入院基本料の未実施減算とその影響

「未実施減算」という言葉をご存じですか。未だ多くの方がご存じないようですし、医療関係者でも病院関係以外は知らない人もありますのでご説明します。

 診療報酬制度では「出来高払い」が基本とすれば「行った診療行為」についてはその行為の決められた診療報酬が支払われることで医療機関側も支払い側も了解しています。「包括化医療制度」では診療費は「やってもやらなくても同じ」です。
 過去に院内感染防止対策は、月1度の院内感染防止委員会を開いて、病室に手洗い器を設置し感染対策を行っている医療機関に対して入院患者全員に、入院基本料に加算されていた点数なのですが、2年前?の改訂で、「やっていて当然、やらない場合には入院基本料から減点」と言うことになり、対策を講じていない医療施設では入院基本料から減額されるようになりました。入院基本料がアップされていないのに、未実施の場合に減算するというシステムが取られたわけで現場では違和感を感じていました。

 そしてこの10月から「医療安全管理体制」と「褥瘡対策」がその項目に加わるのです。 下記の4項目が入院基本料から未実施の場合減算される項目です。  

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今まで
 入院診療計画書  1回のみ350点
 院内感染防止対策 1日  5点

10月から
 医療安全管理体制 1日 10点
 褥瘡対策     1日  5点

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入院診療計画書とは

 「患者に対し文書により病名、症状、治療計画、検査内容及び日程、手術予定、
 入院期間の推測について入院7日以内に説明すること」とされ、計画書がない場合や
 説明が行われていない場合には入院基本料から減額となります。
 入院時に全入院患者が対象です。
 当初は未実施減算徹底されていなかった様で、自主返還が相次いだようです。

院内感染防止対策

 院内感染防止対策委員会が設置され対策が行われていることが必要で、
 月1回程度の委員会の開催・資料や検査室からの感染情報レポートの作成も
 必要です。病室の手洗い器の設置なども行われています。

医療安全管理体制

 医療安全管理体制の指針の整備、事故発生時のマニュアル作成、院内で
 発生した医療事故の報告体制の整備と医療安全管理体制委員会が月1回程度
 行われることが必要です。ヒヤリ・ハット報告書などを作ることです。

褥瘡対策

 院内に褥瘡対策チームを作ること、日常自立度の低い患者(Bランク以上)
 について診療計画書を作成し対策を行うこと、褥瘡対策に必要な体圧分散
 マットレスを適切に選択し使用する体制が備えられていること

等が決まっています。そしてその運用のQ$Aが先日厚労省から配布されたとのことです。未だ詳細は知りません。ただ10月実施には1ヶ月の実績期間が必要ですので9月1日以前から対策を取らなければ10月1日から減算となります。また、一人の医師などが、安全管理の委員会と院内感染防止対策委員会の委員を兼務するのは、業務を適切に遂行できるのであれば差し支えないとの判断も示しているようです。


追加 8/27

この提出書類や記載の方法などは保団連のホームページに詳しく載っていますので参考にされたら良いと思います。
医療安全管理体制・褥瘡対策の方法

 このホームページで新着情報 8/13更新にあります。
「全ての病院・有床診療所は、医療安全管理体制と褥瘡対策を9月1日以前から講じた上で9月1日から10月16日までの間に、地方社会保険事務局又は都道府県知事に届出を行わなければ、10月1日より入院基本料・特定入院料を減算しなくてはならなくなった。」
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 この場で未実施減算の是非を議論しても始まりませんが、本来入院基本料は入院費の基本であり、出来高払いがその基本なら未実施項目を基本料金から後で減算するのではなく、実施した場合に加算するように戻すべきだと思います。入院診療計画書が不備だとされ、自主返還させられた施設もあるようですが、一端支払われた報酬を返還したり、未実施減算と言う言葉は「不正」とも取られかねないので個人的には好きではありません。

それなら最初から減算すればという話もありますが、厳しい時代です。そんなにすぐに諦める場合ではありません。

 一日一人20点(200円)と言ってもバカになりません、1年では73000円、100床の病院なら年間730万円です。730万円も減点されたら、やってられません。10床の診療所としても年間73万円です。

 難しく考えず、少し面倒な書類記載はありますが、自分の施設のため・患者のためと思って対策を講じるしかないと思います。

 とくに褥瘡対策について、個別の診療計画書は自立度の低い(自立度Bランク)人だけに書けばいいのですから、例えば診療所で全員Bランク以下なら、一枚も計画書は発行することはなく、対策チームの会議とマニュアル作成くらいで、褥瘡対策費は減算されないと思います。エアマットも全員に必要ではないわけですから、必要なときに使える対応さえあれば良いと思います。しかしそれにしても褥瘡対策の計画書は書くのが嫌になるほど面倒です。

 こんな風に書くと、未実施減算を肯定している様ですが、そうではありません。こんなおかしな制度のため現場では高齢で手のかかる患者の受け入れがますます難しくなっています。

 これらの対策費は、施設としては実施すべきですが、病院としては対策を実施し個々の患者さんではこれらの対策があまり必要でない軽症患者さんを入院させる方が良いからです。

 特に療養型病棟では包括化点数ですし、重症でも軽症でも1日の点数は同じです。それに加えて、褥瘡の処置も、エアマット代も点数はありませんし、胃瘻や鼻腔栄養注入の処置もチューブ交換も点数ありません、酸素療法の継続の為の酸素代も別に算定は出来ないのです。

 そうなるとこれらが必要な人たちをたくさん抱えることは良心的な療養型病床でも限度があります。同じ点数ならこれらの処置がない患者さんの方が良いに決まっています。

 そう言うわけで褥瘡があったり、痴呆や転倒の既往のある方、MRSA感染者、胃瘻や鼻腔栄養などの患者さん、など全身の医学的管理が必要な患者さんは受け入れ先が厳しく制限されるからです。実際に現場では重度の処置が必要な高齢者は救急病院からも療養病棟からも閉め出されています。

 これらの対策も入院を扱っているなら当然の対策とは言えますが、正しく実施している場合の加算に変更すべきだと思います。そして褥瘡の処置、胃瘻や鼻腔栄養注入の処置、チューブ交換、酸素療法などの手がかかり金もかかる処置は、入院基本料に加算できるシステムに改めるべきだと思います。

 ところが敵もさる者で、手のかからない、処置の少ない軽症患者を長期間入院させておくと、この10月から患者負担を増やすシステムを取り入れようとしています。これは入院基本料の15%と言いますので、軽症?者の追い出し、金のない患者の追い出しになっています。

 行き場のない高齢者はどうしろというのでしょうか。現場の混乱は見て見ぬ振りの厚労省なのでしょう。

           平成14年8月6日     8月27日 更新


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