特別養護老人ホームの個室化政策について

先日の報道では厚労省は介護福祉施設の個室化を表明しました。
読売新聞では「特養ホームを完全個室化へ」
 「厚生労働省は7日までに、原則四人部屋の特別養護老人ホームを、完全個室化する方針を決めた。今後、独居老人や高齢世帯が増え、介護施設への需要が高まることを受けて、高齢者に自宅と同じような暮らしを保障するのが狙い。これに伴い、現在は介護保険から給付している家賃など居住費を、入所者の自己負担とする。介護施設の位置付けを、「収容の場」から「暮らしの場」へと見直す政策転換で、当面は2002年度以降新たに建設される施設が対象になる。施設に「住まい」の要素を持たせる以上、居住費を徴収することとし、現在の月平均五万円前後の自己負担に上乗せする。」

 この報道では個室化は介護福祉施設のアメニティの改善と言うより、介護施設の料金をアップし、入居し辛くして在宅へ誘導するための方針のようですが、介護施設の全館の個室化が果たして必要なのか、介護の現場を知らない事務役員の勝手な政策ではないかと思いますし、2002年以降に新たに建設される介護福祉施設が果たしてどの位必要なのか、介護保険制度後の施設の見通しも何もない政策ではないかと思います。

 有料老人ホームやケアハウスのような、入居者がある程度元気で、身の回りのことも自分で出来るなら、プライバシーを確保できる個室化は必要だと思います。
 しかし現在の特別養護老人ホーム(介護福祉施設)の入居者をみると介護保険制度発足前からの措置入所者を含めてかなり重介護の方も多く入居しておられますし、痴呆の進んだ入居者もいます。重介護者でも意識がはっきりしていれば、場合によっては個室の介護も必要な事はありますが、意識状態に問題のある場合には個室にする意味はありませんし、むしろ意識障害のある重介護者が一人一人別の部屋になると、今のシステムでは介護人数が圧倒的に足りませんし、介護報酬もそれに見合ったシステムではありません。むしろ今の介護スタッフのままで介護を押しつけるならば意識障害のある重介護者は数人一緒の部屋での介護の方が、見守りしながら他の介護や食事介助なども行えます。

 そして欧米のように子供の頃から個室を与えられて育った国民と、むしろ狭い住居で多人数の家族で生活してきた国民とでは個室化の価値観は異なると思われます。従って何でもかんでも欧米並の個室化が果たして必要なのか、また個室化のメリットを享受できる入居者がどの位居られるのかを調べる必要もあると思われます。
 今後新築では全て個室にすることで建設費用は当然アップします。施設の土地代のアップにもなります。特別養護老人ホームは大半が補助金で建設されますが基は税金です。ならば建設費の上がる施設の全室個室化は再検討すべきだと思いますし、まして個室化によって現在の自己負担に居住費を上乗せするならば、払えない者は、入居出来ないと言うことです。現在の自己負担を限界と考えている入居者では月5万円負担増は出来ない相談です。
「収容の場」から「暮らしの場」へと見直す政策転換は結構ですが、介護福祉施設はやはり要介護認定を受けたものしか入所できない「収容の場」です。「暮らしの場」なら認定はいりません。

 むしろ高齢化によって不足するであろう介護施設の代わりに、介護保険を利用しない、要介護認定の必要のない「暮らしの場」としての高齢者の施設の建設を希望します。個人的には養護老人ホームを全国に造ることで、医療・介護とも軽度で、かつ在宅で自立が難しい高齢者の介護が可能だと思います。
 養護老人ホームは 65歳以上の人で、身体、精神、環境(住宅事情や家族との関係等)および経済的な理由により自宅での生活が困難な人たちが入り、生活援助を受ける施設です。入所には措置制度がありますが、この施設なら介護保険は適応されず地域の保険料にも影響しません。この入居条件を緩和して独居や老老で自立が難しい方の施設とすべきです。

 そしてもっと質素でよいから使いやすい施設を作るべきだと思います。
 以前ある新築の介護福祉施設を見学しました。廊下の幅も広く車椅子が行き来でき、部屋も4人部屋は病院の病室に比べると十分に広く、部屋には床暖房が設置されているとの事でした。しかし現実の入居者は4人部屋には脳卒中後遺症で意識障害のある鼻腔栄養の患者さんが2人、寝たきりの患者さん・痴呆患者さんが1人と、また施設全体を見ても部屋の広さとアメニティを実感できる方は少なく、また床暖房は経費がかかるため見学会以外、実際には使われていないとの事でした。
 何のための床暖房なのか、日本の普通の家庭にもない床暖房を建築設計の段階でこの施設に認めたことも税金の無駄遣いだと疑問でした。こんな施設に今度は厚労省は全室個室の建設を義務づけるというのです。

 「収容の場」から「暮らしの場」へと見直す。言葉の響きはいいが勘違いもはなはだしいと思います。特別養護老人ホームの入居者の実態を知らねばまたも税金の無駄遣いを見過ごすことになります。また逆に施設入居者の負担アップは目に見えており将来的にその他の老人保健施設・介護療養型病床にも同じ様な基準で個室化を勧めるつもりでしょう。

 介護施設に個室が必要ならば、自己負担をしても入りたい方にだけに準備できればよいし、過去の需要に応じて施設で決めればよい事だと思います。全室個室化を売り物にするのも自由ですがそん施設なら「要介護4」以上の重介護者は介護できないのではないかと思います。一般には田舎なら個室は1割から2割程度でよいと思います。むしろ厚労省の政策として全国的に全館個室化を義務づければ、また個人負担は増えるわけで、個人負担が払えず行き場を失う要介護者を誰が在宅で介護するのでしょうか。

 そして最初に述べたように、介護施設は現在の所、介護福祉施設(特別養護老人ホーム)に少し新設の枠が残されただけでその他の老人保健施設・介護療養型施設はこれ以上建設費の高い東京・大阪などの大都会を除いて全国的には新設の計画はないのです。
 ならばこの全館個室の介護福祉施設が全国で直ぐにたくさん出来る事はないのですが、それならば今の時期に発表する意味もないのでは無かろうかと思います。疑問の報道でした。

 13年4月11日


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