「3割負担導入に反対します」
  -附加給付金制度について-

これまでの経過

 「サラリーマン本人の3割負担」の話題が新聞、テレビなどで毎日のように報道されています。先月、野党4党から「3割負担導入凍結」の法案が提出され、医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会の四師会からも凍結の共同声明も出されており、連合などの労組からも凍結支援の表明がなされています。
 この法案は昨年6月14日、日本中がワールドカップで日本代表の決勝トーナメント出場で沸きかえっている興奮の中、国会では医療制度改革関連法案の重要法案が与党だけの単独強行採決でに委員会を通過しました。
 それにしても国会と言うところは審議の場ではなくなり、重要な法案ほど与党単独の採決・野党は欠席という図式しかみえません。この様に与党は強行採決・野党は重要法案を欠席して採決に加わらないのなら、国会は何を審議する場なのでしょう。通過した法案の責任は誰にあるのでしょう。

 (さて、採決当日の委員会の「どたばた」は、「衆議院TV」のビデオライブラリーに保存されています。ビデオライブラリーから、過去の審議中継を選んで、平成14年6月14日、厚生労働委員会で検索できます。採決のドタバタは収録画像の終わり3分間でご覧になれます。
 使い方や配信方式は事前に選択し設定しておきますが、過去の委員会や本会議をパソコンで見ることが出来るのです。この情報公開は国会のすばらしい改革です。)

 同法案はサラリーマンの3割負担のほか、昨年10月から実施されている70歳以上の医療費の自己負担1割化、一定以上の所得がある者は2割に引き上げる自己負担の上限引き上げと、今年4月からのサラリーマンの保険料算定をボーナスを加えた年収ベースにする、中小企業のサラリーマンが加入する政府管掌健康保険の保険料率を年収の7.5%から8.2%に引き上げるなど国民の負担増を求める内容でした。

 当時国会には2600万を超える医療改悪反対の署名が寄せられ、某テレビ局の世論調査では「健康保険改正案」に反対は57.8%,賛成は23.4%で、国民の半数以上が反対であったにもかかわらず、強行採決された法案なのです。

 ところが最近の大手新聞の社説では、毎日新聞は2月8日「医療費三割負担 族政治に加担する野党の愚」、朝日新聞は2月17日「医療費負担増――凍結は問題の先送りだ」、読売新聞は2月18日「[医療費負担増]「議論の蒸し返しより改革を急げ」 と言うタイトルで、野党・医師会・族議員を厳しく批判し、実施の先送りに反対する意見でまとまっています。採決当時の国民の感覚とは明らかにずれています。
 国民の多数が反対し、多くの署名が提出された事実は無視しろと言うのでしょうか。委員会での採決当時の成り行きはもうマスコミも忘れたのでしょうか。悪法も法ですので法律が実施されたら従わざる生えませんが、まだ実施されているわけではありませんので、「今の実施が必要なのか」の修正提案しても構わないと思いますし、大手マスコミはその訴えも必要ないというのでしょうか。


サラリーマンの3割負担と附加給付金制度

 健康保険を使って治療を受けたときに、その保険の負担割合で窓口支払いします。サラリーマン本人は、今までは診療費の2割を自己負担として支払っていましたが、4月から3割になるのです。
 元々国民保険(市町村国保)では本人も3割負担でしたので、4月からすべての保険で、本人も家族も3割負担に統一されることになります(乳幼児を除く)。
 今回は詳しく述べませんが、サラリーマン本人の3割負担について、国保と一緒になる事が当然と言う意見もありますが、国保・社保の窓口負担割合が同じになったということだけで、各保険制度が公平になったのではありません。

 ところが、ここでもう一つ各種保険の大きな「不公平」があるのですが、このことについてはマスコミもあまり取り上げません。どうしてなのか、自分たちの給付に関係するからでしょうか。
 それが「附加給付金制度」です。

附加給付金制度

「附加給付金制度」とは、健康保険を適用して治療を受けたときに診療所や病院等の窓口で支払った自己負担の内である金額を超えた部分が、後で還付される制度です。要するに法律で定められた高額療養費の還付金等の給付以外に、独自で給付するものとされています。しかし附加給付金制度があるのは公務員の共済保険や大手の組合保険などで、政管健保にはこの制度はありません。
 具体的に附加給付金には、【一部負担還元金・家族療養附加金・合算高額療養附加金】と【埋葬附加金・家族埋葬附加金】などがあります。医療機関からの請求書によって負担額を自動的に計算し、支払するのは【一部負担還元金・家族療養附加金・合算高額療養附加金】です。

 実際に公務員の共済保険や大手の組合保険、一部の組合国保などでは、自己負担した医療費の一部が後日還付されています。この制度がある限り、公務員や教員、大手の組合保険の本人は、窓口での自己負担が2割から3割に増えても、後で還付されるのですからあまり影響がありません。

 そんなわけで、サラリーマンと言っても主に3割負担の影響をもろに受けるのは、附加給付金制度のない中小企業の政管健保本人だけです。そのためサラリーマン全体に3割負担反対の声が大きな盛り上がりに欠けるのかも知れません。やはり公務員や大企業のサラリーマンは守られ、一番弱い中小企業のサラリーマンに影響があるのです。不公平な制度です。また政管健保では保険料率も総報酬制となり、今までボーナスには加算されなかった(1%)保険料が、ボーナスにも加算されるため、3割負担と併せて2重の負担増となるのです。政管健保は雇用者だけでなく、事業主と保険料を折半しますので、総報酬制で保険料が上がるのは中小企業の雇用主にとっても負担が増えることになります。

 「3割負担導入」を叫んでいる大手企業の新聞社にも、「附加給付金制度」はあると思います。ならば今回の3割負担や保険料の改定は中小企業の問題で自分たちには関係ないと言えるのでしょうか。この問題はどう捉えているのでしょう。多くの国民の声も聞くべきです。


 公務員共済の場合1ヶ月に医療機関に支払った保険診療による自己負担金(差額ベッド代など自費診療分と食事療養費を除く金額)から、高額療養費と請求書1件あたり20,000円を控除した残りの金額が支給される事が多いようです。ただし、支給額が1,000円未満の場合は支給されません。また支給額に100円未満の端数がある場合は、端数は切捨てて支給します。また、被保険者の資格を失った後は給付されません。

 給付は患者からの申請ではなく、医療機関から送られるレセプト(診療報酬明細書または調剤明細書)をもとに保険者または健保組合で附加給付金と高額療養費を計算し、附加給付金と高額療養費を加えた額が支払われます。
 老人の外来医療費の償還制度のように、本人が自己申告するのではないため、申請漏れもなく確実に還付される仕組みのようです。

 組合健保など、企業独自の共済制度として事業主と雇用者が別に負担して会員を守るため制度なら、他の保険と違って不公平感はありますが仕方ないものと思います。しかし、公務員の場合この制度を果たして続けて良いのか疑問に思います。


 先日国会でも、この問題を民主党の櫻井 充議員が参議院の予算委員会で質問されていました。

 公務員にあって、政管健保にない事の不公平を質問されていましたが、政府関係者の答弁は、歯切れの悪いものでした。また農林水産庁の中でも林野庁にはこの付加給付がない事も明らかになりました。農林水産庁でも林野庁は農林省とは別の組合であることと、財政状況が悪いので行っていないとの答弁でした。

 附加給付金を出すか出さないかは、「付加給付の財源は事業者と保険料の納付者と折半するので、財源的に余裕があれば付加給付することが可能である」というのが坂口厚労大臣の答弁でした。

 財源的に余裕があることがキーワードですから、余裕のある企業なら付加給付は可能だと思いますが、ここで問題にしたいのは公務員の場合です。公務員の事業主である国は、現在も付加給付を行っているのですから財源的に余裕があるというのです。また地方公務員も、地方自治体は、財源的に余裕があるのでしょうか。
 国も、地方自治体も余裕などあるはずはありません、財政が厳しいから医療費削減を打ち出して「3割負担を導入」しようとしているのです。財政上厳しいにもかかわらず、かなりの額の税金を附加給付金として投入していることが問題なのです。財源的に余裕があるなら3割負担することも必要ないはずですし、下記の様な国庫補助を元に戻すべきです。

どこへ消えた 政管健保の2兆1931億円  (松海信彦先生  山口県医師会報 1454号 会員の声から)
 これによると「政管健保に対する国庫補助は、当時の法律では給付費の16.4%と定められていた。ところが、1985年大蔵省は、厚生省に対し、さらなる借入すなわち「政管健保の国庫補助の繰り延ベ」を要請した(「繰り延ぺ」とは、「未払い」の意味)。それに対し厚生省は、最初「国の財政が、容易に好転しにくく、借りっぱなしにされるのでは」と警戒し、また「将来、医療費が増えた時にむやみに保険科を引き上げないためにも、黒字分は積立金にするのが筋だ」と譲らなかった。
 しかし、大蔵省は「政管健保が赤字になった場合は、返還する」と約束し、結局「繰り延ぺ」は再三にわたり行われた。l985年度からl989年度までが4.639億円、1993年度1.300億円、l994年度1.200億円で、合計7.l39億円に達した。
 さらに、政管健保はl991年度3.747億円という過去最高の黒字を示し、国庫補助率が16.4%から13%へ引き下げられた。これは、約1.500億円規模の減額に相当する。

 ところが、それからわずか2年後のl993年度、政管健保は935億円の赤字を出した。これは、「繰り延ぺ額1.300億円」と「国庫補助率引き下げ分1.468億円」のダブルパンチが効いたからだ。大蔵省がこれらの減額措置をとらなければ、1.833億円の実質黒字であった。つまり、「赤字転落に加速」をつけたのは、「大蔵省の減額措置のやり過ぎ」によるものだ。」とされています。

 特例処置で13%とした国庫補助を16.4%の元に戻せば、政管健保も財政的には赤字とならず、政管健保にも附加給付金が可能だったかも知れません。この約束はバブルの崩壊と共に反故にされています。

 3割負担導入と言っても各保険でこの様な不公平があり、3割負担導入でで医療費削減の効果はあまりありません。ならば混乱だけ与えて、国保や中小企業の政管健保のような弱い保険者だけに負担を増やす不公平な制度はもう少し抜本的に改定してからでも良いと思うからです。もし3割負担を導入するのなら、3割負担導入にあわせて、公務員の附加給付金制度も廃止すべきだと思います。またどうしても導入するならば、老人医療のような外来の高額医療費も限度額を設定し、弱い立場の保険者を守ることも必要だと思います。

 未だ詳しい資料を持ちませんので間違った解釈もあるかも知れませんが、3割負担導入を前に、附加給付金制度の問題も検討する必要があるのではないでしょうか。
         平成15年3月14日


附加給付金の額 

 附加給付金の月限度額は、前述したように国家公務員は20,000円が多いようですが、他には組合国保の3,000円から30,000円まであるようで、金額は一定していません。附加給付金限度額が、3000円の場合、本人は月3000円以上支払った額はすべて還付されるのですから窓口での負担は2割であろうと3割になろうと関係ないとのだろうと思います。

その他 附加給付制度の説明があったホームページです。

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