介護保険の見直し

 予防給付にパワーリハビリを導入することに反対します。

 年末の新聞報道では「厚労省は22日、来年度の介護保険制度改革の政府案を公表し、その中で介護予防対策の導入と、施設での利用者負担の見直しが柱で、高齢化の進展をにらみ、給付抑制を目指している」と書かれています。
 そして給付抑制の理由は

 ○予測以上に、「要支援」と「要介護度1」への訪問介護などの給付が膨らんでいる事と、

 ○軽度の要介護者の増加が著しく、給付費膨張の一因となっている事。

 ○家事代行など従来の在宅サービスが、かえって状態悪化を招くと指摘されている事。

などから、自立を促すよう筋力トレーニングなどを対象とした予防給付に切り替え、06年4 月から実施される予定である。」とされています。

 来年の介護保険制度改革の目玉として新設される「新予防給付」の対象

 新予防給付の対象となるのは、老化に伴う生活機能の低下が見られる場合で、重度の痴呆や、病状が安定していない場合は除外される見込みで、要支援、要介護1に占める重度の痴呆の割合が最新調査で2割程度と推測されることから、軽度の要介護認定者(現在約200万人)の7―8割が新予防給付へ移ると見られています。

 現在は、訪問介護サービスで、掃除や食事作りなどの家事をホームヘルパーに任せることができていますが、家事代行など従来のサービスが、かえって状態悪化を招くと指摘されており、 新予防給付では、ヘルパーと一緒に食事作りをするなどに内容が変わるようです。

 新予防給付のメニューは、筋力向上トレーニング、転倒予防訓練、口腔(こうくう)ケア、栄養指導などの新サービスと、従来の訪問介護や通所介護に予防効果を持たせた「予防訪問介護」「予防通所介護」などが検討されています。

 これらの改革で、気になるのが新予防給付として「筋力向上トレーニング」が取り上げられたことですが、これには普通の「筋トレ」でなく、高価な機器を使用した「マシン筋トレ=パワーリハビリ」の導入が検討されていることです。
 

 介護保険の給付費が膨らんでいるので、軽介護者は在宅介護サービスよりも、予防をすべきだという発想のようです。在宅サービスを受けた者の方が、かえって介護度が悪化したというなら、個別の事例の変化が示されるべきですが、全体の認定数の変化だけであり、現在の要介護認定審査の実情を知らずに結論を出したような印象ですし、その人に応じたケアプランを否定するような決定だと言ってもよいような、現場無視の発想です。

 もちろん、現在行われている、軽介護者への過剰とも思える「通所リハ」や「通所介護」に問題がないとは言えませんが、それらのサービスとの対比も全く考慮されていません。これらの介護が意味をなさないので、パワーリハを採用するとでも言うのでしょうか。

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 そこで 介護保険の予防給付としての「リハビリ導入」について、考えを述べたいと思います。


 筋力トレーニングの一部に「パワーリハビリ」なる新しい言葉が使われるようになりました。
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○ パワーリハビリテーションとは

 パワーリハ研究会関連のページによると

「パワーリハビリテーションという言葉を聞くと、筋力トレーニングと誤解される方がおられます。筋トレというのは、動ける人へのトレーニングです。すでに動ける人がより強力になろうとするためのトレーニングです。しかし、パワーリハというのは、実は動けない人あるいは動く能力の低い人を活発に動けるようにするというのがコンセプトです。パワーリハの「POWER」は、「力」を意味するパワーではなく次のような意味があります。
「POWER」とは
 Produce Outcome to Worth-While for Elder Re-activation
  Produce・・・・・・・ 生み出す      
  Outcome to・・・・・・ 結果      
  Worth-While for・・・・価値ある 
  Elder・・・・・・・・・ 高齢者    
  Re-activation・・・・・・リハ戦略

 従ってパワーリハビリテーションとは、高齢者の活動促進、行動変容のために価値ある有効な結果を生み出すリハ戦略」と説明されています。

 またパワーリハの特徴は、マシントレーニングをすることです。
 パワーリハは「虚弱・要支援・要介護高齢者」を対象としており、このような高齢者が安全で安心して使えるマシンが必要となります。パワーリハ研究会では「コンパスマシン6機種」を、パワーリハ研究会推奨機器として紹介しています。このマシンは、ドイツ・プロクソメッド社製の「コンパス」というシリーズで、もともと医療用機械として開発されたものです。

このようにパワーリハの説明がされています。


○ 高齢者の筋トレやパワーリハビリの効果

 介護予防給付に筋トレ・パワーリハが取り入れられることになった根拠は筑波大学の久野先生たちの取り組みがはじめだと思います。茨城県大洋村を舞台に、自宅で機器を用いずにできる簡単な筋トレが、寝たきり予防と医療費削減に効果があると実証したことで、筋トレが寝たきり予防に効果があるという実証でした。ただしこれは、介護が必要な高齢者が対象ではなかったようですが、高価な機器を使わない非マシン筋トレでした。

 その後日本医科大学の竹内先生らのグループが、神奈川県川崎市の介護予防事業にコンパスマシンを使ったパワーリハを行った検討では、男61名、女38名の計99名中79名が要介護度が改善し、一部には介護サービスが必要なくなり、パワーリハは費用対効果が大きいとの結果でした。

 ただし脳卒中後遺症として片麻痺のある場合には介護度は不変のようですので、対象者の選定も問題でしょう。

 そして計算の根拠は不明でしたが「利用者一人あたり 8.8万円(月額)、105.6万円(年額)の節約効果があるので、少々の設備投資をしても、安あがりと。」結論しています。

 また、このグループの別の報告では

「パワーリハはその主な対象を「虚弱・要支援・要介護高齢者」としています。川崎市ではパワーリハ事業を展開していますが、20名の要支援者をパワーリハで3ヶ月ほどトレーニングすれば、低く見積もっても、7割つまり14名が自立に達することができるとしています。仮に20名中14名が自立に達し、その後1年間自立を維持したと仮定すると、要支援の方々に対する介護保険の限度額、つまり月額6万円×12ヶ月×14人で、約1,000万円ぐらいの介護保険財政の節約になるのです。このことを考えると、パワーリハは社会経済にも大きな効果をもつ分野であることが理解できます。」としています。


 そうならば、少々高額な機器を導入しても、全国では介護保険の要介護認定者の増加が防げ、給付費が抑えられると、介護保険の負担に根をあげた、自治体や、議員が飛びついたのも無理はありません。今回の介護保険の予防給付という発想は、いわば行政や議員主導の導入でしょう。
それに厚労省が飛びついて外濠をうめたと言うわけです。

 しかし、この検討で、要介護度の認定審査が、実際の川崎市の認定制度で改善が確認されたのではなく、終了時の判定はコンピューターによる一次判定だけのようです。一次判定の精度問題や介護の現場の意見は取り入れられていないようです。実際の要介護認定では、現実に介護サービスを受けている軽介護者なら、簡単に非該当にはならないと思います。また、現実の要介護者の男女比とは全く違う、男性優位の対象者ですので、パワーリハが継続できた可能性もあります。そのままパワーリハによって現実の要介護度が改善し非該当判定が増えるとは信じるわけいきません。


 身体障害を持った人たちに行う、急性期のリハビリや廃用萎縮予防の筋トレの効果は疑うものではありませんし、むしろ積極的にリハビリを行うことに異議はありません。そのリハビリの手段として、高額なリハビリ機器を使ったマシン筋トレやリハビリの方が有効であり補助器具が必要なら、それはそれで問題ありませんし、積極的に安全で有効な機器は取り入れるべきだと思います。だから「筋トレ=パワーリハ」そのものを否定しているのではありません。効果はあると思います。


 しかし、介護保険制度の中で、将来の給付費を抑える目的で、このパワーリハを、拙速に導入して良いのでしょうか。これは非常に疑問です。特に高齢者のリハビリは長期にわたって維持継続できるかどうかが問題であり、短期間の効果判定では意味ありません。

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パワーリハビリの問題点

こんな問題点が指摘されています。
 1)パワーリハビリという名称からは、「リハビリの新しい概念」のように勘違いするが、日 本での実態は、「ある特定のメーカーの機械を使った運動の一種類」に 過ぎないのではないか。
 2)その医学的効果、副作用、また、医療経済的な費用対効果は、不明(他の筋力強化訓練などと比較してどうか)であるし、検証もない
 3)医学的判断と無関係に、「何にでも効く」という療法は、これまでの経験では、ほとんどの場合、あやしい、。
 4)医療政策として行う場合に、効果や副作用、費用対効果が不明な、 単なる「ある特定のメーカーの機械を使った運動の一種」を、制度化して、多額の保険料や税金を注ぎ込むのは、早計に過ぎて、危険である。
 5)普通は、以下のようになるはず。
  ・ある身体的、疾患的条件のグループには、他の方法に比べても非常 に大きな効果がある
  ・あるグループには、効果はあるが、他のもっと安価な方法と同等で ある。
  ・あるグループは、副作用があるので、行うべきではない。

 こんな疑問に答え来られるのでしょうか。

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 介護保険制度自体が財政難で大きな曲がり角です。

 当初から、こんな大盤振る舞いでは、直ぐに財政負担に耐えられなることはわかっていたのに、その対策がとられないまま制度は、走りながら進んでいます。

 介護保険の給付は医療費と比べてもかなり高額です。例えば要支援では月額は61,500円、要介護1なら165,800円使うことが出来るのです。受けるサービスの費用は、例えば要介護1で6時間〜8時間未満 の通所介護サービスなら費用は1日6,620円、食事・入浴で780円加算され7,400円となります。

 一方医療費は抑制が進み、外来の老人医療費は16年8月の国保速報では1日あたり6,832円となっています。平均月2.5回の受診になっていますので月額として、一人あたりの医療費は月17,000円です。介護保険では要介護度で決められた月額の限度額まで利用可能ですので、要介護1なら丸1日の通所介護を週2回・月8回受けても約7400x8回=59,200円ですので、要介護1の限度額165,800円ならまだまだ他のサービス利用ができ、利用者もあまり高額なサービスを受けているといった実感がありません。

 医療費抑制の議論ばかりがなされており、介護報酬・サービスの適応などあまり検討されてこなかったと思います。だから、これからは介護保険は今までのような保険料では賄えないと、現場の誰もが思っているのですが、国にはその危機はあまりなかったものと思われます。

 今回、介護保険に予防給付という発想が持ち出されましたが、予防給付が費用対効果があるかどうかは、まだ実証されているわけではありません。

 医療制度には予防給付とか予防医療の概念はありません、検診事業が予防事業ですが、これは医療保険の対象ではなく、自己負担と補助で支えられ、医療保険からは給付されません。また検診事業を補助するとしても、検診は年1-2回の事ですが、介護保険の予防給付は長期間の給付であり単価的には少額でも、対象者数・期間などを考えると膨大な金額になります。それなのに介護保険で予防給付を認めることは、今後医療保険と介護保険との整合性がとりにくくなるとも考えられます。そんな事も含めて、もっと検討すべきだともおもいます。

 さて、機器を使わない「筋トレ」にしろ、「パワーリハ」にしろ、専門家が対象をきちんと決めて、介護者が指導し、きちんとしたやり方で管理し、継続が出来れば「運動」は軽介護者にとって、どんな運動でもそれなりの効果はあると考えるのが普通です。事実効果はみられます。だから機器を使った「パワーリハ」も効果は間違いなくあると思います。 しかし、パワーリハビリを「介護保険制度」に予防給付として導入するときの問題は、前述した制度の問題と、そのほかにも
 1)機器が高い
 2)センターに集る必要がある
の2つの集約されます。
 従って、もし導入されても普及は極めて限定的であろうと思われます。


 機械を使ったリハは、誰でも、どこでも行う事は出来ません。もしやるとしたら機器の設置できるリハセンターを設立する必要がありますし、リハのわかった専門員の配置、そして、そのセンターへの送り迎えをどうするのかなど、対象者の選択や万一の事故に対しての医学的な対応など、他にもいろいろな問題があります。

 リハセンターには最低6台のマシンを入れて、80-100平米の広さがいりますし、筋トレヘルパーというまた新しい職種を養成するとのことです。リハの機器は現在一式700万円程度かかると言われています。

 勿論 介護保険での予防給付なら、パワーリハのサービス費をいくらに設定するのかは大切なことです。現在の通所介護よりも低価格にしないと改訂の意味はありませんが、あまり低い報酬では高額な機器を設置できません。そんな事情で、パワーリハを行おうとする事業者は高額な機器や設立の元を取るために事業所間の集客合戦はもっと激しいものとなり、高額な機器を使わず、人手をかけたもっと安くて良いリハビリは行われなくなると思います。介護保険給付費の抑制は出来ず。むしろ給付費は増大するものと思います。自治体としての実績作りでしかない可能性もあります。


 竹内先生らのグループでは、今後およそ1,000万人がパワーリハの対象になると推計されており、パワーリハ機器メーカーにとってはすごいビジネスチャンスですが、現在はパワーリハの機器が、「コンパス社」の一つのメーカーにのみ指定されていることも問題になると思います。

 しかし日本全国にあちこち、高額なトレーニング機器をもった自治体やセンターができ、元気なお年寄りが集団で、介護予防の名目で保険を使った筋トレに励んでいる事を想像すると、なにか恐ろしい感じがします。

○「非マシン筋トレ」の効果

 こんな高額なリハ機器を使わなくても、介護に役立つ筋トレは、各地で開発され実用化されています。高齢者の筋トレの効果を実証された久野先生も、マシン筋トレには疑問を持っておられます。

朝日メディカルの特集号で、「最近パワーリハビリという、いわゆるマシンを使った筋トレがはやっています。実は我々も最初は器械を使った運動でしたが、リハビリという言葉が好きではなかったので機器を用いた筋トレと呼んでいました。 しかし4~5年前、ある出来事を機に、自体重だけを使った「簡単筋トレ」 「らくらく筋トレ」と呼ぶものに変えました。当時、週2回の健康教室を開いていましたが、ある時に継続的に参加していた方が相次いでやめました。驚いて会いに行くと、みな同居している親や夫を介護する立場の女性でした。尋ねてみると、その後、一切運動はしていないという。そこで、これまでの人を集めた教室型のプログラムの発想ではいけないと思い至りました。茨城県下全83の市町村で高齢者の健康教室が行われていますが、どこでも年間を通して受講しているのはせいぜい30~50人で、それ以上集めるという発想がない。この50人に2万円の 医療費削減効果が出ても、合計で年間100万円です。器械を使った運動では意味がない、教室だけでなく家庭でもできる一体型にすべきだと考え、プログラムを切り替えました。
 もう一つ、我々のプロジェクトのポイントは参加者の継続率が高いことで、9 割の方が1~2年続けています。要因の一つは、安全にできて、早く効果を実感できる個別プログラムだったことです。高齢者では体力が10%上がると、生活を大きく変えることができるので、継続できる励みにもなります。」と述べられています。マシン筋トレの効果は、
こんな方法など比較検討はなされたのでしょうか。北海道の事例(高齢者体力向上トレーニングマニュアル)では普通の「筋トレ」と「パワーリハ」との比較で「普通の「非マシン筋トレ」のほうが統計学的に有意な項目が多く認められた。」とあります。まともな介護者は、だれもが要介護者の自立支援のために、安い予算の中で工夫しながら頑張っているのです。

こんなページを紹介します。

 介護予防に役立つ「非マシン筋トレ」熊本県と北海道の実践から

 介護保険財政の窮迫に直面しているため介護予防事業に力を入れている。熊本県と北海道の取り組みですが、

熊本県の菊水町では「お茶の間筋肉トレーニング」、通称「お茶筋」といいます。

 その方法は

 1.足の手入れ(下肢の血行促進)

 2.肩甲骨と脊椎の調整

 3.骨折しない転び方

 4.骨盤捻転・膝倒し

 5.2人でする筋肉強化体操

 6.数人でするスクワット

 7.下肢の強化

 8.2人でするペア・ストレッチ――といった一連の体操。

続いてボール、ゴムひも、脚に巻きつける錘(500g)の「3点セット」を駆使した体力づくり。仕上げはお互いに体をほぐしあうマッサージ。こうしてざっと1時間。気持ちよく体を動かしたあとは持ち寄ったお菓子や自宅でつくった漬物をつまみながら茶のみ話に花が咲く。

 大掛かりなトレーニングマシンを使うパワー・リハリビテーションに比べると、「お茶筋」の利点は、

 1.体に無理な力がかからず危険が少ない

 2.公民館や温泉旅館の広間などどこでもできる

 3.自宅のお茶の間で家族と一緒にできる

 4.お年よりの引きこもり防止効果もある――など。自治体にとっては1セット数百万円もするトレーニングマシンを必要とするパワーリハに比べ財政負担が軽くてすむ。市町村財政にやさしい介護予防システムだ。

 北海道は平成15年度、高齢者体力向上トレーニング普及事業を実施した。 昨年、名寄市、奈井江町など道内4つの自治体で、60歳以上の高齢者を対象にマシンを使ったパワーリハとマシンは使わず自分自身の体だけで行う筋力トレーニングを実施。どちらが介護予防の効果があるかについて比較研究した。その結果、「非マシン筋トレ」の体力向上効果は「マシン筋トレ」と遜色ないことが分かり、むしろ「非マシン筋トレ」の方が統計学的に有意な項目が多く認められた。

(高齢者体力向上トレーニングマニュアル・結果 PDFファイルをダウンロードできます。)

そして結論として

 「高齢者リハビリテーション再建策の筆頭に「介護予防の強化」を挙げている。ただ、それは高価なトレーングマシンを購入することではない。無駄に税金を使わず、その地域に合ったやり方で、誰もが危険なくできるやり方を市町村自身が考えて実施することが大切である。 」と結んでいます。まさにその検証が行われていることになります。

 そのほか箕面市立病院では、独自のトレーニング方法を開発され、高価なリハ機器は必要ないと結論づけています。その方式は「カジュアルリハビリテーション」となづけられ、 キャッチフレーズは「いつでも どこでも お手軽に そして安全!」です。
 メニューは砂嚢を使った下肢筋力トレーニングと自転車を使った持久力訓練を中心に行います。
このように、各地で地道に取り組んできた「リハビリ」が、高額な機器を使ったリハビリのみが介護保険で給付されることになることには、やはり疑問を抱かざるを得ません。

○介護サービスの公平性・平等性

 また介護保険制度でパワーリハを導入するならば、介護保険制度の本質にある、給付の公平性・平等性は全く無視されます。大都会で対象者がたくさん確保できるなら、多くのリハビリセンターが設立され、リハの機器もそろうでしょうが、過疎地の対象者はリハセンターからは見放されます。現在も過疎地の訪問看護や訪問介護などでは、経営的に事業を行う事が難しく、在宅介護サービスを受けられないことがありますが、予防給付でも受けたいサービスが受けられないことになります。同じ保険料を支払っていてもサービスが受けられる人と受けられない人が増えるのです。

 また一つの施設のリハビリ対象数は1日10-15人とされていますが、これならば週2日のリハとすれば、全体で週6日行うなら30-45人、多くても50人です。50人の軽介護者で予防リハを行う地域がどの程度の地域なのか、見当はつきません。1回のリハ期間は通常3ヶ月とされていますので、年間4セット200人がリハを受けることが出来るとしても、前述した竹内先生の将来の需要1,000万人予測と重ね合わせると、全国に5万施設作らねばならないことになりますし、リハ機器だけでも1セット700万円としても3,500億円。現実的ではありません。

 新聞報道では「介護予防の導入によって、10年後の要介護認定者数は600万人と、介護予防を行わなかった場合に比べ、40万人抑制できると見込んでいる。」と、竹内先生の推測(軽介護者1000万人)とは大きく違いますが、それでも40万人の抑制が出来ると考えているようです。

 高齢化は避けて通れないのですから、もし、数年間介護予防の効果があったとしてもその後は同じ事ではないでしょうか。

 そんな風に考えれば、介護予防を行えば介護保険の給付費が下がるという発想には、ますます訳がわからなくなります。


 従って、医療や介護の制度の中に組み込もうというのなら、その前に、医学的な効果・副作用・適応、医療経済的な費用対効果をきちんと検証する必要があると思います。
 それらの検証もなく、可能性は秘めているとしても、適応や禁忌すら不確かな段階で、高額な医療機器を各施設に導入することを拙速に認めた今回の見直しに、疑問があるのですが、マスコミの対応も消極的です。

要介護認定制度の問題
 また今回の改訂で、要介護認定が現在の要支援・要介護1-5の6ランクから、要支援と要介護1を介護と予防の2ランクに分けることになり8ランクになるとのことです。
 現在の要介護認定審査そのものを簡素化したいと思っている現場の声は無視した改革ですし、コンビューターを使った一次判定では「非該当・要支援・要介護1」の区別がつかない欠陥ソフトだということがわかっている状況で、それに若干の質問項目を追加しただけで、もっと詳しく分類することを審査会に求めるのなら、我々審査員は二次判定とはいえ「審査出来ないものを審査すること」になるわけですから、「できないものはできない、無理なものは無理」との声をあげても良いのではないでしょうか。

○ケアマネ外し
 介護予防のメニューは、認定審査会での無理のある切り分け(スクリーニング)ではなく、包括的なケアマネジメントの中で、きちんとしたアセスメントを経て、プランニングされるべきだと考えます。 しかし本来介護サービスを計画し、評価すべきはケアマネの仕事なのですが、ケアマネの質の低下等を口実に、この予防プランからケアマネージャー が外されることが計画されています。

 その計画は読売新聞によると「予防プランも、ケアマネジャーではなく、市町村が設置する「地域包括支援センター」(仮称)の保健師が中心となって作ることになる。 一方、地域支援事業は、市町村が実施する健康診査などで、対象者が選定される。メニューは、新予防給付とほぼ同じだが、集団的なサービスが中心になる見通し。こちらも、地域包括支援センターでプランを立て、効果の検証を行う。 」となっています。

 また、ケアマネの資格の5年間の更新も計画されています。介護保険導入時に、もてはやされて大量に受験し、資格を取らせたのは誰だったのでしょうか。現在約30万人のケアマネが認定されています。軽介護者のケアプラン作成の仕事を、費用がかさむので突然国が取り上げると言うのですから、ケアマネを馬鹿にしていると言われても仕方ないのではないでしょうか。

 しかし、これが本格化すれば、今後介護保険制度全体が自治体の管理の下に進められる事につながるものです。ケアマネを外すと言うだけでなく、制度そのものを自治体が管理の下に置かれることになるのです。今の制度そのものが過剰サービスの供給や受給など、サービス側にも、受ける側にも問題がないとは言えませんが、突然制度そのものを変更するやり方は納得できません。

 介護保険の予防給付にパワーリハを導入することには、絶対反対です。

 そして、介護保険のサービスの中にも、勿論見直しが必要なもの、必要ないものなどたくさんあります。無駄は排除せねばなりませんが、金のないとき大金をかける事業は失敗すれば誰が責任とるのでしょう。もう少し、現場の多くの人と検討・評価をしてみる必要があると思います。

   平成16年12月30日        吉岡春紀

     かかりつけ医通信投稿記事を加筆・修正    17年4月30日 一部修正 


○ 参考サイト
パワーリハビリテーション  日本医大 竹内考仁先生

介護予防と整形外科(朝日メディカル特集号)

介護保険にパワー・リハビリテーション導入反対!
 かかりつけ医通信の編集委員の一人、牧瀬先生のページ

 別の切り口でパワーリハ反対を訴えています。


高齢者筋力トレーニング(パワーリハビリ)について
区会議員 佐久間やす子 目黒区議会レポート

介護予防に役立つ「非マシン筋トレ」熊本県と北海道の実践から

高齢者体力向上トレーニングマニュアル 

 北海道名寄市のホームページから


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