介護認定制度と施設介護の問題点


 介護認定審査制度については廃止すべきだという私の考えは変わりません。
 勿論理由はこれに関わる費用・時間の問題とフリーアクセスができない事がその原因ですが、今回介護保険モデル事業を行って、私も介護認定委員となり実際の介護認定作業を行ってみて、やはり介護認定制度は無理があると実感しています。平成12年からこのままで本番に実施されたなら患者側から多くの不満がでることは目に見えています。

 それではこの介護認定審査会の一次判定での疑問点を述べてみます。
 介護認定制度はまず調査員の調査に基づく調査項目をコンピューターに打ち込みこれにより一次判定を出し、この結果と調査員の特記事項・かかりつけ医意見書を総合して最終判定を行う仕組みです。
この時点での問題点は、
1)認定調査員の教育不足で病態が十分把握できていないこと。また調査員の資質に左右される部分が多く、無記入項目があると判定結果に強く影響する点などが指摘されました。
2)かかりつけ医意見書の記載が不十分で認定に利用できないこと。
3)調査結果をコンピューターに入力する課程での転記ミス。
などがありました。
これらはこれから十分な訓練ときちんと記載する努力をすればある程度解決できる問題です。
次に大きな問題は
4)コンピューターの要介護度認定の一次判定計算方法です
 モデル事業での、コンピューターでの一次判定は、昨年も実施した市町村では同じ患者さんで昨年の結果と異なり、看護・医療の面がカットされ、介護に関わる時間による差での認定に変わっているようです。
 コンピューターの認定ソフトの中身は公開されていませんが、現実とかけ離れた結果に審査員が困惑するケースも多くありました。主に痴呆症状に認定の重きが置かれている印象ですが、痴呆症状の判定は調査員の4-50分の調査では不十分ですし、かかりつけ医意見書との不一致もこの点で多くみられました。
仮にこれが本番でも使われるとすれば、症状としてはっきりわかる麻痺や歩行障害などの患者さんが要介護度が低く、逆に身体症状が軽くても日差変動や夜間の異常などのある痴呆が要介護が高いことになりこの判定には改善の余地を残しています。
 たとえば脳卒中後遺症で「身体障害者1級を認定された、日常生活に全介助を必要とする寝たきりの患者さん」が、今回の一次判定では要介護2-3程度に認定され、逆に身体異常はなくても、徘徊・幻覚・火の不始末・失禁などの痴呆症状主体の患者さんが要介護4-5というように、日常の医療で重症と考えている方の認定が低い傾向がありました。
 また片麻痺だけで理解力もあり、何とか杖歩行を行いリハビリを行っている患者さんではそれこそ要支援・要介護1などの事例もあります。
 介護保険制度だから介護にかかる時間で認定することに、それで当然だという意見もあると思いますが、多くの審査員から何かすっきりしない認定に、これでよいのかという疑問が多く出されています。
 勿論介護保険制度では生活環境や医療状況は全く無視されていますので、一人暮らしの老人、疾患を持った老人だからといって認定は変わりません。実際に93歳の独居老人で、民家の少ない山間部におられ杖歩行で買い物も不自由で、現在はホームヘルプサービスを受けている方は自立と認定されました。自立となれば今後ホームヘルプサービスも公費では受けられないことになります。
これでよいのでしょうか。
 認定の等級の問題点は今後介護料に関わる問題です。
在宅介護ならば、前述したような一部独居老人などでは問題はありますが、等級にあわせる介護プランを立てるだけで、これには公費介護料が支払われれば、それほど問題はないかもしれません。
 しかし、老人保健施設・特別養護老人ホーム・療養型病床群などの施設に入所・入院されている患者さんでは等級によって支給される介護料が異なれば、措置料や入院費は1割負担とあわせ差額は自己負担となるわけで、看護・医療の現場の実際の等級が認定されねば大きな問題となると思います。
 片麻痺で在宅医療を目指してリハビリを行っている方が要支援とでもなれば、老人保健施設の入所でもかなりの自己負担となります。
 今回のモデル事業の一次認定で厚生省は将来の介護料のアップを防ぐ意味で一次判定の等級押さえ込みを行っていると考えるのは私だけでしょうか。
 施設入所者の介護保険制度後の介護料の負担はまだ不明ですが、施設入所者の等級による介護料差別の撤廃か、医療の必要な介護認定患者では療養型病床群では自己負担の増加をさせない報酬制度への訴えも必要と考えます。
 または認定を6階級に分けるのではなく、要支援・要在宅介護・要施設介護の3クラス位に分けることで複雑な認定は考え直すべきです。

 そうでなければ、老人保健施設・特別養護老人ホームの入所者はほとんどが自己負担の大幅アップになり退所を余儀なくされる事態となりますし、長期療養型病床群の介護型施設に入院される患者さんは寝たきり患者さんでも要介護3では、患者さんの自己負担が大きく入院継続も難しい現状です。
 モデル事業の介護認定制度を経験し、やはり認定制度は廃止、見直しの必要性を感じています。
    10年11月17日     玖珂中央病院  吉岡春紀


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