「ケアプラン作成」は、大丈夫なのでしょうか


 介護保険制度での一番の問題点はすでに何度も述べてきた、要介護認定審査の一次判定の欠陥ですが、仮に認定審査会での認定が全て順調にうまくいったとしても、今後問題となるものは、「ケアプラン作成」と言う問題ではないかと思います。
 これも介護保険制度の継続に重要な問題ですし、一つ間違えば、この制度を崩壊させてしまう危険も持っています。果たして「ケアプラン作成」は大丈夫なのでしょうか。
 ここで、介護保険制度の介護認定から介護サービスを受けるまでの仕組みをもう一度確認しておきます。これは介護支援専門員(ケアマネージャー)の仕事そのものです。
 ケアマネの仕事
  1. 課題分析(アセスメント)
     要介護認定を受けて、利用者のケアプラン作成のための課題分析を行う
  2. ケアプラン原案作成
     課題分析により問題領域を検討し、利用者の要介護度に合わせサービスの目標・内容・種類を決める
  3. 調整作業
     サービス事業所とのサービス内容・日程などスケジュール調整
  4. ケアカンファランス(サービス担当者会議)
     主治医・各事業所と本人・家族を集めケアプラン原案の検討・修正を行う 
     サービス利用票・提供票作成
  5. 契約
     作成したケアプランを利用者に説明し確認・同意が得られれば確認・同意書を作成
  6. サービス実施
     各サービス事業所によるサービス提供
  7. 給付管理業務
     サービス利用票・提供表に基づき 給付管理業務
     利用票・提供票に利用者の捺印をもらう
  8. モニタリング
     各事業所のサービス提供状況と要介護者の状態把握

 ざっと示しましたが、一人の介護利用者にケアマネージャーとしてこれだけの作業を行う必要があると言うことです。

 さて、介護保険制度で介護サービスを受けるためには、前述したようにケアマネージャーに、認定された要介護度にあわせた料金によるケアプランを作成して貰う必要があります。
 勿論、プランの作成は自分でも家族でも出来るようですが、手続き上(後で述べる書類の多さ)は現実的ではありませんので専門家に頼むことが一般的です。

さて、1.-3.のケアプランの作成と調整について  
 「介護サービス計画(ケアプラン)とは、要介護者や要支援者が介護サービスを適切に利用できるよう、心身の状況、生活環境等を勘案し、サービスの種類、内容、担当者を定めたものである。」と定義されています。

 そしてケアプラン作成の基本的考え方は
 「要介護者等の依頼に基づいて介護専門員が把握した心身の状況並びに専門家の意見等を踏まえ、介護支援専門員が作成する。
 介護支援専門員は、要介護者またはその家族を主体に各サービス担当者等から構成されるサービス担当者会議(ケアカンファレンス)を開催し、内容を検討する。
 作成は、要介護者等またはその家族の参画を得ながら行い、作成されたケアプランは彼らの承諾を得る必要がある。
 要介護者の主体性を重視し、総合的支援に留意する必要がある。 業務は迅速かつ効率的に実施されることが重要である。そのため、要介護認定との連携が必要である。 」と定義されています。

 しかし、介護保険制度の発足を1ヶ月先に控えた現在、利用者のケアプラン出来上がり、いつでもサービスが実施できる体制のある自治体が果たしてあるのでしょうか。モデル的会議によってなケアプラン作成は行われているとは思いますが、要介護認定の遅れや介護報酬の決定の遅れなど続いたため、まだそれどころではないのが現状だと思います。
 ケアプランの作成そのものの問題と別に、設置せねばならないとされているのがサービス担当者会議(ケアカンファレンス)ですし、これも全ての要介護者に行う必要があるのですが、詳細は何も決まっていません。

 果たして4月からの実施が可能なのでしょうか

 ケアカンファレンスについて少し説明しますと、

 ケアマネジャーがケアプランを作成する際、現在行っている医療や看護が軽視されたり、なおざりにされるようなケアプランであっては利用者にとっても一番困りますし、在宅医療を行っている我々臨床医にとっても容認できません。医療側の意見も十分反映されているケアプランの作成が必要といえます。
 しかし、民間業者が介護保険という市場に参入し、数多くの業者あるいは施設が競合する時代になれば、必然的に生き残りをかけて、民間業者所属のケアマネジャーは自己利益誘導型のケアプランを作成するようになるでしょうし、誰がケアプランを作るかでサービスの内容もかなり異なってくると思います。
 そこで、ケアカンファランスにおいてはケアマネジャーが利益誘導型のケアプランではなく、介護の面からも医療の面からも、利用者にとって公平なケアプランを作っているのかを監視することも今後、重要となってくると思います。
 従って、介護サービスに直接利害のない主治医が、このような医療的な助言と利益誘導型のケアプランへの監視を行うことが、健全な介護保険制度育成のため重要であろうと思います。
 そのために、最も望ましいのは、ケアカンファランスに主治医が出席し、その場で多くの方の意見を聞き、十分に意見を述べることです。時間の許す限り、自分が主治医となっている利用者のケアカンファランスには出席すべきです。
 もし主治医にもサービス提供施設として利害関係が有るならば、第3者の利害関係のない地元の医師会の代表や専門家を代わりに入れることも必要かも知れません。
 この原則に関しては誰も異議はないものと思います。

 では果たしてケアカンファランスはうまく行えるのでしょうか
 現実の問題として、では「いつ開催するか」言うことでは、診療時間帯に開催されるケアカンファランスには開業医が出席することは困難ですし、他の職種の方たちも介護サービスの事業者はこれが仕事ですから可能だとしても、それ以外の勤務者は勤務時間に参加することは難しい場合も多いと思います。このように多くのメンバーの時間調整は難しいものだと思いますしケアマネージャーの苦労も増えます。勤務時間後の夜間の開催も、多くの行事を抱える者にとって定期的な出席は難しいものと思います。

 そしてサービス担当者会議を開催するときにもう一つの問題は会議の報酬の問題と意味づけであり、すなわちこの会議が介護保険制度のなかで自治体に公式に認められている会議かどうかと言うことです。
 報酬なんて、「すぐ金の問題をもちだすな」「介護保険料も引き上げになることであり難しいことを言うな」と思われるでしょうが制度を継続させて行くためには重要な事だと私は思います。
 要介護認定の認定審査会は自治体の主催であり、委員は自治体から任命され審査会に参加し報酬を得ていますし、審査会への途中での事故などは公的な会議という事で補償もされています。
 しかし、ケアカンファランスに関しては、ケアプラン作成そのものにはケアマネージャーはいくらかの報酬は設定されていますが、先に述べたケアプラン作成の労力を考えるとその報酬は極めて低額だといえます。一方、カンファランスに関しては、その準備をし資料を作成し、メンバーの時間を調整し、集まって数時間の会議を開催開催してもケアマネージャーの報酬はありませんし、他のカンファランスの出席者にもなんら報酬も、まして公式な会でないなら途中の事故の補償などもありません。
 ケアプラン作成にケアカンファランスが必要とするならば、ちゃんとした決まりを作るべきだと思います。
 現実のカンファランスはどうなるかと言えば、サービス担当者会議と名付けられていますので、本来は電話やファクス等プランの案を通達するだけではいけないし、個人的に意見を聞いて調整することもカンファランスではありませんが、現実にはこんな方法でサービス担当者会議(ケアカンファレンス)「開きました」と言うしか方法はないと思います。

 次に順序は逆となりましたがケアプラン作成に今後ネックとなるのは手続きに、やたら書類が多いことだと思います。
 お役所仕事は書類はんこで成り立っていますので、覚悟はしていましたが、ケアプランを作成し介護サービスを行うために在宅でのケアマネジャーの提出書類を調べてみましたら、なんと最低12-3枚の書類の作成が必要でした。
 勿論ケアプランの作成だけの話で、その後、確認書や同意書や介護報酬の手続きなど含めば、ケアマネジャーは書類作成の仕事だけで時間がつぶれてしまいそうです。
 しかし、本当にこんなに多くの書類が必要なのでしょうか、またこんなに多くの提出された書類をだれがチェックして、どんな利用をするのでしょうか。よく分からない書類もあります。
 無駄とは言いませんが、もっと合理的な、本来の介護に時間が割けるケアマネジャーの制度になるべきだと思います。

 その解決策のためには、コンピューターを使ったケアプラン作成しかないと言われていますし、ケアマネージャーもコンピューターを扱えれば書類作成にかなり時間の短縮にもなり、定型の書類提出は簡単になることは認めます。
 そしてまたケアプラン作成にはコンピューターを利用するしかない程のたくさんの資料を必要としています。
 しかしこれもアセスメントと言われる「問題点の把握や介護プランの作成のための理論的な判断法」が、業種別に異なり、看護系、福祉系では異なるアセスメントを使うように、5-6種類の違った方法があり全く統一されていません。サービスの業種別にアセスメント方式が違っているのです。
 このため、その各々に違ったアセスメント方式に合わせたソフトが作られており、価格も全くまちまちで、ケアプランの作成の入った支援ソフトは100万円以上はざらにあり、自治体は惜しげもなくそんな高額ソフトを購入しているようです。
 そもそも介護保険制度・要介護認定制度そのものが自治体にコンピューターを購入するきっかけにもなったように、数百万から数千万円の設備費がかかっていることは、あまり一般の方には理解されていません。我々の町の審査会でもこの整備に1千万円を超える費用がかかっています。
 介護保険制度コンピューター業界の、「特需」として捉えられているのも肯けます。
 しかし、親方日の丸の自治体や総合的なサービスを提供する大手民間業者と違って、零細のサービス業では、こんな高額なソフトを用意する余裕はありませんし、経営も考えると無駄な投資は出来ません。
 最近インターネットでも良心的な価格でケアプランが作成できるソフトも紹介され始めています。こんな開発者を守ることも必要だと思います。 

 こんな訳で、認定審査が済んでほっとしている余裕はないのです。

 すぐにケアプラン作成にかからねば、利用者は4月からの介護サービスは受けられません。
 昨年のモデル事業でのケアマネジャーがケアプラン作成に要した時間を昨年のモデル事業の集計を掲載します。

 介護サービス計画作成の各過程における平均所要時間
    計画作成過程           平均作業時間
    課題分析(アセスメント)     1時間50分
    介護サービス計画原案の作成    1時間44分
    サービス担当者会議資料作成作業   24分
    サービス担当者会議開催時間     31分
    合計                4時間28分

 一方ある自治体の集計では合計6時間から8時間以上かかるとの結果もありました。慣れてくれば少しは時間の短縮となるでしょうが、10年度全国モデル事業集計での1人4時間30分もかかっているのです。何の組織もできていない地域では、果たして一人一人のケアプラン作成できるのでしょうか。
 本当に間に合うのでしょうかね。心配です。お金もかかりますね。誰か出してくれるから良いのですかね。

                      平成12年2月23日


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