1.2    753単位
   要介護3-5  1041単位
 となります。その上に
   食事加算    39単位
   送迎加算    44単位
   入浴加算 イ 入浴介助 39単位
        ロ 特浴介助 60単位
   計画の作成・見直し 550単位/月
 が加算されます。

通所介護(日帰り介護・ディサービス)
 これも単独型・併設型・痴呆専用型・痴呆専用併設型など施設基準で基本は4分類され、要介護度別・サービス時間毎に分かれています

 例えば介護時間(所要時間4-6時間)で単独型の通所介護の点数
   要支援     664単位
   要介護1-2    766単位
   要介護3-5  1028単位
   痴呆専用では最高1日1373単位となります。(1単位=10円 ただし一部地域差あり)

 例えば要介護3の人が介護老人保健施設の通所リハを週1回・月4回行ったとして
  通所リハ1041単位・
  食事加算39単位・
  送迎加算44単位・
  入浴加算 ロ特浴介助60単位を算定すれば1回 1184単位
となり、
 月では4592単位、それに計画作成550単位を加え5412単位、
 金額にして54120円となります。週2回ならほぼその倍で10万円を超します。

 凄い金額が通所系介護サービスに消費されていることになります。
 介護施設の入所費用よりも高い場合もあるのです。
 ちなみに外来医療費で4万円以上のレセプトは全国でレセプト上位10%に入ります。
 なにか医療制度と介護保険制度の矛盾を感じます。

 こんな事をしていればその次は介護保険制度の破綻でしょう。

       平成13年11月6日  


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