悩ましい更新認定

「様々な欠陥が指摘されながらも要介護認定システムはそのままに継続されようとしています。一次判定における「説明のつかない逆転」や「理不尽な互い違い」のため、不利益を被る利用者が発生する危険性が高まっています。これを予防するため様々な方法が考えられますが、各認定審査会の方々におかれましては事務局サイドと共にぜひ実態に合った「適正」な認定をされますようご工夫のほどを。」 土肥先生のホームページに書かれた、更新認定への注意の文章です。
 私も土肥先生と同じく、今のシステムでの要介護認定は初回の認定時より、更新時の認定の時がもっとわかりにくく、難しくなると以前から訴えてきました。

 ところが厚生省は今の一次判定システムを改善変更しないどころか(一次判定は一部手直しや一部修正は、もはや出来ないのが本音)、しばらくはこのまま続ける事とし、問題の多い痴呆の認定はもう少し状態像を追加して乗り切ることを考えています。
 こんな姑息的な手段ではどうしようもないのが今の一次判定システムであるのに、その事を認めようとしません。今後半年に1回の更新認定が必要になり、エンドレスに更新することは介護保険制度自体の崩壊の危機になりうるものです。数年後の見直しなんて言う悠長な事で良いのでしょうか。
 せめて、厚生省内に別のソフト開発グループを結成し、1年後位を目処に一次判定ソフトの改変に取り組んでいるという姿勢くらいは示して欲しいものですが、そんな話は聞きません。
 それまでは今のソフトで更新認定を続けることになるのですが、申請者にとって更新後に不利な要介護認定とならないような、審査会での検討が必要です。現実には悩ましい更新認定となります。

更新時に問題となることは、何度も訴えています
 1.「一次判定ソフトの逆転現象」ですし、
 2.「痴呆・問題行動の認定結果」です。
  これらの問題点のうち、更新時の注意は1.の「一次判定ソフトの逆転現象」への対応で 
  2.「痴呆・問題行動の認定結果」については更新時にだけある問題ではなく、初回認定でも検討課題です。
これらの問題を良く理解して、更新認定に当たらねばなりません。
「今のシステムでの要介護認定は初回の認定時より、更新時の認定の時がもっとわかりにくく、難しくなる」と言いましたが、これも一次判定ソフトの逆転現象に起因します。
 ただ初回判定での逆転は、ほとんど同じ様な介護度の方でも、調査項目のチェックの仕方で一次判定がばらつくことであり、他人の判定と比べての不公平・不満はありますが、今のところ「こんなもんだ」で了解されています。
 しかし更新時の逆転は、個人内で逆転が起こりますので、病態が悪く、介護の手間がかかるようになっても更新時に認定介護度が軽くなったり、介護の手間が少なくなったのに認定介護度は重くでたりの、逆転が起こることがあり、そうすると個人での不満や判定への不信感が表面化するものと思います、従って更新認定は初回よりももっと難しくなると思うのです。土肥先生の「徳次郎現象」です。

 さて、更新認定は通常は8-9月からはじまりますが、症例によっては早い時期の更新も必要な場合があります。
更新認定での審査会の資料は
 1.前回の判定の結果
 2.更新時の一次判定結果
 3.主治医意見書・調査員の特記事項
だと言われています。
初回認定の資料(2.3)以外には前回の判定(二次判定)結果しか知らされないことになっています。

 果たしてこれだけで更新認定ができるのか、これだけで良いのかが、先日の審査会の合同会議で話題となりました。
 前回の二次判定結果だけで良いのかと言うことです。
 今のシステムの認定審査結果は一次判定ソフトの欠陥のために全国的にも全体で20%程度は変更されています。そして、その変更理由は調査書や意見書の特記事項を考慮しての変更や、推定介護時間と要介護の状態像が合わないから変更したものもあります。実際多くの時間をかけて審査した例は、一次判定の欠陥の逆転例がほとんどです。
 一方一次判定結果に問題があることは指摘できても、変更を勘案できない事項で縛られ、二次判定は一次判定そのままにした例もあります。
 しかし、更新時の資料が、前回の二次判定の結果だけでは、このように合議体で討議を重ねて変更した理由は分からないままであり、従って、更新判定の一次判定と初回の二次判定に差がでたときは、判断に迷うことにもなり、初回判定結果にかなり影響を受けざるを得ないと考えます。また審査する合議体が違えば、その時の差も大きくなると考えます。勿論更新前の結果を無視することは出来ません。そのためには前回の一次判定と二次判定の結果も知る必要があります。

 逆転現象のうち個人内逆転も多発すると思います。
 その対応には調査項目もチェックする必要があります。特に個人内逆転を防ぐため、前回の調査結果(介護認定審査会資料・85項目のチェックと状態像)を全例添付すれば理想ですし、せめて更新審査の過程で問題となった例には工夫する必要があります。
 特に介護の程度があまり変わらないで、逆転で結果に差がでたときの対応はどうするのでしょう。
 一次判定ソフトを使う限り、更新時の参考資料はもっと必要だと思いますが審議の過程を知ることは難しいと思います。 前回の調査結果・一次判定結果との調整も必要になると思いますが、今後エンドレスに続く認定審査で前回・前々回などの資料を見直すことははたして時間的にもできるのでしょうか。

 従って今回の更新時には、前回の調査結果も参考資料として使えるように自治体に提案しましたが、事務量の問題、コピーの無駄なども指摘され更新者全員に前もって資料を配付することは出来ないと言われています。従って我々の審査会では問題のある例だけ、審査会当日に前回の調査資料を参考に出来る事としましたが、全国的にはどうするのでしょうか。

 この事を解決するためには、コンピューターにデータを保存し、審査委員会で活用できる事も必要ですが、自治体には厚生省に報告した後のデータは残っていないと言われました。まさかコンピューターに入力し判定をしたデータを、厚生省に報告した後は何も残らないというコンピューターのシステムも理解できませんが、今回は真偽のほどは確認していません。
 また、審査員にコンピューターを使ったペーパーレスの審査会も行われているとの事ですが、コンピューターの設置等の費用は無視できませんし、自治体単位で数千万円の規模とも聞きました。介護保険制度がこんなに周辺に費用を使うべきか問題のあるところです。審査員に今から急にパソコンの使用を義務づけることも難しい事ですので、我々の審査会では時期尚早という結論でした。

 一つの案として、調査員の調査書や主治医意見書の特記事項に、更新者は前回の調査時と比べて介護の状況は変わったのか・変化ないのかを記載して貰うことにしました。
 出来ることなら調査は同じ調査員が行った方が良い事も提案しましたが、これには賛否両論ありますし、人員的に無理な場合もありますし、申請者にとっては別の角度で調査した方が良い方もあると思います。自治体から派遣される日頃から申請者を知らない調査員の場合は、同じ調査員が調査したとしても半年前の1時間程度の訪問・問診結果を覚えている調査員も少ないでしょう。と言うわけで現実には調査はどうなるかは結論はでていません。
 介護の状況は変化にしても、短時間では判断のしようがない場合もありますが、これは本人や介護者からの聞き取りとなります。厳密な調査ではなく簡単な聞き取りです。初回の判定結果を尊重するならば、こんな簡単なアンケートですが、極端に言えば更新認定はこれしかないかも知れません。参考にする事は出来ると思います。


 勿論問題は多いのですし、その結果を土肥先生はこんな風に推測されます。
認定審査会は、
 状態が少しだけ軽くなった人は1回目の要介護度から変更しないでしょう。
 状態の変わらない人は1回目の要介護度から変更しないでしょう。
 状態が重くなった人は1回目の要介護度より重く変更するでしょう。

と言うことは、全国的に見て認定度は重く変更されることの方が多くなると予想できます。今でさえ大幅な予測違いで保険料の見直しが必要となっていますのに、更新の度に少しづつ結果が重くなるのです。

 これも全て一次判定の欠陥によるもので、こんな判定を続ければ制度自体の存続に拘わることとなるのですが、厚生省に危機感はないのでしょうか。

と言っても、更新時の判定基準が、「介護の手間が前回より変わったかどうか」だけでは、申請者は結果に納得できても、厚生省を納得させられないでしょうから、更新時の認定の工夫を最後に述べます。今後、全国のいろんな審査会での更新の工夫も参考にしたいと思っています。

我々の審査会での工夫
 1.参考資料として、前回の一次判定結果と二次判定結果を揃える
 2.更新時審査会で前回の調査項目が必要となった例では、
  前回の調査結果(介護認定審査会資料・85項目のチェックと状態像)を提出出来るよう工夫する。
  特に個人内逆転を防ぐため、調査項目もチェックする必要がある。
 3.更新時の調査書・主治医意見書に、前回の調査・診察時と比べ変化の具合を記載する。
 4.自治体の調査員の場合、出来るだけ前回の調査員が調査を行うよう工夫する

痴呆・問題行動の認定については次回のお話とします。

           平成12年5月22日  玖珂中央病院 吉岡春紀


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