高すぎる薬価を下げることこそ
厚生省の急務

「老人慢性疾患等に対する外来医療の包括化の問題点」
  -96/4/2 下関医師会 松海信彦先生-より抜粋


1.どんどん下がる薬価差益Rゾーン
  薬価差益Rゾーンは、2年毎に縮まり平成10年までに10%となることになっている。ただ、消費税は病院が負担しているから、平成9年に消費税が5%になると、薬価差益は実質5%になる。これは薬剤管理と人件費を考えると原価切れしてしまいかねない状態である。もはや薬価差益に依存した経営などあり得ない状況下である。
 薬価差益と言うことを問題視すること事態が、すでに時代錯誤化している。

 薬価差益Rゾーンの推移
  平成4年-15% 平成6年-13% 平成8年-11% 平成10年-10%
2.薬剤費率
 A) 総医療費に占める薬剤費の割合(薬剤費率)を押し上げているのは、日本の高い薬価である。

 1) 各国の薬剤費率(1993年)
    日本    29.5%
    フランス  19.9%
    ドイツ   17.1%
    イギリス  16.4%
    アメリカ  11.3%
  日本は確かに、他の国から比べると薬剤費率が高い。しかし、それだけで日本の医師がたくさんの薬を使いすぎているとの考えるのは短絡的である。つまり日本の薬価が高すぎる事を忘れてはいけない。
  日本の総医療費に対する薬剤費は29.5%である。一見薬剤に依存した医  療のように見える。ところが薬剤の平均価格は、イギリスの2.66倍、フランスの2.65倍、ドイツの1.39倍、アメリカの1.14倍である。先進諸国の中では、断然トップである。外国と比べ平均1.7倍も高いのである。
  ところが、総医療費に対する薬剤使用量を計算すると、日本は29.5%で、フランス52.7%、イギリス43.6%よりも低く、さらに平均32.5%よりも下回っており、薬剤使用量は適正な量であることが予想される。この事実は以外と知られていない。
今のこの状態を薬付けとののしることが出来るのか。すなわち、薬剤費率を押し上げているのは医師の処方している薬の量が多いのではなく、薬価が高すぎることが主な原因と言えよう。

 B) 高い日本の新薬の薬価
  さらに、新薬の薬価は海外の2-4倍と言われる。これは正すべき事態である。医療費を高くする元凶は、新薬に高い薬価を付ける厚生省の姿勢ではないか。厚生省は製薬会社に対し甘い顔をしすぎている。製薬会社は、厚生省からの薬価の高値安定という恩恵を受け、医療機関と患者の上にあぐらを組んでいるのである。そのくせ包括化医療という無茶な倹約令を医療機関に無理強いをする。
医療機関をこれ以上絞っても血は出ない。
  厚生省が向けるターゲットは別にある。新薬の薬価を従来の薬より低い薬価でなければ認可しないとする位の厳しい姿勢が、今の厚生省に望まれる。

 C) 急激な薬剤比率の低下
  厚生省がまとめた社会医療診療行為別調査によると1994年、27.2%と低下(前年比より2.3ポイント低下)し、薬剤比率の急激な低下傾向を示している。しかしまだまだ十分とは言えない。{注;この現象が薬価が下がった結果か、使用量が減ったためか分析を要する。注2;入院、外来で包括医療が進んで行くと診療行為別での薬剤使用はわからなくなる}

 D) 今の日本は高すぎる薬価を下げることこそ、厚生省の急務である。
  薬剤量は外国と比べて、むしろ平均より低い状況で、さらに薬剤費用としても徐々に適正な方向に向かおうとしている。悪の根元は、高い薬価である。その問題に対して抜本的対策をたてずに、医療機関や老人の慢性疾患に対し包括医療の導入をしようとするのは、問題点をすり替え、治療方針を誤っているとしか思いようがない。改善すべきは高い薬価である。
なぜ、日本の薬価は高いのか、厚生省は製薬メーカーに対して甘い顔をしすぎて、高い薬価を許している。なぜ医療費抑制の矛先を医療機関に向け、患者を犠牲にするのか。これ以上医療機関の善意に甘えて欲しくない。医療費抑制を焦りすぎ、老人の慢性疾患に対し包括医療を導入することにより医療の荒廃を招くのは目に見えている。
  高すぎる薬価を下げることこそ、厚生省の急務ではなかろうか。


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