薬づけ、検査づけ医療について


 薬づけ、検査づけ医療とは
 薬づけ、検査づけ医療という言葉が現在マスコミでも良く使われ、医療費の無駄遣いの象徴のように言われていますが、果たして今、薬づけ、検査づけ医療があるのでしょうか。この認識を改めて欲しいと思います。
 薬については薬価差益(保険で請求する薬の価格と医療機関で購入する時の差益)が医療機関の利益となり、これを得るために医療機関が薬を必要以上に出すことが指摘されこれが「薬づけ医療」と呼ばれています。
 現実には10年くらい前まではこの薬価差が大きく医療機関の収入となっていたことは事実ですが、この問題が大きく取り上げられるようになり、薬価は2年毎に改定され現場での購入価格にあわせて下がっており、それに伴い薬価差益も、2年毎に縮まり平成10年までに薬価差益は10%となることになっています。
 また大手の製薬メーカーはメーカーで卸に納める価格を決めており(建値制度)医療機関での値下げ交渉は出来にくいシステムを作っています。
 医療費には消費税はかからないシステムで、皆さんの窓口での支払いには消費税はかかりませんが、薬品購入時には消費税はかかっており、医療機関は消費税を負担しているのです。平成9年に消費税が5%になると、薬価差益は実質5%になります。薬によっては使用期限の厳しい薬もあり、破棄せねばならない場合もあり、これら薬剤の管理と病院での薬剤師さんの人件費を考えると原価切れしてしまいかねない状態です。
 もはや薬価差益に依存した経営などあり得ない状況下で、薬価差益と言うことを問題視すること事態が、すでに時代錯誤化しています。
 まだ時にマスコミでは医師の「薬づけ医療」で医療費が上がるとの論調が見られますが、記者が現実を知らない、厚生省の発表をそのまま信じているからだとおもいます。
 また、昨年より外来での処方は7種類までとされ、これを越えると、全処方の10%カットが決定され、外来では混乱をしています。薬剤費を抑えるための政策ですが、慢性疾患を多く持った老人患者さんでは、副作用なども考え、多剤少量投与が一般的であり、特に内科系の過疎地の診療所では、専門科に紹介も出来ず、内科以外にも整形、眼科、耳鼻科的な処方も希望され7種類の制限に困っているのが現状です。
 注射や点滴にしても、以前特殊な老人病院などでお年寄りに毎日点滴をして、これこそ「薬づけ」を行っていた事実はありますが、現在はむしろ老人のまるめ(包括)医療で点滴を行うことが少なくなっています。一般病院でもお年寄りの点滴は、制度で制限され食事を出している患者さんの500CC以上の点滴は認められない事もあります。この様に内服薬、注射薬を含め薬は、保険制度でがんじがらめに制限され「薬づけ」医療は出来ないのです。

 検査づけについても、新しい検査法や検査機器の開発で検査費用が多くなっていることは事実ですが、従来観血的にしかできなかった検査が非観血的に行えるなど患者さんのメリットは多くあります。CT検査にしてもMRI検査にしても、高額の医療機器で諸外国に比べ日本では多くの医療機関が設置していますが、これらの検査以外には発見できない病気も多く、患者さんの希望があれば紹介して検査していただくことは普通です。新しい高点数の検査や医療機器は一般開業医では検査することは少なく、一方、生化学検査など血液検査はすでに検査項目数でまるめがされ、検査項目を多くすることは医療機関にとっては検査費用の赤字となります。むしろ1回の採血で多くの項目をチェックしてくれる医療機関は良心的とも言えます。
 従って「検査づけ」と言う言葉も一般の医療機関にはこれも当てはまらないと思います。
 大学病院や特殊医療を行っている医療機関での検査や治療は別に考える必要があります。
 先日のNHKの特集で、交通事故や脳血管障害で脳死に近い患者さんが、低体温療法で救命でき、社会復帰されたことはご覧になった方も多いと思います。この事実は現場の多くの医師、コ・メディカル全ての献身的な努力とに依るものに間違いありませんが、テレビでの報道でも1日1日、又は時間毎に変化する患者さんの病態変化に対応するための、モニターや採血、その他の色々な検査は、逆の意味の「検査づけ」ですが、これらは、必要な「薬づけ・検査づけ」とでも言うのでしょうか。また、この方たちの医療費については報道がありませんでしたが、月にすれば数百万円から一千万だろうと思います。命を助けるためにはお金が掛かることも認識する必要があります。

        平成9年2月8日  玖珂中央病院  吉岡春紀


一般医療制度のページに戻ります。