こんな判定あり?  片麻痺と両側麻痺

 ある掲示板に更新認定時に「麻痺」が悪化し介護の手間がかかるようになったのに、更新認定では要介護度が下がった事例が報告されました。
 これは前回「左上下肢麻痺」だったのが、今回これに「右下肢麻痺」が加わったというもので、麻痺が加わったのに要介護度は「要介護1」が「要支援」に下がったという逆転の事例の報告でした。

 もともと、一次判定ソフトでは上下肢の片麻痺はこれだけで48分の基準時間があたえられ、片麻痺があれば最低でも「要介護1」になるように作られており、片麻痺があるにもかかわらず「要支援」になることはないはずなのですが、噂の欠陥ソフトですのでここでも逆転してしまい、片麻痺に下肢の麻痺が加わったら逆転したということなのです。
 理由はありません。欠陥なのです。
 いま、一次判定ソフトに、他に何も入力しないで、例えば右の上下肢の麻痺を入力すれば基準時間は48分となりますが、これに左下肢麻痺を加えたところ25分となってしまいますし、左右の上肢・下肢の四肢麻痺でも25分となります。
 上記の掲示板での事例はこれがあからさまに現れた事例だといえます。
 こんな逆転というか、理不尽な事はないと思うのですが現実です。

上の報告例とは違いますが、良くありそうな事例を示します。

(麻痺拘縮)

左-上肢

あり
あり

右-上肢

左-下肢

あり
あり

右-下肢

あり

その他

第2群

1.寝返り

(移動)

2.起き上がり

3.両足での座位

自分の支え
自分の支え

4.両足つかない座位

自分の支え
自分の支え

5.両足での立位

支えあれば
支えあれば

6.歩行

つかまれば可
つかまれば可

7.移乗

第3群

1.立ち上がり

つかまれば可
つかまれば可
(複雑動作)

2.片足での立位

つかまれば可
つかまれば可

3.浴槽の出入り

4.洗身

要介護認定

等基準時間

48分
24分

一次判定

要介護1
自立

 この方は脳梗塞の左麻痺があり、移動・複雑行動には杖や支えが必要ですが、それ以外の介護補助はない方とします。
左の状態の項目にチェックをしますと、基準時間は48分ですので、一次判定は「要介護1」です。ややラッキーなケースではありますがこの例などはどの審査会でも二次判定は「要介護1」のままにして置くだろうと思います。

しかし、左片麻痺に、右の下肢麻痺が加わった途端、前述したように基準時間は24分になり、一次判定は「自立」の判定になってしまいます。実際に症状が再発したり・悪化したりする事もありますが、筋力低下の麻痺くらいでも「あり」としたために、逆転してしまうこともある事例です。それも「自立」となればこれを知らない審査会では、そのままの判定もあるでしょうし「要支援」が普通でしょう。初回申請でも・更新認定でも申請者は困ります。調査員の要注意事項です。

 また、片麻痺にも利き腕の麻痺かどうかで介護の度合いや自分で出来るかどうかが違ってきます。主治医意見書では「利き腕」かどうかを聞いていますが、この判定ソフトでは利き腕の別・左右の別は関係ありません。どちらでも判定は同じですし、それ以上に判定が全く当てになりません。

 このように「麻痺」についても一次判定ソフトの大きな欠陥があるのですが、これもまだ十分に知らない・理解されていない方もありますのでもう少し事例をあげて説明したいと思います。

 何度もこのホームページでは書いていますが、まず「麻痺」の定義にも問題があります。
 介護認定調査では医学的な「麻痺」の診断を聞いているのではありません、日常生活に支障のある「麻痺」と定義されていますので「筋力低下」でもパーキンソン病などの「振戦・ふるえ」でも「麻痺」として扱って良いのです。
 そのため我々医療関係者は「あれ?」と思う調査員の判定した「麻痺」もありますが、調査上は「麻痺」でよいのです。介護認定では医療関係者の頭の切り替えが必要なのです。
 しかし、調査員が筋力低下が進んだとして「麻痺」としたことが、換えって要介護度を逆転させてしまうのですから、この事実を調査員も知らねばなりません。

 では少し、事例での「麻痺」を検証してみましょう。

 Aの片麻痺例は、土肥先生が紹介された、すでに多くの方が知っている、一次判定ではこんな例もある「要介護4」の事例です。
 左上下肢の麻痺があり、肩関節の拘縮・移乗に見守り・片足立ちは出来ない・排便後の後始末に間接介助・食事摂取一部介助・薬の内服全介助の例で、たったこれだけで基準時間は94分となり一次判定は「要介護4」です。
 このポイントを押さえておけば、後の調査項目は判定にはあまり関係のない項目であることが分かります。実際に第2群、第3群の項目を追加し、5群の身の回りの介助を追加してもCの例のとおり基準時間は100分で少し増えますがほとんど関係ないことが分かります。「要介護4」です。
 介護のチェック項目をこんなに増やしても、基準時間が増えないのです。「こんなソフトはないだろう」と思いますが現実なのです。

 そこでAの例に、麻痺を片麻痺から両側の下肢麻痺に変更しました。医学的な麻痺の場合には片麻痺より両側の下肢の麻痺のほうが、明らかに運動の制限もありますし介護度は上だろうと思います。
 ところが両下肢麻痺に変更したB例は基準時間は94分から58分と36分も下がってしまい、一次判定は「要介護2」となってしまいます。

 A,B例は「超ラッキー」とされる作られた例で現実的でないためC例に、左片麻痺に加え右下肢麻痺が加わったD例で判定しますと100分から71分となり、判定はやはり「要介護4」から「要介護3」になってしまいます。麻痺が増えたのに介護度は下がった逆転です。

 E例は両側の下肢麻痺に、介護の手間がもっと進み入浴・洗身に全介助が必要な状態としましたが、基準時間は63分と減って「要介護2」ですし、びっくりすることはこのE例では、麻痺を「なし」として消してしまっても基準時間は変わらないのです。

 そして。最後のF例は脊髄損傷などで両下肢麻痺があり、身の回りの全ての介助が必要な方を表してみましたが、C.D.E例よりもっと重度の介護が必要と考えられるのに一次判定は最も低い60分という時間でした。

 麻痺の入力が大きく影響する樹形図や全く影響しない樹形図があり、こんなてんでばらばらの判定になるのですが、最初に書いたように、これを知らないで調査すれば、申請者にとって不利な調査を行ったことにもなりますので注意して下さい。
 しかし、全てを理解することは出来ませんので、更新認定の麻痺については事前に判定ソフトでチェックして調査表を提出した方が良いかも知れません。

A
B
C
D
E
F

片麻痺
両下肢麻痺
片麻痺
片+両下肢麻痺
両下肢麻痺
両下肢麻痺
第1群
左-上肢
あり

あり
あり

(麻痺拘縮)
右-下肢

あり

あり
あり*
あり

左-下肢
あり
あり
あり
あり
あり*
あり

2.拘縮 肩関節

あり
あり
あり
あり

     膝関節

あり
第2群

1.寝返り

つかまれば可
(移動)

2.起き上がり

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

3.両足での座位

自分の支え
自分の支え
自分の支え
支えあれば

4.両足つかない座位

支えあれば
支えあれば
支えあれば
支えあれば

5.両足での立位

できない
できない
できない
できない

6.歩行

できない
できない
できない
できない

7.移乗

見守り
見守り
見守り
見守り
見守り
一部介助
第3群

1.立ち上がり

できない
できない
できない
できない
(複雑動作)

2.片足での立位

できない
できない
できない
できない
できない
できない

3.浴槽の出入り

一部介助
一部介助
全介助
全介助

4.洗身

一部介助
一部介助
全介助
一部介助
第4群

イ.便意

ない
(特別介護)

5.排尿後の後始末

6.排便後の後始末

間接的援助
間接的援助
間接的援助
間接的援助
間接的援助
直接的援助

7.食事摂取

一部介助
一部介助
一部介助
一部介助
一部介助
一部介助
第5群

ウ.整髪

一部介助
(身の回り)

エ.つめ切り

2.ア.ボタンかけ

一部介助
一部介助
一部介助

イ.上衣の着脱

一部介助
一部介助
一部介助
全介助

ウ.ズボンの着脱

一部介助
一部介助
一部介助
全介助

エ.靴下の着脱

一部介助
一部介助
一部介助
全介助

3.居室の掃除

全介助
全介助
全介助
全介助

4.薬の内服

全介助
全介助
全介助
全介助
全介助

要介護認定

等基準時間

94分
58分
100分
71分
63分
60分
一次判定

要介護4
要介護2
要介護4
要介護3
要介護2
要介護2

          平成12年9月26日 10月2日一部加筆       吉岡@玖珂中央病院


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