重度の身体障害者への介護助成を

介護保険の実施後、身体障害者の介護サービスには補助が行われない問題で、障害者に冷たい介護保険として、介護保険制度でも重度の身体障害者には医療補助とともに、訪問看護など医療から外れた介護サービスにも助成制度を作るよう訴えてきました。

 先日、新聞のニュースでは全国で数カ所の自治体がこの問題点に気づき介護保険でも助成を考えていることが紹介されています。共同通信ホームページの介護ニュースです

 身障者への自治体助成増加 介護保険で補助打ち切り
 「介護保険開始に伴い、医療費補助を受けて入院している身障者は、病院が介護保険の適用を申請すると助成が打ち切られ、自己負担が大幅に増えるため、新たな助成を始める自治体が増えている。
 脳卒中の後遺症などで身体障害者の認定を受けると、これまでは多くの自治体で原則として医療費が全額免除で入院できた。しかし、入院先の病棟に介護保険が適用されると医療保険の対象外となり、助成が受けられなくなる。要介護認定で「要支援」や「要介護」と判定されてもサービス利用料の一割を自己負担しなければならない。医療保険から介護保険に切り替わると、同じベッドに寝ていても負担だけが増えてしまうわけだ。
 横浜市は4月から身体障害者手帳1級、2級を持っている人などを対象に、介護保険の利用者負担の助成を始めた。「要介護」などと認定された人が介護療養型医療施設、訪問看護、訪問リハビリテーションなどを利用した場合、一割の自己負担分を助成する。
 広島市も「重度医療を受けている人の約一割が介護保険でサービスを受ける」とみて、同様の助成を実施。鳥取県のほか秋田県、島根県も経過措置という形で助成する。
 ただ、助成制度をつくっている自治体はまだわずか。東京都などには「毎日、助成制度に関する問い合わせが来ている」が、対策を打ち出すかどうかは未定だ。」
と言う報道です。


 身体障害者の介護サービスに助成制度をつくっている自治体は全国ではまだ僅かですが、この問題に気づいて、いち早く対応している鳥取県、秋田県、島根県などの都道府県や、都道府県の決定を待たずに助成制度を作っている横浜市や広島市などの市町村にも敬意を表したいと思います。
 身体障害者の医療補助制度は都道府県と市町村の合同事業だとは言え、介護保険制度の実施後には、問題が起こることは分かっていながら、何の対策も、指導も行っていない厚生省の対応には、現場では混乱していますし、障害者や家族も不満を表しています。

 そして、現実に、身障者から「折角受けた要介護認定を取りさげて欲しい」との訴えも出てきましたし、すでに我々の認定審査会で審査した身障者での取り消し例もあります。

 そして、昨日私が訪問診療を行っている患者さんの奥さんからも、介護保険後に急に自己負担が増え、その支払いが難しいためどうしたらよいかの相談を受けました。

 8年来、慢性肺気腫・慢性呼吸不全で在宅酸素療法と訪問診察、訪問診療、調剤薬局から薬剤管理などおこなっている方です。5-6年前に身障者手帳は呼吸不全1級の認定を受けています。
 現在72歳の男性で、仕事は10年以上行っておらず収入はなく、奥さんのパート収入で家計を維持しておられます。
 今まで、数回、呼吸不全悪化で入退院を繰り返していますが、身障者1級の医療費補助があるため、入院でも医療費の自己負担はありませんでした。
 退院後、山間部で交通が不便なためと呼吸不全のため定期通院は困難であり、在宅酸素療法と病院からの2週間に1回の訪問診察と、1週に1回自治体の訪問看護ステーションによる訪問看護等行っていました。3月までは全て医療保険のため自己負担はありませんでした。
 要介護認定は昨年12月に申請し要介護認定・要介護4と認定されています。

 3月末に訪問看護ステーションのケアマネージャーから4月からのケアプランが示され、突然予期しない自己負担が増えびっくりして相談に来られたわけです。奥さんは介護保険導入後も今までと同様に補助が受けられると思っていたようです。
 4月から、訪問診療は医療保険が適応され、身障者には今まで通り医療補助があり自己負担はありませんが、今まで医療保険の適応であり、補助があった訪問看護は、今後は介護保険の適応となり身障者でも介護の助成はなくなりましたので1割負担が増えることになります。
 訪問看護の自己負担は、30分から1時間の訪問看護で1回830円、それ以外にも調剤薬局や病院にも介護保険制度での毎回の支払い(居宅管理療養指導料など「医師の指導月940円・薬剤師の指導月1100円」)が必要で、合計金額としては月5200円程度ですが、明らかに負担は増えています。奥さんの話では今後2人分の保険料月6000円を支払うことになれば経済的にやってゆけないと言われます。
 この方は要介護認定は「要介護4」だったため、奥さんのパートの時間中に週2-3回訪問介護を頼むことや、酸素吸入中の入浴は介助が難しかったので、訪問の入浴サービスも今後出来るものと期待されていたようですが、全て自己負担金が必要であり、経済的な余裕がなくケアプランからも外されていました。

  生活保護の申請も話しましたが、土地や自宅などの資産的な問題と今は何とか出来るのでやってみると言われ、今まで通り、介護サービスは受けないでやって行きたいとの事でした。
 ショートステイなどの介護サービスを利用する可能性はありますが、酸素療法中の呼吸不全の患者さんをショートステイさせてくれる施設はなく、増悪すれば病院に入院するしかないことも事実であり、そう考えると、この方にとって介護サービスや要介護認定はいらないことになり、むしろ要介護認定を受けたことによって、今までと全く同じ医療を受けていても自己負担が増えることであり、奥さんは認定の取り消しを希望されました。
 勿論、介護サービスにも身体障害者への助成が行われ、自己負担が少なく介護サービスが利用できれば、利用したいのが本音です。車椅子用に自宅の改造もしたかったのです。

 認定を取り消すことは、今後万一奥さんの介護が難しくなったときに介護サービスは受けられなくなることも説明しましたが、結論は認定取り消しの手続きを行うことに決まりました。

 今まで身障者として1-3級の手帳を持っている人は、原則的に医療補助が受けられ、医療や福祉に自己負担はありませんでした。ところが、介護保険制度になって医療と介護が区別され、医療には今まで通り補助あり・介護には自己負担が必要と言うことになったために起こった現象なのです。

 問題点をもう一度整理しますと、在宅では上記のような例の、訪問看護を「医療保険でするか」・「介護保険でするか」ですが、要介護認定を受けた人は、原則は介護保険に請求すると決まっており、そうなると介護保険を使えば訪問看護にも自己負担が必要になり、もし医療保険での訪問看護を続けるなら医療補助があるので自己負担はないのです。
 この患者さんの場合には訪問看護が問題となりましたが、脳卒中後遺症などの肢体不自由の障害者では、訪問介護や通所リハビリなど多くのサービスで自己負担が増えることになります。
 従ってどうしても医療保険で訪問看護を続ける為には介護保険の対象となる要介護認定を取り下げる必要があるのです。

 その期限が5月10日であり早急に手続きしなくてはなりません。一端取り下げれば介護のサービスは全く受けられなくなり、申請者にとってもかなり覚悟が必要なのですが、そうするしかない方たちもおられることも事実なのです。

 このように介護保険制度によって重度の身障者はいままでより不利益を被ることになっているのです。

 身体障害者制度を見直し、医療の補助だけでなく、重度の身障者には今まで通り医療補助の一部を介護の助成へ転換してくれれば、何の問題もないのです。
 身体障害者手帳の1級から3級の今まで医療補助の対象者だけで良いのです。
 勿論身体障害者であっても、高額所得者の助成は今までもありませんのでそれを増やす必要はありません。だから突然、身障者の対象者が増えるわけでも、急に自治体の経費が増えるわけでもありません。
 4月からは、自治体は今まで助成していた身体障害者の医療費の一部を助成しないで良くなっているのです。自治体にとっては、今まで医療補助していたものを、名前を変えて介護助成として継続するだけでよいのです。
 法律を変えねばなど難しいことは、後で考え今は暫定の措置でも良いのです。

 入院でも療養型病床群に介護型と医療型を分けてしまったため「介護認定を受けて介護型に入院すれば自己負担があるが、認定を受けないで医療型に入院すれば医療補助がある」というおかしな問題が起こっていますが、この問題は障害者に冷たい介護保険で述べましたので今回は在宅介護サービスの問題だけにしました。

 介護保険は全ての対象者が1割負担を原則にしていますが、生活保護・被爆医療等では介護費用の補助もあるのです。身体障害者のうち医療補助を行っていた人たちには、介護サービスの助成を全国の自治体で早急に検討して欲しいと思いますし、そのためには厚生省の指導や通達があればすぐにできることではないでしょうか。

             平成12年4月9日


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