要介護認定制度の改革案

  報道によると厚労省も介護保険制度・中でも要介護認定制度の見直しに着手したと言われています。どんな改革がなされるのか分かりませんが、私も要介護認定制度は変えるべきだと思っていますので個人的な考えを少し述べたいと思います。すでに述べてきたことですが、介護保険も医療保険と同様に本来は「誰でもが、いつでも、必要になったときに介護を申請し、すぐに介護サービスが受けられるシステム」にすべきだと思いますし、そのためには今の様な複雑な要介護認定制度は必要ないと思っています。

 要介護認定制度の改善案と言っても、考え方は色々あると思います。
 今のデタラメな一次判定ソフトを改善し、逆転現象をなくし、痴呆や問題行動にも出来るだけ申請者の実状が反映されるように、主に一次判定ソフトを作り替える方向ですすむのか、また逆に要介護認定制度を簡略化し、コンピューターを使っても困難である厳しいランク付けや、意味のない支給限度額設定を簡素化する方向もあると思います。
 私は個人的には後者の方向が良いと思っています。そして前述したように介護保険制度を「誰でもが、いつでも、必要になったときに介護を申請し、すぐに介護サービスが受けられるシステム」にするならば、いまの要介護認定制度はシステムからも、経済的にも改善する必要があると考えます。要するに
「要介護認定にあまりお金と時間と労力を掛ける必要はない」と言うのが、私の結論ではあります。

 そこで、要介護認定制度を簡素化するための提案として、今の改善案を述べてみたいと思います。
 ただし、主に在宅の要介護認定を中心に考えており、施設の認定・サービスの方法・報酬などは結論はでていませんのでまた改めて考えてみたいと思います。

要介護認定制度改革案
 
1.要介護認定制度の見直し・簡略化
 
2.要介護度の判定方法の改定
 
3.要介護度と支給限度額
 4.ケアマネの職種の専門化・細分化 (認定調査ケアマネと介護支援ケアマネ)
 
5.介護認定・サービス調整委員会
 6.施設サービスの認定
 7.介護保険制度によらない施設の設置
 8.今後の不安

1.要介護認定審査は見直し簡略化する

 まず今の制度では介護サービスを受けるまでに時間がかかりすぎ、申請から認定まで1ヶ月もかかるのではすぐにサービスを受けることは出来ません。認定前の介護サービスの暫定的な利用も可能ではありますが、厳しい区分と利用限度額の設定があり、今の認定審査制度には問題があります。

 また一次判定ソフトの欠陥以外にも、要介護認定制度を見直すべきと言う理由の一つは現在の要介護認定では、申請者の家庭環境・住宅の環境などを勘案できない認定制度であることです。
 介護の必要性を把握し,介護保険のサービスを提供する基準は,本人の心身の状況だけでなく,申請者の家庭環境や住宅環境などの生活・介護環境を総合的に判断できる基準でなければなりません。もっと言えば在宅医療や在宅介護が可能となるような地域の医療・看護・介護環境を整えることも必要です。
 これを無視した介護はあり得ないのであり、年齢や家族構成、家庭環境、住居環境だけで介護が必要かどうかが決まってしまうこともあります。むしろ要介護度によらず周りから介護の手を差し伸べなくてはならない高齢者は多いと思います。
 これらの指標は点数化出来ないため要介護度のコンピューターによる一次判定には採用されなかったと考えますが、こんな大事な要因を要介護度の判定に組み入れられないものならば悪評高いコンピューターによる一次判定そのものを止めれば良いと思っています。

 今の厳密な要介護区分認定を廃止し、介護を必要としている人に、必要度に応じて介護サービスを提供できる制度に変えるべきです。
 要介護の区分認定は個人的には全て廃止しても良いと思いますが、すぐには混乱するでしょうから妥協案として今のような自立+6段階の区別を、軽介護・中介護・重介護の3ランク位の認定にする事を提案します。
 そしてこの程度の介護ランクの認定を下記の方法で行うなら認定審査会もコンピューター判定も必要ないものとなるでしょう。

2.要介護度の判定方法の改定

 認定調査と認定審査そのものを現在の認定審査会方式を止めて、専任の認定調査員「自治体のケアマネ」に任せる事にします。

 自治体は介護認定調査専門のケアマネを採用し、介護度の認定は彼らの判断・現場の裁量に委ねることにします。
 この認定調査員はケアマネに限る必要はありませんが、やはり正式な国家資格を持った調査員にはケアマネの資格は必要だと思います。
 民間事業所や施設に属さない各自治体の職員として認定調査に当たることで、ひも付きの認定調査が減り、公平・公正な認定を行うことが可能になると思います。小さな町村や一つの自治体で専任の認定調査員の雇用が難しければ、広域の市町村でケアマネを採用・養成しても良いと思います。
 認定調査の認定の基準として要介護認定の場では少しづつ認知されつつある「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)」と「痴呆性老人の日常生活自立度(痴呆度)」などをもっと工夫し分かりやすく改定し、それを基礎にすれば,おおまかな介護度の判断は可能と考えます。
 その結果と、前述した家庭・住居環境などを加味して、介護サービスの提供が必要かどうかを調査員が主に認定すればよいと思います。

 現在のような7ランクに分類するような厳しい判定制度では、「寝たきり度や痴呆度」のような大ざっぱな分類は目安とはなっても最終判定には馴染まないと思っていますが、3ランク程度の分類になるならば、この程度の自立度分類と概況調査で十分であろうと思います。
 要介護認定審査会を廃止することで、後述しますが、かなりの経費節減になり、この経費を回せば公的な介護認定調査専門ケアマネの雇用は可能であると思います。

3.要介護度と支給限度額

 勿論、同時に要介護度毎の意味のない支給限度額も廃止し,申請者が希望し、申請者にとって必要だとケアマネが判断し,ケアプランに書き込まれたサービスについては,すべて保険給付の対象とすべきです。

 要介護度と支給限度額の決定は、保険料率の設定の基礎となるため必要だとしても、3ランクの限度額なら軽介護・中介護・重介護の大きな限度額の設定で良く、今の制度での改正したいことは、限度額以上のサービスが必要となった場合、限度額をオーバーした金額は現在のように全額自己負担とせず、例えば限度額以上のサービスの自己負担は2割負担にすると言うような制度にすれば本当に必要な方は利用されるだろうと思います。
 また介護保険制度の在宅最高支給限度額(例えば施設の上限に近い45万円とする)だけを設定しておけば、要介護度の限度額以上で最高支給限度額月45万円までサービスは2割とか3割負担で可能にすれば、もっとサービスが必要な人は、少しの負担追加で使えるのではないかと考えます。
 要するに要介護度で決められた以上のサービスも、公的なケアマネが必要と認め、申請者が必要なら少しの負担で受けられる制度を作りたいと思っている訳で、限度額以上は全額自己負担にする今のシステムは、限度額の基準となる要介護度の決定に大きな問題があるわけですから、
限度額以上のサービスは負担割合を少し増やして利用できる制度に変える。こんな解決策を考えても良いのではないでしょうか。

4.ケアマネの職種の専門化・細分化 (認定調査ケアマネと介護支援ケアマネ)

 医療保険と違うのは、「誰でも・どこでも・すぐに」と言っても無制限に行うわけではなく、最初の訪問調査と介護度の認定は自治体の介護認定調査専門ケアマネの仕事として確立する事にします。
 介護認定調査専門ケアマネは申請者の状態や家庭環境を調査し、要介護度を決め地域でのサービス内容、申請者の希望(支払い能力も含む)を調査し、その後のケアプラン作成や主治医との調整・サービスの調整は地域の介護支援ケアマネに任ることにします。

 ケアプラン作成まで認定調査専門ケアマネが行う事のほうが調査と認定サービスに一貫性があり認定とケアプラン作成の調査が二度手間にならずに済むと思いますが、認定調査専門のケアマネはこれだけで仕事は手一杯になると考えますし、と言って民間ケアマネに認定調査はを任せることには抵抗があるためケアマネを細分化する事にしました。

 要するに認定を行うケアマネとケアプラン作成の介護支援ケアマネを作ることにするのです。そして認定を行うケアマネは自治体に所属し、どの支援事業にも属さない事を条件とします。

 介護支援ケアマネは,現在のシステムと同じように本人や家族の意見を聞きながら,必要なサービスの種類と量を決め,主治医との調整も行いケアプランを作成します。在宅介護サービス給付は,このケアプランを市町村に提出してからすぐに可能とします。

具体的には介護サービスの希望者は

 介護申請を市町村に申請する---->自治体の介護認定調査専門ケアマネが家庭を訪問し、調査し、本人の状態と家族の希望を聞き、介護度とサービスの内容を決める---->サービスの種類によって地域の介護支援ケアマネを紹介する---->介護支援ケアマネはケアプランを作成し、介護者の了解が得られれば介護サービスの調整を行う。---->介護サービスを受ける。

 在宅の1ヶ月以内の短期間のサービスはこれで済ませ他の手続きは必要としません。
 1ヶ月を超える介護サービスや医療が必要となる場合には、その間に介護支援ケアマネは主治医との調整を行い、主治医は意見書を提出し、介護支援ケアマネは調査と意見書を参考にケアプランを作成し、主治医や他のサービス提供者と協議の上ケアプランを実施します。

 このようなシステムなら、例えば日頃は自分で何とか生活できている老人の一人暮らしの申請者が、急性疾患で体調を崩した場合など1週間とか1ヶ月以内の短期間の介護サービスも受けることが可能です。
 介護保険制度の英訳はLong Term Care Insuranceであり本来の介護保険制度の目的は長期の介護保険であることは理解していますが、逆に介護家族のいない高齢者にはこんな介護サービスがあっても良いのではないでしょうか。

5.介護認定・サービス調整委員会

 今の認定審査会に変わる介護認定・サービス調整委員会をつくり、月に1-2度、介護認定調査専門ケアマネや介護支援ケアマネによって提出された介護度認定やサービス供給に問題のあるケースはこの調整委員会で検討することにします。

 このような認定と実施方法にすれば現在の介護認定審査会は不要で、将来的には認定審査会の開催や問題の多いコンピュータ一次判定を廃止する事で、事務量が簡素化でき、これに係る経費や労力は大幅に削減出来ます。

 先日の新聞報道では、関西のある自治体の試案では全国の要介護認定に係る事務経費は年間500億円とも言われていますし、自治体に設置されたコンピューター関連の費用を含めればこの数字をかなり上回るものと考えられます。武蔵野市の土屋市長の試算では介護保険制度の事務経費は全国で年間2000億円とも試算されています。

 いずれにしろこのような高額の経費が削減でき、本来の介護サービスに利用できるし、問題となっているケアマネの身分保証や報酬の問題も改善できるのではないかと考えています。

以上が在宅の申請者に対する要介護認定審査の改善案です。

6.施設サービスの認定 施設には要介護度別の報酬制度は必要としない

 施設サービスについては、施設入所・入院の時点で介護者が市町村に届け出ることとし、入院・入所時に各施設の主治医と施設ケアマネから要介護者の主治医意見書とケアプランを提出させ、問題のある例は介護認定・サービス調整委員会で検討することとします。

 また介護療養施設の認定も各都道府県で進捗状況に差があり全国ではまだ19万床と言う予定数を確保できていません。この原因には医療型・介護型にわける意味が無いことと、医療機関においては介護型に変更申請するメリットがないこともあげられています。また逆に一部自治体では地域の予想数以上の介護型病床数の増加で保険料のアップを見直さざるを得なくなり自治体の希望で介護型病床を減らし医療型に戻した事例もあります。

 そこで療養型病床群をもう一度見直し、療養型病床群は長期間の医療や看護や介護を総合的に行う施設とし、医療型・介護型などの施設の区分は行わず、施設から主治医意見書とケアプランが提出された入院者は介護保険適応・その他は医療保険適応として扱えば、病床の有効利用も可能であるし、今のような意味のない施設申請届け出は不要になります。そして施設サービスでは基本的には中等度以上の要介護度の申請者が入所することにしますが、主治医より施設介護が必要と判断されれば厳密な要介護認定審査も必要ないと考えます。介護報酬制度には要介護度の区分は必要ないと考えます。実際に医療型療養病棟では疾患の重症度別の診療報酬制度はありません。

 施設サービスでは今の上限のない医療保険と違って、介護福祉施設(特別養護老人ホーム)、老人保健施設(介護保健施設)、療養型病床群(介護療養施設)とも、これまでのような施設別の1日単位の定額制で行えば、施設の介護料は将来的にも無制限な高騰はありえません。むしろ現行の厳しい病床規制により施設の新規開業が押さえられるため、高齢化の進む将来に必要な施設が足らなくなる事が問題となるでしょう。

 そのためには介護福祉施設の設置は、もっと全国的に必要と思いますが、介護費用の高騰や地域の保険料を考えると、増設するのはこれら介護施設、特にこれから補助金を使った特別養護老人ホームやケアハウスでなく、公的な養護老人ホームの増設を真剣に考えるべきだとおもいます。

7.介護保険制度によらない施設の設置

 養護老人ホームは「65歳以上の、身体、精神、環境(住宅事情や家族との関係等)および経済的な理由により自宅での生活が困難な人たちが入り、生活援助を受ける施設」とされ全国で施設数は約950、入居者数約64,000人と言われています。

 現在の低所得者を対象とする入居の基準を緩和し軽介護の老人も利用できれば、介護施設の受け皿不足を解消する事もできます。高齢化社会に向けて今の介護施設では圧倒的に施設数は少ないのです。養護老人ホームは介護保険制度の適応はありませんが、この施設の建設なら自治体の保険料の問題はなく賛成も得られるものと思います。

 一方、国が推奨しているケアハウスは「身体機能の低下があったり(自炊ができない程度)、高齢のため独立して生活するのに不安がある人たちが利用できる施設で、住宅と同じような位置付けで必要な場合には、ホームヘルプサービスやデイサービスセンターなどの在宅サービスも利用できるのが特徴である」とされていますが、施設に入っていながら外部のホームヘルプサービスなどの介護保険のサービスを介護保険で利用できるなど、何かすっきりしません。ケアハウスと関連施設の癒着も問題となります。

 ある町ではこの施設の入居者がすべてその町の住民となったために介護サービス急に増え保険料の高騰を招いている事も報告されています。介護保険制度の今後の介護費用高騰化の問題は私は在宅介護費だと思っています。

8.今後の不安

介護費の高騰

 厚生省は,出来高払いの現行の医療保険制度の仕組みが,給付費の高騰を生み,医療保険財政の切迫につながったという認識のもと,医療保険財政の二の舞は避けたいという意図で,介護保険の保険給付に支給限度額を設定したのでしょう。

 介護保険での施設入院・入所費は月30-40万円程度と決められており、施設数が制限されればこれ以上は増加することはありません。従ってただちに医療保険のようなサービス給付費の高騰が生じるとは考えにくい事です。

 ただ問題は、医療保険と違って介護保険制度では施設への入院・入所の総額の費用は把握しやすいが、今後高齢化にともなって、在宅での要介護人口が急増した場合には今の保険料や保険制度を維持できるかどうかは不安です。
 と言うのは老人の在宅の医療費(外来診療費)に比べ在宅介護費用は圧倒的に介護保険サービスの方が高額であるからです。

 要介護認定制度の矛盾や一次判定の欠陥について述べてきましたが、このままの今の要介護認定を続けることは介護保険制度そのものを潰してしまう可能性を秘めています。

 早急に制度の見直しが必要であると言う訴えは続けて行かねばなりません。
 
そして「介護」とか「福祉」と言う言葉には、「暖かさ」や「温もり」があると思います。しかし今の要介護認定は、その「暖かさ」や「温もり」を無視した「冷たい」「非情な」制度となってしまっています。

 せめて介護保険制度には「暖かさ」や「温もり」を持った制度であり続けて欲しいと願っています。

            平成13年7月14日  吉岡春紀


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