2018年診療報酬改定    

介護医療院の新設について

        玖珂中央病院 吉岡春紀

           玖珂医師会会報 30年7月号 投稿  執筆は5月末現在

 

「介護医療院とはどんな施設なのか」と言う質問を沢山受ける事が多くなりました。

2018年4月からの診療報酬改定で、年明けからこの施設の概要が少しずつ分かってきましたが、何故か小出しの情報で3月までほとんど全容が分かりませんでした。

5月末の時点では山口県ではまだどこにも申請・認可されたという話は無いので、どんな問題があるのか、今後どの方向に向かうのか、私にもまだハッキリはしませんが、少しずつ全体像が見えてきました。

 

当初から言われていた介護療養病床の廃止に伴う受け皿として新設するということでなく、むしろ医療療養病床再編(削減)の引き金となる施設だと言うことが分かってきました。

ここでは、個人的な見解として介護医療院についての意見を述べてみます。

私の勘違いや間違いもあるかもわかりません、あくまで個人の見解としてお読み下さい。

 

前述しましたように当初、介護医療院は介護療養病床廃止に伴う受け皿と言われて

いましたし、そう考えていました。

ただ今回正式?に介護療養病床は廃止が決まりましたので(と言っても、介護療養病床の廃止は当初は2006年に決まり、5年後の2011年廃止となっていたのですが、その後政治的判断で伸び伸びとなり再度2016年に、2017年末に廃止と決まりながら、これも延期となり、結局今年2018年改定で正式に廃止と決まりました。しかし、それも何故か6年の経過措置となったので、ほぼ20年間先送りになったものです。

国の優柔不断な政策の最たるものであったと思います。何故か経過措置が6年以上ありますので慌てることはなくなりました)、介護療養病床を直ぐに介護医療院に転換する必要は無くなった事になりました。

 

しかし施設転換の優遇措置が色々ありますので、その間には、多くの介護療養病床は介護医療院に変わると思いますし6年間待つ医療機関は少ないと思います。

むしろ今回の改定で突然、医療療養病床の看護基準が厳しくなり、入院基本料は看護基準の厳しい方の20対1に制限され、25対1は原則廃止になる事になりましたので、むしろ看護基準が満たされない25対1の医療療養病床からの変換が予想される状態になりました。国はこれを目論んでいたものと思います。

 

厚労省によると介護医療院の定義は「介護医療院とは、要介護者であって、主として長期にわたり療養が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」と定義されています。

施設の基準は療養室については、定員4名以下、床面積を8.0u/人以上 となっており現在の老人保健施設と同じですが、当分の間改築するまでは医療の病室の基準6.4uが猶予されています。介護医療院の特徴は既存の病院の病棟・病室がそのまま使え、新規の介護医療院の建築は必要無いのが特徴で、療養病床はそのまま使えます。また医師の当直などは併設された療養病床と一緒に行えるようですので、介護医療院だけの専任の当直医は必要無いようですし、また給食などもそのまま変更無く行えるようです。ただ介護医療院の設置にはスプリンクラーの設置が義務づけられた

ようですので、スプリンクラー未実施の医療機関の転換は認められておらず設備投資も必要になります。

また看板が必要なのか、呼び方をどうするのかはこれからの課題です。

 

介護保険を使った施設で有り、今まである介護療養病床と老人保健施設の間の施設と言えます。特に介護療養病床からはほぼ全体が変換されることになりそうですし、老人保健施設も一部逆変換があると思います。

 

今回公開された診療報酬では、介護医療院は、どの病院からの転院も「在宅」退院扱いのため、また自院内の転院も在宅退院同等と認められるため、その価値が上がっています。これからの経営を考えると色んな病院からの在宅復帰の算定出来る介護医療院への変換も進むかもしれません。

 

特に地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟では、これまで認められていた在宅復帰算定の医療療養病床への転院が、今回から在宅復帰に認められなくなったので、現在、退院先探しに苦労していると思いますので医療の継続が必要なら転院先は介護医療院しかないとも言えます。医療の継続や看取りなどは、病院に併設した介護医療院しかできないと思います。

 

介護医療院の介護報酬では介護保険の要介護度で報酬が決まりますが、医療の必要度、喀痰吸引、経管栄養、インシュリン注射、ターミナルケアなどこれまで介護施設で行われ難かった医療を行う施設となっています。しかし介護申請で要支援判定者の対応は未定ですし、要介護度は医療の重症度とは関係ありませんので、高度の医療継続は介護報酬では対応出来ないと思います。

 

も一つ介護医療院への転換については大きな優遇制度があり、移行定着支援加算として介護費用に一人1日93単位の報酬が認められました。但しこれは1年間限定のようですし、今後2年以内に変換した場合だけですので、厚労省は何が何でも早期に介護医療院への変換を勧めています。

まだ一般病院や有床診療所から介護医療院への変換は認められていませんが、2年を過ぎて変換が少なければ一般病院内の介護医療院も認められることになるのでしょうか。

 

続いて介護医療院の医療療養病床への影響について考えてみます。

何度も書きますが今回の介護医療院は介護療養病床の廃止に伴う受け皿としての施設新設という考えだと思っていましたが、介護保険を使っている介護療養病床を減らしても、新設された介護医療院も介護保険を利用して、介護報酬も介護療養病床とほとんど差が無いので、医療費削減にはならず、また介護療養病床の変換期限が約6年先まで措置期間として認められ、それなら何故今なのか不思議に思っていました。

 

ところが厚労省の考えは医療費削減のための病床削減で有り、医療保険を使う病院の病床を削減するのが主な目的だったのです。そして介護医療院へのターゲットは医療療養病床の削減が主目的だと気づきます。

勿論将来的には地域の人口など実情にあった急性期病床の再編・削減も考えられており、10対1以下の13対1,15対1の看護の病院も急性期から外して回復期の医療を担う病院に変換させるつもりだと思います。

しかし、15年後20年後には人口も減り、高齢人口がピークを超せば病床数は自然に減ると思います。今混乱させて色んな施設新設や変換する意味がわかりません。

 

今回の診療報酬改定では、当初医療療養病床は報酬や施設基準など余り変化ないものと思っていました。

今までは同一医療機関で、療養病棟入院料1を算定する病棟と療養病棟入院料2を算定する病棟を、それぞれ別々に届け出ることが可能になっており病棟で別々の診療報酬体系が可能となっていました。療養病棟入院料1は看護基準が20対1、療養病棟入院料2は25対1でした。またこの療養病棟入院料1.2には入院患者の医療区分に制限が有り、療養病棟入

院料1は医療区分2.3が8割以上、療養病棟入院料2は医療区分2.3が5割以上となっていました。

 

ところが、今回の改定では療養病棟入院基本料は、同じ医療機関で療養病棟入院料1と療養病棟入院料2を同時に届け出ることは出来ないとされ、どちらかを選ぶしかない状態になったのです。これは当初予想していなかった突然の大きな制限で、経過措置はありますが、20対1を満たさない場合や医療区分2.3が50%を満たさない場合に療養病棟入院料2を選択した場合、これまでの診療報酬は1割カットされることになりました。突然入院報酬の1割カット、これはひどい改定ですし、介護医療院への誘導政策です。

 

また療養病棟入院料1では急性期病院からの在宅復帰率の受け皿として申請していた在宅復帰加算も、同一の療養病棟入院基本料1を算定するためにはその病棟も在宅復帰率を申請しなくてはならなくなり合わせると復帰率5割を維持することが困難な場合もあります。

ただこれまでは在宅復帰加算は1日10点しかなくメリットは余りありませんでしたが、今回から50点に加算が上乗せされましたので療養病床でも早期退院を推進するしかなくなります。いつまでこの加算が続くのか疑問ですが。

 

また急性期7対1病院からの転院は、一般病院への転院以外、ほぼどの病院や介護施設も在宅並みの対応となりましたが、逆に地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟からの転院は療養病床には在宅復帰として認められなくなりましたので、そのうち医療療養病床の在宅復帰加算が不要になると思われます。

 

このように医療療養病床では、将来的に見ても看護基準20対1以外の病棟は認められなくなります。そうなれば別の生き残りを模索することになりますが、介護医療院は、現在その受け皿としてクローズアップされます。

そして前述しましたように経過措置期間の優遇制度やどの病院からの在宅並みの施設として認められているので、介護療養病床の変換までに医療療養病床からの変換が進むかもしれません。

 

しかし別の問題もあります。介護医療院は介護保険の適応となるため、要介護度の認定が必要になります。急性期病院に救急で搬送され、病態は落ち着いたから即退院となっても要介護度の申請・認定がなければ、その患者さんの介護報酬が決定しないからです。介護の状態が安定していない時期の急性期病院に入院中に要介護申請が果たして出来るかどうかも疑問です。やはり急性期から直接介護医療院に転院は、既に要介護度を持っている患者さんになります。

 

要介護認定の出来ていない患者さんは医療療養病床に転院後、要介護が認定された後に介護医療院に転棟と言うことになるのでしょう。

その際要介護度の低い要介護1.2などの引き受けはどうなるのでしょうか。要介護度が低く、むしろ医療の継続や高額な治療が必要な方は、介護医療院は敬遠されると思います。

そして今の時点では自院の介護医療院への転院も在宅として認められていますが、過去の在宅復帰率の算定で自院への転院は認められないこともあったので、そのうち自院の介護医療院への転院が認められなくなる不安はずつと続いています。

 

も一つの影響、国は医療費削減のために病床削減を考えているのですが、もし多くの医療療養病床が介護医療院に変換されたとしたら、入院医療費はかなり削減効果があるかも知れません、しかしその削減部分の大半が介護保険料の増加となり、その時は、都道府県単位で介護保険料をアップせざるを得ず全国的に介護保険料はもっと増加し、地方自治体

は困ることになるのではないでしょうか。

このように、今回の改定では医療療養病床でも大きな変換が必要になります。

 

と言う様な概略ですが、あくまで個人的な意見で、杞憂に終われば良いのですが、高齢者の長期療養では診療報酬制度変わる度に今まで、甘い餌に飛びついて何度も梯子を外されてきたのに、今回は餌に飛びつかねば餓死してしまうので、多くの施設が移行を考えざるを得ないのではないでしょうか。でも梯子を外されて火を付けられたら。

 

と考えるのは私だけではないと思います。