日本医師会の
要介護認定における痴呆患者に対する二次判定方法について

先日ニュースで日本医師会が「動ける痴呆」の2次判定で手引を作成したことが報道されました。

「日本医師会は「痴呆患者に対する二次判定方法の手引き」を作成し、1月 16 日までに都道府県医師会に送付した。手引きは、重い痴呆症状があるが寝たきり度は低い、いわゆる「動ける痴呆」の要介護度を2次判定で変更する際の基準を示したもの。動ける痴呆で1次判定結果が要介護2以下の者は1次判定の推定ケア時間に一定時間を加算して要介護度を変更することを求めている。加算時間は問題行動の有無に応じて 20 分、30 分、45 分−の3段階に設定した。

現在の1次判定では、「動ける痴呆」の要介護度が低く判定されることが、当初から課題となっていた。介護認定審査会の2次判定で要介護度は変更されるものの、現場からは「要介護度をどの程度あげればよいのか目安がない」と具体的基準の提示が求められていた。このため日医は日医総研に施設、在宅ケアのタイムスタディ調査の実施を指示、「手引き」作成に乗り出した。 」

 我々玖珂郡医師会もこの研究のお手伝いをして、在宅でのタイムスタディ調査を行っています。
「動ける痴呆の一次判定を補正する基準」は各審査会で色んな工夫をしていると思いますが、これまであまり工夫や公平な補正を行っていない審査会は、出来るだけ統一した基準を使うべきだとおもいますので、この日医の補正基準も参考にされたら良いと考えます。
 詳細は
日本医師会のホームページに公開されていますが現在アクセスできるのは日本医師会のホームページの中のメンバーズルームだけですので、、ここではその概要をお知らせします。メンバーズルームでは詳細な検討結果がダウンロードできます。
 なお一般公開を日医にもお願いしております。


先日日本医師会の医学生のページに一般公開されましたのでお知らせします。
 「痴呆患者に対する二次判定方法」の手引き(要約版)(PDF)
 「痴呆患者に対する二次判定方法」の手引き(PDF)  平成14年2月10日 追加


 日医総研では、日本医師会からの委託を受け、今年3月〜4月に施設ケア・在宅ケアの実態調査を行い、この結果に基づいて、痴呆患者に対する二次判定方法案(一次判定結果の補正案)を提示した。

1.実施概要
 調査では、全国30地区医師会のご協力の下、事前に家族の承諾を得られた532名の在宅療養者を対象に「タイムスタディ調査(家族による1日あたり在宅ケア時間や1週間あたり訪問・通所・入所等サービス利用時間を把握)」「患者特性調査(寝たきり度・ADL等の身体機能や痴呆度・問題行動等の精神機能を把握)」を行った。また、認定審査会資料等から、一次判定・二次判定結果についても把握した。

 分析にあたって、「障害老人の日常生活自立度(以下、寝たきり度)」「痴呆性老人の日常生活自立度(以下、痴呆度)」に従い、対象者を“自立群(寝たきり度:正常〜A、痴呆度:正常〜II)”“動ける痴呆群(寝たきり度:正常〜A、痴呆度:III以上)”“寝たきり群(寝たきり度:B〜C、痴呆度:正常〜II)”“寝たきり痴呆群(寝たきり度:B〜C、痴呆度:III以上)”の4カテゴリに分類した。

2.1療養者1日あたりケア時間の内訳
 一方、在宅療養者のケア時間は、介護者(家族)が1対1で対応する「専念時間」と、介護者が他のことをしながら見守ったり、日常生活を共有したりする「非専念時間」とに大別し、更に内容別に分類した。1療養者1日あたり平均総ケア時間は549.1分で、そのうち約6割を「専念時間」が占めていた。このうち、患者特性に応じた変動部分(ADLケア時間、痴呆対応時間、その他専念ケア時間の合計)は158.5分(総ケア時間の28.9%)であった。

3.実際のケア時間と一次判定推定ケア時間との比較
 入院患者および在宅患者への実際の提供ケア時間について、前述の4カテゴリ間で比較を行ったところ、傾向は両者ともほぼ同様であり、入院患者においても在宅療養者においても“動ける痴呆群”と“寝たきり群”のケアには同程度の時間を要していた(在宅では“動ける痴呆群”の方がむしろ長くなっている)。
 これに対し、一次判定で推計されたケア時間をカテゴリ間で比較すると、“動ける痴呆群”に対する推定時間は“寝たきり群”よりも大幅に短く、むしろ“自立群”に近い水準となっている。療養型の実ケア時間、在宅の実ケア時間、推定ケア時間それぞれについて、"寝たきり群"の平均値を100%とした場合の換算結果をみても、“動ける痴呆群”で、推定値と実態との乖離が大きくなっている実態が読み取れる。

4.問題行動を伴う「動ける痴呆」のケア時間
 調査項目に含まれる19項目の問題行動を、出現頻度等によりグループ化すると、専念対応を要するため介護負担が大きく、痴呆対応時間に大きく影響するものとして〔グループ2〕及び〔グループ3〕の2領域が抽出された。

 “動ける痴呆群”に属する対象者について、問題行動の有無および領域該当数と実ケア時間との関連をみると、在宅療養者では問題行動の有無によるケア時間の増大が著しく、1領域(〔グループ2〕のうち1項目以上、または〔グループ3〕のうち1項目以上の問題行動を有する)の場合でも"寝たきり群"に対する平均ケア時間を上回り、2領域(〔グループ2〕〔グループ3〕双方とも1項目以上の問題行動を有する)の場合は更にケア時間が延長している。一方、一次判定での推計ケア時間をみると、問題行動の有無や領域該当数による差異は生じておらず、現行の一次判定では問題行動による手間が評価されていない実態を裏付ける結果となった。

5.二次判定方法(案)
 以上の分析結果より、従来から指摘されていた“動ける痴呆”に対する評価が低いという問題点、一次判定に問題行動や痴呆の影響が十分反映されていないという問題点がほぼ裏付けられたといえる。そこで、「施設入所者のタイムスタディデータに基づいてケア時間を推定する」という現行一次判定のロジックに準拠することを前提に、より実態を反映するための補正案を以下のとおり提示する。


1.二次判定での変更対象者

<定義>「動ける痴呆に該当する者」
  =寝たきり度が正常〜Aランクの者で、かつ、痴呆度がIII以上またはCPSが3以上の者

 注)ADL評価の指標としては、当面寝たきり度を使用するが、調査項目が追加になり、ADL得点が計算できるようになった場合には、ADL得点も検討する。CPSは、現在の主治医意見書の記載内容から計算できることから、痴呆度との併用とする。

2.二次判定での変更方法

<方法>対象者が「動ける痴呆」群に該当した場合、以下の3カテゴリに分類して施設ケアをベースにした一次判定の推定ケア時間を補正する。

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**問題行動の領域とは(問題行動のグループ分け)

 専念対応を必要とする問題行動
  グループ2 感情不安定 暴言暴行 大声を出す 介護に抵抗
  グループ3 常時の徘徊 外出して戻れず 1人で出たがる 落ち着き無し

 今回 補正をする問題行動はこの2つのグループに限った。
 このいずれかがあれば30分、両グループの何かがあれば45分加算と言うことである

 その他のグループ分け
  グループ5 昼夜逆転 
  グループ1 被害的 作話 幻視幻聴 同じ話
     などは発生頻度は高いが介護負担は比較的小さい

  グループ6 火の不始末 
  グループ4 収集癖 物や衣類を壊す 不潔行為 異食行動 性的迷惑行動
    は発生頻度が低い理由で補正の対象とする問題行動の領域より外されている

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 問題行動の有無と補正時間の関係

  問題行動の有無        補正時間
           (一次判定の推定ケア時間に対する加算時間)
  問題行動 無し         20分加算
  問題行動1領域のみ       30分加算
  問題行動2領域ともあり     45分加算
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具体的な補正方法
 動ける痴呆に該当する者」=寝たきり度が正常〜Aランクの者で、かつ、痴呆度がIII以上であれば、問題行動のグループのうち2または3のグループの問題行動がない場合には、一次判定の要介護認定等介護時間に20分を加算する。ということは痴呆度がIII以上では要介護1以上ではそのままでも1ランクアップとなります。
 問題行動のうちグループ2か3のいずれかのグループの問題行動があれば、30分加算、両方のグループの問題行動があれば45分加算する。ということになります。これにより要介護度は2ランク、場合によっては3ランクアップすることもあります。グループ内の問題行動は1つでも複数でも同じ加算となっています。


日医提案の「動ける痴呆」補正基準についての我々の感想

 この日医案の補正を行う事は、今まで何も工夫してこなかった審査会なら、ある程度公平に審査できるようになると思いますが、工夫して補正してきた審査会ならむしろこの補正は、後ろ向きの審査になってしまう場合もあるかも知れません。
各審査会で、色々検討して見る必要はあります。

1.動ける痴呆の定義に関して

 まず痴呆の有無を「痴呆度のIII」以上としてかなり厳しい定義となっています。しかし痴呆度については調査書と意見書の判定乖離はよくありますし、日常診療でも痴呆度の判定を行うには困難な事例も多いと思いますし調査員の1時間程度の調査では正確な痴呆度は判定できないことは常識だと思います。

 従って審査会で痴呆度の判定で差が出たとき現実の審査会でどう扱うかの決まりが必要です。すなわち調査書と意見書の痴呆度が異なる場合の取り扱い方の指示が必要です。 このためにCPSも併用するとしているのだと思いますが、CPSによる痴呆の判定法そのものの理解が主治医・調査員・審査員とも不十分で、すぐに取り上げることには抵抗があります。まず医師への認知と意見書記載の注意を徹底することが必要でしょう。 痴呆度・寝たきり度なども介護保険の意見書を書くまでは医師が普通に使ってきた基準ではありません、そんな中ですぐCPSと言っても現場の医師も混乱するでしょう。

 痴呆度III以上でないと補正の対象にならないことは、軽度の痴呆がありながら在宅でサービスを利用するために自立・要支援から1ランクでも上げたい方たちには対象となりません。いまのシステムの欠陥は自立・要支援・要介護1の区別が出来ないことですが、軽度の痴呆では何とかランクを上げて必要なときにはサービスが受けられる補正でないと意味がありません。

 現実には痴呆度IIランクでも介護サービスを必要としている対象者は多いと考えています。従って痴呆度III以上と定義されれば補正の対象者がかなり制限されます。

 痴呆度には拘らず問題行動の有無や数で補正を行った我々の基準で補正対象は全体の8-9%であり、これを痴呆度IIIで定義すれば、日医の補正対象者は全体の3-4%程度に減少するものと考えられ、多くの在宅痴呆患者が恩恵にあずかれない事になると思います。要介護認定は痴呆の確実な診断の場ではありません、厳しい定義は問題となると思います。また先日厚労省より発行された変更事例集でも痴呆度をIIIで定義すればかなりの例数が補正対象から外されてしまいます。

2.問題行動の領域分類について

 問題行動19項目を6つのグループに分類した根拠が分かり難いという意見が我々の医師会でも多くでました。そして補正を行う事が出来る問題行動はその中の2つのグループだけに簡素化した事により、補正は簡単になると思いますが、逆の不明瞭さが残ります。

 要介護認定審査は個々の申請事例の認定であり、このように集団調査の頻度だけでグループ分けをしたこと、特にグループ6の火の不始末やグループ4の項目を全く補正の対象としていないことに、個別の事例の審査では問題がでると考えます。

 在宅の火の不始末は少ないとはいえ危険な問題行動であり、また昼夜逆転の介護負担は少ないと決めつけていますが、在宅で昼夜逆転あればが介護負担が少ないとは考えられません。とくに今回のタイムスタディが、痴呆がありなおかつ適切な介助者がある家庭を対象としましたので、むしろ火の不始末などは施設と同じで火を使っていないためや未然に解決されているのかも知れません。

3.痴呆度IIIの加算

 要介護度を推定介護時間という時間で7ランクにするような細かい今の一次判定結果に加算するならば、痴呆度というアバウトな加算や、問題行動も数でなくグループのどれかあれば良いという補正では、個別の症例審査ではすぐに問題が出てしまうことになると思います。

 例えば同じ痴呆度IIIの事例で、問題行動はグループ2の感情不安定、グループ3の落ち着き無しだけがある例では45分加算されますが、グループ5の昼夜逆転、グループ6の火の不始末、グループ4の物や衣類を壊す・不潔行為のある例は問題行動の加算はないので補正は20分です。これで1-2ランクの差が出ることになります。果たしてこんな時審査会は理由を説明できるのでしょうか。

 要介護認定の等級審査を将来は3ランク程度に改めなければ、この日医補正では個々の事例での公平性は解決できないと思います。

4.独居や老老など介護者の有無の差

 今回の在宅調査は、家族によるケア時間の調査であり、調査対象は確かな介護者のいる「動ける痴呆」が対象であり、介護者のいない独居老人や老老家族、日中の一人暮らしなどは外されており、むしろ調査対象者は恵まれた対象者であるといえます。

 前述した火の不始末などの危険な問題行動は発生前に介護者によって解決される行動もあり、頻度が少なかったと考えることもできます。介護者のいない場合には思わぬ問題行動が表面化することもある事を知らねばなりません。従って全体の中での頻度だけでグループ分類することでよいのか、勘案しなくて良いのか、もう少し検討が必要と考えます。

5.入浴介護のタイムスタディ

 痴呆の評価とは別の問題であすが、認定審査の調査の考え方に、施設での入浴の介護が共通業務時間と捉えられていること、すなわち患者特性に依存しない時間とされている事が疑問です。
 要介護度の重度な方の入浴はどの施設でも大変で、数人掛かりで特殊入浴の介護を行っています。このことは認定調査でほとんど考慮されていません。
 週のうちの入浴の回数は少ないとしても特浴介護時間は医療の処置以上の介護の手間がかかるため、これを調べる調査でなくてはならないと思います。  
 入浴に関しては今の一次判定ソフトの調査データと同じ間違いをしてしまう可能性があります。

6.専念時間について

 在宅での調査の問題として家事は専念時間としてIADLケアに取り上げられていますが、これは介護者がいるときの調査であり、独居での調理や買い物、後かたづけの可否など項目はありません。

 食事が一人で食べられるかどうかより、在宅では食事の準備(買い物・調理・後かたづけ)が出来るかが必要な調査であり、またその際には、家庭環境・介護環境を無視した認定は問題であり、今後の見直しの必要性を訴えたいと思います。
 特に性別では男性の独居者に配慮が必要な項目だと思っています。

 色々思いつきを書きましたが、この補正基準も簡略にしようとして、少し無理な補正になってしまったような印象です。本当は全国一律の補正基準を使うことが公平性の面からは必要なのですが、これまで独自の補正基準で審査を行ってきた認定審査会ではその審査を続けても良いと思います。ただこれまで痴呆の補正を考えていない審査会ならば、この補正基準を参考にして補正を行うことは問題ないと思います。しかし、もっと言えばこんな補正に力を入れるよりも、早急に一次判定ソフトそのものを見直すことが必要だと思います。
 と言うよりは、こんな問題の多い「認定審査そのもの」をなくすか簡潔化する努力の方が必要かも知れません。

           14年1月23日  玖珂郡医師会  吉岡春紀


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