介護保険法改定

   介護施設利用者の食費・居住費負担に関する私見

6月16日介護保険改正法案が国会で成立しました。

その改訂の骨子は
 1.施設利用者の居住費・食費を全額自己負担
 2.新予防給付の創設
  軽度要介護者へのサービス利用制限
 3.介護予防のための地域支援事業を創設
  事業を通じて介護給付費の抑制
 4.保険料の年金天引き 障害者・遺族年金
 5.保険料の徴収年齢引き下げの検討
とされていますが、その中ですぐに利用者の負担を強いるものが「介護施設利用者の居住費・食費を全額自己負担とする」改訂です。

 日医ニュースでは、法案成立後の6月20日には厚労省の社会保障審議会介護給付費分科会でも、今年10月からの居住・食費の自己負担化に伴う介護報酬改定について議論を始めたとあります。しかしその分科会では、「10月から実施する根拠や、居住費の算定根拠があいまいだとの意見が相次いだ。」とのことで、介護報酬はまだ決定したわけではありません。
 しかし、7月13日山口県では県の介護保険室長名で、「国から詳細な情報が入り次第、集団指導(事業者説明会)を開催しますが、法施行までの期日が短いため、各事業者におかれましては以下に留意して、食費及び居住費の改訂作業を進めてください。」との通知が届きました。

○利用者への説明責任は政府にあるのではないですか
 それによれば、利用者への説明として「居住費・食費の利用者負担額については、重要事項説明書及び運営規程に明記した上、利用者の書面による同意を得るとともに、10月11日(火)までに運営規程の変更届を2部、所管の健康福祉センターに提出すること。」とされています。

 添付資料では、新たに保険給付の対象外とする費用は、一般の利用者では下記の居住費と食費があります。(低所得者では減免措置あり)
 ア 居住に要する費用は4区分に分けられています
  報酬類型     利用者負担     現時点での見込額
  ユニット型個室  室料+光熱水費相当  6 万円/月・人 
  ユニット型準個室 室料+光熱水費相当  5 万円/月・人  
  従来型個室    室料+光熱水費相当  5 万円/月・人  
  多床室      光熱水費相当     1 万円/月・人

 イ 食費は基準費用額 4.2万円/月が予定されておりこれは調理費用にあたるものです。

  月に食費として42,000円もの新たな負担が必要になるのかとびっくりしていましたが、従前から病院や介護施設では食材料費として1日780円が利用者負担でしたが、この食材費は、今回の調理費用に含まれるのかどうか県介護保健室に確認しましたが、食材費は基準費用に含まれるとのことでした。また日割り計算では食費として1日1380円が見込まれているので、実質的な負担増は、1日1380円-780円=600円となり、食費の新たな負担増は月18000円となります。)

 居住費(光熱費)も日割りで考えると1日320円程度と見込まれています。

 従って、介護施設の普通部屋に入所・入院されている方でも、居住費と食費で今よりも月に3万円弱の負担が増えることになります。介護保険の介護報酬の1割負担と合わせると10月からあらたな負担をしなくてはなりません。(それにしても、介護福祉施設などで全室個室化を推進し、すぐに個室料自己負担のアップになり、ユニット個室入所者は食費と合わせると月10万円弱の増加となり、いかに現場を知らないといってもひどすぎます)

 そして、何より現場で困ることは、利用者にとって不利となる厚労省の決めた法案の「説明と同意」を現場で行えと言う指示なのです。


 また居住費・食費の利用者負担のガイドラインについて(案)という資料では
適正手続きの確保として
 ○利用者又はその家族に対する書面による事前の説明
 ○利用者の書面による同意
 ○居住費、食費の具体的内容、金額の設定・変更等に関する運営規程への記載及び施設内等への掲示 等
が、示されています。
 前述の厚労省の分科会でも、「現場では施設側が患者に対して費用負担を説明する。果たして患者に理解してもらうことができるのか」、「地域で説明会を行っているが、ほとんどの人が10月から費用が徴収されることを知らない」など、自己負担化に伴う現場の混乱を懸念する意見が続出した。とのことです。
 当然の懸念だと思いますし、なぜ現場で説明しなくてはならないのでしょうか。
 この説明は本来は国がすべきものですが、現場の医師や看護師、受付窓口にさせるわけですから本末転倒というか、説明責任を果たすべきです。
 今回の県からの通知でも施設側が利用者に説明して同意を求め、いずれも書類に残すことが示されています。
 同意されない場合には、どうすれば良いのでしょう。

○医療制度と介護保険制度の違い
 もう一つ現場を混乱させると考えられるのが、医療病棟と介護病棟の混乱です。今回は介護保険の改訂で、月に5万円を超える負担(新たな負担増約2.8万円)は、介護施設に入所・入院されている方だけです。
 介護福祉施設(特別養護老人ホーム)や病院に併設していない介護保健施設(老人保健施設)なら、その施設だけの問題で入所者も自己負担増加が、全員同じですので仕方ないとあきらめられるかも知れませんが、介護療養型医療施設の場合、医療の療養病床や一般病床と併設されており、病状悪化や急変時には、これらの病床を変わって(転棟して)治療・看護されていることは良くあります。
 そうすると、同じ病院内で転棟したとたんに、食費や居住費の自己負担が増えたり、減ったりするのですから、利用者・家族は病院・施設に対して不信感を持つと思われます。


 先日のマスコミにもこの問題は取り上げられていました。
「先日国会で成立した改正介護保険法により、10月以降、食費と居住費が自己負担になる。厚労省の試算では、最も重い要介護度5の場合、個室かどうかや所得により、月1万〜10.8万円が自己負担になる。
 一方、医療保険の療養病床は、食費と居住費のほとんどは保険でまかなわれており、患者の負担はかかった医療費の3割、老健制度対象の高齢者は原則1割だ。
 このため、給付を受けるのが医療保険か介護保険かで同じような療養病床の入院患者間で格差が生じることになり、今後、医療保険側に利用者が移る可能性もあることから、厚労省は医療保険でも食住費の自己負担が必要と判断した 」と報道されました。

 介護保険適応の介護療養型病棟だけ、食事や居住費の自己負担が増えるわけですから、医療保険適応の療養病床入院なら、食費・居住費の負担がないとなると、当然家族は負担の少ない病棟への入院を希望されると思います。
 また療養病棟・介護病棟とともに一般病棟も併設している病院なら、もし一般病棟には食費や居住費がかからないなら、一般病棟から療養病棟・介護病棟への転棟も現場では難渋しそうです。

 報道によると、厚労省は医療保険でも食費や居住費の負担を行う検討を始めていますが、日医は、医療制度と介護保険制度は、全く異なる制度として食費・居住費の医療病棟への導入には反対しています。

 私も、食事療法は治療の一環であり食費の保険外しに賛成ではありません。
 しかし、介護保険制度で長期療養者へ、食費や居住費の新たな負担を認めてしまった時点で、その理由が「自宅であろうと、医療病棟であろうと、介護病棟であろうと食費はかかるのだから自己負担する」という説明で導入されたのなら、制度の違いと言うだけで負担に差があるのでは利用者の了解は得られないのでないでしょうか、むしろ同じでないと現場は困ります。


 介護保険で認めてしまったからには、医療制度でも食材費と一部の調理費だけは認めないと、利用者にとっては混乱しますし、現場では説明のしようがありません。
 その時食材費と、調理コストをどの程度にするかは、このような過重な負担にならないように検討すべきです。
 居住費については医療制度では、個室料は特定療養費として認められていますし、180日を超える長期入院は、同様に選定療養費となっていますので、すでに負担はしているともいえますので、入院時の光熱費の負担をどう扱うかだと思います。
 勿論、入院されている患者さんの、減塩食や腎臓食・潰瘍食などの特別の治療食は、保険で認めるべきですし、特別食加算や、管理栄養士などの指導加算は残すべきです。今ある食材費・食費だけは保険制度が別でも統一したほうが良いと思います。
  
 日医や四病院協会は医療保険制度における食費、居住費については、団結して保険適用除外に反対していくことを確認したようですが、前述したように個人的には介護保険で新たな負担増を認めた限り、現場での混乱を防ぐために医療・介護で長期療養者の負担が異なることは避けねばならないと考えます。

 医療制度と介護保険制度で負担が異なるとするならば、同じ病院での療養病床と介護療養型医療施設で、直ぐに混乱するとともに、病院での介護療養型医療施設のあり方を問われることになると思います。医療の療養病床と介護療養型医療施設の違いがわかりにくくなっていますし、介護療養型医療施設でのケアプラン作成事務など、介護者にとって書類を作ることに時間をとられ、要介護認定の書類作りなども考えると、介護療養型医療施設の存在価値を問われる問題にもなりつつあります。そのうち病院の介護療養型医療施設はあちこちで撤退となるかも知れません。


 そのためにも、長期療養者の負担は、できるだけ同じであるべきで、導入時期は別々の時期に負担導入すべきではなく、介護保険の今年10月実施を遅らせ、来年4月の診療報酬改定の時期に合わせて医療保険での導入も検討すべきなのかも、検討すべきだと考えます。しかし、新たな高額な自己負担の導入は多くの療養者に厳しい負担になりますので、少しでもその負担額を減らすように努力すべきではないでしょうか。

 政府の説明に、国民は同意しているのでしょうか。

  17年7月15日  玖珂中央病院 吉岡春紀

    7月20日 食費コスト金額の訂正