日本の医療費の実状

「医療費の大半は少数の患者で使われています」と言うタイトルでホームページを作りました。実際にその通りなのですが、データを見直してみると、今まで考えていた「少数の患者=高額医療費」という考えは改めなくてはならず、少しタイトルを変えねばならないかなとも思っています。

 平成10年2月に日本医師会医療政策会議より「高齢社会における社会保障のありかた」と言う報告書が発表され、その中で平成5年度の少し古いデータでしたが、「医療費の大半は少数の患者に対する医療サービスによって消費されている」と言うショッキングなデータが公開されていました。これは下記の表のようなデータでした。


 特に「レセプト上位1%の患者さんに25%の医療費が費やされている。また上位25%程度で75%の医療費を使っている。」との報告はこの資料を見ても、まさに日本の医療費は少数の患者さんによって使われている、すなわち高額医療によって使われていると言う発想になっていました。
 勿論 高額の医療費を使っている一部の患者が日本の医療費の大半を消費していることは事実なのですが、今回10年度の下記の生のデータ(入院分・外来分を別々にまとめていただいた資料を私が修正したものです)を手にして検討してみると、高額医療と呼べないレセプトも上位のグループになっていることに気づきました。
 ここで今回の推計に使用した資料を示します。
 平成10年6月の資料は政管健保・国保・老人医療が公開されていますので、今回の検討資料はこれらで推測したものです。先日公開された厚生省資料で平成11年6月の資料では組合健保の資料も追加されていました。
 元々は入院分・入院外分として公表されたものをレセプトの金額別に並べ変えたものです。平均値の取り方や推計の仕方には少し問題もあることは下記に注意書きとして示しています。

 またこれは平成10年6月だけの厚生省発表の政管健保・国保・老人保健の資料であり、組合健保など他の診療データはありません。しかしこの月のこれだけの数字(レセプト数4800万枚)の資料が有ればある程度の年間推計は可能と考えます。

外入別
レセプト点数

総数(枚)
代表値 点
(総数)X(代表値)
レセプト点数上位からの割合
全体の医療費に占める割合
外来
100点 未満

309591
80
24767280
100%
100%
外来
100
200
2308598
150
46438650
99.3
99.9
外来
200
300
2137048
250
577149500
94.6
99.9
外来
300
400
3667732
350
747966800
90.1
99.4
外来
400
500
4157623
450
1650479400
82.6
98.9
外来
500
600
3567278
550
2286692650
74.0
97.5
外来
600
700
3058879
650
2318730700
66.7
95.7
外来
700
800
2495698
750
1871773500
60.4
93.1
外来
800
900
2673126
850
2272157100
55.2
92.4
外来
900
1000
1958559
950
1860631050
49.7
90.5
外来
1000
1250
4165733
1125
4686449625
45.7
89.1
外来
1250
1500
3075892
1375
4229351500
37.1
85.3
外来
1500
1750
2952912
1625
4798482000
30.7
81.9
外来
1750
2000
2180803
1875
4089005625
24.7
78.1
外来
2000
3000
4290893
2500
10727232500
20.2
74.8
入院
2500点未満

48900
1800
88020000
11.3
66.2
入院
2500
5000
75171
3750
281891250
11.2
66.2
外来
3000
4000
1687113
3500
5904895500
11.1
66.0
外来
4000
5000
757971
4500
3410869500
7.6
61.2
外来
5000
10000
935712
7500
7017840000
6.0
58.5
入院
5000
7500
71958
6250
449737500
4.1
52.9
入院
7500
10000
70819
8750
619666250
3.9
52.5
入院
10000
12500
77050
11250
866812500
3.8
52.1
外来
10000
20000
200476
15000
3007140000
3.6
51.4
入院
12500
15000
81394
13750
1119167500
3.2
49.0
入院
15000
17500
79039
16250
1284383750
3.1
48.1
入院
17500
20000
70646
18750
1324612500
2.9
47.0
入院
20000
22500
77835
21250
1653993750
2.7
46.0
入院
22500
25000
87592
23750
2080310000
2.6
44.7
外来
20000
50000
201819
35000
7063665000
2.4
43.0
入院
25000
27500
93554
26250
2455792500
2.0
37.4
入院
27500
30000
77592
28750
2230770000
1.8
35.4
入院
30000
35000
168005
32500
5460162500
1.6
33.6
入院
35000
40000
177529
37500
6657337500
1.3
29.2
入院
40000
45000
115314
42500
4900845000
0.9
23.9
入院
45000
50000
73862
47500
3508445000
0.7
20.0
外来
50000点以上

30891
33856
1045845696
0.5
17.2
入院
50000
60000
92630
55000
5094650000
0.5
16.4
入院
60000
70000
54320
65000
3530800000
0.3
12.3
入院
70000
80000
32331
75000
2424825000
0.2
9.5
入院
80000
90000
17666
85000
1501610000
0.1
7.6
入院
90000
100000
13442
95000
1276990000
0.1
6.3
入院
100000点以上

43700
154110
6734607000
0.09
5.3
**
合計

48514696

125182993076

参考文献:平成10年(6月審査分)社会医療診療行為別調査報告上巻 概要・統計表編(診療行為大分類


注意書き 

外来の代表値の決定方法
1.100点未満 任意に80とした。
2.100〜50000まで 中央値とした。
3.50000点以上
 69,637,572,688 ←1.:平成10年6月レセプト総点数(入院外のみ)
 68,591,717,880 ←2.:1点〜50000点までの(総数)X(代表値)の値をすべて合算する
  1,045,854,808 ←3.:1.-2.により50000点以上の総レセプト点数をだす
     33,856 "←4:3.を50000点以上のレセプト件数でわる事により、一件あたりのレセプト点数を出し、それを便宜的に代表値とする。しかし、50000点以上の代表値として、50000点未満の33856が代表値として導き出されている。これは論理的に矛盾しており、中央値を代表値として選択する事がこの場合有効でない事を示している。よって、本件では有効性の高いデータを提出するにあたって、外来のデータを採用する事は控えたほうがよいと考えられる。"

入院の代表値の決定方法
1.2500点未満 任意に1800とした。
2.2500〜100000まで 中央値とした。
3.100000点以上 (474,043)
   55,545,411,080 ←1.:P80平成10年6月レセプト総点数(入院のみ)
   76,261,078,196 ←2.:1点〜100000点までの(総数)X(代表値)の値をすべて合算する
 (20,715,667,116) ←3.:1.-2.により100000点以上の総レセプト点数をだす
 (474,043) "←4:3.を100000点以上のレセプト件数でわる事により、一件あたりのレセプト点数を出し、それを便宜的に代表値とする"                        


 さて、レセプトの上位のグループの医療費は平成5年度の結果と比べても、レセプト上位1%未満で24-25%の医療費の消費であり、ほとんど変わっておりませんが、10年度はレセプト上位20%位で75%の医療費を使っている事になり、5年度では上位25%位が総医療費の75%消費でしたので、ますます少数例で多くの医療費を消費する傾向がみえます。
 上位1%未満のレセプトとは何か
 このグループの1ヶ月の診療費はどの程度かを見てみますと、おおよそ月40万円のレセプトと言うことになります。そして月40万円のレセプトは一般病院の1ヶ月の入院の医療費としては決して高いものではないことが分かりますし、月40万円を超えるレセプトは外来ではインターフェロンなど特殊な、高額な薬剤治療を除いてはありませんので、上位1%はほとんどが入院患者のレセプトといえます。

 本当の意味の超高額医療(例えば月1000万円を超えるレセプト)はどの程度あったのかは今回の資料では分かりませんでしたが、月100万円を超えるグループは推測できました。
 入院のレセプトで月100万円を超えるレセプトは全レセプト数4800万枚のうち約43,700枚であり総レセプト枚数のおよそ0.1%でした。この1ヶ月100万円を超すレセプトの患者さんで使われている医療費は全体の約5.5%となります。このグループでは当然、超高額医療を含んでいることになりますが、予想外に少ないパーセンテージでした。
 この「超高額医療」については
 健康保険組合連合会は12年4月27日、11年度の医療費のうち1か月の医療費が1000万円を超える「超高額医療費」が90件(対前年比18件増)になったと発表しました。初めて1000万円超医療費が発生した昭和55年度以降で最高件数となります。うち1500万円を超える医療費も19件(同12件増)と急増しています。
 医療費が月1000万円以上となる超高額医療費件数の年次推移をみると、7年度=38件、8年度=67件、9年度=72件、10年度=72件、11年度=90件となり、8年度を境に急増していることがわかります。

 この多くは大学病院など高度医療を行う病院での治療が主体で、高度先進医療や末期医療に使われておりますが、現実にはこうした高額医療者の内、9割が治療1ヶ月から6ヶ月以内に死亡していると報告されています。とりわけ死亡1〜2ヶ月前に手術、投薬が集中しており、末期医療・延命治療のあり方にも問題提起がされています。今後は移植医療を中心に超高額医療をどうするかの問題も出てくると思いますし、この問題を抜きにして総医療費の削減問題は語れません。

 話を戻しますが、ちなみに上位5%のグループでは月の医療費は5〜6万円台、上位10%は3〜4万円台、上位20%とは25000円程度になります。
 月25000円のレセプトなら外来でもちょっとした検査をすればよくあります。これが上位20%なのです。
 と言うことは日本のレセプトは大半が外来診療で、医療費も25000円以下のレセプトという事になります。
 またも今回の調査では外来の1件あたりの平均診療費は1487点(14870円)、入院の1件あたりの平均診療費は32667点(326,670円)でした。この金額だけみますと、一部の超高額医療をのぞき高額医療費が総医療費を圧迫しているとも言えないことも分かります。普通の診療費だと思っているのも上位なのです。

 そして最も解りやすいのは、上位の医療費はほとんど全て入院患者に使われていること、すなわち病院に支払われていることです。と言うことは今回の老人医療費の一部負担改定など、外来の医療費や医療負担をいくら小細工しても総医療費への影響は少なく、医療費削減にはならないことも推測できます。

 国民皆保険で保険料を支払っていながら国民は医療費にはあまり関心がありません。あるのかも知れませんが発言したり実際を知るチャンスはありません。
 厚生省の医療費危機を信じて、個人負担を増やすことも納得しているようにも見えます。
 そして保険医療では、万一自分に医療が必要となったときには出来るだけの医療費を使って貰いたいと思っているか、医療機関も使ってくれると信じているから黙っているのだと思います。
 だからこそ保険料を納めていながら、医療を全く受けない元気な方も何も文句を言わないのです。

 今回の集計で分かったことは国民皆保険では医療を享受できる方はそれこそ金に糸目を付けずに保険で賄って貰えますが、医療の必要のない元気な方は(これが大半なのですが)、保険料は掛け捨ての金として支払っているわけです。それでも「いつでも・どこでも・だれもが・同じ」医療を受ける制度であるために、少しの不満はお互いに我慢し大きな問題になっていないのが皆保険制度なのです。しかし今後、この総医療費の配分については検討すべき大きなテーマだと思います。
 そうでなければ高額保険料を払っている階級こそ、掛け捨ての高い保険料を納めているのに、月1000万円を超す医療費があちこちで使用されたり、万一入院したらその時には高額保険料納付者の方が自己負担は一般よりももっと高くなり、不合理だと不満が出ることは間違い有りません。

 今回レセプト順位と医療費構成をまとめてみて、日本の医療費は、一部の超高額医療を受けた患者さんだけに消費されているのではないことがわかりましたし、むしろ入院患者の医療費はすべて高額レセプトのグループになり、入院費としては月平均33万円弱のレセプトですのでこれも高額入院費とは言えないと思います。こんな安い入院費でも高額医療費のグループとなりながら、大きな赤字を抱えている大病院の今後の進むべき方向も不明瞭です。
 と言うことは、今後ますます医療技術や医療方法が進歩して行くことになれば日本の医療費をこれ以上削減する方法はないのではないか、むしろ今後一人あたりの医療費は増やすべきで、自然増はますます大きくなることが予測されます。
 あるとすれば、入院費用の削減しか有りませんが、厳しすぎる病床数削減でこれ以上当分の間一般病床数は全国的にも増えない(増やさない)でしょうから、入院費を削減するには単価を抑えることしかないわけで、その他には不必要な延命治療や救命処置をしないこと、社会的入院を減らすこと位だと思います。しかしいわゆる社会的入院を介護保険制度で介護施設に移行されれば、それ以上の削減策はなくなります。実際に介護保険が始まっても国民医療費はそれほど減っていないことがこのことを表しています。
 このままでゆけば「ちりも積もれば山となる削減法」・「重箱の隅をほじくる削減法」しかない現実に発想の転換がもとめられます。

 まとめ 
 日本の総医療費は国民全体では極一部の患者で使われているという事実は確認されました。しかし今までこの一部の患者の医療費は「高額医療費」であるかの如く考えられていましたが、むしろ普通の治療費でも、上位のグループに入っており日本の医療費はむしろ低医療費であることも分かりました。
 また上位の医療費グループの大半は入院医療費であり、現在の医療制度のもとでは病院ほど収支バランスが取れず、これ以上入院の医療費を削減することも難しいこともわかります。一方外来の医療費を幾らいじくっても、医療費削減の効果は少ないと推測できます。
 今年1月の改定でも外来の一部負担が増え、負担増で一時的な受診抑制による医療費削減の効果はあるかも知れませんが、これを狙ったとすれば本末転倒の政策で、医療費削減に、こんな方法しか手を打てない「老人いじめ・診療所の事務いじめ」と「混乱を与えるだけ」の改定と言えます。

               平成13年1月9日  吉岡@玖珂中央病院 15日修正


○この資料を基に小野田市瀬戸病院の瀬戸信夫先生が日本臨床整形外科学会ホームページに
 「レセプトから見た医療費の使われ方」というまとめを書いておられます。

○ 平成10年度レセプトよりみた、レセプト順位別の医療費

      

   レセプト順位別の件数と総医療費の割合をグラフ化してみました。

  平成17年11月 追加

 この図以外に、レセプトと医療費を説明するグラフを作ってみました。

 長島公之先生の作られたグラフもあります。

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