山口県「内科医会誌」 2007年 第7号

  療養病床再編の問題点について

 

                   玖珂中央病院 吉岡春紀

はじめに

 療養病床再編の問題に関して、編集者より「思うことを書いてくれ」というご依頼がありました。

 この療養病床再編の問題に関しては、6月の医療制度改革関連法案の採決の際に日本医師会も日本療養病床協会も日医の推薦議員も、「反対しても成立するものなので問題点は後で政省令や附帯決議で対応することにし総論賛成する」事になり、最初から総論賛成の立場であったため、現場の医療関係者や野党の議員の反対や、患者さん・家族の混乱や不満・不安も無視されたような決定となりました。7月から即実施され今更問題点を整理してもあまり意味はないのですが、この療養病床再編問題は、今後慢性期だけでなく急性期を含めた日本の入院医療制度全体に影響する問題になることは明らかです。また今回は療養病床の削減でしたが、早晩一般病床の大幅削減にも手がつけられるものと思われます。

 そこで、今後少しでも改善されるなら療養病床の関係者だけでなく、多くの人たちにも今回の療養病床再編の問題点を知っていただきたいと思い、まとまりの無い長文ですが私見の一部を述べさせていただきます。

療養病床再編の概要

 医療制度改革関連法案には、療養病床を今後大幅に削減して介護施設に転換させていく方針と、療養病床入院患者さんの医療区分による分類という診療報酬の大幅削減の変更が盛り込まれています。

 療養病床は現在、全国に約38.1万床あり、医療保険でみる「医療療養病床」(25.7万床)と介護保険でみる「介護療養病床」(12.4万床)とに分かれています。医療型にするか介護型にするかという選択は個々の医療機関と地域の介護施設状況によって決まっており、施設基準は大きな差はありません。認可の人員配置基準には看護職員の数が医療では4対1、介護では5対1が基準となっていました。勿論医療型は診療報酬、介護型は要介護度別の介護報酬によって報酬を得る仕組みです。いずれも「病院」に併設されるものです。

 これを6年後の平成24年3月末には介護療養病床12.4万床をすべて廃止し、医療療養病床も6年かけて11万床削減し、その後は医療療養病床に一本化して15万床にするというのが療養病床削減問題なのです。

 そして「残る15万の医療療養病床については、職員の配置基準を引き上げて医療の必要度の高い患者だけを受け入れる場に特化する」としています。一方、「削減する23万床分は老人保健施設や有料老人ホームなどの居住系サービスや在宅療養などへの転換を促す」としています。

 しかし昨年の介護保険制度の見直し時にも、療養病床削減は話題にもならず療養病床の介護施設転換については制度として全く議論されていません。医療費を大幅に削減するしわ寄せは介護保険制度に大きく影響するはずなのですが、介護保険担当者には寝耳に水の改変であり拙速に進められたため、現場の医療関係者・自治体の関係者も十分に理解している訳ではありませんし対応できていないのです。

 18年3月の厚労省の調査では介護福祉施設(特別養護老人ホーム)への入所待機者は約38万5千人と報告されています。この待機者数は現在の介護福祉施設の全体数とほぼ同じで、年々増加しこの1年間で4万5千人も増加しています。介護福祉施設の待機者には複数の申し込みもあると思いますが、少なくとも在宅や病院から介護施設入所を希望している患者さんは多いと思います。そして今後も、団塊の世代の高齢化で高齢者は増加し待機者はますます増加することは間違いありません。高齢化で介護施設や長期の入院施設はむしろ必要になるのに、療養病床を23万減らすと言う今回の削減の発想は全く時代を逆行しているとしか言えません。

 まず制度間の調整・利用者の調査・受け皿の整備などからはじめて、療養病床を将来どう位置づけるのかを検討すべきだと思いますが、そんなことは無視し、まず医療が必要のない者の入院費は大幅に削減し、入院の必要のない者「=社会的入院」は病院から追い出し、それを多く抱えている病院は潰してしまえという発想なのですが、その裏の本当の目的は、医療費の増大の対応を迫られた官僚の「とりあえずまず公的医療費の抑制が出来れば良い」という無責任な政策なのです。

療養病床の診療報酬制度の改定

 療養病床問題は6年後の病床の削減だけでなく、それこそ何の前触れや調整もなく、療養病床入院者の診療報酬制度が大幅に削減され、施設によっては前年比20%を超える減収となる診療報酬改定が7月から実施されました。

 7月からの療養病床の入院基本料は、従来の病院入院基本料算定の施設基準「入院患者数にあわせた看護師等の人員配置の状況により病棟単位で定額算定する方法」から、「患者さんを医療の必要度に応じた「医療区分」と「ADLの状態」によって分類し、その組み合わせにより入院料が決まる」方法になりました。

 従って看護師や介護職員等の重点配置による入院費の加算はなくなったのです。

 言い換えれば、療養病床では看護師や看護補助を重点的にたくさん配置し、重度の障害者の看護を行ってきた病棟も、療養病棟の最低基準を満たした病棟も、看護の人数にかかわらず同じ入院費になったのです。

医療区分と社会的入院

 療養病床の入院基本料が医療の必要度に応じた「医療区分」と「ADLの状態」によって分類されると説明しましたが、医療の必要度とADLの状態による分類は、今回新しく設定されたもので、療養病床入院患者を医療が必要かどうかによって3つに分類し、さらにADLの状態で計9つの分類としました。表-1参照(現実には5つの報酬分類)

表-1 [療養病棟入院基本料]

  ADL区分 3  885 点  1,344 点    1,740 点

  ADL区分 2  764 点  1,344 点    1,740 点

  ADL区分 1  764 点  1,220 点    1,740 点

        医療区分1  医療区分2   医療区分3

 この分類は、厚労省の「慢性期入院医療の包括評価分科会」で検討されたとはいいながら、具体的な内容は一部の委員の独断で決定された経緯があり、また医療の必要度とは名ばかりで、厚労省は療養病床再編成では当初から医療の必要の少ない「医療区分1」を社会的入院と決めつけ、これを50%以上にすることを前提に医療区分基準を決めたものです。

 またその入院患者の調査はケアタイムという介護の時間を中心にして包括評価分科会の専門医の独断で決められたため、医療の必要度や処置、医療費コストなどは全く反映されていない分類になっています。

 それとともに「医療区分1」の入院基本料は、表-1のように1日764-885点という介護施設よりも低い、通常の病院の入院費とはかけ離れた低医療費に設定され、「医療区分1」の患者さんを入院させておけば、療養病床の経営が出来ないような恣意的な設定がされています。

 例えば「医療区分1」の入院費は介護型療養病床における要介護度1 ・2 の給付水準(介護報酬)とほぼ同等になるように決められていますが、A D L 区分3とは生活全介助で要介護度なら4-5の認定者ですから、全く恣意的な悪意のある改定といえます。

  これに関して、厚労省の麦谷課長は愛知県保険医協会との会見において「医療療養病床は恣意的に引き下げた」と明言しています。「現在、医療療養病床に入っている人の半分が、医療の必要がないとの調査結果に基づき検討したもの。『こんな低い点数では追い出される』と言われるが、まさに、医療の必要ない人は、他の施設に移ってもらうために、恣意的に点数を引き下げたものだ」と医療療養病床からの追い出しが狙いであることを強調したとのことです。

 医療区分の見直しや報酬の改定は急務ですが、何よりも、マスコミを使って療養病床に長期入院している患者さんは、ほとんどが入院の必要のない社会的入院と宣伝している事も一般の人に間違った認識を持たせています。マスコミも勉強不足です。

「医療区分1」が「社会的入院」なのでしょうか。

 今回「医療区分1」に認定されている疾患や状態が、現場の多くの関係者がこれは「社会的入院」と判断できるものなら、この区分分類による患者選定もやむを得ないものと考えますが、これまで述べたように、どう考えても「医療の必要度」から判定された分類とは思えず、このような「医療区分1」の患者さんが病院から追い出されれば、多くの方は、在宅医療は困難でしょう。また内臓疾患などで医療の継続が必要な方は介護施設では引き受けてもらえません。また高齢者はこれで示された単独の病気よりもいろんな合併症があります。例えば独居老人で脳梗塞後遺症・片麻痺があり生活全介助で、糖尿病の合併もありインシュリン自己注射が必要な人は、どこへ返せと言うのでしょうか。これも社会的入院と言うのでしょうか。

 これでは急性期病院からの療養病床への転院紹介も難しくなります。

 ここで少し今回の「医療区分1」の状態についてご紹介します。国はこれらの状態は医療の必要なく、社会的入院と認定している状態なのです。これらの状態が合併していても医療区分は上がりません。

こんな状態でも【医療区分1】なのか?

 意識障害の状態

  脳梗塞後遺症・片麻痺・遷延性意識障害・経管栄養

  脳出血後遺症・片麻痺・意識障害・嚥下障害・胃瘻栄養

  脳梗塞後遺症・片麻痺・てんかん発作・認知症

  クモ膜下出血・意識障害・四肢に強い関節拘縮

  脳腫瘍・意識障害

  頭部外傷後遺症、時々意識消失、けいれん発作

 癌(がん)

  すい臓癌末期状態 経管栄養

  大腸癌術後、人工肛門。

  多発性肝がん・腹水貯留・肝性脳症・アミノレバン注射

  大腸癌末期で肝転移。癌性疼痛はない。

  進行性胃がん・出血性貧血

  疼痛のない癌ターミナル、超低栄養状態。

  多発性転移性肺がん。

  前立腺癌で常時バルーンを留置中。

  慢性骨髄性白血病・貧血

 

 内臓疾患・臓器不全

  慢性腎不全・腎性貧血

  連合弁膜症・心不全・寝たきり・浮腫 

  うっ血性心不全、全身浮腫、胸水貯留。

  肝硬変・食道静脈瘤、肝性脳症

  肝硬変・腹水

  ペースメーカ植え込み・重症の不整脈。

  尿閉で、バルーンカテーテルを留置。

  胆石症・難治性胆管炎を繰り返す。

 糖尿病

  脳梗塞・片麻痺があり独居老人・糖尿病でインスリン療法を行っている

  認知症があり、インスリンの自己管理ができない患者。

  意識障害がありインスリン注射を行っている。

 このように、脳卒中後の麻痺があって意識障害・寝たきり、食事の経口摂取が出来ない人で胃瘻や経管栄養の人も「医療の必要のない人」とされます。またがんの末期であってもがん性の痛みがあり麻薬の処方のない限り、そして内臓疾患は心不全・肝不全・腎不全なども胸水・腹水があっても何度も入院しても、糖尿病のインシュリン治療も、全て「医療区分1」に分類されているのです。介護のケアタイムで分類されれば内臓疾患は、あまり介護は必要となりませんし症状が安定すれば自分のことは出来ますので、すべて「社会的入院」となってしまいます。

 療養病床は、脳卒中などの麻痺や意識障害、寝たきりの患者さんのように肢体不自由の患者さんが入院し、看護や治療は介護施設と差がないという先入観があるようですが、がんや心不全・腎不全、などいろんな内臓疾患で在宅治療が困難な疾患も多く入院されています。

 そんな重度の内蔵疾患は全く無視したこの医療区分分類は、神経難病以外は全く認めないという発想ですから、慢性期医療そのものを否定した医療区分分類なのです。

 都道府県が認めた、重度の身体障害認定者は当然医療が必要な状態と思いますが、寝たきり・意識障害の重度肢体不自由1級の認定者も、心臓病で寝たきりの重度の心不全も、慢性腎不全も「医療区分1」になりますので、身体障害者の認定そのものの妥当性も否定され、将来的には「医療区分1」では療養病床での治療・看護継続もできないことになります。

 またもう一つ、急性期病院の少ない地域や、療養病棟でもかかりつけ医として急性疾患の入院も必要であることより緊急の入院が必要なことはあります。その際の診療報酬もすべて医療区分分類ですので、急性疾患の入院には全く対応できません。地域医療を守るためにも、一定期間内の療養病棟の急性入院の診療報酬を新たに設定することを求めますています。

 紙面の関係で、医療区分2.3の病態については省略しますが、もう一つの問題点として定額制の医療区分に、病名や症状・状態の変化があれば、医療区分をランクアップする。それも算定に日数制限のある制度を作りました。

 この発想は医療現場では理解しにくい医療区分をもっと解りにくくしたものだと思います。

 もし症状悪化や状態変化に加算を認めるならば、本来の医療費に応じた出来高払いの加算にすべきで、医療区分を1ランクあげるという根拠は全く理解に苦しみます。

 前述しましたように医療区分そのものが介護のケアタイムで決められた分類ですので、病態の変化や合併症など治療の薬剤費・検査費・処置費などの医療費のコスト計算がなされないランクアップのままでは何の解決にもならないと思います。

 また医療区分の変更時には家族に説明する義務も増えましたが、そしてこんな日数制限が行われていることは一般の人にも、医療関係者にも知らされていないと思いますし、理解しにくい事項です。

医療区分による療養病床の経済的影響

 療養病床の診療報酬改定で医療区分分類による経済的影響は、療養病床の存続を危ぶむほどの影響が予想されています。「医療区分1」の入院基本料は表-1で紹介しましたように1日764-885点の低い入院費に設定されており、従来の一般の療養病棟入院基本料1日1130点と比べても大幅な減額ですし、重点看護を行っていた特殊疾患療養病棟入院料の1日1570点と比べると半額程度になっています。しかもその「医療区分1」が入院患者の半数を超す事が予測されるからです。厚労省の試案では療養病床のケアタイムなどの調査結果より「医療区分1」(あまり医療が必要でない患者)は50.2%、「医療区分2」(多少、医療的な患者)は37.2%、「医療区分3」(医療が必要な患者)は12.6%と発表していました。

 その後の療養病床協会や現場の調査ではこの試案で調査すると、「医療区分1」は60%、「医療区分2」が30%、「医療区分3」は10%未満という結果もあり、療養病床の経営の危機が問題になっています。

 制度実施前の6月末に宮城県保険医協会が行った「療養病床入院患者に関する実態調査」報告を参考にすると、「現在示されている医療区分は療養病床に入院している多くの患者の実態とはかけ離れたものであり、このまま適用されることになれば入院基本料の大幅引き下げのために医業経営に深刻な打撃を与えることは必至である。」とされており、7月以降想定される1ヵ月あたりの病院の減収額は最高950万円、平均では336万円で、年間1施設当たり平均4000万円の減収となることが予測され、医業経営に深刻な打撃を与えることは必至であるとされています。

 別の報告でも新たな診療報酬での収入減額は20%を超えるとの試算もあり、ほとんどの療養病床では、年間数千万円から1億円単位の減収が予測されています。

 不正を行ったわけでも無く、医療制度や診療報酬制度をまもり、経費の節約や職員の努力でまともな経営をしてきた病院に、突然前触れもなく前年比20%の報酬削減を突きつける改定なのです。これまでの小さな努力は何だったのか。多くの療養病床がやる気を失いかけています。

 実施後の調査結果はまだ報告されていませんが、日本医師会・療養病床協会・都道府県など立て続けに実施後の調査アンケートを求められています。それも詳細な記入を要求されるもので、別々の調査をするならばお互いに協力して意味のある調査にして欲しいと、うんざりしているのが現状です。

療養病床の激変

 実施後3ヶ月経ち7・8月分の看護の現場の意見や診療報酬を集計してみると、医療区分の分類や書類作成のために、毎日看護の時間を減らし大きな時間を割くことになった看護現場の不満や混乱がでています。また「医療区分1」の入院基本料が大幅に減額されたために病院の大幅減収の事実があり、ある程度予想していたとは言え、今後の療養病床の運営・経営の危機を実感しますし、こんな激変を行った厚労省への不信、総論賛成で認めてしまった日医や日医推薦の国会議員、療養病床協会への不満が日に日に増しています。

 この改定は、多くの療養病床をもつ医療機関の存続問題だけでなく、現在入院している患者さん達が今後どうなるのかが、これからの大きな問題ですが、多くの「医療・介護難民」が予測される中、マスコミの対応も今一盛り上がりに欠けます。

 ある新聞社からの取材の際にその理由を尋ねると、マスコミが取り上げるのは「制度が悪くても医療・介護難民がでるだろうという推測だけでは記事にならない。全国の療養病床病院があちこちで潰れたりして、実際に患者さんの行き場がなくなり自宅に帰されて、死者がでたり、介護人の家庭の崩壊などの事実がでればすぐにも記事にする」ということでした。

 この2ヶ月では、まだ全国でたくさんの療養病床が潰れたと言う話は聞きませんし、県内でも多くの障害者が追い出され、「医療難民が急激に増加した」と言う話も聞きません。

 現実には、療養病床の診療報酬改定で医療区分により大幅な医療費減収で経営の危機を迎えても、療養病床を持つ病院の多くは、病棟転換の方向は示されているとは言え、机上の空論で示された老人保健施設転換に、どう対応して良いのかを判断できずに模索しながらも対応をとれないでいるのが現実ではないでしょうか。

受け皿作りについて

 介護療養病床の廃止・医療療養病床の大幅削減はこれから6年後までの政策ですし、国や自民党の国会議員はテレビなどで、「受け皿作りは確実に行います。これから現場の調査をしながら行います。」といいます。

 しかし現実には大幅に医療費を削減されれば、「医療区分1」に認定された人たちは療養病床から退院を勧告されることはこれからどんどん増えてきます。6年後まで待っている余裕はないのです。

 廃止・削減計画の前に、受け皿として介護施設転換の計画が示され、本来は受け皿をつくって、その受け皿に移り終えてから廃止・削減されねばならないと思うのですが、いつもの走りながら考えるとのことで、国はこれから検討するのだそうです。

 少しずつ医療施設から在宅や介護施設への転換を計り、患者の移動を行いながら削減するのなら現場の混乱は少ないものと思います。今回のように、まず廃止・削減が決定され、「受け皿」は後回しと言う政策では医療機関にとっても、患者さんにとっても不安と混乱だけではないでしょうか。

 廃止・削減計画の前に受け皿が必要なことは言うまでもないのですが、国の政策として本当に「受け皿」をつくる気があるのかを疑います。

 逆に言えば「医療の必要度は少ないので入院する必要はない」人たちを「社会的入院」として病院から追い出し医療費を減らすのが目的なら、入院の必要ない人たちに「受け皿」をつくる必要もないはずです。

「社会的入院」の「受け皿」を介護保険でつくれば、そのうち「社会的入所の増加」という話になりますし、医療費削減の「つけ」は介護費の大幅な増加になります。だからあまり本気にならないのだと思います。

 しかし、国民は今回国が「社会的入院」とした「医療区分1」の人たちの在宅への強制退院や、在宅看護が無理だとわかっているから別の介護施設としての「受け皿への転院」が必要と認識しているのではないでしょうか。

 そうならば、本来はこの制度の実施前に医療と介護の制度設計や整合性がなくてはなりません。医療費は抑えたが介護費は大幅に増えたなら、国民や患者さんの負担はむしろ増えるだけで、医療費の国家負担だけが軽減されるおかしな制度になることも役人にはわからないのでしょうか。

 今回の改定のように介護保険との連携もなく、医療制度の都合だけで介護保険の「受け皿」が本当にすぐに実現可能なのか疑います。

 転換支援策についてはまた別の機会に述べたいと思いますが、国の示す転換策なら、病床の専有面積で再び大きな施設改造工事が避けられず、今まで国の誘導策に従いその結果何度も梯子を外された苦い経験から、療養病床から老人保健施設への転換は簡単には出来ないと思います。今の療養病床の施設基準のままで転換出来るようにならねば、国の転換策は絵に描いた餅でしょう。

 また、10月からはじまった療養病床の食費・住居費の生活療養費自己負担増は「医療区分1」の人たちには、再び重い金銭的負担となります。

さいごに

 急性期の病状は安定したが、在宅や介護施設への転院が難しい、重度の後遺症を残した患者さんたちが安心して長期に医療や療養できるためにつくられたのが療養病床であり、全国の多くの療養病床では、それまでの一般病院や老人病院から療養病床に転換するため、自院の入院ベッド数を減らして施設の改築や新築を行い、また病院としての職員の確保を行い、特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設とは違った看護や医療を行ってきたという自負もあります。だからこそ介護施設とは違い、患者さんの家族にも安心感があり、終の住み家ともなる施設だと思います。

 そんな療養病床を、厚生大臣も経験し、今回の削減案の推進者の自民党の丹羽議員のホームページでは「私はかつてベッドに拘束された多くのお年寄り達に経管栄養が施されている光景を垣間見て唖然とした。患者には褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれの方が多い。行き場のないお年寄りを入院させ、ベッドに縛り付けて、検査漬け、薬漬け、そして流動食を流し込むような“劣悪な老人医療や介護”はもうピリオドを打たなければならないとの思いだ。」などと批判していました。検査漬け、薬漬けを持ち出す事自体全く現状を理解していない発言と思います。拘束についても昔の老人病院や一部の精神病院では人手のたらない看護基準であり、拘束もあったようです。現在の療養病床では、職員は看護・介護のプロとして、「拘束しない・褥瘡をつくらない」をテーマにみんな頑張っているのです。どうしても暴れたり、生命にかかわる時の部分拘束は、家族の了解も得ていますし、褥瘡は急性期の病院でつくられて来ることの方が圧倒的に多いと思います。経管栄養に至っては全くの認識不足です。もしまだ言われるような医療を行っている施設があれば自然に淘汰されるでしょう。ここで書かれた「行き場のないお年寄り」とは、行き場つくらず、これ以上削減しようとしている行政の責任ではないのでしょうか。そしてこの制度に「ビリオドを打て」と言うことは「行き場のないお年寄りは早く死ね」という事ではないでしょうか。こんな発言が一般国民やマスコミに間違った認識を与え続けているのではないかと思いますが、国の専門家が医療費削減の為には「行き場のないお年寄りは早く死ね」と言っているのです。悲しいことです。

 療養病床もこのような批判にきちんと反論できるような病院にならねばならないと思いますが、今後果たしてどの程度の病院が生き残れるのでしょうか。