一次判定ソフトの改訂について

一次判定ソフトの見直し

 『要介護認定の1次判定ソフトの見直し作業を進めていた厚生労働省は3月28日、要介護認定調査検討会(委員長=開原成允・医療情報システム開発センター長)を約11か月ぶりに開き、改訂版ソフトの概要を報告した。検討会は、現在のソフトよりも介護にかかる時間の推計精度が向上するとして、2003年4月からの本格導入に向け、モデル事業での使用を了承した。』

 こんな報道がされました。
 そして第10回要介護認定調査検討会参考資料(2002/4/11作成)がWAM NETでも公開されています。

 改訂版では、訪問調査の項目数や樹形図が変更されていますが、いわゆる動ける痴呆が実際よりも低く判定されるという問題は、改訂版でも完全には解消されておらず、引き続き検討課題となったようです。

第10回要介護認定調査検討会参考資料による(紺色の文字は資料の写しです)

要介護認定一次判定ソフト改訂の進捗状況について

1 これまでの経緯
 要介護認定では、コンピューターによる一次判定結果を基に、保健・医療・福祉の専門家5名程度からなる合議体により二次判定(最終判定)が行われているところであるが、痴呆性高齢者(運動機能の低下していないケース)の一次判定要介護度が低く出るなどの指摘があった。
 このため、平成12年8月に「要介護認定調査検討会」(委員長:開原成允(財)医療情報システム開発センター理事長)を設置するとともに、平成13年に施設及び在宅での介護実態調査や、全国の要介護認定状況に関する調査を実施し、一次判定のコンピューターソフトの改善を行った。

2 主な内容
 @コンピューターによる一次判定の推計精度が向上(別添1)
  (認定調査と審査の効率化)  
 別添1の表は推計ケア時間と実測ケア時間を対比させたものであるが、要介護認定の一次判定の始まる前の平成7年度の「サービス供給調査」2896人と、平成13年に実施された「高齢者介護実態調査 施設」4478人の比較がされ、13年度版では推計精度が上がったと言っているのです。平成7年の調査結果と比べる意味があるのでしょうか。比べるのなら今の一次判定と改定一次判定を比較して、改訂一次判定の方が精度の向上があったというのならわかります。
 なぜ平成7年のデータを持ち出したのか説明がいります。

 A痴呆性高齢者(運動性機能の低下していないケース)についてより適正に審査判定が可能(別添3) 
  (二次判定の資料に目印を付し注意を促す)

 認定審査会に提出される資料の一次判定結果の要介護等基準時間の側に枠が設けられており、運動性能力の低下していない痴呆性高齢者はこの枠にチェックして二次判定の際に注意を促すとなっているのです。要するに改訂一次判定ソフトでも動ける痴呆では要介護度の正しい判定が行えないため、二次判定で要介護度を増やす目印を付けておくと言う事で、済ませてしまったことです。何の改訂にもなっていないのではないでしょうか。

 B在宅調査においても、妥当に要介護度を区分することを確認(別添4)
 別添えの資料は要介護度別に改定一次判定と実測ケア時間の分布を示していますが、見た目では平均値と標準偏差を示しており、要介護度に有意の差が見られそうですが、施設・在宅共に自立・要支援・要介護1等は平均時間も標準偏差も重なっており統計的にも有意差を求めることは出来ないと思います。特に在宅での実測介護時間と要介護度の区分はこれで認定できるのか疑問です。もし統計的にこれらが有意に分類できるのなら統計学的な検討を加えるべきです。

3 今後の予定           
 ○要介護認定モデル事業(新たなコンピューターソフトに基づく要介護認定を試行的に実施し、審査判定等の現場で円滑に機能するかについて検証)
  ・本年6月:一次モデル事業(約30市町村)
  ・秋以降:二次モデル事業(全市町村) 

 ○平成15年4月:新たなコンピューターソフトに基づく要介護認定を導入

 本年6月から全国30市町村で、改訂一次判定ソフトを使ったモデル事業が始まったようです。また全市町村で秋には全国的な検討が行われ、来年4月からは新しいソフトでの認定を始めるようです。

 改訂一次判定ソフトの中身を知りませんので、無責任な批判はすべきではないと思いますが、第10回要介護認定調査検討会参考資料を読む限り、問題解決は出来ていないと思います。

 この問題に詳しい尾形医師のホームページには改訂一次判定のシミュレーションソフトも公開され、新旧のソフトでの一次判定を知ることも出来ます。

 また尾形先生は「改訂版一次判定ソフトは痴呆性高齢者については全体的に高めの要介護度が判定されるようになってはいるが、相変わらずの逆転現象は改善されず、審査会による二次判定に寄与しないと思います。」と結論されています。

 追加 その後の情報で、一次判定ソフト上州街道の作者の橋本先生のホームページでも改訂版の一次判定の問題点が指摘されています。EXCELで動作する模擬一次判定ソフト改訂版もダウンロード可能ですので是非アクセスしてみてください。

 またシルバー新報5月10日号「要介護認定 1次判定ソフト 改訂を問う 上 」で広島県立保健福祉大学教授 住居先生は「改訂によって、一次判定ソフトの精度が上がったと説明されているが、従来からの問題解決されておらずされ、課題となっていた痴呆認定も改善は見込まれない」と厳しい評価をされています。

 進捗状況の参考資料や一次判定ソフトの専門家たちの評価と併せて考えても、今回の改訂一次判定ソフトが、今の一次判定の欠陥を解決するソフトとはなっていないと考えた方が良いでしょう。

 いずれにしろ6月からは全国のモデル地区で試行が始まっています。まもなくその評価は出るでしょう。下に現行の一次判定の調査項目と改訂の調査項目を示します。現行の調査のうち赤いバックの12項目が削除され、改訂版ではブルーのバックの6項目が新たに設定され、5群のひどい物忘れは7群の問題行為に移行されています。
 確認はされていないのですが、改訂版では調査員の「日常生活自立度」「痴呆度」の評価がはずされ、主治医意見書だけになっているとの報告もあります。調査からこれを外した意味がわかりません。詳しい改訂資料がわかりましたら、またご紹介します。

 平成14年7月2日 23日追加改訂


別添2
調査項目の変更

現行一次判定
改訂一次判定

現行一次判定
改訂一次判定

第1群

麻痺

麻痺

第6群

視力

視力

(麻痺拘縮)

拘縮

拘縮

(意志疎通)

聴力

聴力

第2群

寝返り

寝返り

意思の伝達

意思の伝達

(移動)

起き上がり

起き上がり

指示への反応

指示への反応

両足での座位

両足での座位

毎日の日課理解

毎日の日課理解

両足つかない座位

生年月日をいう

生年月日をいう

両足での立位

両足での立位

短期記憶

短期記憶

歩行

歩行

自分の名前をいう

自分の名前をいう

移乗

移乗

今の季節を理解

今の季節を理解

移動

場所の理解

場所の理解

第3群

立ち上がり

立ち上がり

第7群

被害的

被害的

(複雑動作)

片足での立位

片足での立位

(問題行動)

作話

作話

浴槽の出入り

幻視幻聴

幻視幻聴

洗身

洗身

感情が不安定

感情が不安定

第4群

じょくそう

じょくそう

昼夜逆転

昼夜逆転

(特別介護)

皮膚疾患

皮膚疾患

暴言暴行

暴言暴行

片手胸元持ち上げ

同じ話をする

同じ話をする

嚥下

嚥下

大声をだす

大声をだす

尿意

排尿

介護に抵抗

介護に抵抗

便意

排便

常時の徘徊

常時の徘徊

排尿後の後始末

落ち着きなし

落ち着きなし

排便後の後始末

外出して戻れない

外出して戻れない

食事摂取

食事摂取

一人で出たがる

一人で出たがる

飲水摂取

収集癖

収集癖

第5群

口腔清浄

口腔清浄

火の不始末

火の不始末

(身の回り)

洗顔

洗顔

物や衣類を壊す

物や衣類を壊す

整髪

整髪

不潔行為

不潔行為

つめ切り

つめ切り

異食行動

異食行動

ボタンかけ

性的迷惑行為

上衣の着脱

上衣の着脱

ひどい物忘れ

ズボンの着脱

ズボンの着脱

靴下の着脱

居室の掃除

薬の内服

薬の内服

金銭の管理

金銭の管理

ひどい物忘れ

7に移動

周囲への無関心

電話の利用

日常の意志決定


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