認定審査会の悩み -2-

痴呆の判定基準は早急に見直すべきです


 要介護認定審査も2ヶ月を経過し、我々の3つの合議体も各3-4回ずつの認定審査を行い、すでに対象者の半数の認定を終え、かなり多くの認定審査をこなしてきました。
そこで、すでに述べた一次判定の矛盾以外にも、またいろんな問題や疑問点が出てきましたので最近の印象を述べてみます。

こんな投稿がありました。
「痴呆は進んでいるが、身体的には元気で、基本的ADLもなんとか自立している。しかし、昼夜逆転、徘徊、行方不明、介護への抵抗、暴言暴行、便いじりなどなど、問題行動はものすごい。こうしたタイプの対象者の方は、介護している家族や施設職員は毎日大変な思いで接していますが、一次判定では要介護1しかならない。」

 痴呆の方の一次判定が実態を反映していないことは、多くの人々によって指摘されています。調査員の調査事項で第6群・7群の項目にほとんど全てチェックを入れても、せいぜい要支援から要介護1しか得られず、7群の数項目だけなら自立となります。
 二次判定は審査会の判断で判定を変更して良いとは考えますが、最終的には、一次判定を大幅に変更することは公平性に欠ける認定とも捉えるもとが出来無視するわけには行かないのが現状です。現場の関係者をはじめ、介護保険にかかわる皆が、真剣に訴えていかなければならない問題であると考えます。
 また早急に痴呆の認定基準を変更する必要性を感じています。

 一方、これも介護保険かと疑問に思い始めたのが、第1-3群に多数のチェックを受けた変形性関節症の方たちです。先日の認定審査会では28例中の約半数が変形性膝関節症・変形性脊椎症・骨粗鬆症・腰痛症・腰椎圧迫骨折などのまるで整形外科の診断を行っているような印象で、審査会もびっくりしました。
 制度から言えば認定審査の対象ではありますので審査を行いますが、1.2群のチェックで要介護1.2は一次判定で認定されてしまいます。問題行動はないことが多く、日頃は整形外科のリハビリ・ディケアなど行っている方がほとんどでした。
 中には2群の6,7、3群の1,2のたった4項目で要介護1と一次判定されます。
 と言うことは麻痺はあってもなくても良く、立ち上がりや歩行は何かにつかまれば出来、片足では立てない(これは関節に問題あるなしに係わらずお年寄りでは通常出来ない)、乗り物に移動するときに一部介助。膝の関節の痛み、杖で来院される一見元気な、お年寄りにぴったりです。

 この事実は一次判定は痴呆の認定が厳しすぎるとは逆に、関節疾患が甘すぎるとも言えると思います。
 そして、一般的な介護保険制度を考えた時、なにか矛盾を考えざるを得ません。

 この原因を考えた時、一つは麻痺のチェックの内容が我々医師の考える「麻痺」と調査員が「麻痺等」としてチェックして良い状態とが明らかな違うからだと思います。
 我々医師は普通「麻痺」と言えば脳血管障害での片麻痺などのように運動麻痺として動かないことを意味しますが、介護保険調査での「麻痺等」はしびれ・脱力感・痛み・振戦など全てを麻痺としてチェックして良いことになっているからです。従って膝関節症で痛みがひどく、立ち上がりに支障があったり、杖歩行・介助外出・時には痛みでは要介護1は簡単に取れるわけです。

 要介護1と要支援では月々のサービスは10万円以上違います。年間にすると120万円もちがい。施設入所も出来ない痴呆の例と膝が痛く、歩行の障害だけの例と、こんな判定は特に痴呆の患者さんの介護に苦労しておられる申請家族はどう受け取られるでしょうか。
 また調査では脳血管障害での片麻痺とは違う麻痺患者が多数いることになっていますので、やはり申請者のコンセンサスを得るためには診断基準の見直しも必要だと思います。


ここで認定調査における調査の基準を調べてみました。

1-1 「麻痺等の有無」

「麻痺等によって、調査対象者の日頃の生活から見て日常生活に支障がある場合にその身体部位を確認する項目である。ここで言う麻痺とは神経または筋肉組織の損傷、疾病等により筋肉の随意的な運動機能が低下または消失した状況を言い、冷感等の感覚障害は含まない。具体的には調査対象者が可能な限り努力して動かそうとしても動かない、あるいは動きがあっても日常生活に支障がある場合を言う。」となっており、

これらを要約・追加すれば。

1.脳卒中など脳神経系の障害に加えて、筋力の低下も「麻痺等」とする。
2.パーキンソン病による筋肉の不随意な運動によって日常生活に支障がある運動機能の低下も「麻痺等」に含まれる。
3.訪問調査の麻痺等には主治医意見書の「麻痺」「失調・不随意運動」の両方が含まれる。
4.傷病名、疾病の程度にかかわらず、日常生活に明らかな支障のある筋力低下のある場合を麻痺等とする。
5.日常生活に支障がない場合は該当しない。
6.痛みのために動かせない、あるいは関節に拘縮があるために動かせない場合は、「1-2.関節が動く範囲の制限の有無」において評価する。
7.「主治医意見書」の麻痺に関する同様の項目とは判断の基準が異なる。
8.筋肉の随意的な運動障害によって日常生活に支障のある寝たきりの状態であれば「麻痺等」ありと判断。
9.神経、筋肉組織の損傷はなくても、痴呆による寝たきりであって筋肉の随意的な運動機能が失われている場合も「麻痺等」に該当する
10右上肢および手指に麻痺がある場合「3.右上肢」と「6.その他」を選択できる。

次に第2群の項目もこんな風に書かれています。

1-2 「関節の動く範囲の制限の有無」

1.「関節の動く範囲の制限とは、具体的には調査対象者が可能な限り力を抜いた状態で他動的に関節を動かしたときに、関節の動く範囲が著しく狭くなっている状況を言う」
2.「他動的に関節を動かしたとき」とは必ず手で触ってみて動かしてみることを意味しない。
3. 聞き取り調査でも他動的かどうかを確認することは可能である
4. 傷病名、疾病の程度によらず疼痛によって関節の動く範囲に制限がある場合も含まれる。
5. 日常生活に影響があるかどうかで判断し「主治医意見書」とは判断の基準が異なる
6. 自助具の使用によって日常生活への制限が無ければ関節の動く範囲の制限は無いと判断し、自助具は「特記事項」に記載する。


 「麻痺」にしろ、「関節の可動域」にしろ、認定審査では、調査結果は医学的に診断する「主治医意見書」とは違って良いとはっきり書いてありますし、一次判定はこの調査結果を入力して判定するものですから、極端な言い方では主治医の専門的な意見はいらないとも言えます。意見書を正しく書くために整形外科の医師の診断や診断書を貰っても、一次判定では大ざっぱな「麻痺等」で片づけられてしまうことになります。また二次判定で変更するにしろ、医師の診断の方が厳しい基準であれば判定は低くならざるを得ませんが、現実には低く認定を変えることは出来にくいと思います。
そして、こんな認定を続けて行くことは、一般的な麻痺患者さんの介護とは何か違った介護保険制度に変わって行く気がします。
やはり麻痺や可動域は医学的な判断での審査も必要ではないかと思えます。

 疑問だらけの認定審査です。             
 認定審査でこんなに混乱をしている介護保険制度ですが、認定審査後の「ケアプラン作成」の問題点が続いています。まだ誰もその事を訴えてはいませんが、認定審査以上の問題を抱えているように思います。
            平成11年12月13日  吉岡春紀


 このページを書き終えた後12月15日付けで県医師会から下記の通達がありました。
 これで6-7群のチェック項目の多いにもかかわらず自立や要支援の判定しかできなかった元気な痴呆例も二次判定でUPが可能ですが、この連絡ではどの程度あげるかなどは何も書いてありません。
 またこの通達は今のところ医師会への通達だけで他の職種の審査員には自治体から説明はないようです。

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郡市医師会 介護保険担当理事殿
    日本医師会 常任理事 西島英利

 二次判定における痴呆症例の審査判定について

 拝啓 時下ますまずご清栄のこととお喜び申し上げます。
 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、要介護認定作業が全国で進んでおりますが、介護認定審査会(二次判定)における「痴呆症状の強い症例」に関する審査・判定につき、多くの疑義が指摘されるところであります。これらの多くは、審査・判定の際、「中間評価項目の点数を基礎とする「状態像の例」(いわゆるレーダーチャート)との比較によってのみ一次判定結果の変更を行う」とする考えによるものと思われますが、二次判定は、「主治医意見書」をはじめとする多くの資料に基づき総合的に行われることが原則であります。よって、一つの指標のみに基づく偏った審査・判定は適当ではないと考えます。

 特に、身体症状に特段の問題がない「痴呆症状の強い症例」については、「見守り」の時間等を勘案した“高齢者の介護に要する時間”を十分に評価した上で、審査・判定を行っていただきたいと考えております。  一部保険者では、二次判定における要介護度の変更に際し、「状態像の例」へのあてはめを強く求める場合があると聞いておりますが、これは必ずしも単独の例へのあてはめに限るものではなく、”介護の手間”から見て複数の例にあてはめることも認められているものであります。

 これらの趣旨を十分踏まえられ、公正、かつ、客観的な審査・判定が行われるよう、審査会運営に関するご指導方よろしくお願い致します。なお、本件内容につきましては、厚生省と確認をしているものでありますことを申し添えます。



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