要介護認定二次判定変更事例集Vol.2について

 「標記については、昨年8月に「要介護認定二次判定変更事例集」を示したところであるが、その後の更新認定の増加等の状況を踏まえ、今般、全国の有識者の御協力をいただき、再度標記事例集を作成することとした。
 現行の要介護認定又は要支援認定(以下、「要介護認定等」という。)では、心身の状態に関する調査項目や主治医意見書の記載内容から、介護の手間を定量的に評価した上で審査判定を行うこととしているが、心身の状態の一次判定に係る膨大な組み合わせの中から、要介護認定等推計時間を統計的に推計するという制約上、事例によっては一次判定が必ずしも実際の介護の手間と一致しない場合もある。
 このため二次判定においては、要介護認定等基準時間と実際の介護の手間が一致しない事例について、適正な要介護認定等を行う必要がある。ただしこの場合においても、介護認定審査会では、状態像の例の活用などにより、一次判定並びに特記事項及び主治医意見書の記載内容から、どの程度の要介護度等に相当する状態にあるかについて、客観的に審査判定を行なわなければならない。
 しかしながら、実際の介護認定審査会では、審査判定が困難な事例の要介護認定等を行わなければならないこともある。このため、本事例集では、23例の事例毎に介護認定審査会において要介護度を変更するに至るまでの検討の過程を含めてその要点をまとめ、整理を行うとともに、総論的に留意点を示した。
 なお、前回の事例集と同様、本事例集は新たな状態像の例を提供するものや掲載事例の結果を形式的に当てはめることを求めるものではなく、介護認定審査会における検討や、審査会委員の研修等に際し、活用いただくために作成したものである。
 各介護認定審査会においては、これまでに多くの事例を経験したことと思うが、今一度、本事例集を基に、要介護認定等の考え方や介護認定審査会の運営について御確認いただき、一層の要介護認定等の適正化・円滑化を図っていただきたい。 」

 こんな説明とともに今年も「要介護認定二次判定変更事例集Vol.2」が配布された。
 今回の事例集では23例の変更事例が提示され、その審査及び判定の概要が記載されている。昨年も同じ印象だったが、事例集を出すだけで、審査会の現場で審査に役立ち、理解できるかと言えば、現場ではこの事例集では対応しきれないであろう。審査員がいちいちこの事例を記憶している事自体難しいことである。しかし折角全国の審査員全員に配布された冊子である。少しでも有効に利用しないと経費の無駄となる。

 今回の変更事例集をみて、まず気づいたことは昨年の変更事例集が主に痴呆や問題行動例の変更事例が多かったのに比べ、今回は一次判定の不備を少し認めたという点と、逆転現象を中心に事例が取り上げられている事があげられる。
 私のホームページでも、一次判定の欠陥として繰り返し示してきた逆転現象の中で、今回は片麻痺と下肢麻痺の逆転事例が多いのが特徴である。また、究極の不公平として述べた事例に近い例、全項目のチェックでは「要介護4」にしかならない矛盾などは、この事例集で取り上げられている。

そこで23例の中から、今回は痴呆の判定例を外して、一次判定の欠陥部分を中心に少し事例を検討してみたい。


事例5
 92歳の女性で痴呆症・ラクナ梗塞・腰部脊椎管狭窄症の診断、胃癌の術後でもあり、頻回に転倒している。下肢の筋力低下がひどく、床を這って移動など主治医意見書に記載されている。
 この例の調査による一次判定結果は要介護認定等基準時間は24分、判定は例外の「要支援」である。
 例外の要支援とは本来ならば要介護認定等基準時間は24分で非該当なのであるが、チェック項目が10項目以上あるため例外で要支援にするという決まりである。
 この例の前回の認定結果は「要介護2」となっており、あまりにも今回の一次判定が低すぎる。こういう場合現場では、前回の調査項目の検討も必要であり、我々の審査会では比較検討を行っているが、今回の事例集には比較したとは記載されていない。それ以外にも本例では主治医意見書に見られる「痴呆の進行・意志疎通不良」などが調査では生かされていない気がする。
 本例は調査のチェックにも、少し疑問がある。「家の中を這って歩く、外出時は車椅子、失禁」などの記載があるにもかかわらず、移動・入浴や洗身・身の回りの介護・居室の掃除などは出来ることになっている。このあたりのチェックも前回の判定ではあったのではないかと思う。

事例5

1項目逆転

片麻痺

推定状態

第1群

右-上肢

ある

(麻痺拘縮)

左-下肢

ある

ある

ある

右-下肢

ある

ある

ある

ある

3.両足での座位

第2群

4.両足つかない座位

自分で支えれば可

(移動)

5.両足での立位

支えが必要

できる

支えが必要

支えが必要

6.歩行

つかまれば可

つかまれば可

つかまれば可

つかまれば可

7.移乗

見守り

第3群

1.立ち上がり

つかまれば可

つかまれば可

つかまれば可

つかまれば可

(複雑動作)

2.片足での立位

支えが必要

支えが必要

支えが必要

支えが必要

3.浴槽の出入り

一部介助

4.洗身

一部介助

4.ア.尿意

第4群

イ.便意

ときとぎあり

ときとぎあり

ときとぎあり

ときとぎあり

(特別介護)

5.排尿後の後始末

6.排便後の後始末

直接的援助

直接的援助

直接的援助

直接的援助

第5群

3.居室の掃除

一部介助

(身の回り)

4.薬の内服

一部介助

一部介助

一部介助

一部介助

5.金銭の管理

一部介助

一部介助

一部介助

一部介助

6.ひどい物忘れ

ある

ある

ある

ある

7.周囲への無関心

第6群

1.視力

(意志疎通)

2.聴力

大声がきこえる

大声がきこえる

大声がきこえる

大声がきこえる

3.意思の伝達

4.指示への反応

時々通じる

時々通じる

時々通じる

時々通じる

5.ア.毎日の日課理解

できない

できない

できない

できない

要介護認定等
基準時間

24分

31分

48分

57分

一次判定

例外要支援

要介護1

要介護1

要介護2

 さて一次判定の問題点を検討すれば、まずこの例では14項目にチェックされていながら要介護認定等基準時間は24分と、何もない時の25分より減っているのである。こんな事は本来なら考えられない事である。
 次に逆転現象を見ると(1項目逆転の欄)、この事例のままで、両足での立位「支えが必要」から「できる」とすれば要介護認定等基準時間は31分となり「要介護1」となる。変更理由のように二次判定で「要介護1」にしたのではなく、もともと「要介護1」の状態からスタートしていい事例なのである。
 また両下肢の麻痺のチェックは、片麻痺の例と大きな問題でありこの事例集ではたくさん取り上げられているので、その際に詳細は述べるが、本例の両下肢麻痺を片麻痺(片麻痺の欄)に変えると24分が48分に突然増えてしまうのである。
 今回は要支援を状態像の例と比較し「要介護1」に変更したとされているが、調査書の不備は明らかであり、意見書から状態を推測すれば前回の「要介護2」が妥当な判定であったと考える。
 この例で両足つかない座位「自分で支えれば可」・移乗「見守り」の2項目を加えただけで56分となり、その他意見書・調査書から推測できる状態に合わせて(推定状態の欄)、浴槽の出入り・洗身を「一部介助」、居室の掃除「一部介助」を加えれば57分である。もっと事例集の状態像の図に合わせるのなら身の回りの介護・意志疎通・問題行動などを少し加えれば「要介護2」に近い状態像となる。いずれにしても本例は前回の審査判定通り「要介護2」で良いと思うし、前回の審査会資料との比較も必要ではないかと思う。

 このように前回の認定と大きく異なる一次判定結果がでた場合に、最も多いのはこの様な逆転現象であるので、前回の調査項目や前回の一次判定などは参考資料として検討する必要がある。多くの審査会ではその資料を参考に出来る工夫をしているが、中には前回の資料を見ることが出来ない審査会もあると聞きます。更新申請時の工夫が必要です。


事例6
 この事例は52歳の女性で疾患は脊髄小脳失調症で歩行障害があり身体障害2級を認定されている。
 52歳という年齢で日中独居・3階に居住・調理は近くの身内が行うなど介護・住宅環境は厳しく、今後の在宅介護にも問題がある事例である。
 この事例の一次判定の一番の問題点は、事例5でも述べた両下肢麻痺の一次判定そのものの問題で、今の一次判定ソフトでは両下肢麻痺の歩行障害は全く考慮されていないことである。

事例6
片麻痺なら
1項目逆転

第1群

1.麻痺 左-上肢

(麻痺拘縮)

右-上肢

ある

左-下肢

ある

ある

右-下肢

ある
ある
ある

第2群

1.寝返り

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

(移動)

2.起き上がり

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

3.両足での座位

4.両足つかない座位

自分で支えれば可
自分で支えれば可
自分で支えれば可

5.両足での立位

支え必要
支え必要
できる

6.歩行

できない
できない
できない

7.移乗

第3群

1.立ち上がり

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

(複雑動作)

2.片足での立位

できない
できない
できない

4.薬の内服

5.金銭の管理

一部介助
一部介助
一部介助

要介護認定等
基準時間
25分
50分
32分

一次判定
要支援
要介護2
要介護1

 麻痺の定義の問題もあるが、この事例の様に脊髄小脳失調症で両下肢麻痺の歩行障害がある場合には一次判定ではどうしようもない。
 この事例の麻痺を仮に右片麻痺にしてみれば(片麻痺ならの欄)、要介護認定等基準時間は25分から50分と突然「要介護2」の介護時間に増加する。主治医意見書の「歩行出来ない、移動についての注意」などを勘案し、移乗に「見守り」を加えれば52分「要介護2」である。
 またこの事例でも逆転現象(1項目逆転の欄)があり、両足での立位を「支えが必要」から「できる」にすれば32分となり、そのままでも「要介護1」からのスタートにはなる。

 他にも麻痺の部位による矛盾は本事例集で取り上げられている。厚労省が本例を取り上げた真の理由は不明であるが、両側の下肢麻痺の問題は各審査会の二次判定で個別に考える問題ではなく、早急に一次判定の改善が望まれる項目である。


事例7と事例9
 この2つの事例はは年齢や原因は別にして、調査項目・状態像はよく似た事例である。しかし一次判定結果は事例7では「要支援」。事例9では「要介護2」と極端に判定結果が違っている。そして両者の変更後の二次判定は「要介護1」におさまっている。変更事例集で提示するならば、二次判定結果を同じにして辻褄を合わせただけで良いのだろうか。

 まず事例7の一次判定を検証すれば、やはりこの判定でも左片麻痺に右下肢麻痺(痛みとしびれ)を加えたために29分となったもので、左片麻痺だけにしておけば(事例7片麻痺の欄)53分「要介護2」である。調査員が気を利かせて右下肢の痛みとしびれを「麻痺」と判断したため「要介護2」が「要支援」になったと言えるが、これは調査員の責任ではない。何度も言うが判定ソフトの欠陥である。
 また本例は寝返りできないのに、入浴は自立であり警告コードが示されているが、この点には変更理由にも何も述べられていない。しかしこの時点で入浴関連を「一部介助」にすれば45分に減ってしまう不思議もある。
 一方事例9は外傷後の右上肢麻痺と右下肢は関節の疾患による痛みとしびれのため右の上下肢麻痺にチェックされている。事例7の両下肢麻痺を片麻痺に変えた程度であるが事例7で片麻痺に変更したと全く同じ53分で一次判定は「要介護2」となっている。状態像の図は事例7より少し軽度と考えられるが一次判定は全く逆の結果になっており、審査会では前回の結果と比べて混乱する事例である。

事例7
事例7片麻痺
事例9

第1群

 1.麻痺左-上肢

ある
ある

(麻痺拘縮)

右-上肢

ある

左-下肢

ある
ある

右-下肢

ある

ある

その他

2.拘縮 肩関節

ある
ある
ある

肘関節

ある

股関節

ある
ある

膝関節

ある
ある

足関節

ある
ある
ある

その他

ある

第2群

1.寝返り

できない
できない

(移動)

2.起き上がり

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

3.両足での座位

自分で支えれば可
自分で支えれば可
自分で支えれば可

4.両足つかない座位

支えが必要
支えが必要
支えが必要

5.両足での立位

支えが必要
支えが必要
支えが必要

6.歩行

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

7.移乗

第3群

1.立ち上がり

つかまれば可
つかまれば可
つかまれば可

(複雑動作)

2.片足での立位

できない
できない
支えが必要

3.浴槽の出入り

4.洗身

一部介助

第4群

1.ア.じょくそう

(特別介護)

イ.皮膚疾患

ある

第5群

エ.つめ切り

全介助
全介助

(身の回り)

3.居室の掃除

全介助
全介助
全介助

第6群

1.視力

(意志疎通)

2.聴力

やっと聴こえる
やっと聴こえる
やっと聴こえる

要介護認定等
基準時間
29分
53分
53分

一次判定
要支援
要介護2
要介護2


事例13・事例19
 この事例は私が究極の不公平で紹介した事例によく似た事例である。究極の不公平では実際の事例ではなくシミュレーションで作成した事例を紹介したのであるが、今回変更事例集では事例13と事例19で実際の事例で同じ様な事例が示されたことに驚きを感じた。

事例13
事例19

第1群

1.麻痺 左-上肢

ある

(麻痺拘縮)

右-上肢

ある
ある

左-下肢

ある
ある

右-下肢

ある
ある

2.拘縮 肩関節

ある

肘関節

ある

その他

ある

第2群

1.寝返り

つかまれば可
つかまれば可

(移動)

2.起き上がり

つかまれば可
できない

3.両足での座位

支えが必要

4.両足つかない座位

自分で支えれば可
支えが必要

5.両足での立位

支えが必要
支えが必要

6.歩行

できない
つかまれば可

7.移乗

一部介助

第3群

1.立ち上がり

つかまれば可
つかまれば可

(複雑動作)

2.片足での立位

できない
できない

3.浴槽の出入り

行っていない
一部介助

4.洗身

全介助
全介助

5.排尿後の後始末

第4群

6.排便後の後始末

間接的援助
間接的援助

(特別介護)

7.食事摂取

一部介助

第5群

1.ア.口腔清浄

(身の回り)

イ.洗顔

一部介助

ウ.整髪

一部介助

エ.つめ切り

全介助
全介助

2.ア.ボタンかけ

全介助

イ.上衣の着脱

全介助

ウ.ズボンの着脱

全介助

エ.靴下の着脱

全介助

3.居室の掃除

一部介助
全介助

4.薬の内服

一部介助
一部介助

5.金銭の管理

一部介助
全介助

6.ひどい物忘れ

7.周囲への無関心

ある

第6群

1.視力

1m先が見える

(意志疎通)

2.聴力

やっと聴こえる

3.意思の伝達

ときどきできる

4.指示への反応

ときどき通じる

5.ア.毎日の日課理解

できない

イ.生年月日をいう

ウ.短期記憶

できない

エ.自分の名前をいう

オ.今の季節を理解

できない

カ.場所の理解

できない

第7群

カ.暴言暴行

ある

(問題行動)

チ.不潔行為

ある

要介護認定等基準時間
29分
110分

一次判定
要支援
要介護5

 事例13では脳梗塞の右麻痺と廃用萎縮の左下肢麻痺、痴呆症状による意志疎通困難、身の回りの介護が必要で、多くのチェック項目をされても29分「要支援」なのである。前回の審査結果は「要介護3」であり、介護状態が良くなったとはどこにも書いていない。この例は今回は二次判定で「要介護2」に変更されているが、前回の審査判定との整合性ははかられていない。勿論前回の調査との比較も記載はない。
 こんな一次判定をみれば審査員は一次判定に不信を持つことは目に見えている。この様な事例は、あとで二次判定で調整すればいいと言われて納得できる範囲の判定結果ではないのである。
一次判定そのものが欠陥なのである。
 一方事例19は頸椎すべり症であるが、転倒後に左麻痺と筋力低下があり退院後も恐怖心からリハビリを拒否していたと記載されている。しかし意志疎通は可能で痴呆もみられない。徐々にリハビリへも前向きに取り組んでこられたようである。
 新規申請で一次判定は110分となり「要介護5」となっている。究極の不公平のラッキーな例とは少し違うが、どう考えても「要介護5」ではない。この例はたまたま状態像と合致する例があり二次判定で「要介護3」に変更されているが、状態像に合う例がない場合、審査会は判定に悩むものと思う。どの程度に変更するかは、一次判定の結果に左右される事は明白であり、やはり一次判定の改善が必要である。


事例22
最後に事例22を紹介したい。
 脳梗塞・痴呆の寝たきり状態・意識障害で全介助、胃瘻造設による経管栄養・カテーテル留置で、調査書にはほぼ全ての項目が「できない・全介助」である。自立度C2 、痴呆度IVか Mの事例で状態像から見れば誰が見ても「要介護5」なのである。しかし一次判定は違うのである。
この事例では要介護認定等基準時間は105分で「要介護4」の一次判定なのである。
植物状態に近い方の調査で「ひどい物忘れ・周囲への無関心」にはチェックをしない事は、私のホームページでも注意していたところであり、すでに多くの調査員は知っていることであるが、本当の状態をみればうっかり「ある」にチェックしてしまう項目である。

調査員として注意すべき記入事項
ひどい物忘れ・周囲への無関心
 この2つの項目は重度介護で逆転を起こす。特に植物状態などで、第7群を除くすべての項目を「できない」とし、この2つの項目を「ある」とすれば要介護認定等基準時間はなぜか96分で「要介護4」になり、「ない」とすれば112分で「要介護5」と逆転する。
 調査マニュアルにも記載されていることなので、不用意に「ある」をチェックしないようにすべきである。

 今回の事例集では二次判定で周囲の無関心を調査員に確認して「なし」にしたと説明しているが、本来植物状態なら周囲への無関心は「ある」訳であり、「なし」と言う確認で変更したという理由付けはおかしいと思う。このことも一次判定の欠陥と言える。

 全ての事例を見直すことは時間でにも難しく、また見直したところで一次判定の欠陥が改善されるわけではないのでこの位でおきたいと思う。
 ただ前回の事例集では痴呆・問題行動の変更事例を、今回は逆転現象や一次判定そのものの欠陥事例を取り上げて変更事例集を発行したことは評価したいと思う。
 この変更事例集を参考にして一次判定ソフトの欠陥ゃ矛盾が早急に改善されることを祈っている。

                        平成13年12月4日   吉岡春紀


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