患者調査についての不思議

今年も厚労省による全国の患者調査が行われ10月8日時点の入院・外来の患者調査行われています。
前回の調査は平成11年ですので3年に1回の調査です。
調査施設は全国から抽出により選ばれた医療施設において実施されることになっています。

前回の11年調査結果は厚労省ホームページに公開されています。

さて、当院も調査医療機関に選ばれ(前回も・前々回も選ばれていますので果たして抽出がどうか)、10月中に調査票に記載しなくてはなりませんので、先日から入院分の記載をはじめました。
記載していて、何かおかしいなと感じたことがありますので報告します。

入院患者については病院入院(奇数)票といって、出生日の末尾が奇数の患者について記載することになっています。

具体的な記載項目は
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性別・生年月日・患者の住所
入院年月日
受療の状況 傷病名 1つ

支払い方法
 1.自費診療 特定療養費を含む
 2.医療保険等、公費負担医療
 3.介護保険 介護扶助を含む

  介護サービス費を介護保険または生活保護法による介護扶助で支払う場合
 注
  調査日に介護保険適用病床に入院して、介護保険のみで支払う場合は3のみを○で囲んで下さい。
  調査日に介護保険適用病床に入院して、医療保険など、公費負担医療、自費診療を併用する場合は
  3だけでなく、1または2を○で囲んでください。

紹介の有無
救急の状況
 救急車により搬送・救急外来受診・診療時間外・その他

病床の種別
 1.老人性痴呆疾患療養病棟
 2.その他の精神病床
 3.感染症病床
 4.結核病床
 5.療養病床 療養型病床群
 6.老人病床
 7.一般病床

入院の状況
 1.「生命の危険がある」
 2.「生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する」
 3.「受け入れ条件 が整えば退院可能」
   退院は決まっていないが退院可能な状態にある患者
 4「検査入院」
 5.その他

心身の状況
 1.5.6.の病床患者のみ下記の4項目の状況

 移乗
  自立 這って動いて、移乗が自分で出来る場合も含まれる
  見守り 直接介助はいらないが自己がないように常時・時々見守る場合、移乗の際に側にいて確認

 食事摂取
  事前の食事の用意、配膳、後かたづけ、掃除なとは含まれない

 嚥下
 排便の後始末

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具体的には、生年月日と傷病名以外には上記の項目のいずれかに○をつけるだけです。

 この記載をしていて不思議に思ったのは、記載項目が介護保険の始まる前の平成11年の項目とほとんど同じであることでした。

 今回の調査票では、入院に関して病床の種別で疑問があります。介護保険適応の「介護療養型医療施設」の入院患者は記入すべきなのか、記入しないのか、また記入するならば、病床区分はどこに入れるのかが明確ではありません。介護保険の利用は支払い方法で区別するようですので分からないことは無いと思いますが、「介護療養型医療施設」の入院患者をもし5の.療養病床 療養型病床群に入れるならば、本来の医療制度の療養型病床と区別するのが困難になりますし、区別すべきだと思います。統計をとるときに一緒にされてはならないと思います。どうして「介護療養型医療施設」が外されたのか不思議です。

前回の調査結果では
「入院患者を重症度の状況別の構成割合でみると、「生命の危険がある」5.9%(8万8千人)、 「生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する」59.5%(88万2千人)、「受け入れ条件 が整えば退院可能」18.6%(27万5千人)、「検査入院」2.2%(3万3千人)となっている。 「受け入れ条件が整えば退院可能」は年齢階級が高くなるに従って増加している。」
と報告され、その中の75歳以上の24.8%が受け入れ条件が整えば退院可能とされ、マスコミを使ってこれらは「社会的入院」発表されたのは昨年のことです。

 もし今年の調査も、介護と医療の区別もせずに療養病床で統計がとられるとしたら大きな問題です。きちんと書き込むように区別してあれば何の問題もないのに、なぜ介護療養型医療施設を入れなかったのか疑問です。

 もし医療制度の入院患者だけの調査と言うなら、介護保険の施設入院は調査すべきではなく、もし調査するならば病床の種別に介護療養型医療施設を加えるべきだと思います。

 その調査結果から、医療施設なら「受け入れ条件 が整えば退院可能」でも、介護施設なら在宅介護が色んな条件で困難な人が対象になっていますので、ほとんど最終介護施設になり「受け入れ条件が整えば」という仮定も成立しないことになります。

 今回介護保険の介護療養型医療施設を外した意図は、介護保険制度が始まっても、「まだ社会的入院が多い」と言う結論にしたいのかどうかは分かりませんが、すでに実施されている介護保険制度をわざと外したようで疑問です。

 むしろ医療制度の療養型病床から介護保険制度の介護療養型医療施設への転換が全国的に進んでいない事をきちんとした調査で調べ、転換の進まない都道府県ではどこに問題があるのかを調査すべきではないでしょうか。

 また一般病院の急性期病棟を減らし、重度の看護介護を必要としている高齢者を追い出している現在の高齢医療政策が、正しい方向なのかどうかを検証すべきです。それには介護保険制度の発足当時の介護施設入所予約と、現在の入所予約数を比べてみれば明かです。介護福祉施設の入所待機者はどの地域でも数倍から10倍以上の入所待機になっているはずです。
 これは介護保険が始まって在宅介護が減ったのではなく、まして施設入所希望が増えたのではなく、一般病院に滞在できなくなった重度介護者が療養型病床群にも収容しきれなくなっている事を意味しています。高齢化に伴い高齢者用の病床は増えねばならないのですが、むしろ減っているのですから介護施設入所待ちは増えて当然だと思います。

 いずれにしろ、厚労省の患者調査は必要ではありますが、今回介護療養型医療施設の位置づけをわざと外したような調査は疑問です。

                         14年10月18日


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