今のままでの介護保険制度は考え直すべきです


  誰もが介護が必要になったとき利用できる、納得できる介護保険制度に
  介護認定審査制度をはずした介護保険制度に改変

 介護認定審査に大きな問題を抱えたまま、先日政府は平成12年4月からの実施を再発表しました。今年のモデル事業での反省も検証もない時点での発表でした。
 また朝日新聞12月17日付け論壇で「介護の社会化を進める1万人市民委員会」代表の堀田力氏より「介護保険の凍結・延期論を排せ」との論文もみられます。
 この主張も、モデル事業での現場での混乱や問題点を全く知らないか、無視した保険制度だけの推進論で「8割の国民が保険料支払いを覚悟して公的介護保険の導入に賛成し、介護保険法が成立した。」「600兆円を超すといわれる高齢者の貯蓄である。日本の高齢者は不幸なことに、将来に対する不安が大きくて、貯めたお金を便いたくても使えない。その不安を取り除く大きな決め手が、公的介護保険制度である。これで身体面の安心が得られると分かれば、高齢者は今の生活を楽しむため、お金を使い出すであろう。それは景気回復の大きな原動力になる。」など現実離れの主張です。
 本当に国民の8割が理解して賛成したのでしょうか。
 介護保険法成立時の国会でも賛成は当時の与党であった自民党・社会党・さきがけだけであり、共産党は反対、新進党・民主党・太陽党はボイコットしていたと思います。それだけ介護保険制度は制度上・運営上、問題のあった制度でした。
 またお年寄りは貯金しているため制度がはじまっても金銭的には困らないし、むしろ金を使ってくれて景気が良くなるなどの発想がどうして出てくるのか、現場でお年寄りを治療している者には考えも及びません。むしろ1割の自己負担が払えず介護サービスを受けたいが受けられなくなるお年寄りが多くでてくるものと思います。
 医療機関や民間の介護支援施設や組織は平成12年4月実施に合わせて事業を進めている関係で、国も一度実施を決めてしまったため、ここで突然、凍結・延期とは言えない事情があるのでしょう。しかし現場では多くの矛盾が指摘されこのまま実施されれば、制度の破綻は目に見えています。考え直す時間はまだあると思います。

 元々介護保険制度は「介護の必要な方に、公的な保険で支援するという発想」ではなかったようです。先日の日経メディカルの厚生省担当室長の発言でも「介護保険の考え方は,いわゆる社会的入院を是正することからスタートした。」と言っており、医療費の増加を抑制するために作った制度であることは、はっきりしています。
 それにしては基盤整備に名を借りた介護施設の建設の推進や、在宅医療やデイケア・デイサービス事業の推進は、この数年の医療費を確実に増加させました。これはバブル時代の発想で、むしろ医療費はゴールドプランによって引き上げられたと言っても言い過ぎではありません。
 その根本は「いわゆる社会的入院を是正することからスタートした。」と言うことであり、社会的入院が一人月50万円という、当時の誤った資料を基に考えられたためであろうと思います。医療費の高い海外では老人保健施設のような施設入所でも月50万円かかるとの資料はありますが、本邦では、当時でも現在も1年以上入院されている患者さんのうち、いわゆる家庭環境や介護環境が問題の、社会的入院の患者さんの入院費は平均月30万円を超えることはなく、一般病院では22-25万円程度であり、厚生省の言う半分程度です。50万円がどこから出た数字なのかは分かりません。
 むしろ特別養護老人ホームや老人保健施設入所の老人や、最近は在宅サービスを受けている在宅患者さんの医療費の方が高い場合もあります。
 入院施設(病床数)は国の地域医療計画で、これ以上増床が認められなければ増えようはないわけですし、むしろ一般病床は減らす方向で進んでいますので、今後、高齢者が増えてもトータルの病床は減るため、今後社会的入院患者は増えないはずです。
 社会的入院が医療費を圧迫しているから介護保険制度を導入するという発想は間違っていたわけです。  一般病院の病床は減らされる一方、この介護施設整備計画は進められ特別養護老人ホーム・老人保健施設の設立は増え、さらには老人病院や一般病院の慢性期疾患病床を廃止し療養型病床群への転換を進めています。  これらは施設基準が厳しく、現在の病院設置基準より部屋や廊下が広く患者のアメニティは改善されております。しかし、施設転換への誘導と設備投資で大きくした施設の建設費や人員確保の為の人件費は高くならざるを得ず、現在は優遇された医療費で、これも結局は医療費を増大させました。
 従って厚生省の考えた介護保険制度は、自らが総医療費を増大させ、その一部を介護保険制度なる名目で別の保険に移しただけの制度ではないでしょうか。

 そしてまた、介護保険制度は十分な受け皿の整備も進まないまま、平成12年から施行を強行しようとしています。特に問題なのが介護認定制度で、認定基準も年々変わり、調査員にも審査員にもわからない(公開されない)ブラックボックスのまま、コンピューター1次判定制度が行われました。これでは「直接生活介助、間接生活介助、問題行動介助、機能訓練行為、医療行為の5つに分けて推定介護時間を算出し、これらを合計したものを合計介護時間とする」としています。これにより一部「公開」しているとの感触を抱かせています。そしてこれ以上の公開はモラルハザードの問題を招来する危険性があるとし、明らかにしていません。そのため10年度のモデル事業では実際の状態と懸け離れた認定が行われました。
 この認定審査制度は、今後、介護保険制度を潰す「金と時間と労力」を必要とします。そして結果的には要介護者からは満足は得られないと思います。
 モデル事業では、認定審査だけでしたが、本番では要介護度によって受けられるサービスが違うからです。必要なサービスが受けられる整備が遅れており、保険料を納めても介護が受けられなくなる場合と、厳しい審査でサービスの給付が減らされる場合です。

 我々の審査対象地域は、人口約10,000と16,000人の2町で計26,000人です。そして地域の老人人口からみた介護認定審査会は年間50-52回と試算されています。毎週1回の認定審査が必要なわけです。しかも介護認定は3〜6ヶ月で見直すとも書いてあり、そうすると週2-3回の審査を永久に続けて行く必要があります。審査員も医師1-2名、施設関係2名、福祉関係2名の5-6人程度の審査員が必要で、行政の担当者もこれに合わせて出務する必要があります。専任の審査員はいませんので、皆自分の仕事をもっています。これらの審査に関わる人と時間は膨大なものです、ボランティアで審査会に出ていても限度があります。
 これが全国規模で行われるわけですから、人件費もかなりのものとなりますし、委員の労力や調査員の労力、かかりつけ医の意見書代、ましてや要介護者へのケアプラン作成時間や費用など考えてみますと、介護の為の保険料は湯水のようにこちらに使われてしまうことになります。保険料とは別に認定審査委員会の予算は考えるとするならば、これ又税金から出すことになります。認定審査に関わる費用も計算し公表すべきです。
 いずれにしろこんな予算の余裕があるならば、保険料を上げないか、一割負担を減らすか、本来の介護に使ってもらいたいと考えています。

 医療・家庭環境を無視した認定制度も問題の一つです。疾患を持ったお年寄りにはこれらを外して考えることは、現実的でない事は誰もが考えることですが、これらを考慮すれば認定作業がもっと複雑になり、コンピューターでも判定できなくなるため、介護時間に絞って認定作業を行うようにしたものです。そうでないと公平性が保たれないと厚生省は言います。しかし心臓病や慢性の肺疾患などを持ったお年寄りは医療は欠かせませんし、かつ介護や援助も必要です。
 公平性に関して、コンピューターで判定することは、どんなソフトを使ってもすべてを公平に行うことは、はじめから難しいものです。一人一人の環境の違う人間をコンピューターで6段階に判定することは出来ないと思います。そして、介護認定には公平性を主張しながら、地域の介護サービスの不公平には、「当分我慢しなさい。いずれ公平になります」の発想です。これではスタート時点から不公平な制度と言わざるを得ません。

 高齢者の一人暮らしや老夫婦で病気をもった方たちには、少なくともホームヘルプサービスや医療機関に通院するための援助は必要なものです。
 しかし、認定作業では年齢、生活環境は無視する審査ですので、今回の認定の対象者は現在何らかのサービスを受けている方が対象でしたが、実際の認定結果は、自立・要支援が3割程度ありました。  ということは本番では自立と認定された方は今後、介護保険制度によるサービスは受けられないことになります。
 現実に、こんな事例もあります。93歳で一人暮らしの男性で、視力障害があり現在は日常生活はホームヘルパーの派遣で買い物、洗濯、炊事の用意をして貰っている方が、一次判定で「自立」と判定され、変更は出来ませんでした。介護度だけで認定すればこんな方が多くでることは推測できます。自立ではホームヘルパーの派遣もすべて自己負担となり、中止せざるを得ないでしょう。こんなお年寄りの援助は誰がするのでしょう。ボランティアに依るのでしょうか。
「介護認定制度のため認定を受けられず、誰にも知られず亡くなっていた」などの例が新聞紙面に載るようになるのではないかと、心配します。「お年寄りは金持ちで介護制度が出来れば安心して自由にお金を使うことが出来る」などの発言は無視することは出来ません。

 私は介護保険そのものを廃止すべきだと言っているのではありません。
 問題の多すぎる認定審査制度を廃止し、「必要なとき誰もがどこでもすぐに」介護が受けられるシステムに変えるべきだと言っているのです。
 そのためには少し遅れることはやむを得ません。またフリーアクセスを認めた場合の介護保険料については、需要が増えすぎるのか、保険料がどれくらい増えるのか分かりません。これも正確に公表して欲しいと思っています。
 介護保険制度のために行政・民間でも設備投資や人材育成をすでに行っているわけで、制度そのものを廃止とは言えず、むしろ廃止となれば大混乱となるでしょう。
 しかし認定審査制度自体は、どの審査会も問題点が多いことは認識しており、審査員の誰もがこれは大変な仕事だと思っており、廃止は特に大きな反対はでないと思います。
 介護支援専門員は9万人も合格しましたが、これは調査やケアプラン作成が任務であり認定制度を廃止しても、有効に利用できる仕事はあります。

 また介護保険には在宅介護と施設介護があります。在宅介護についてはモデル事業で審査認定には問題がありましたが、介護計画のシステムは確立されつつあります。と言っても、介護プラン作成の方法は、各業界のエゴで5-6種類もあり統一したケアプラン作成方法は確立されていません。これも統一しわかりやすいケアプランの作成方法を示すべきです。
 一方施設介護についてはまだなにも決まっていないのが現状ですし、地域によっては整備不足で介護施設のない町村もあります。
 介護保険料は施設の充実している町村では高く設定して良いとのことで、実際高知県では3500円以上の保険料でスタートしなければ介護保険制度が運営できないとの報道もありましたし、施設サービスのない市町村は当分保険料を低くしてスタートできるとの事でした。と言うことは同じ施設に入所しても、介護施設の充実した(むしろ過剰)町のお年寄りは介護保険料が高く、一方介護サービス施設のない隣町のお年寄りは保険料が安く入所・入院できるのでしょうか。
 施設入所の問題はまだまだあります。介護療養型病床群と医療療養型病床群の区別で、まだどのようになるのかも知らせてもらっていません。今後一般病院も急性期型病床と慢性期型病床に分けられ、慢性期型病床の設備基準や人員配置は療養型病床群の基準と同じになっていきます。一般病床がどんどん減らされ、療養型病床群や慢性期病床が増えたとしても、トータルすれば日本の入院病床は減らされているのです。
こんな混乱したままでスタートは出来ません。施設介護はもっと検討を必要とします。遅らせてスタートしても良いと考えられます。

 最後に、平成12年4月実施のための、認定審査は11年10月から予定されています。時間はありません。ベストの保険制度は出来ないでしょうが、現在の介護保険制度から認定審査制度を外し、介護が必要な人が「いつでも、どこでも、すぐに、出来るだけ負担が少なく」介護や支援が受けられる制度に作り直すことがベターではないでしょうか。
そのために実施が遅れることは、だれもが納得するはずです。
 フリーアクセスを認めたら、介護の必要ない人までも介護を受ける可能性があること、施設介護に偏り在宅介護が増えないことなどで、保険料が維持できないなと言うならば、このシュミレーションも公開すべきです。特に介護認定作業に関わる費用とフリーアクセスの場合の費用の比較は是非知りたいところです。

                      平成10年12月31日  吉岡春紀


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