試算のうち介護保健施設転換の場合の介護報酬を介護型療養病床と間違っていましたので、一部内容を修正しております。

  7月15日


療養病床を削減すれば将来の医療費が抑えられるのでしょうか。

 厚労省は療養病床再編問題は、将来の医療費抑制のために行われると言っています。果たして療養病床を削減すれば、将来医療費抑制の効果があると思っているのでしょうか。疑問に思います。

○療養病床削減の効果

大ざっぱな試算をしてみます。
医療型療養病床や介護型療養病棟を現在の38万床を15万床にするのですから、削減数は23万床です。
そのうち介護型療養病床の廃止は約12万床ですので、残り11万床が医療型療養病床の削減となります。一般病床への転換はないものとします。

介護型療養病棟削減効果
 厚労省の資料では介護型療養病床の入所費用は18年改定後で、月約39万円となっていますので、一人年間468万円となります。468万円の12万人なら年間の年間介護費削減は5,616億円です。

医療型療養病床削減効果
 一方医療型療養病床は11万床の削減ですが、医療区分によって医療費は異なります。厚労省の試算では医療区分1は月36万円、医療区分2は52万円、医療区分3は65万円とされています。医療区分1で36万円の入院料になるのかどうか国の試算はあてになりませんが、ここでは36万円とします。
 また、その医療区分の人数割合は厚労省の予測よりも厳しく、医療区分1が60%、医療区分2が35%、医療区分3は5%程度と予測されていますので、その割合で計算すると、医療型療養病床の平均は月約43万円程度となり、年間では516万円となります。
  年間516万円の削減数11万人では年間医療費削減額は5,676億円となります。

 たとえば今すぐ計画通り、療養病床の介護型廃止・医療型削減を実行したとすれば年間で介護保険費用5616億円、医療保険5676億円の削減が出来ることになります。医療・介護を合計すると、約1兆1,293億円の医療・介護費削減となることになります。

○ 療養病床削減が10年後の医療費抑制になるのでしょうか。

 この療養病床削減による約1.1兆円の医療費・介護費の削減効果はこの療養病床削減計画がすべて実施された年に効果がある訳で、この1.1兆円が医療費の伸びに応じて年々増えるわけではないのです。たとえば10年先にも年間1.1兆円の削減しかないのです。
 医療費全体の延びと違って「定額の病院入院費」は診療報酬が変わらねば全く増える要因はないので、厚労省の言うように療養病床削減により2025年の医療費予測56兆円を46兆円に抑えられるという宣伝は理解できない眉唾の宣伝だと思います。まあ厚労省の医療費予測は全くあてにならないのが常ですが。

 将来の医療費増加は、高度先進医療などの新しい治療法・新薬の認可・検査法の確立・高齢者の人口増加による医療費の自然増などによるものである程度増えてゆくことは避けられませんし、むしろ医療の進歩では増えるべきです。療養病床の削減による医療費削減は将来の医療費の増加とは全く関係のない項目だと考えられます
 また定額で包括化された医療費は、診療報酬で足かせすれば、伸びようはないのです。だからこそ国は急性期病院にもDPCなどの包括化医療を導入し、将来的な医療費増加に備えようとしているのです。

 ということで、10年後-15年後の医療費の伸びを療養病床削減で抑えるられるという発想はおかしいのです。

○ 医療費削減は1.1兆円もあると喜んでいられません。
 (実際は介護保険費用5616億円、医療保険5676億円の削減)

 療養病床削減による患者さんの受け皿作りに、療養病床の介護施設転換が進められようとしています。介護福祉施設(特養老人ホーム)への変換は公的な資金が必要になるので、これ以上国は認めませんので出来ませんが、民間の資金ホ使った介護保健施設(老人保健施設)への変換は国も積極的に認めようとしています。
 しかし別のページで説明した「参酌標準や地域医療計画での解決」が出来ねば、それこそ受け皿作りは空論です。どの程度の割合で転換が実現するか、他の介護保険適応のケアハウスなどの有料老人ホームに転換する場合もあるでしょうし、転換もできず病棟閉鎖や廃院になる施設もあるかもしれません。

23万床全部が介護保健施設になったら

 もし、その全部が老人保健施設に変換したとすれば、現在の内科系介護療養病床の入院患者さんの要介護度は要介護4〜5のレベルの方が大半ですが、整形外科やリハビリの療養病床や内臓疾患の患者さんでは要介護度が低い場合もあり、転換後の老人保健施設の入所報酬を「要介護度4」程度で計算すれば1日9,200円、月に約28万円です。食費など含めて月の介護費用は35万位ですので、年間にすれば420万円です。23万人では9,660億円の介護保険の報酬が増えることになります。
 ただし10月からは食費や住居費は患者負担になりますので、国の介護保険による増はこの額より減るものと思います。

 ここまで計算すれば、医療療養病床を削減することは無く、報酬制度を少し調整すれば良いことに気付くはずなのですが。医療費を削減することが義務づけられた役人には解らないのでしょうか。


 介護保険費用は介護保健施設転換分9,660億円の増と介護療養病床削減5,616億円の減で結局4,044億円の増加、医療保険は医療療養病床11万床削減の5,676億円の減ですので、結局医療・介護をまとめると、医療・介護費として約1,632億円の削減効果しかないことになります。これでは療養病床の23万床削減に何の意味もありません

介護保健施設転換7割りなら

「医療難民・介護難民はつくらない・受け皿作りは確実にする」という公約ですので、国は転換の政策は勧めるでしょうから、もし7割くらいが介護保健施設に転換実現できたと仮定し(厚労省の試案です)、介護保健施設への転換を7割とすると、介護保険費用は9,660億円から6,762億円の増加になります。医療保険の削減は5676億円減のままですので、差し引き約1,086億円、年間の経済効果は年間約1,000億円としかないことになります。
 介護保健施設への転換を7割としたら、それでも約7万人の人たちは受け皿不足で、別の施設にはいるか、在宅に戻るか医療難民・介護難民になる事ですし、他の施設の入所や在宅での医療費・介護費もそこそこ必要ですので、その増加分はわかりませんが、削減の経済効果はもっと減り1,000億円以下になるのではないでしょうか。

 これだけの激変政策をとり、日本の入院制度を崩壊させ、介護・医療難民をあふれさせても、年間1,000-1,500億円程度の効果しかないとも言えます。

 そして何度も言いますが10年先に国が言うように医療費が大幅に増えたとしても、その全医療費の中での効果しかないのです。
 

 団塊の世代が高齢化する10年後以降には、高齢者があふれ、もっと療養病床や介護を必要とする施設は必要となるはずです。医療費削減が命題でこの政策を強行した厚労省のお役人は、そんなことは解っているのでしょうが、医療費減らしは、「簡単に減られるところから」・「自分の仕事で後は知らない」といういつもの発想なのでしょう。

医療保険と介護保険の整合性が必要です

 全国・各地域で必要な療養病床の数、介護施設の数などを医療制度と介護保険制度の整合性を計りながら、調整してゆかねばなりません。
 医療費の削減ができても、介護保険料が増えたのでは何もなりませんし、何より地域の医療供給体制の確保は必要で、崩壊させてはなりません。医療・介護の両者で地域の入院、入所数や診療・介護報酬を医療制度・介護保険制度と同じ土俵で検討すべきです。

療養病床の位置づけ

 その際に療養病床の位置づけをはっきりさせることは必要です。
個人的には、医療療養病床は、急性期の一般病院と介護保険施設との間に位置づけ、入院機能としては、急性期の治療が終わって長期の医療継続が必要になった患者さんが安心して医療・看護が続けられる医療保険の入院施設とすべきだと考えます。

 その時には、一般病院とは分けて考えるべきで、いつも話題になる日本の入院施設の平均在院日数の算定などからは外すべきです。
 昔は中間施設として、老人保健施設があったのですが、いつの間にかに介護保険制度に取り込まれて中間施設という言葉も無くなりました。中間施設と言いながら医師の常駐がないこと、医療機器の無いこと、薬局もないこと、外来の無いこと、看護職員の少ない事などで一般病院から在宅への中間施設と言う意味であり、医療の継続が難しい施設だったのが大きな問題でした。


 療養病床を中間施設とする目的は一般急性期病院とはっきり区別することが、世界的な統計でも必要になります。しかし、これまでの中間施設とは違って、医師の配置や看護の基準は今の療養病床の基準を守り、病院としての医療継続ができる施設であるべきですし、一部の急性期疾患も療養病床で入院治療出来る報酬を入れれば地域の患者さんの受け皿にもなるし、外来診療も行える施設なら地域医療に貢献できるのではないかと思います。療養病床の形態そのものはいまの療養病床と変わらなくて良いと思います。制度上中間入院施設とします。

 診療報酬については、医療と介護の検討の中で決められれば良いと思いますので、これによって療養病床の健全な運営ができれば、高報酬は必要ないと思います。

 今回の改革の中で、医療区分の設定・社会的入院の定義・介護施設の全廃・療養病床の削減などいろんな問題はありますが、一番欠如しているのは拙速に実施されるため考える時間・検討の時間が全くない、厚労省の一部の職員による強引な改定だということです。

 介護施設に転換するにしろ、療養病床を削減するにしろ、時間が必要です。受け皿もなく放り出される医療難民が大量に発生するか、可愛そうで放り出せない療養病床が経営できずに潰れてしまうのか、いずれにしろ惨めな結果が予測されます。
 現場の関係者・国民にもマスコミにも正しい現状を伝えて議論することが必要ではないでしょうか

 平成18年7月12日 吉岡春紀 15日一部修正