介護保険制度の問題点


 介護保険制度がまだまだ多くの解決せねばならない問題点を抱えたまま制度だけが見切り発車的に、国会を通過しました。

 高齢者の在宅での支援について考える制度に反対する理由はありませんし、むしろ積極的に援助の手を差し伸べる必要があることは言うまでもありません。 しかしこのままこの制度が施行されるなら、現場での混乱は目に見えていますし、多くの方より問題点も指摘されています。厚生省はまず制度を作ることを主眼とし、運営方法は後回しにしました。それならば今の内に問題点を洗い出し早く手を打たないと取り返しのつかない悪法に変わる可能性を含んでいます。

保険料の徴収

保険料については月額2500円となりました。

保険料月額2500円というと、あまり大きな額ではないと思われますが、40歳以上の全国民を対象としており、例えば中年夫婦で両親を扶養している家庭では、月10000円、年間12万円の負担となります。

日本全国では65歳以上の方が約2200万人、40-65歳が約4300万人と考えられていますのでこれら全体の負担は月に1625億円、年間1兆9500億円もの保険料となります。消費税に換算すれば約2%の増額に匹敵します。

このまま2500円という事ではなく将来利用者が増加すれば増額も予定されていますし、保険料の未払いの問題も大きな問題ですがまだ対応策は明確にされていません。

認定に関して

要介護度の認定も簡単ではありません。

調査員の1回、約1時間だけの訪問で本当に正確な判定やチェックができるのか疑問です。特に痴呆の診断や程度は短時間では判定できませんし、日によって、時間によって、または生活環境の変化でものすごく変化します。

これを短時間で聞き取り調査で行うこと自体が不可能とも思えます。

一次認定はコンピューターで行いますがモデル地域でも実際の状態とかなりかけ離れた認定となっている事例も多いようです。

一方介護を受ける側は少しでもランクアップを望まれると思いますが、最悪の状態で認定すれば、改善したときとまたかけ離れた認定となります。

また「介護認定審査会」のメンバーや審査会の開催回数も未定です。

地元の医療関係者は地元の審査会のメンバーにはなりたくないのが現状です。家族から不満を言われてもどうしようもありません。

介護サービスについて

認定がうまく行ったとして、ではケアプランに沿って介護のプランを立てる時問題なのが市町村による介護サービスの不均衡でしょう。

ホームヘルパーの不足・市町村での取り組みの姿勢・施設の有無など、市町村によって受けられるサービスがずいぶん異なるという事態も起こります。

特に過疎地域の町村では取り組みも遅れていますし単独の事業では成り立ちません。厚生省は広域での対応を謳っていますが、今までの縦割り行政ではうまく行くとは思えません。行政の発想転換が求められます。

厚生省の考えている施設が順調に出来たとしても、現在では要介護者の4割の需要を満たすことしか出来ないと言われており、「保険導入から10年後に約8割の人が必要なサービスが受けられる体制を整える」との厚生省の将来見通しには、何と悠長なことだと思わざるを得ません。「保険あって、サービスなし」の町村も生まれる可能性があります。

保険料を払ってもサービスを受けられないのです。

利用料金の負担増加

現在では老人医療は外来でも入院でも定額制で利用されていますが、介護保険では利用料は1割負担となります。
例えば要介護認定で重度と認定され27万円の在宅サービスを受けたとすると1割の27000円の自己負担となります。これは現在の通常の在宅負担数千円に比べ大きな負担となります。
一方認定度が低く、規定のサービス以上のサービスを希望すれば全額自己負担となります。高齢者に過度の負担となります。
介護・福祉にランク付けを行うことに矛盾があるわけです。必要なサービスが低額で受けられるシステムに変えるべきだと考えます。

認定が肢体不自由・寝たきりと痴呆に偏っていること

 介護保険の対象者が寝たきりやそれに近い肢体不自由(一般的には脳卒中後遺症)と痴呆症に限定されています。
高齢者ではこれらの疾患以外にも色々な疾患で日常生活に支障を来すことは多いのですが介護保険では対象になっていません。

例えば慢性呼吸不全で在宅酸素療法を行ったり、心不全で殆ど臥床の状態の方には適応されません。

しかし、今回法案の目的が原案より変更されています。

原案では「要介護状態にある者がその能力に応じ自立した日常生活を営むことが出来るよう必要な給付を行うため」でしたが。

 総則 目的等で「1 加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行い、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とすること。」

と変更されています。

 この疾病の表現が明らかではありませんが、上記の呼吸不全や心不全の患者さんにも適応されるのか、適応されるとすれば認定の調査様式も変更されねば、今の調査では反映されません。もし、適応されないと言うことはボランテイアに頼るか全額自己負担でホームヘルプサービスを頼むかしかないのでしょうか。

また、家庭環境によっての配慮も少ないようです。在宅で介護者があり介護を受けられる方はまだ幸せですが、高齢者の夫婦のみや一人暮らしのお年よりはこれだけで要介護認定と言っても良いくらいです。
 目的が変わったことに対するもう一つの疑問は、この制度が「介護保険」を離れ将来的には「老人の慢性疾患に対する医療」にも適応される可能性があることです。老人の医療・介護・福祉はひっくるめて「介護保険」とならないか疑問です。

施設利用に関して
 現在施設入所や入院中の患者さんの問題も大きな問題です。
 特例として特別養護老人ホームの入所患者さんは5年間だけそのままの入所が可能とのことですが、その他の施設(老人保健施設・療養型病床群病棟・介護力強化老人病院)では2000年4月より、要介護認定を受けられねば入所や入院の継続が出来なくなるとの方針です。社会的入院を減らす方針のためでしょうが、老人保健施設の本来の設立趣旨は病院から在宅までの中間施設として機能する事でしたし、療養型病床群病棟・介護力強化老人病院に長期入院されているお年寄りが全て脳卒中の後遺症や痴呆だけではなく、心臓病や癌、呼吸器疾患などで、特殊な家庭環境にあり、それこそ入院以外には病気の悪化が考えられる方々です。これらの方は介護保険の認定を受けられねば、入所費の公費支払いはなくなりますので退院するしかないのでしょうか。
介護だけに重きがおかれ医療が無視されている気がします。

営利産業の進出
 当然、介護に関連するインフラの整備が重要となるわけです。これには厚生省は民間の企業の進出を認める方針です。予想以上に進まない施設整備を民間にさせようとしているのです。
 今まで医療には営利を目的をする企業の進出は、法で歯止めがかかっていましたが、この方針転換で営利目的の福祉産業の進出が可能となったことです。高齢人口2200万人の需要を賄うとすれば一大産業です。人材雇用にお金がかかることは仕方ないかも知れませんが、福祉が営利に利用され福祉産業が企業として進出すれば、零細な今の福祉法人などの施設では太刀打ちできませんし、町村でも単独の事業が難しければ福祉産業に頼らざるを得ません。そうなると介護保険料はすぐに底をつき値上げは目に見えていますし、消費税のような反対にも遭わず勝手に値上げが可能です。
アメリカでは在宅介護を積極的に推進する政策を取り続けてきたためか、在宅介護にかかる政府の保険支出が急増し、多数の悪徳介護業者が輩出しているということです。
まるで明日の日本を見るような思いがします。厚生産業はこれからのゼニ儲けの格好の材料ですから、おそらく日本の介護保険も金に群がる人達に食い潰されていくのではないでしょうか。

医療・福祉に営利は馴染まないと思います・

法案の「国民の努力及び義務」

この法案には「 国民は常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとすること。」
こんな努力と義務が課せられているのです。
罰則はありませんが国民は進んでサービスを受けなければならないのです。
何か変だと思います。

全体的に見てもまだまだ問題点はありそうです。

ご意見をお聞かせ下さい。

             平成10年1月25日  玖珂中央病院 吉岡春紀


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