療養病棟入院基本料見直し 医療区分について

 医療費削減・社会的入院排除という名の暴挙

 「脳梗塞後遺症で寝たきり状態・重度の意識障害があり、食事も経口摂取できず 胃瘻からの経管栄養、心不全などの内臓疾患もあり投薬治療、このような長期入院患者さん」の診療報酬が医療区分1で最高でも764点〜 885点。現在の入院基本料と比べて半額に近い減額です。療養病床で一番数の多い、意識障害のある重度の肢体不自由の患者さんを「社会的入院」というならば、こんな重度の障害者はどこへ行けというのでしょうか。

療養病床の医療区分

 今回の診療報酬改定で、療養病床の医療区分の実施時期は7月からの予定ですが、今回の説明では
「医療療養病棟の慢性期入院医療に係る評価について」
1. 患者の特性に応じた評価を行い、医療保険と介護保険の役割分担を明確化する観点から、医療区分及びADLの状況による区分等に基づく患者分類を用いた評価を導入し、医療の必要性の高い患者に係る医療については評価を引き上げる一方、医療の必要性の低い患者に係る医療については評価を引き下げ る。
2. 特殊疾患療養病棟等についても、現に入院している難病患者及び障害者の医療の必要性に配慮しつつ、医療区分及びADLの状況による区分等に基づく患者分類を用いた評価を導入する。
 という記載があり、その医療区分の内容が公開されました。

それによると
 [療養病棟入院基本料の見直し]
 ADL 区分3  885 点  1,344 点   1,740 点
 ADL 区分2  764 点  1,344 点   1,740 点
 ADL 区分1  764 点  1,220 点   1,740 点
        医療区分1  医療区分2   医療区分3

 将来的な方向を踏まえ、平成18年度の介護報酬・診療報酬の改定等において、以下の移行促進措置を講ずるものとする。

 マスコミにも慢性期報酬、医療区分1は老健並みと評価されるように医療必要度が最も低いとされる 「医療区分1」の入院基本料は764点または885点と、介護老人保健施設の介護報酬並みというかグループホーム並の報酬で、現在の報酬の約半額程度の設定となっています。
 その上老健施設は100床当たり医師1人の配置基準となっているのに対し、医療療養病棟は医師定数3人ですし、看護・介護職員の配置も 介護施設と病院とでは大きな差がありますが、人件費率なども無視した改訂で す。その上後述しますが「医療区分1」を約半数にするような政策誘導がなされており医療区分1」に該当する患者が多い医療療養は経営的に厳しくなるのは避けられません。そうしておいて療養病棟の削減・介護療養病棟の廃止を目論んでいるのです。
 
「慢性期入院医療の包括評価分科会」

 医療区分の分類方法や対象疾患については、まだ正式な通達は見られませんが昨年より厚労省で専門家による「慢性期入院医療の包括評価分科会」で療養病床の医療について検討されていました。

 その報告によると第1に医療提供実態からみた「医療区分」をまず設定する。次に、各「医療区分」に患者のADL自立度別に「ADL区分」を設定し、分類を9つとする案で検討が進んでいるようです。

 その報告でわかったのが、この文のタイトルにした「脳梗塞後遺症で寝たきり状態・ 重度の意識障害があり、食事も経口摂取できず胃瘻造設され、心不全などの内 臓疾患もある長期入院患者さん」の医療区分は医療区分1の最低ランクにしかならない事です。これで医療区分1ということは、厚労省の言う「社会的入院」になってしまうのですが、こんな重度の患者さんまで「社会的入院」として排除させようとする意味がわかりません。こんな患者さんが果たして退院できるのでしょうか。また介護施設に転院できたとすれば、この医療区分1の診療報酬以上の介護報酬が必要なのですから、医療費は削減できても、介護費用は大幅にアップするはずなのです。彼らには医療費と介護費は担当が違うので別問題なのでしょう。

 この報告書では「老人医療の専門家とされる鳥羽参考人の意見を取り入れて」という記載が多いのですが、鳥羽参考人が療養病棟の現場をわかっているのか疑いますし、現場での患者さんの状況とは全く異なる区分が選定されています。またこの区分は「介護時間よりみて」という記載がおおく、医療病棟での医療行為とその実費というか費用についてはほとんど考慮されていません。
 現実に今の医療型療養病床で検討したとするならば、薬剤費はもちろん、処置費用などもすべて包括されていますので、医療費の検討や分析は出来ないものと思います。
 医療の必要度に中にはやはり薬剤費や処置の「費用の検討」が含まれた調査でないと病名だけでは判断できないと思います。

 また、今回の医療区分分類の基になったのは、介護保険などで検討されたタイムスタディと言われています。その分科会の委員であった木下氏によると「その平均時間を1とし、1.15以上を医療区分2、1.6以上を区分3としているので、はじめから医療区分1は50%以上になるように設定されている。医療区分1が入院の必要がないとの判断は保険局に利用されてしまった感がある。タイムスタディが目的外利用されたと言える。」と述べられています。
 ケア時間を主体にしたタイムスタディで医療区分を決めたこと自体疑問もありますし、はじめから医療区分1を半数に設定し、国のいう「社会的入院」を増やそうとしたのだと思います。

 療養病床の診療報酬そのものが包括化した点数で、一律の点数です。その包括化点数に問題があるとするならば、こんな不透明な区分をする必要があるのでしょうか。誰もが納得できるのは、療養病床の基本入院料を決め、重度の医療や処置が必要な場合は、その医療や処置の出来高の加算を行えば済むことです。それをしないでこんな区分分類は、やはり「社会的入院がこんなに多い」という結果が必要だったと思います。

医療病棟の現状

 医療病棟では脳血管障害による重度の肢体不自由や、意識障害、経管栄養などの患者さんが多く、在宅での医療継続や介護施設でも引き受けできない患者さんが見られます。
 また高齢者の内臓疾患による長期入院やがん末期の在宅困難例もあります。
 例えば、肝硬変による肝不全・肝性脳症の意識障害では意識障害改善剤の点滴や内服など高額の薬剤費がかかりますし、酸素療法の酸素代、胃瘻や鼻腔栄養のチューブ なども費用はかかりますが算定出来ません。別のページに述べたがん末期の疼痛管理が必要な患者さんは今回医療区分2になっていますが、がんの疼痛緩和に使う薬剤は高額です。定額制では対応出来ないこともあります。
 心不全を繰り返す患者さん、消化管出血の患者さんにも高額な薬剤は必要です。後発品に変更できるものは行っていますが、どうしても変更できない新薬もあります。
 医療現場のコストを無視した医療区分が行われれば、当然医療療養病床として は入院が困難になり、医療区分2以上の患者集めも出てくると思いますし、医療区分1になった患者さんは、医療施設から追い出されることになります。
 その行き先が確保されていれば、大きな問題はないかも知れませんが、現在でも、急性期病院を追い出され、介護施設にも引き受けられない重度の肢体不自由や、意識障害、経管栄養などの患者さんは、この先どうしろというのでしょうか。

 また在宅が可能なら在宅医療・介護を勧めるのは構いませんが、これらの重度介護者が退院して自宅に帰られた時、一番困るのは家族だろうと思います。
 私の患者さんでも、脳出血で寝たきり・片麻痺・認知症になった義父の介護のため、仕事を辞めて介護している方も知っていますが、毎日が戦場・地獄だと聞きます。「こんな生活が続くなら社会的入院と言われようとも病院や施設に入所させてもらい、自分は仕事を続け義父の入院費を稼ぐ方が精神的にも経済的にも社会的にも良いのではないか」という意見を聞きました。
 その通りだろうと思います。身内の介護・看護のために仕事を辞めねばならないような社会は、おかしいのではないでしょうか。 特に核家族化が続く家庭環境では在宅で看護・介護が出来ること自体難しいと思います。国の医療費を削減する目的の為だけに、医療供給体制の崩壊も行われようとしています。

医療区分と社会的入院

 いま考えられている医療区分の分類の実施前の見直しが必要です。そうでないと一般の方たちにも「こんなに社会的入院多いのか」という誤った認識を植え付けてしまいます。

 また、医療区分による分類が、現在の基準と大きく違いすぎていることにも抵抗があります。
 現在の療養病床で、「特に重度の肢体不自由児(者)等の重度の障害者を主として入院させる病棟は、特殊疾患療養病棟」とされ、施設や人員配置基準をクリアすれば入院基本料は、普通の療養病床よりも高く設定されています。
 高齢者の特殊疾患療養病棟では1600点/日となっています。そしてその対象患者は「当該病棟の入院患者数の概ね8割以上が、重度の肢体不自由児(者)(日常生活自立度のランクB以上に限る。)等の重度の障害者である。」とされています。
 ランクBとは、屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが座位を保つことができ、車いすの移動など可能な状態です。
 現在はこの対象で一般の療養病床の入院者と区別し重度の障害としているのに、新しい医療区分はこれを全く無視した区分となっていることにも疑問なのです。
 せめて、身体障害者認定できている方には「身体障害者の3級・または相当」以上は医療区分2以上の判定する方が、わかりやすいと思います。

 ただ医療の現場では、必要な医療や処置は患者さん個人個人で大きく違うもので、このような単純な区分分けには馴染まないと思っています。基本的な入院料を決めて、あとは必要に応じて出来高算定分を加算出来るシステムでないと、病状の重症度にかかわらず認めてしまうことになり、かえって医療費の高騰化が心配されます。 そして、例えばがん末期なら内服加算の対象は、がん末期の麻薬処方だけとすれば、誰もが納得出来、療養病床でも末期の受け皿になりうるものと思います。

 その他今回の改訂の医療区分で「区分1」とされているものには、療養病床学会での「医療保険療養病床の患者分類に関するアンケート 結果」で下記のような疾患や病態があげられています。
 こんな疾患や病態も「社会的入院」なのでしょうか。

 ・寝たきりだが糖尿病でインスリン療法を行っており、1日1回の血糖チェックを行っている。
 ・認知症があり、インスリンの自己管理ができない患者。症状を訴えられないため、医学的管理が必要。
 ・意識障害がありインスリン注射を行っている。

 ・意識障害 経管栄養、ケイレンの危険性がある。
 ・意識障害 経管栄養、胃ろう周辺にスキントラブルがあり処置が必要。
 ・経管栄養を行っているが、認知症があり常に目が離せない。
 ・意識障害があり、バルーンカテーテル留置や定期的交換を行っている。
 ・重度の意識障害があり、気管切開し常時喀痰吸引を必要とし、経管栄養。
 ・頭部外傷による四肢麻痺の状態である。
 ・誤燕性肺炎を繰り返す。喀痰吸引を頻繁に施行。
 ・大腸癌末期で肝転移がある。しかし、癌性疼痛はない。
 ・肝性脳症を繰り返し内服治療中の肝硬変
 ・肝細胞癌、末期症状であるが積極的治療
 ・慢性心不全、弁膜症があり何度も急性憎悪を起こしている。
 ・疼痛コントロールが必要な慢性関節リウマチ。
 ・腰椎圧迫骨折のため疼痛管理が必要な患者。
 ・変形性膝関節症が高度で疼痛管理が必要な患者。
 ・類天疱瘡のため、常に皮膚観察が必要。
 ・皮膚科疾患により全身的創傷処置を要す。
 ・麻痺などによって自己管理不能の人工肛門の装着者の管理。
 ・脳梗塞後ケイレン発作あり、常に観察が必要。
 ・けいれん(てんかん)発作を週1回以上起こす。
 ・気管支喘息発作を頻回に発生(1日1回、週3日以上)。
 ・重症の不整脈による症状が、1日1回以上、週に3日以上みられる

 そして、もっと分かり難いのが、分科会の指摘事項です。
例えば「意識障害のある気管切開・気管内挿管のケア」について
 意識障害の有無による「気管切開・気管内挿管のケア」のケア時間の相違について検証を行ったところ両者に違いは見られなかった。そのためケア時間に差が見られる状態を分析したところ「発熱」が抽出された。そこで「発熱を伴う場合の気管切開・気管内挿管のケア」のケア時間について検証したところ医療区分3相当であったため区分として追加とあります。
 発熱がなければ医療区分2・発熱があれば医療区分3と言うことですが、発熱の期間や状態などいつまで算定するのか不明です。そしてこの説明でもわかるようにケア時間で医療区分を決定しており、医療の必要度とは関係のない区分分類だとわかります。補液の必要度・抗生剤の必要性・酸素の追加・喀痰吸引回数などが問われるのではないでしょうか。

療養病棟への急性入院の対応
 もう一つ、医療区分の分類に考慮して欲しいのが「療養病棟への急性入院の対応」です。療養病床は、当然長期入院患者さんが主体ですが、一般病院に付属した入院施設の場合と病院全体が療養病棟の場合もあります。
 病院全体が療養病棟でも、外来患者さんの急性増悪の場合や地元の医療機関からの紹介入院などで、地域の急性期病院の入院が出来ないときには、療養病棟にも急性期の入院もあります。主に地方では療養病棟も地域の急性期医療を担っていることもあるのです。これが分類される医療区分が無ければ、急性入院は出来ませんし、。
それが算定できるようになれば、重度の介護を必要とする人たちの転院も、 もう少しスムーズになるかも知れません。

 現在医療区分の具体的な病名や状態についてまだ公式な発表はありませんが、正式に公開されればもっと具体的になると思います。 正式な状態が公開されたらまたコメントしたいと思います。

           平成18年3月28日 玖珂中央病院 吉岡春紀