特別養護老人ホームなど入所基準の見直検討について
    申し込み順から重度優先へ!

 介護老人福祉施設などの介護施設の入所待機者の増加は、すでに社会現象にもなっていますが、先日、厚生労働省は介護福祉施設など介護施設の入所について、申し込み順という現状を改め要介護度が重度など緊急性の高い人から入所できるように省令を改正しました。それによって各都道府県では独自の「特別養護老人ホームの入所に関する指針や入所基準」を策定し、各施設に示し15年4月から運用しています。今後各施設では、この指針を元に入所基準を策定し、公正な入所に努めることになります。
 

入所基準の見直しに伴う、省令の改正(項目追加)とは
 省令改正では、「介護老人福祉施設(いわゆる特養)」のほかに、「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」についても、同様の改正がなされています。

1.各施設の人員、設備及び運営に関する基準

 介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準では
 第六条3項に「指定介護老人福祉施設は、入所申込者の数が入所定員から入所者の数を差し引いた数を越えている場合には、介護の必要の程度及び家族等の状況を勘案し、指定介護福祉施設サービスを受ける必要性が高いと認められる入所申込者を優先的に入所させるよう努めなければならない。」と規定されました。

2.入所に関する具体的な指針の作成について(介護老人福祉施設)

 このように入所基準は変更となりましたが、条項では、「優先的な入所(入院)に努める」との、努力義務規定となっています。そこで具体的な基準作りが必要になります。
また施設が基準を当てはめて入所を決定する際の手続きについて
(1)入所に関する検討のための委員会の設置について

 1.施設に、入所に関する検討のための委員会を設け、入所の決定は、その合議によるものとすること。
 2.入所に関する検討のための委員会は、施設長と生活相談員、介護職員、看護職員、介護支援専門員などの関係職員で構成することとし、あわせて、施設職員以外の参加も求めることが望ましいこと。この場合、施設職員以外の者としては、当該社会福祉法人の評議員のうち地域の代表として加わっている者、社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みにおいて選任することとされている第三者委員などが考えられること。

3.入所の必要性の高さを判断する基準について

(1)基準省令に挙げられている勘案事項について
 「介護の必要の程度」については、要介護度を勘案することが考えられること。
 また、「家族の状況」については、単身世帯か否か、同居家族が高齢又は病弱か否かなどを勘案することが考えられること。

(2)その他の勘案事項について
 居宅サービスの利用に関する状況などが考えられること。
これらの指標を点数化する方法がとられています。


これらの省令改正に伴って、各都道府県では、独自の入所基準を策定しているのですが、この指針も各都道府県でかなり違い、優先順位を何でつけるか、例えば要介護度なのか、介護の環境なのか、現在受けている居宅サービスなのかも色々異なっています。
 そこで筆者の山口県の指標と、ネットで基準を公開している三重県の指標を比較して見ました。これらの指標はインターネットでダウンロードできます。

 山口県特別養護老人ホーム入所基準

 三重県特別養護老人ホーム入所基準策定指針

入所順位決定基準

1 施設は 入所申込受付に際し申込者全員について次に掲げる項目ア〜エを調査し結果を点数化し、特養入所希望者調査票に記載するものとする。

 ア本人の状況(要介護度)
 イ介護の必要性
 ウ家族等介護者の状況
 エ入所申し込みからの期間
の4項目があげられています。

その各々の点数は

ア 本人の状況(要介護度) 

三重県※
山口県
要介護5
30点
30点
要介護4
30点
25点
要介護3
20点
20点
要介護2
10点
10点
要介護1
5点
5点

※1 三重県では痴呆による不適応行動ありの場合には(要介護1〜3の場合)10点加算されます 
 山口県では痴呆の日常生活自立度により要介護1〜2には加算点があります(下記の表)、

痴呆の状況
III IV M
15点

II
10点

I・自立
0点

イ 介護の必要性(1.と2.は重複不可)

 1.身体的理由又は痴呆による不適応行動のため在宅生活を継続することが困難であり、介護保険の居宅サービスの利用が、要介護1〜5の利用上限単位数の平均の何%かで加算。※2

三重県
山口県
80%以上
30点
20点
60%-80%
30点
15点
40%-60%
20点
10点
20%-40%
10点
5点
20%未満
10点 ?
0点

 2.在宅生活が困難なため、当該特養以外の施設に入所(入院)している場合、三重県では10点加算

ウ 家族等介護者の状況 

三重県
山口県

単身・独居

30点
10点

高齢者世帯、介護者が虚弱等

20点
5点

介護者が就業中・複数の人を介護

10点
0点
 

エ 入所申し込みからの期間       三重県   
  1.1年以上            10点
  2.1年未満            5点
  3.長期入院による退所後の再入所  10点   
 山口県は加算無し

 ※1「痴呆による不適応行動あり」
  自傷行為・夜間せん妄・興奮・大声・奇声・徘徊・攻撃的行為・不潔行為・摂食異常・弄火の問題行動・暴言暴行・昼夜逆転・介護に抵抗等の問題行動が、概ね1週間に1〜2回程度以上出現する場合。

 ※2「介護保険の居宅サービスの利用」
  介護保険の サービス利用票別表 の居宅サービス 訪問・通所系サービス及び短期入所の区分支給限度基準内単位数の合計 (原則として、直近3ヶ月の平均)

その他の都道府県の入所基準は、下記の全国一覧で検索できます。

全国の一覧

神奈川県 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)への入所基準の改正について

特別養護老人ホームの入所基準変更

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 この様に入所判定の基準は都道府県で違うようです。
 その他の全国の各都道府県の基準は全てを調べたわけではありませんが、各都道府県で雄性項目が異なっています。上記のように三重県と山口県を比較したとき、最初に目に付いたのは痴呆の取り扱いで、山口県の場合要介護1.2の場合で、痴呆度がIII、 IV 、 M の場合15点を加算し、IIの場合には10点加算するとなっていることです。三重県ではそんな加算はなく、介護に支障のある問題行動のある場合のみ加算がされます。

 痴呆のある例での要介護認定の一次判定の問題はすでに誰もが知っている判定ソフトの欠陥ではありますが、本来の要介護認定は自立度・痴呆度を加味した審査であり、これによって認定された要介護度に山口県の加算に見られるように、新たに痴呆度を加算することは、認定審査そのものを否定している事にもなり、問題だと思います。
 そして痴呆度がIII、IV 、Mだとすれば、日常生活にかなり支障を来しており、要介護認定で要介護1とか2の確率はほとんど無い(あったら審査会の問題)のではないかとも思えますので、要介護1で痴呆度がIVやM等の設定自体あり得ないのではないでしょうか。これらは認定審査の現場に出ているものならすぐに気がつく事だと思います。
 その点三重県では、問題行動を取り上げて、問題行動の内介護に手間のかかる行動の有無で加算している様ですので、この方が現場の状況を表していると思います。痴呆度よりも問題行動の有無を優先させたと言うことでしょう。

 次に両県で大きく違うのは家族等介護者の状況です。
                       三重県    山口県
  1. 単身                  30点    10点
  2. 高齢者世帯、介護者が虚弱等       20点     5点   

 独居者・高齢所帯の点数配分が大きく異なり、三重県では独居に30点・高齢世帯に20点と、要介護度4または要介護5の点数と同じに捉えていることで特徴があります。山口県の加算はほぼ1/3ですので家庭環境に対するウエイトは低いことになります。大きな差があります。これらの生活環境は要介護認定に勘案できない点ですが、三重県では在宅介護の難しいこれらの家庭環境にある人たちを優先する姿勢が伺えます。

 その他にも三重県では待機期間による加算を加えるなど、工夫をしています。わが山口県よりも三重県の指標の方が。現場の意見を反映していると思います。

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 この様に4月からは特別養護老人ホームの入所待機は、申し込み順でなく点数による介護の必要性に応じて入所させることに変わってきています。

 これで重度の介護者の入所待機が改善されるのでしょうか。
 少しは改善されることが期待されますが、大きな期待はできず、むしろ要介護度の低い痴呆や内臓疾患を持った高齢者は施設入所が遅らされ、どこにもゆけない状態となる気がします。

 その大きな理由は4月からの介護報酬の改定です。どの介護施設でも要介護1.2.は介護報酬が大きく減額されました。そのため施設側では、要介護度の低い人たちは受け入れにくくなっている事です。いくらこのような指標を作ったとしても、要介護度が低い入所では報酬が低いため、家庭環境などで低い要介護度の人たちを入所させれば施設の運営がままならない問題が生じてしまいます。

 例えば三重県で要介護1・独居なら、点数は35点となり、要介護4.5の30点と同じです。
 しかし特別養護老人ホームの介護報酬は下段の表のように要介護度でことなり、特に今年の改訂で要介護1.2は報酬の削減が著明でした。

改訂後
改訂前
要介護1
677単位
796単位
要介護2
748単位
841単位
要介護3
818単位
885単位
要介護4
889単位
930単位
要介護5
959単位
974単位
            1単位 10円換算
 要介護1と5では1日2,820円も違うのですから、施設にとってはいかに優先基準の点数が多くても要介護1の報酬が優先項目によって増額されるわけではありません。そうすれば要介護4.5を入所優先するのではないかと思いますし、むしろ介護度が要介護1と低くて、痴呆などで介護の手間のかかる問題行動の多い例は敬遠されると思います。

 医療の療養型病床群では、どんな病態でも同じ医療費で、痴呆IIb以上では痴呆加算などわずかではありますが加算があります。介護施設では元々要介護度が低い場合の報酬が低く設定されており、医療病棟程度の加算があったとしても、焼け石に水程度の加算では施設にこの基準を強制することも出来ないのではないかと思います。
 そしてそれ以上に大きな問題は、介護報酬の改悪で要介護認定審査で重度の要介護度がでた、身体障害の重介護者だけが施設に残るとすれば、要介護度の上がらない、内臓疾患の患者さん達の行き場は無くなって行きます。長期療養型病床に入院できていたものの、内臓疾患だけで痴呆や身体障害がなければ、入院費の特定医療費の自己負担増が追い打ちをかけています。このような優先的な入居が行われるということは、現在の入居待機者の人数を考えれば、条件に合致しない場合には当面入居すること困難と言うことであり、居宅生活の継続を第1に考えることになることを意味しています。この際居宅での自立生活が難しい介護者にとって優先的要件に該当しない者への居宅生活の継続を今以上に考え、支援ていくことが必要だと思います。

 こうしてみると今回の介護施設への入所待機者の申し込みについて、急場しのぎの通達は行われましたが、現場では混乱し、ほとんど役に立たないのではないかと危惧します。そして結果的には特別養護老人ホームも要介護4-5の重度介護者ばかりとなり、今の少ない介護者・スタッフ基準で介護者の負担ばかり増えてしまいそうです。

                   15年7月2日 


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