岩田めい達 医事放談 66

介護保険制度は仕切り直し

開業医を中心に据えた制度に 

 

 先日ある厚生省OBと介護先保険に関して話をする機会を得た。驚いたのは、そのOBが「大手の人材派遣業者や民間事業者が、介護の質の確保など二の次にして、老人を生業の対象として、売上第一主義の発想で参入してきた結果、介護バブル現象を起こしている」といい、さらにそのうちのある会社は「大々的にTVのCMを流すなど、膨大な投資をして人を集めているが、三年間稼ぎまくっておいしいとこ取りしたら、すっと撤退するか、会社ごと売却するという噂がある」というのだ。

 その会社は、かつて売上至上主義でいろいろな業態に進出し、業績が悪化したとたんに手を引くという過去をもつだけに、話を聞いていて空恐ろしくなったが、どの事業者も介護の理念など一切もたず、NPOなど一部の非営利組織を除いてビジネス戦略だけで参入していることに変わりはない。「そのような状況になっているのでは、制度は三年ももたないのでは」というと、彼は「せっかく、これだけの制度を創ったのだから、もたせたいのだ」と答えている。

 しかし、問題は財政面だけではない。事業者は教育不足で質の低いケアマネージャーを大量に送り出し、要介護者を自社のサービス・ネットワークのなかに囲い込むのだから、介護現場でトラブルが頻発することは明らかだ。老人と一日たりとも生活したことのない人が、老人の宗教観や人生観、諸々の価値観を理解することもなく画一的なケアプランを作成し、老人のライフスタイルを決めてしまうのだから、トラブルが起きないほうがおかしい。苦情処理委員会があるといっても、委員は介護の現場のことなど何も知らない肩書だけの人ばかりだ。彼らの勝手な思い入れで苦情処理のスタンダードが作られでもしたら、それこそ制度は大混乱に陥ってしまうに違いない。

 しかも、介護保険を使って医療供給体制の見直しを行った結果、ここに来て診療所の患者が急減するという事態が発生している。長年患者を診てきた整形外科医の診療所の近くに建てられたデイケアやデイサービスの介護事業者契約施設に患者が誘導されているのだ。

 全国8万の開業医のなかで、介護保険に対応して医療を提供するところはその一割に満たないと思うが、残る九割以上の先生方は息を潜めて介護保険制度の成り行きをみているのである。

 そして、そのような状況をみながら改めて思うのは、なぜ介護保険を医療保険と分離したのかということだ。15万人もの質の低いケアマネージャーなど養成して、問題の多い86項目の調査で要介護度の判定などしなくても、全国8万人の開業医にケアマネージャーのような役割を付与して、"かかりつけ医〃として判定を行ってもらえば、彼らには患者を長年にわたって診てきた実績とカルテという財産があるのだから、正確で患者本位の判定ができる。そして、それを一つの技術として診療報酬点数で正当に評価すれば、制度は落ち着いたものになるし、大手反問事業者による財政不安を招くこともなかったはずだ。

 しかし、現実は全国3300の市町村の三分の一が大手民間事業者と契約している状況にある。また、この号が読者の手元に届く時には制度はスタートしてしまっている。とすれば、願うことは一つだ。介護保険制度は3年以内の早い時期に見直し、もう一度仕切り直すことだ。そして、患者から大きな信頼を得ている開業医の役割を"かかりつけ医〃として取り込み、介護保険を丸飲みした高齢者医療保険制度として再出発すればいい。また、その時には民間事業者の役割は高福祉、高負担に止どめなければならない。国民の生活権を企業のご都合主義に陳踊させてはならないし、介護の質を確保するためにも、その中心的役割は開業医が担わなければならない。


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