医療区分の見直しの「必要なし」

先日、日医から配信されたファクスニュース、療養病床関連のニュースで「医療区分入れ替え「必要なし」―慢性期分科会、胃瘻は区分1のまま」という記事を見てびっくりしました。

これまでの経過では、慢性期分科会で医療区分の見直し作業が進んでおり、そのように途中経過も報告されていました。

本年3月の報告では
「中医協の診療報酬調査専門組織・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶応大医学部教授)は3月19日、「政策判断によって医療区分1は入院医療の必要なしとされ、コストに合わない点数が設定されたことに大きな疑問を呈さざる得ない」とする中間報告書を取りまとめた。近く開催する中医協・診療報酬基本問題小委員会で池上分科会長が報告する。池上分科会長は「この分科会でのエビデンスが違う形で利用された。全会一致の意見として報告したい」と強調した。」

また6月13日の報告でも
「厚生労働省は、慢性期入院医療の包括評価に関する調査の最終報告書案を中医協・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶応義塾大医学部教授)に提示し、取りまとめの議論に入った。議論では調査の結果、明らかになった患者1人1日当たりのコストが、実際の診療報酬上の点数と見合ったものではないとの意見で一致。」

このように、医療区分1は政治的な判断で決められており、医療コスト的に見ても大きな問題があると指摘されていたのです。

それが、先日6月28日示された最終報告書では、裏を返したような結論で
「中医協の慢性期包括評価分科会(分科会長=池上直己・慶応大医学部教授)は6月28日、同分科会が医療区分の妥当性を調べるため実施した2006年度調査の最終報告書案を大筋で了承した。報告書案では、現行の医療区分とADL区分はおおむね妥当と指摘。医療区分の評価項目を入れ替える必要性には言及せず、医療区分2に加えるべき項目として要望の多かった「経管栄養」や「胃瘻」も、医療区分1のままとする方向性を示した。報告書案は今後、若干の修正を加え、池上分科会長が中医協・基本問題小委員会に提示する。」
というものでした。

 とにかく、このような結論は何処から導かれたのか、最終決定の段階で、これまでの議論がほごにされ、厚労省の政策判断がそのまま見直しされなかった事になります。
 ただこの席に日医や病院協会・療養病床協会の代表者も出席されているわけですが、この方達は反対しなかったのか、反対しても意見は、全く無視されたのでしょうか。

「現行の医療区分とADL区分はおおむね妥当」という判断は誰が下したのでしょう。誰が見ても妥当な判断とは思えなかったから、見直しが進められたのではないでしょうか。
 またこの記事では「同日、厚生労働省が提示した報告書案には、意図的に増やすことのできる点滴・注射やカテーテルなどの「医療処置」で医療の必要性を測るのではなく、「患者の状態像」から測るべきとする基本認識が示された。
 その上で、病院長へのアンケートで、医療区分2への“昇格”を希望する意見が多かった経管栄養と胃瘻について、「経管栄養、胃瘻のみを選択している者の平均ケア時間は、全体のケア時間よりもわずかに短かった」と記し、ケア時間から判断しても医療区分2には該当しないとの方向性が示された。これまでの議論では、ケア時間が長く費用が多くかかるため医療区分2と同等と考えられ得る項目として、「個室管理」「余命6カ月以下」「抗生物質注射」「末梢静脈栄養」が挙がっていたが、報告書案では
 (1)診療報酬上の評価とするにはあいまい
 (2)医療処置の項目のため適切なケアから外れる可能性がある
と明記し、これらの項目についても医療区分2への“格上げ”は難しいとの判断を示した。」と書かれています。

 医療区分が「意図的に増やすことのできる点滴・注射やカテーテルなどの「医療処置」で医療の必要性を測るのではなく」とは、療養病床の現場を無視した、全く悪意に満ちた・馬鹿にした考えだと思いますし、何よりも医療の療養病床で医療行為を無視した医療区分はあり得ないのではないでしょうか。
 また、胃瘻や経管栄養のケア時間についても、医療区分とは関係のないケア時間が使われています。食事の経口摂取よりも、胃瘻や経管栄養の方が食事にかかる時間が短かったという判断だと思いますが、胃瘻や経管チューブの実費も交換の手技も、内視鏡操作も全く認められていない事は、委員はご存知なのでしょうか。
 胃瘻交換後のミスで、腹膜炎での死亡事故も時々報告されます。こんな注意が必要な医療行為は、ケア時間で解決するのでしょうか。

 昨年の医療法改定の際の附帯決議には、療養病床の再編成について第10項で「療養病床の患者の医療区分については、速やかな調査・検証を行ない、その結果に基づき必要に応じて適切な見直しを行なう」とされていました。

 当然、今回の医療区分には大きな問題があり附帯決議の実施で、今後医療区分の見直しがされ、医療区分1の診療報酬が療養病床潰しの現実離れの点数である事が理解されつつあると思っていたのですが、それを全く覆された今回の中医協の方針に、開いた口がふさがらないのが実情です。

 全く現場を無視した転換支援策や、調査委員会の答申とはまるで全く反対の結論など、今の厚労省の無軌道路線を示していますが、誰もその起動修正が出来ないのでしょうか。

 平成19年7月21日


資料 この間の日医ニュース報道と附帯決議

○医療区分1「入院必要なし」は疑問 ― 慢性期分科会が中間報告 ―

 中医協の診療報酬調査専門組織・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶応大医学部教授)は3月19日、「政策判断によって医療区分1は入院医療の必要なしとされ、コストに合わない点数が設定されたことに大きな疑問を呈さざる得ない」とする中間報告書を取りまとめた。近く開催する中医協・診療報酬基本問題小委員会で池上分科会長が報告する。池上分科会長は「この分科会でのエビデンスが違う形で利用された。全会一致の意見として報告したい」と強調した。
 事務局の厚生労働省保険局医療課がこの日、最初に示した報告書案には、「医療区分1に関する入院医療の必要なしとの政策判断」と「コストに見合わない点数設定」の2点を問題視する文言は盛り込まれていなかった。しかし、天本宏委員(日本医師会常任理事)が「医療区分1の点数がケア時間と比較して、あまりにもかい離していたとの意見で一致しており、この趣旨の文言を追加してほしい」と要望したほか、大塚宣夫委員(青梅慶友病院理事長)も「分科会で最初に区分を決めた際、医療区分1は入院医療が必要ない患者との視点はなかった。政治的判断について異議を申し立てるべき」と強調した。
 一方、猪口雄二委員(寿康会病院理事長)は、厚労省の医療区分の患者特性調査を引き合いに「医療療養の区分2・3が7割、介護療養の区分2・3が4割との結果から単純に推計すると、医療療養病床は21万床が必要となることも書き込んでほしい」と要望したが、医療課は「医療費適正化計画の中で検討すること」などと書き込みは難しいと説明した。

○療養病床の点数設定について議論を開始
 中医協(3月28日)
 診療報酬基本問題小委員会では,池上直己慢性期入院医療の包括評価調査分科会長から,「平成18年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査結果」の中間報告が行われた.同調査は,平成18年度の診療報酬改定で療養病棟入院基本料等に導入された医療区分,ADL区分ならびに認知機能障害加算に基づく患者分類を用いた評価手法等に関して,その妥当性を検証するために行われているものである.
 池上分科会長は,あくまでも分析中としながらも,医療と介護の分担が進んでいるとの判断を示した.その一方で,医療区分1に関して入院医療を必要としないという政策判断がなされ,診療報酬についてもコストに見合わない点数が設定されていることについては大きな疑問を呈さざるを得ないとする分科会の考えを説明した。
 議論のなかで,天本宏常任理事(竹嶋康弘副会長の代理)は,医療療養病棟における患者一人当たりのケア時間が「医療区分1・ADL区分3」「医療区分 2・ADL区分2」「医療区分3・ADL区分1」の三区分で,ほぼ同時間であるにもかかわらず,医療区分1の点数が低く抑えられていることを問題視.ケア時間に見合った点数設定になっているかの検証とともに,早期の是正を求めた。

 さらに,医療区分1とされる患者のなかには,胃瘻等の医療処置が実施されているにもかかわらず,老健施設に看護師が二十四時間配置されていない問題が解決されていない.そのうえ,患者の受け入れ先の準備もできていない状況のなかで,経済優先の視点のみで決められたものだと,改めてその問題点を指摘した.

 さらに,医療と介護の場による役割分担の問題点を述べ,患者に必要なサービスは何かを考えていく必要があると述べた.
 今回の議論を踏まえて,土田武史中医協会長は療養病床に係る診療報酬のあり方について,中医協で引き続き議論していく考えを示した.
 慢性期入院医療の包括評価調査分科会の池上直己分科会長が、「医療区分1は入院医療を必要としないとの政策判断がなされ、診療報酬もコストに見合わない点数が設定されたことは大きな疑問」とする同分科会の中間報告書を提示。土田会長は「療養病床の点数設定の在り方は引き続き議論が必要と思う」と述べ、4月以降も基本問題小委員会で審議を継続していく考えを示した。

○「コストと点数かい離」で一致 ― 中医協・慢性期分科会 ―
 厚生労働省は6月13日、2006年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査の最終報告書案を中医協・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶応義塾大医学部教授)に提示し、取りまとめの議論に入った。議論では調査の結果、明らかになった患者1人1日当たりのコストが、実際の診療報酬上の点数と見合ったものではないとの意見で一致。報告書の中にも明記することになった。

 06年度調査の結果によると、医療区分1の患者1人1日当たり平均コストは、人件費の案分方法で変化はあるが、最小で1万5117円、最大で1万6024円。しかし、実際の医療区分1の点数は764点(7640円)と885点(8850円)で、コストとの間にかい離がある。

 天本宏委員(日本医師会常任理事)は「医療区分1はコストの半分の値付けになっていることに疑問を感じる」と指摘。椎名正樹委員(健保連理事)も「コストと点数が見合ってないことは、はっきりと指摘しておくべきだ」と述べた。

○医療区分入れ替え「必要なし」 ― 慢性期分科会、胃瘻は区分1のまま ―

 中医協の慢性期包括評価分科会(分科会長=池上直己・慶応大医学部教授)は6月28日、同分科会が医療区分の妥当性を調べるため実施した2006年度調査の最終報告書案を大筋で了承した。報告書案では、現行の医療区分とADL区分はおおむね妥当と指摘。医療区分の評価項目を入れ替える必要性には言及せず、医療区分2に加えるべき項目として要望の多かった「経管栄養」や「胃瘻」も、医療区分1のままとする方向性を示した。報告書案は今後、若干の修正を加え、池上分科会長が中医協・基本問題小委員会に提示する。

 同日、厚生労働省が提示した報告書案には、意図的に増やすことのできる点滴・注射やカテーテルなどの「医療処置」で医療の必要性を測るのではなく、「患者の状態像」から測るべきとする基本認識が示された。その上で、病院長へのアンケートで、医療区分2への“昇格”を希望する意見が多かった経管栄養と胃瘻について、「経管栄養、胃瘻のみを選択している者の平均ケア時間は、全体のケア時間よりもわずかに短かった」と記し、ケア時間から判断しても医療区分2には該当しないとの方向性が示された。

 これまでの議論では、ケア時間が長く費用が多くかかるため医療区分2と同等と考えられ得る項目として、「個室管理」「余命6カ月以下」「抗生物質注射」「末梢静脈栄養」が挙がっていたが、報告書案では<1>診療報酬上の評価とするにはあいまい<2>医療処置の項目のため適切なケアから外れる可能性がある―と明記し、これらの項目についても医療区分2への“格上げ”は難しいとの判断を示した。

 一方、「うつ状態」「問題行動」「パーキンソン病」などは、全体の平均よりもケア時間が短く費用も低いことから、厚労省は医療区分2からの除外を検討すべき項目に挙げていた。報告書案では、うつ状態と問題行動について、「適切な治療ケア方法が実施されていない可能性もあり、本来はニーズとして存在する」として、項目の除外ではなく、評価要件を見直すべきとした。難病についても、「医療療養病床として本来受け入れるべき患者像であり、ケア時間ではなく、ケアの難易度から考えれば、項目を除外するべきでない」とした。

○附帯決議
 健康保険法等の一部を改正する法律案及び良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
  平成18年6月13日  参議院厚生労働委員会
 政府は、次の事項について、適切な措置を講ずるべきである。

十、療養病床の再編成に当たっては、すべての転換を希望する介護療養病床及び医療療養病床が老人保健施設等に確実に転換し得るために、老人保健施設の構造設備基準や経過的な療養病床の類型の人員配置基準につき、適切な対応を図るとともに、今後の推移も踏まえ、介護保険事業支援計画も含め各般にわたる必要な転換支援策を講ずること。また、その進捗状況を適切に把握し、利用者や関係者の不安に応え、特別養護老人ホーム、老人保健施設等必要な介護施設及び訪問看護等地域ケア体制の計画的な整備を支援する観点から、地域ケアを整備する指針を策定し、都道府県との連携を図りつつ、療養病床の円滑な転換を含めた地域におけるサービスの整備や退院時の相談・支援の充実などに努めること。さらに、療養病床の患者の医療区分については、速やかな調査・検証を行い、その結果に基づき必要に応じて適切な見直しを行うこと。