今受けているサービスは 過剰サービスなのか・必要なサービスなのか
診察室でのやりとりを書いてみます。
75歳の女性はAさんとします。
私 「昨日、あなたの主治医意見書を書くように、役場から通知がありましたが、あなたも介護申請を出したのですか?」
Aさん「ええ、出しました。黙っていて申し訳ありません」
私 「今後どんな介護が必要なのですか?」
Aさん「今は、隣の○○さん達と、ディサービスセンターの編み物教室に通っており、「今後も続けるためには申請しなさい」と、デイサービスの事務の方に言われたのです。」
Aさん「これも先生には黙って通っていました。すみません」
私 「えー、編み物教室ですか」
「それとデイに行くときに、最初かかりつけ医の依頼書や診断書を貰ってきなさいと言われませんでしたか?」
Aさん「最初から何も言われませんでした」
「ディサービスでやっていることは編み物です。私たちのようにリハビリもない者は編み物を教えて貰っています」
私 「それ以外に何かしていますか」
Aさん「送り迎えが来てくれます、センターの部屋でみんなで編み物をしています。お昼ご飯も出ます」
「リハビリをしている方たちはお風呂にも入っていますが、私たちはお風呂には入りません。皆さんとお話しできるのが気分転換にもなります。」
私 「介護保険はご存じですか」
Aさん「良く走りませんが、最近、隣の○○さん達と話しています。私たちのような元気なものは、4月からはダメだろうなと話しています。ダメになったら仕方ありませんよ」
私 「介護保険制度では、介護が必要だという認定を受けて始めてサービスが受けられるわけですので、4月からは認定されないと使えませんし、今のあなたの状態は介護を必要とするレベルではないと思いますね。」
Aさん「わたしも、そのことは了解しています。」
「元々、施設の方が来て、送り迎えするから遊びに来ませんかと誘われ、○○さんも行くから私も行っていただけですので、仕方ないと思います」
私 「分かりました。サービスが続けられるかどうかは分かりませんが、決まりですので意見書は近いうちに書いて送っておきます」
「町では現在デイサービスやデイケアなどのサービスを受けておられる方が自立と認定された場合の対応として町の健康センター内に集会所を設置して、お年寄りのサービスをするようですのでその時は、そんなのも考えて下さい。但し編み物教室はないかも知れませんよ」
「意見書に必要ですので、身長と体重を測って帰って下さい。今まで身長なんか測ったことはありませんので」
Aさん「そうします。時には気晴らしに行きたいですもの」
と言う風な会話でした。
Aさんは老人クラブの役員もされており、比較的制度もご存じで、今のご自分の立場もわかっておられるので、万一自立となっても了解されるだろうと思います。Aさんの話ではこんな方が周りに多くおられるようで、こんな方たちの認定申請も増えそうです。立場のわからない方たちには認定審査でサービスを減らされたと不満を言われるかも知れませんし、その矛先も主治医に向けられるかも知れません。
この例のような元気な老人のディケアやディサービスの利用。何でもかんでも老人を集めている施設側にも、また簡単にそれを利用している老人にも問題があると思いますし、今批判を浴びている問題です。良いか悪いかは別にしてこんな方たちも全国では多いと思います。そう言う意味では少なくとも認定を受けたものでないと介護サービスを利用できないシステムは妥当なのかも知れません。
これも介護保険の認定審査で問題になるところだと思います。
「認定審査で「自立」とされたら、今受けているサービスは過剰だったという判定なので必要はない」と言う意見もありますし、これもこの方の事例で見るとおり事実です。
しかし自立となった方の全てのサービスが必要ないかと言えばそうとも言えないのも事実です。
介護認定審査では年齢・家庭環境・介護の環境は無視した認定をしなくてはならないわけですが、Aさんのような方でも、もし一人暮らしで、周りに話し相手もなく、孤独感がつよく、デイを唯一の楽しみにしているなんてかたなら、主治医としては何とかしたいとも思ったりします。
また住居環境も家事援助のホームヘルプでは大きな影響があります。
しかし審査会ではこんな条件は無視するように説明されていますので、「今受けているサービスを理由に何とかして」は原則的にいけないのです。
このように、介護保険の認定としては「非該当・自立」となるが、何とか生活介助のホームヘルパー派遣でやっと普通の生活をしておられる、病気を持ったり独居の老人では、ホームヘルプサービスを外されたらさし向き日常生活が出来なくなるのも事実です。こんな方たちには今受けているサービスは外せません。
厚生省も地方の自治体もこの問題を検討し始めていますが、多くの行政の考えは前者の救済のためのディサービスやディケアに変わる施設「はこもの」を造り、自立認定の老人の憩いの場づくりを始めていますが、後者の援助のためのホームヘルパー派遣などを「自立」となっても継続するとの自治体は極わずかですし、負担金の問題・人の問題など解決できていません。今後どうなるのでしょうか。むしろ「はこもの」よりもこういった人の家事援助サービスの方がお年寄りには必要だと思います。
認定審査会ではいつも最後に「今受けているサービス」をチェックするようにしていますが、これで判定を変えることも出来ません。でも自立・要支援で生活介助のヘルプサービスを受けている方は結構多いようです。
私たちの町でも、自立認定の方のための施設「ふれあいセンター」が先日オープンしました。
これでAさんたちも週1回程度のディサービスの継続が、低料金で出来るものと私も喜んでいましたが、パンフレットをよく読んで、びっくり「対象は認定審査で自立となった一人暮らしの老人」と記載されていました。
これではご主人のおられるAさんは利用できません。共稼ぎなどで日中は一人暮らしとなる老人も多いのですが。
お役所仕事ですか。
平成12年1月29日 玖珂中央病院 吉岡春紀