要介護認定制度の自治体の評価

 10日の地元新聞の第1面に 8割「うまくいった」 山口県内 市町村の要介護認定 という記事が載っていました。

「4-5月にかけて県が、全市町村を対象に実施したアンケート調査の結果が報告され、要介護認定の自己評価については、82.2%(46市町村)が「うまくいった」とし、「あまりうまくいかなかった」、「どちらとも言えない」は各5市町村だった。うまくいかなかった理由として、5市町村が「主治医の意見書の提出が遅れたことや内容の記載が不十分だったこと」、3市町村が「認定調査で調査員とのばらつきがあったこと」を挙げた。特に主治医の意見書については43市町村が今後の課題とし、県は会議で提出の遅れや不十分な記載の解消に向けて、医師への啓発についても言及した。」要約すればこんな記事です。
県内の各自治体の要介護認定に対する評価は8割が「うまくいったと」考えていると言う内容です。

 このアンケート調査の結果は、申請者の個別の認定結果の内容を分析したり認定審査システムの問題点を具体的に評価したのではなく、その市町村の担当者が、全体としてどう評価したか判断されているようで、要介護認定制度へのアンケートだとすれば、アンケートの取り方や結果の出し方にも問題があるように思います。
 8割の市町村が「うまくいった」と言う表現は、一般には要介護認定はほとんどの自治体で「うまく進んでいる」という判断が出来る数字だと思いますが、現実とは少し違うと思いますし、要介護認定の申請者や家族の約8割や、認定審査員・調査員・主治医の8割が納得していると言うのとは違います。
 「うまくいった」と言う全体評価をした自治体の担当者は何を基準に行ったのでしょうか、また逆に「主治医の意見書の提出が遅れたことや内容の記載が不十分だったこと」で「うまくいかなかった」と評価した担当者も、何を基準に、その市町村では、どの程度の医師が、どの程度提出を遅らしたのか、審査できない内容不備はどの位の割合であったのか、このアンケート結果では不明です。
 要介護認定制度の評価にアンケートをするならば、普通は各自治体毎に、各項目でアンケートをするべきで、
 何も問題なくうまくいった例 何%、
 意見書の遅れ 何%、
 意見書の不備 何%、
 調査の遅れ 何%、
 調査書の不備 何%、
 特記事項の不備 何%、
 申請者側の問題 何%、
 要介護認定ソフトの問題 何%、
 判定結果の問題 何%
と言うような結果の出し方でないと、県全体の問題点やその自治体の問題点は浮かんでこないと思います。
 「うまくいった」という市町村では、全国的に問題となっている「元気な痴呆・問題行動例」の判定も全てうまくいったのか、また同じ審査会で、一次判定の逆転現象があった場合どんな審査結果になったのかを継続して把握できているのかなど、個別の事例では必ず問題はあったと思います。
 それを市町村の担当者の判断で「我々の町」は「うまくいった」と言う結果をだし、その合計で山口県は要介護認定制度全体が8割「うまくいった」と言う結論にして良いのでしょうか。

 また要介護認定の具体的方法、例えば調査員の資格の問題、在宅・施設での調査が自治体から行われているか、介護サービス提供側の調査員の調査か、主治医意見書の配布と回収の方法、審査資料の事前配付がされているか、ペーパーレス審査・コンピューター審査の行われている自治体はあるのか、コンピューターの費用や要介護認定に係る費用の分析などについてのアンケートはないようでした。
 これらは要介護認定制度全体を評価するには欠かせない項目だと思いますが、評価項目にもなっていなかったようです。

 「うまくいかなかった」理由としてトップにあげられている主治医意見書についても、「特に主治医の意見書については今後の課題とし、県は会議で提出の遅れや不十分な記載の解消に向けて、医師への啓発についても言及した。」とされていますが、これも県がこのアンケートの結果で新たに計画したわけではなく、厚生省の既定路線で、すでに厚生省は全国的に主治医の研修を義務づけていますし、8月から行われる山口県内各地の医師会の主治医研修会もこの流れで行われるものです。

 このように厚生省・自治体は、いろんな批判のある要介護認定を「8割はうまくいっている」とし、「これがうまく行かないのは主治医意見書の遅れと内容の不備だ」と介護保険制度でも医師批判を行う姿勢です。
 私も要介護認定審査会の審査委員をしており、その中で一部に内容の乏しい意見書や、どう見ても介護保険制度を理解していない意見書、全く読めない・判断のしようのない意見書、誰かに書かせたのか主治医本人の記載でない筆跡のある意見書等々色々見てきましたが、ある自治体だけが、主治医意見書の記載がひどすぎて認定審査全てが「うまくいかなかった」と判断されるほど、医師の意見書や対応が悪いとは思えません。
 要介護認定制度の問題点は主治医意見書の遅れや不備だけではありません。もっと大きなシステム全体の問題点を「隠して」、医師の意見書が介護保険制度の問題点にすり替えられている気がします。

 我々介護保険に携わっている医師も「介護保険制度がうまく行かないのは医師のせいだ」と言わせないためにも申請者にとって不利にならないように制度への協力と義務は果たすべきですし、医師として恥ずかしくない内容の意見書を記載していただきたいと思いますし、審査委員として指導して行きたいとは思います。

 このように何故か問題点が隠されたまま介護保険制度が進んで行きます。
 保険料徴収はこれからです、自治体が「うまくいった」としている住民への周知徹底が果たして「うまくいっていた」のかがはっきりすると思います。
 「介護サービスを受けていないのに、なぜ保険料を支払わなければいけないのか」など、保険料徴収を始めれば、こんな苦情が殺到すると思います。これからは利用者はお金を取られるのですから、不満が出てくると思います。「知らないのが悪い」と言えるのか、「知るまで知らさないのが悪い」のか。
 いずれにしても。「うまくいった」なんて言えないと思いますが、どうなるのでしょうか。

                       平成12年8月11日 玖珂中央病院 吉岡春紀


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