薬価差益ゼロの時代を迎えて

薬価基準制度廃止なら,十分な薬剤管理コスト補填とゼロ税率導入が絶対条件

消費税5%引き上げ時,薬価上乗せ方式による損税補填は不可

山口県医師会 松海信彦
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医療法人社団松和会まつみリハビリクリニック
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社会保険旬報No1933(96.12.21)p10-14,p42掲載

I. 製薬メーカーが薬価差益バッシングに便乗 本当の目的は?

 朝日新聞編集委員田辺功氏が,製薬メーカーによる薬価差益(以下,薬価差)バッシングの本質を見事に捉えた記事があるので,紹介する.
 あれでよかったのか,と後々気になる記事もある.「薬価差益」もそのひとつだ.(中省略) 差益は事務経費などを補てんする貴重な収入源だ.1989年秋,厚生省局長は,国会で,差益は薬代の25%,推計で年1兆3,248億円にのぼると明らかにした.翌年,日本製薬工業協会はシンポジウム「薬価差・1兆3千億円はなにか」を開いた.今思えば,厚生省と薬業界の巧妙なキャンペーンではなかったのか.薬価差益イコール乱用イコール悪,の報道が増えた.92年4月,差益を圧縮する薬価の決め方が採用されたが,病院の減収に見合うだけの医療費は増えなかった .
 マスコミによる「薬価差バッシング」は以前よりあった.しかし,なぜ製薬メーカーまで,その勢いに便乗する必要があったのか.「薬価差バッシング」の裏に潜む「官業癒着の陰謀」を示唆する記事として,見逃せない.

II. 薬価差益の歴史 加重平均R方式,建値制度により,薬価下がらず,納入価上がる

 1975年頃(昭和50年代)より,薬価差益がクローズアップされ,「薬価差があるから,薬が多用されて薬漬けになる」という批判が高まった.厚生省は,薬価差を縮める目的で, 81年以来6年間で薬価基準を半値まで引き下げた .ところが,薬価差は縮まらなかった. 一方,85年以降製薬メーカーは多くの新薬をゾロゾロ出したが ,メーカーと医療機関との直接交渉では,その納入価は叩かれ,歯止めがきかなかった.頭を悩ます医薬品業界は,20%以内の常識的な値引き幅「リーズナブル・ゾーン(Rゾーン,以下R幅)」を認めてもらいたい,と訴え始めた .
 92年度,薬価差を生じやすいという批判があった90%バルクライン方式を改め,加重平均値にR幅を上乗せした値を薬価とする新薬価算定方式(以下,加重平均R方式)が採用された . しかも,同時に施行された建値制度で,卸しに対する値段もメーカーが決めることができるようになった .一般には,この加重平均R方式は,薬価差を縮小するためといわれているが,その結果どういうことが起こったかを検討してみよう.  93年12月全国保険医団体連合は,「92年4月薬価基準が切り下げられたのに,医療機関への納入価が1-2割上昇していること」を指摘した .
 R幅は,92年15%,94年13%,96年11%,98年10%とされている.それに伴う平均薬価差益率(以下,差益率)は,92年23.1%,94年19.6%,96年17.8%と,差益率は2年毎に減少している .見方を変えると,薬価に対する納入価率は,92年76.9%,94年80.4%,96年82.2%と上昇していることになる.
 91年6月中医協で新薬価方式について協議がされていた時,薬価専門部会で参考人を勤めていた武田薬品の本郷照次常務は,次のように述べている.「90%バルクライン方式では,メーカーが全体の10%を高く売れば,薬価を高い水準に維持できた. 残りの下の方はいくらでも安くできるから,病院は買いたたく.業界全体の取引がゆがめられていた」.また,三共の阿部貞雄専務も,「病院は,新しい薬価からさらに値引きを要求する.アリ地獄のような仕組みだ」と述べている .
 「アリ地獄 」を苦悩する業界幹部は,薬価差益バッシングの世論を作った後, 加重平均R方式を導いた. しかも,同時に施行された建値制度の導入で ,メーカーに仕切価の決定権が与えられた.「薬価差益縮小」というのは表向きで,「納入価を叩かれない」あるいは「納入価率を引き上げる」ことが,本当の目的であった.薬価を下げたくないと思えば,卸しに対する仕切価を下げなければよい.値引き交渉を卸しにさせれば,医療機関への納入価を仕切価以下には下げることはできない. 強気の商売への衣替えだ.92年頃は薬の売上も順調で, 仕切価を多少高くしても,売上が落ちない自信もあったのであろう.しかも「薬価差益を縮小し,薬漬け解消」といえば,マスコミも国民も納得させやすい.
  結局,納入価の右肩上がりを厚生省が保護した形となった.その結果,薬価基準が改定された92年4月から半年たっても,全国に主要病院の4割近くが,薬が仮納入されたまま,相変わらず卸業者に値引きを要求し,値段が決まらないまま交渉が難航した . 新しい薬価制度と建値制度を理解していない医療機関が,メーカーの仕切価とぶつかって,困惑していたのである.
 さらに,92年度の収支で病院の3割が赤字へ転落し,半数以上が経営悪化した .薬価差益が縮小されたのに,それに見合うだけの診療報酬が増えなかったからである. それに対し,製薬メーカー32社が92年度13%増となり ,94年度売上高営業利益率は,小野薬品工業39.9%を筆頭に,43社中26社が二桁台を示した .いわゆる製薬メーカーの一人勝ちである.主要18社の営業利益率の推移を調べると,89年度11.9%,90年度11.0%,91年度10.9%と,横這いである.ところが,加重平均R方式,建値制度導入後は,92年度12.5%,93年度13.4%,94年度14.5%,95年度15.6%,96年度(中間決算)16.4%と,他の産業がバブル崩壊後の不景気で利益率が低迷している中で,毎年1%ずつ上昇している(95年度,96年度は日刊薬業のデータで主要31社の決算) , .厚生省保険局医療課長である下田智久氏も,「製薬メーカーは他の産業と比べても,売り上げ高経常利益率が非常に高い.おおむね15%以上である.メーカーがこれほど利益を上げているのはおかしい,という基本的な問題意識が中医協にあった」と述べている .
 「薬価引き下げ覚悟の売り切り商品」など,大胆な値引きするゾロメーカーもあるが,ブランドメーカーは,高薬価を維持するため,安売りをしない強気の商売を続けた. 薬価差が縮小された分,薬価が下がれば,医療費は節約できる.しかし,実際は納入価のみ上り,薬価は下がらなかった.94年,95年に大阪保険医協会は薬価の内外価格差を調査し,「日本の薬価が欧米の3-4倍高い」という事実を,朝日,毎日などの一般新聞を通して国民に伝えた , , , .さらに,そうした高薬価に対する批判は,96.10月首相の諮問機関である経済審議会の行動計画委員会や通産省など,厚生省以外の政府機関からも取り上げられ,その是正を求められるようになった , .

III. 薬剤管理コストとは?

 薬剤管理コスト(以下,管理コスト)は,冷蔵庫,看護婦や医師が誤って落としたりする事故,包装が大きいため,全部使わないうちに期限切れになってででくる損失品,管理のための薬局事務経費などを指し,ある病院団体の調査で,薬価の3%ないし5%という報告がある .ただ,管理コスト率が何パーセントかは,さらに検討する必要がある. 人件費の高騰や電気代の値上げにより管理コストは,年々増大し,5%より高いのではないかという意見も多いからだ.特に在庫率が高いと,管理コスト率が高くなる.従って,大病院,救急病院,また医薬非分業の医療機関など在庫率が高い所では,管理コスト率は10%を超え得る.
 ところで,R幅の最終ゴールを10%とした理由は何だったのか.根拠がはっきりしないが,管理コスト,消費税3%,マージンを考えたものと思われる.
 96.10.16厚生省保険局医療課は中医協診療報酬小委員会で,「 管理コスト率は3%で足りるという調査結果もある」と紹介している .この「3%」の出典を同医療課へ問い合わせた所,1病院における予備調査の結果によるものだという .それにしても,この3%は少なく見積りすぎていないか. 今後, 管理コスト率のパーセントが議論の焦点になることは必至だ.これについて,後ほど検討する.

IV. 薬価差益と実質薬価差益を混同していないか?

 89年国会で発表された1兆3,248億円の値は,たびたび引用される.87年度中に医療機関に支払われた医薬品費が,約5兆1,593億円で,これから実際の医薬品購入額3兆8,345億円を引いた残りが差益総額1兆3,248億円という計算だ.差益率は25.7%となる , .87年当時は消費税導入前だったから,消費税は関係してこない.しかし,薬価差の中には,管理コストは含まれる.管理コスト率を5%とすると,2,580億円かかるるから(5兆1,593億円x0.05で算出),薬価差から管理コストを引いた残りが,実質薬価差益(以後,実質薬価差)1兆668億円となる.これが,純粋な医療機関の利益となる.実質薬価差益率(以下,実質差益率)は,差益率より5.0ポイント少ない20.7%となる.
  最近薬価差は「1兆2,000億円」の値が頻繁に使われる .出典は不明で,計算方法も定かでない. ここでは,1兆3,248億円と同じ方法で算出したと仮定しよう.注意すべきは89年春に消費税が導入されたことで,事態がかわったことである.薬価差の中に@ 管理コスト以外に,A 消費税が新たに含まれた.薬価差から@Aを除いた残りが,B 実質薬価差となる. 薬価差1兆2,000億円の内訳を,仮に96年時点の差益率17.8%(R幅11%),消費税率(以下,税率)3%,管理コスト率を5%で計算する. 保険請求された薬剤費は6兆7,416億円(=1兆2,000億円/0.178で算出)となり,納入価は5兆5,416億円となる.管理コスト3,371億円(=6兆7,416億円x0.05), 消費税1,662億円(=5兆5,416億円x0.03)となり,実質薬価差は6,967億円となる. 実質差益率は7.5ポイント少ない10.3%となる. また,97年春税率5%となると,同じ薬価差1兆2,000億円であっても,消費税は2,771億円に増え,実質薬価差は逆に5,858億円まで減少する.薬価差の半分以下になる計算だ. 実質差益率は,差益率より9.1ポイント少ない8.7%となる.さらに,最悪のシナリオは次の通りだ.薬価差ゼロで,税率10%の場合だ.納入価が5兆5,416億円のままとすると, 消費税は5,542億円(=5兆5,416億円x0.1)と管理コスト2,771億円(=5兆5,416億円x0.05)の合計8,313億円が,まるまる医療機関の負担になる.
 「薬価差益1兆2,000億円」が,いかにみかけ上のもので,医療機関の実質利益が消費税率の引き上げとともに圧縮され,「薬価差による損」が生じかねない状況だ. 薬価差を実質薬価差と混同すると,医療機関の利益を過大評価することになり,国民に誤解を与え,政策判断を誤らせる元になる.

V. 薬価上乗せ方式による損税補填は,加重平均R方式と建値制度で不可能に

 89年4月消費税導入に伴って,薬価基準を平均2.7%(医療費ベースで0.72%),社会保険保険診療報酬を0.12%引き上げることになった .後者の診療報酬0.12%引き上げは,医療器材,診療材料,給食材料,諸委託料を含む諸経費分の損税補填のためである.薬剤の消費税の損税を薬価上乗せ方式で行う場合, どういう条件が必要であったか検討してみよう.
 消費税が導入される以前,日本医師会は,「医療の公共性」という特性から,社会保険を消費税の対象から除外することを主張した .消費税による損税補填を,薬価基準価格に3%の上積みを求めた .一方, 製薬業界も薬価上乗せを求める声を強めた.理由は,3%の税金分値上がりした医薬品に対して,「このままでは,製薬業界への値下げの圧力が高まる」というのが言い分だった.
 図1に示すように,管理コスト率5%,薬価100円の薬剤を差益率25%(納入価率75%)購入したとしよう. 納入価は75円,薬価差(以下,この章では「みかけ上の薬価差」と呼ぶ)は25円である. 管理コストが5円かかるから,実質薬価差は20円となる.消費税が3%になると,100円の薬価は薬価上乗せ2.7%分が加わって102.7円となる.管理コスト5.1円(=102.7円x0.05). 実質薬価差20円を維持するためには,消費税込みの納入価が77.6円(=102.7円-20円-5.1円)となる必要がある.納入価は75.3円(=77.6円/1.03) 消費税2.3円(=75.3円x0.03)となる.みかけ上の薬価差は,27.4円(=102.7円-75.3円)であるから,差益率を26.7%(=27.4円/102.7円,納入価率73.3%)まで拡大しないと,実質薬価差を維持できない.つまり, 納入価を1.7ポイント引き下げが必要になったことになる. すなわち, 薬価上乗せ方式による損税補填は,納入価引き下げによる「薬価差の拡大」があってはじめた成り立つ.
 さらに,「薬価上乗せ」が,損税補填に本当に必要な条件なのかを検討しよう. 同じ薬価100円に上乗せがなくても,差益率を27.2%まで拡大できれば,実質薬価差20円を維持できる. つまり,医療機関が損税を被らないようにするためには, 「薬価上乗せ」ではなく,「差益率の拡大」のみが必要だったのである. 「薬価上乗せ」は,医療機関に値引きを要求された時に,「メーカーが損をしないための先回り」にすぎなかったのである.
 ところが,92年度より建値制度で納入価を叩けなくなった.差益率が変化せず25%のままだとすると,実質薬価差は18.2円に減少する.そこに医療機関の見通しの甘さがあった.
 そればかりか,加重平均R方式により納入価率は92年76.9%→94年80.4%→96年82.2%と引き上がった. つまり,この加重平均R方式,建値制度の導入で,薬価上乗せ方式による損税補填は,不可能となった.損税補填のために必要な薬価差までも,製薬メーカーに奪われてしまった.このことを,新薬価算定方式が導入される前に気がつくべきであった.
 96年9月消費税上乗せ分を決定するため,実勢価格の調査が実施された.しかし,前述の理由から,97年春消費税が5%になった場合,損税補填のために薬価上乗せ方式を断じて承認してはいけない.差益率一定のまま薬価上乗せ方式を続けたのでは,メーカー・卸し利益の拡大にしかならない(このうち,ほとんどはメーカー利益と思われる).その理由は次の通りである.
 薬価上乗せ方式によるメーカー・卸し利益拡大のシュミレーションを図2,グラフ1に示す. 税率3%で,薬剤の原価をかりに50円とする. その内訳は不明だが,開発費がほとんどと思われる.かりに半分の25円が材料分,設備費とすると,これには消費税がかかるから,25.8円となる.残りの25円が人件費で,非課税である.税込み原価は50.8円となる. 消費税が5%になると,原価50円は51.3円となり,0.5円増. 納入価82.2円は83.7円となり,1.5円増. メーカー・卸しは1円の利益増となる.さらに,消費税が3%→5%→7%→10%→15%→20%まで引き上げ,その都度薬価上乗せを続けたとすると,メーカー・卸しの利益はどんどん増大する.一方,医療機関は,みかけ上の薬価差はわずかに上昇するが,逆に実質薬価差は急速に減少する.
 税率15%を20%に引き上げられたら,「実質薬価差のマイナス」すなわち 「薬剤の赤字」が発生する. 実質薬価差がプラスからマイナスとなるポイントが,「実質薬価差の損益分岐点」だ.
 現実的には税率が引き上げよりも,次章で述べる「「R幅を10%よりさらに急速に縮小する方向(以下,ポストR10)」による薬価差の急速な圧縮が,「薬剤の赤字」を引き起こす可能性が高い.

VI. 実質薬価差マイナス(薬剤の赤字)の時代へ

 実質薬価差は次第にプラスからマイナスになり,「薬剤の赤字」が発生する時代に入った.「薬剤赤字」を引き起こす要因は,次の3つがある.
 第一は,96.10.20の総選挙で自民党が圧勝したことにより,消費税5%への引き上げがほぼ確実になった.消費税は一旦上がり始めると,どんどん上がっていくのが世界の通念である.
 第二は「薬価基準制度の廃止案」だ. 96.10.16厚生省保険局は,中医協診療報酬小委員会で次のように発表した.「R幅を10%よりさらに急速に縮小する方向をとることが濃厚で,Rゼロも一案である(以下,ポストR10からR0)」としている . また,赤字に苦しむ健康保険組合連合会など保険料支払い側は,「薬価基準を実勢価格まで引き下げて,そのうえで引き上げ税率をかけるべきだ」と要求している .支払基金の圧力が,薬価差の縮小に加速をかけそうだ. 一方,96.10.18日本医師会が,医療保険制度改革案の中で,「診療報酬体系で技術料を重視し,薬価差依存体質からの脱却」を明示した .さらに日医は「補填,転嫁がしっかりされるのであれば,これからは薬価差はゼロでも構わない」と述べ,薬価基準制度そのものの抜本的改革を条件付きで受け入れる姿勢を示した .消費税5%,管理コスト率5%の場合,差益率縮小に伴う薬価差と実質薬価差との関係を,表3,グラフ2に示す.差益率が9.5%で,実質薬価差0となる.
 第三は,前述したが,厚生省保険局医療課が示した「管理コスト率3%」という「低い見積り」だ.差益率をどこまでぎりぎり圧縮されるかは,@ 消費税の税率と,A 管理コスト率のパーセントにかかっているが,3%は低すぎる.
 

VII. 薬剤赤字を回避するためには,「実質薬価差がマイナスにならないための差益率の確保」が重要に

 薬剤を持っているだけで,赤字を生じてはならない.実質薬価差がマイナス(以下,「赤字」と呼ぶ)とならないためには,差益率をいくら以上を確保しないといけないのかを計算してみよう.薬価A円の薬を,差益率z%で納入した.管理コスト率x%,消費税率y%とする.
納入価:A(1-z)円,消費税:A(1-z)y円,管理コスト:Ax円
実質薬価差=薬価-納入価-消費税-管理コストとなり,これが0となる差益率zを求める.
  A- A(1-z)-A(1-z)y-Ax=0 Aは消え, zを求めると,
  z=(x+y)/(1+y)となる.
 管理コスト率をx軸とし,3%,4%,・・・14%,15%まで変動させる.また消費税率をy軸とし,3%,5%,7%,10%,15%,20%と変動させる.Z軸を差益率とする.結果は,表4とグラフ3の如くとなる.
 この表から,次のようなことがわかる. 97年春消費税が5%となった場合を想定しよう.例えば管理コスト率6%の薬剤を購入する場合,差益率が10.5%以上あれば,「赤字」にならない.ところが,管理コスト12.5%を超える薬剤は「赤字」になる.
 さらに,「ポストR10からR0」が実行されたとする.管理コスト率の高い薬剤から順番に,赤字が発生する.すなわち,@ 差益率が14.3%で,管理コスト率10%を超える薬剤が,A 差益率7.6%で,管理コスト率3%を超える薬剤が,それぞれ「赤字」になる.B 差益率0では,厚生省,大蔵省の配慮がない場合は,管理コスト,消費税ともに全額医療機関の負担となる.在庫率の高い医療機関は,不良在庫に対し相当の配慮を要することになる.

VIII. 薬価基準制度が廃止されたら,管理コストと消費税の補填はどうする?

 もし,薬価基準制度が廃止され(R幅0,差益率0),実勢価格でしかレセプト請求できないとしたら,どうなるか.前述の如く現行の薬価制度のままでは,管理コスト,消費税ともに全額医療機関の負担となってしまう.それは困る.補填方法が問題になる.
A. 「管理コストに対する余裕ある補填」が必要
 薬価基準制度が廃止された場合,管理コスト分をどのように補填するのか.考えられる次のような問題点を列挙した. @ 管理コスト分を診療報酬として請求するのか.A個々の医療機関の特性(医薬非分業医療機関,医薬分業医療機関,救急病院,薬局,大病院,など)によって変化する在庫率で,3,5,7,10%と変えるのか.B 個々の薬剤の種類で何%と決めるのか.それとも,C 単純に平均値をとり1律何パーセントとするのか.
 前述の如く,管理コスト率は医療機関の特性と薬の種類に依存し,平均値を出せても,「ばらつきが大きい」ことが予想される.1律何パーセントと決めると補填不十分な医療機関が,半数は発生することになる.例えば1律薬価の3%を診療報酬から出すとすると,管理コスト率10%の救急病院では,薬剤の7%分の赤字をかかえることになる. それは大きな問題だ.個々の医療機関,個々の薬剤の特性に応じた柔軟な余裕のある補填が必要かと思われる.
B. 消費税の損税には「ゼロ税率」を提言
 薬価基準制度が廃止されると,現行の非課税方式では,薬剤の消費税分は,レセプトで請求できない.例えば, 税率5%の場合,納入価100円の薬は消費税込みで仕入れると105円となるが,レセプトでは100円しか請求できなくなる.5円はまるまる医療機関の負担となる.薬価差がある時は,それから支払うことができたが,薬価差ゼロでは医療機関の「技術料から負担」しないといけなくなる.前述の如く,税率5%だと「2,771億円」,10%だと「5,542億円」の消費税になる.薬価差ゼロで,もはや「財源」がない. まさか「本気で技術料から支払え」というのではあるまい. 税率が7%あるいは10%ともなれば,「消費税による病院倒産」もあり得る.
 そうした不合理な損税負担を解決するには,@ 診療報酬による補填,A消費税と管理コスト分を残した差益率残存,B ゼロ税率導入,C 医療を課税,のいずれかの選択肢だ.
 @ については,病院経営のやり方によって消費税負担は様々で,その分,診療報酬による補填がきちんとみあっていないことは,厚生省保険局幹部も認めている .
 A については,98年差益率16.8%になったとすると,管理コスト率12.5%を超える薬剤は「赤字」になる.つまり,安易な「ポストR10からR0」を是認することは,極めてリスクが高い. また,税率が引き上げられたら,差益率を再び拡大しないといけなくなる.薬価基準制度を残したままとなり, 価格の自由競争による薬剤費抑制が起こりにくい.
 C については,大蔵省は,「課税となると,保険料も患者負担も上がる.国民が納得しない」と述べている .ところが,実際は薬価に消費税分を加えて,診療報酬から,消費税を徴収しているから,実態は「医療費はすでに課税」になっている.国民と患者代わって「医療機関が最終消費者」となり,「圧縮されている薬価差の中から消費税を支払い, 保険料を引き上げず,患者負担増させない」ように貢献してきた.もし,薬価差がなくなると,いよいよ消費税を支払う財源がなくなる.ない袖はふれない.
 B の「ゼロ税率導入」が一番理想だ. そもそも,「社会保険診療は消費税の対象としてなじみにくい」とされている . 大蔵省は,「医療費を補助する立場」だ.「弱者救済のための医療材料」である薬剤から,税を徴収すること自体がおかしい.「医療費は非課税」という世界の基本原則から逸脱している. 「薬価差がなくなろうとしている現状」では,「消費税を払う財源もなくなる」.本来の「医療費は非課税の原則」にもどるべきだ.医療機関が不合理,不公平な損税を回避するためには,日本医師会,保団連・協会が主張するゼロ税率を導入し,消費税を還付してもらう方法が一番適当と言える.
 ゼロ税率を要求すると,大蔵省は「税収の財源の代わり」を要求してくることが予想される.しかし,その財源は,社会保障の財源以外に求めるべきだ. 前述したように,大蔵省は「医療費を補助する立場」だからだ.
C. 製薬メーカーは「ゼロ税率」,卸し,医療機関は「非課税」
 ゼロ税率,非課税を具体的にどのように適応するか.医療機関は,レセプト請求という煩雑な事務手続きの上に,消費税の帳簿づけをする余裕がないのが現状である.流通経路の末端の医療機関ではなく,流通のもっと中枢である製薬メーカーに「ゼロ税率」を適応してはどうだろうか. 医薬品を製造する原料には,課税,非課税の両者が入り交じっている.製品となった医薬品はゼロ税率を適応する.出荷された医薬品が,卸し,医療機関に流通する時には,「非課税」として扱う.製薬メーカーは 医薬品を海外へも輸出しているから,ゼロ税率の事務手続きに慣れている. 税務署も流通経路の末端までチェックする必要がなくなるから,事務処理も楽になる.
 また,医療機器,ガーゼなどの医療材料など医療に関係するものは,メーカーで出荷する時点で「ゼロ税率」を適応するのが適当と考える.
 大蔵省に,理論的に矛盾のある消費税損税問題の早期解決を求めたい.
<参考文献>
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88.3.14朝日新聞 健康保険法 “薬漬け病院”を支える薬価差益(法うらおもて)
88.5.4 朝日新聞 空前の新薬ラッシュ 62年承認品目,これまでで最高25
91.6.7朝日新聞 巨大な薬価差益にメス 薬価算定方式42年ぶりに改定
93.12.18 毎日新聞 「薬価,談合の疑い」納入価格で保険医連が公取委に申し立て
96.7.21 社会保険旬報 No.1917 p24-25 薬価差と薬害再発防止プロジェクトが報告書
91.6.7朝日新聞 巨大な薬価差益にメス 薬価算定方式42年ぶりに改定
91.6.1朝日新聞 薬価算定新方式の方針を受け,製薬メーカーは「流通を改善」
92.10.2朝日新聞 病院の4割,決まらず 値引きを求めて難航 改定から半年の薬の値段
93.09.30朝日新聞 病院、3割が赤字 薬価差益の抑制が響く 厚生省調べ
93.06.27朝日新聞  製薬32社、92年度は13%増益 病院などからは不満も
   【大阪】月刊ミクス増大号95年度版医薬ランキングp62
薬事ハンドブック92年版〜96年版 薬事時報社
96.11.25日刊薬業第9568号 主要製薬企業平成9年3月期決算(本誌集計)
日経ヘルスケア4月号p25 厚生省保険局医療課長下田智久氏に聞く
95.10.15大阪保険医新聞 薬価算定方式と審査方法に意義あり 大阪協会薬価の国際比較 日・米・英・仏・独 第2報を発表!!
94.9.10毎日新聞 日本の薬価,英仏の3倍
94.11.5朝日新聞 薬や医療品高い日本.薬は欧米の3〜4倍ザラ
95.10.6毎日新聞 高い薬価の現状は:医薬品消費国大国日本
96.10.10朝日新聞 新薬承認の透明化を 土地・物流規制緩和も 経済審計画委提言
96.10.12日経新聞 通産省,厚生省に見直し提言 薬価下げや高額品抑制 薬剤費年間1割削減可能
85.3.23朝日新聞 差益ゼロ薬の急増に悲鳴(ニュースライン) みんなの科学
96.10.18日刊薬業第9541号 R幅さらに縮小方向濃厚に 保険局が中医協小委に薬価論点提示 保険適用期間制限案も浮上
96.11.21 厚生省保険局医療課に確認
89.11.9朝日新聞 年に1兆3千億円 厚生省が試算を初めて公表
89.11.9読売新聞 薬価差益,1兆3000億円 昭和62年の医療機関総額 衆院委で公表
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96.9.9 朝日新聞薬と消費税(窓・論説委員室から)
96.10.18日医FAXニュース718号 日医が独自の医療保険制度改革案を提示
96.11.1日刊薬業第9553号 医薬品問題は総合的な視野で検討 医療保険制度改革で大塚厚生省審議官「薬価への国民不信はとけていない」
94.6.21朝日新聞 「医療費にも消費税」 税率論議に病院陳情(時時刻刻)
二次改定詳細・消費税P101 TKC税務研究所編 第一法規


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