ラッキーさんとアンラッキーさん
なんでこうなるの???


 土肥徳秀先生の「全国一律不公平」−損する人得する人が出る要介護認定- を読んだ方はこの本の中で紹介されている得次郎さんの認定結果を見て、一次判定結果がいかに当てにならないか、また「何でそうなるのか」と聞かれても説明できない「欠陥だらけの一次判定」が少しは分かったと思います。
 ところが、それに輪をかけたような実際の申請例が、たまたま今回の私たちの認定審査会に同時に出てきましたのでご紹介します。
 最初の例をラッキーさん、次の例をアンラッキーさんと呼びますが、同じ日に、同じ審査会でラッキーさんとアンラッキーさんの認定をしなければならないことになり、審査委員もどちらを優先すべきか悩みましたし、一方一次判定ソフトの欠陥の認識を新たに出来ました。そして、もう一人ラッキーさんの亜型ともいう方もありましたので紹介します。

ラッキーさん
 70才台後半の女性で、主治医意見書では骨粗鬆症と変形性膝関節症で腰痛と膝痛があり週1回デイケア利用と、家事介助のホームヘルプサービスを週2回しているとの記載です。
 寝たきり度J2、痴呆度は正常、
 調査書資料では、寝たきり度J1、痴呆度は正常
 特記事項には膝痛で歩行不自由、階段の昇降できず、休み休み歩かないといけない、4点杖使用。
 家庭環境は独居老人です。

 拘縮 膝関節
 第2群 6歩行:何かにつかまれば可、
 第3群 1立ち上がり:つかまれば出来る
     2片足での立位保持:支えがあれば出来る
 の4項目にチェックがあり
 一次判定は要介護認定基準時間31分要介護1となっています。

 たった4項目で要介護1がとれる一番ラッキーな方でラッキーさんと呼びます。
 これ以外にも4項目の最小チェックで要介護1はいろいろなパターンが存在します。
 ただこの状態は厚生省の状態像から見れば「要介護1」と合致する状態像ではなく自立か、良くても要支援のレベルです。しかし一次判定を下げる根拠は何もありませんので、一般的にはどの審査会でも悩む判定となるだろうと思います。この方は判定に勘案してはならないと厚生省はしているが独居でもあり現在のサービスを減らすことは在宅の生活が成り立たなくなるとの判断で一次判定通りとし、二次判定も「要介護1」としました。

ところが数例後にアンラッキーさんを経験しました。
 70才代前半の女性 主治医意見書では右変形性股関節症と変形性脊椎症で腰背部痛がありディケアでリハビリを受けていると記載されています。
 寝たきり度A1、痴呆度はI
 調査書資料では寝たきり度J2、痴呆度は正常
 特記事項には右下肢が3B短く、腰も曲がっており股関節痛で歩行困難、手押し車使用している。と記載されています。

 拘縮 股関節
 第2群 3両足での座位:自分で支えれば可
      4両足つかない座位:自分で支えれば可
     5両足での立位:支えが必要
     6歩行:何かにつかまれば可、
 第3群 1立ち上がり:つかまれば出来る
     2片足での立位保持:支えがあれば出来る

 で7項目にチェックがされていました。
 ところがびっくり 一次判定は要介護認定基準時間24分非該当となっていました。

 ラッキーさんと全く同じ4項目に第2群の3,4,5の項目が追加されたのに(言い換えればラッキーさんより少し介護度がひどいのに)、介護時間は6分も短縮し要介護1が非該当(自立)になってしまったと言うことで、この原因は何とも説明のしようのない結果です。

 ラッキーさんを審査した後でしたので、審査会は困りましたし、しばらく呆気にとられました。通常の判定でもアンラッキーさんのケースは「自立」は忍びがたいので、生活環境なども特記事項で考慮し「要支援」程度の二次判定に落ち着いていたとは思いますが、2ランクアップの「要介護1」となったかどうかはわかりません、本日はラッキーさんと同じかそれ以上の介護時間が必要との意見で二次判定は2ランクアップの「要介護1」になりました。

 それにしてもおかしな結果です。
 ラッキーさんが、今後次第に両足の座位や立位が困難となったとき、症状や介護度が悪化した時に再認定されれば、一次判定は要介護度が下がってしまうことと一緒なのです。再認定で個人のレベルで介護がひどくなったときに、判定が軽くなる逆転なのです。

 このアンラッキーさんの例が印象的だったので、問題行動が起こったらどうなるのだろうと思い、この7項目に第7群の問題行動を適当に入れて見ましたが、介護時間は24分のままで増えず、3-4個入れたら多項目の例外で要支援になるにとどまりましたが、それ以上問題行動を増やしても要支援(例外)*のままでした。
 *多項目の例外とは
 「多項目にチェックされても介護時間が増えず非該当のままの時、10項目以上チェックされていれば例外として「要支援」とする」と言うものです。
 痴呆がひどくなっても介護度はほとんどあがらない実例です。
 この例の逆転現象は項目数を増やした為ではなく、ある項目を入れたために突然要介護1から要支援に変わっているのですが、この種明かしはご自分で経験された方が良いかも知れません。ヒントは第2群の1つの項目だけで逆転するのです。そのため後は幾ら項目を増やしても介護時間はアップしません。

本日はもう一人 困りました。
 80才代前半の男性 主治医意見書では病名は下肢の閉塞性動脈硬化症との診断で間欠性跛行あり、それ以外には意見書には記載が乏しい例でした。

 寝たきり度J2、痴呆度はI、
 調査書では、寝たきり度J2、痴呆度は正常
 特記事項には下肢の痛み長い歩行出来ず、屋外歩行は杖歩行。

 第2群 6歩行:何かにつかまれば可、
 第3群 1立ち上がり:つかまれば出来る
     2片足での立位保持:支えがあれば出来る

 の3項目にチェックがあり一次判定は要介護認定基準時間31分でしたが非該当となりました。これも特例でチェックの項目が3項目だけ**のため介護時間は31分とラッキーさんと同じなのですが非該当になったわけです。
**3項目の特例
 これは「多項目の特例の逆で、推定介護時間は30分を越し「要介護1」となっても、項目が3項目までの場合には、非該当とする」と言う規定です。

 ラッキーさん、アンラッキーさんの審査後でみんな混乱しており、厳しく「3項目の規定もあるから自立とする」と言う意見と、「今回の審査会でいろんな矛盾を経験したので、これも介護時間から判定するとラッキーさん変わらず、二次判定は要介護1でも良い」と言う意見がでました。審査会の流れでは、その真ん中をとり「要支援」と言う意見もありました。
 しかし、今回は、厚生省が規定した3項目の特例には逆らえず、また3項目で当てはまる状態像はないため、また「今まで3項目では自立としてきたため、過去の例との公平性が保たれない」との意見もあり、審議の結果「非該当」と判定しました。意見として少しでも状態が変わったら再認定提出されるように付記しました。

 このように一次判定ソフトはもともと「自立・要支援・要介護1」は判定が困難なシステムですし、間違ったロジックの一次判定ソフトは公平・不公平を云々出来るレベルではありません、公平性を主張する厚生省が「全国一律不公平」を黙認している現状では申請者の気持ちを考えると「ラッキー、アンラッキー」で済ます問題ではないのですが、今の一次判定は運が良ければ妥当な判定もあり得るという程度の印象です。続けて行くべきではありません。
 そもそも一次判定ソフトは推定介護時間で介護度を区分しているとのことですが、明らかに介護の時間が増えたのに判定は逆転してしまうことがあるのです。
明らかなバグ(欠陥)」です。車のバグはすぐに連絡がありますし無償で補修してくれます。事故が起これば命に関わることがあるからです。要介護認定もアンラッキーの申請者にとっては、中には今までのサービスを受けられなくなることにより命に関わることがあるかもしれません。厚生省がバグ(欠陥)を認めないと言うことは、事故が起こったときに誰に訴えれば良いのでしょうか。

今回の審査会でいろんな症例に出会いましたのでご紹介します

 こんな逆転現象を知るためにはシミュレーションソフトを使ってみることをお勧めします。
 多くの方たちが使いやすいソフトを公開してくれていますので、ダウンロードして使ってみて下さい。
 全ての項目入力後に判定結果が出るソフトと、項目チェックのたびに介護時間や判定結果が変わるソフトの2種類あります。逆転現象を理解するには後者が便利です。
 審査員が制度の「表と裏」を知ることも必要で、審査会で一次判定だけを見て判定していていては、それこそ公平な審査は出来ませんよ。
 

            平成12年2月12日  玖珂中央病院 吉岡春紀  (26日一部内容変更)

 

「一次判定の色々 いろんな症例」も見て下さい。



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