そもそも介護認定自体がが難しいのや


落語医者の介護保険あまから問答 その七
    北畑英樹氏 メディカル・クオール NO.37 1997年


  1回の調査で正しい認定ができるのか
「ご隠居さんの介護保険の話を聞けば聞くばど『保険あって介護なし』になりそうな気がしてきましたけど」 「ワシが最近みた資科に『介護保険制度Q&A集』というのがあるんやけど、これは都道府県や市町村が質問して、厚生省の介護保険制度準備室が答えてるもんで、全部で149ぺ−ジ、質問の数が466もあるんや」「と、いうことは、都道府県も市町村も、この制度に疑問が多いということですな」
「そのとおりや。しかも、その答えの大部分は『今後検討してまいりたい』とか『円滑な導入を図るため準備に取り組んでいただきたい』とか『今後さらに手引き等を作成したいと考えている』とかで、ハッキリ答えているもののほうが少ないんや」
「厚生省自身もハッキリしてないことが多いんですなあ」
「まあ、走りながら考えましよというところやな」
「それで、どんな質問が多いんですか」
「数だけでいうと、要介護認定・介護支援サービスという項目が151でトップや、続いて介護保険事業計画・基盤整備の項目が90、保険科の認定の項目が85、介護報酬の項目が65、それ以外には政省令とか事務処理システム、年金からの特別徴収とかの質問があるんや」
「早い話が、介護保険の根本的なことに質問が多いということですな」
「うん、介護認定とそのサービスや基盤整備に質問が多いということは、考えたら大きな問題やわなあ」
「ますます心配になってきましたけど、まず一番質問の多い介護認定の話、してもらえますか」
「以前も話したように、まず介護サービスを受けたい高齢者や家族が市町村に申請するんや。すると、市町村の認定調査員が家へきて、○×方式の71項百の質問表にそって高齢者の能力や程度を調べるんや。それをコンピュータに入れて6段階に振り分ける。これが一次判定。次に、その一次判定をもとにして『介護認定審査会』が開かれて、二次判定となって、その人の要介護度が決定されることになるんや」
「早い話が、もらえるお金が決まるんですな」
「いや、現金の支給はないんやで、その金額の範囲のサービスが受けられるんや。ここを間違うと困るで」
「そんなこと、以前にも聞きましたなあ。そやけど一次判定の○×方式は簡単ですけど、それで大丈夫ですか」
「そこが問題の第一や。そんな一回でしかも短時間の間き取り調査で、年寄りの本当の姿や能力がハッキリつかめるかということや。仮にプライドの高い年奇りは、弱みみせたないから、普段はできんことでも無理してできますと答える人もいるやろし、反対に保険たくさん貰いたい年寄りは、普段はできることでもできませんと答えるやろうと思うで」
「なるほど、○×の質問だけでは難しいかも知れませんなあ」
「それに、痴呆、いわゆるボケの症状なんかでも、大声を出すとか、火の不始末とか、いろいろ質問はあるんやけど、○×方式で有るか無いかだけの問題とは違うわなあ、その程度や回数とかの重症度や深刻さが反映されてないという批判もあるんや」
「そら、一日中隣近所に響きわたるほどの大声を出すのも、家の人がうるさいなあと感じる程度の声を出すのも大声を出すことに違いはないですなあ」
「そこで、認定調査員が4項目について、必要なら書き込む記述調査というのも認められてるんやけど、これを上手に利用できるかどうか、これも大きな問題や」
「そしたら、それ専門に勉強した人がいるんと違いますか」
「そうや、何回もいうようやけど、介護保険のスタートは介護認定やから、ここをシッカリと押さえてくれる人材の育成が大問題やし、そのチェック・リストもまだまだ考える余地があるらしいで」

おまけに認定に三ヶ月もかかるんや
「そりやそうですわな。ここで失敗したら、不満だらけになるか、いくらお金あっても足らんようになることは確実ですからな。そこで二次判定の介護認定審査会の出番ですけど、どんな人がやるんですか」
「これは、要介護者の保健、医療または福祉に関する学識経験を有する者のうちから、市町村長が任命することと法律で決められているんや。そんな人4-5人の集まりで、今話した一次判定で分類された介護度と、認定調査員の記述調査とかかりつけ医の意見書の三つの資科を参考にして最終的な介護度を決めるんや」
「なるほど。これは結構なやり方ですけど、時間がかかりそうですなあ」
「厚生省は30日以内に判定するとしてるんやけど、国会審議では、認定3カ月、不服審査に3カ月といわれてるんや」
「もし3カ月もかかったら、年奇り死んでしまうかもしれませんで。死んでしまわんでも、年奇りの状態が変わってしまうことは十分考えられますなあ」
「そういうことや。それと関連して、一度認定されたら、その介護度のまま、いつまで続けるのか、状態が変化したら、その次の認定はどうするんかという問題も大きな問題や」
「それに、申請から正式な認定までの期間はどうするんですか、認定されるまでは知らん顔してるんですか、そのあたり、年寄りのこと考えて制度を柔らかに動かすか、お役所仕事で処理するか、それによっては血の通う制度になるかどうかの分かれ目ですなあ」
「それと問題なのは、その審査会にかかりつけ医やら、調査にいった調査員が出席していないことが多いんや」
「ほんなら、本人をみたことのない人が集まって、さっきの三つの書類だけで認定されることになりますなあ」
「そうなる可能性が強いやろなあ。いずれにしても認定の必要な年寄りの数は多いし、そんなに時間をかける余裕はないと思うで」
「それより、この認定でわたしが気になるのは『どうせ他人のお金やから、たくさん貰えるように書いてあげよ』と考える調査貫やら医者がいたら、困ったことになるんと違うかということですわ。もしわたしの知ってる調査員やら医者やったら、できるだけ重症に書いてもらうように頼みまっせ」
「その問題は厚生省も予想して、虚偽の診断書による不正利得については、医者と保険を受けた者とが連帯で、その不正分を返還させることができるということをちやんと法律のなかに書いてあるんや」
「さすがですなあ。そやけど認定に3カ月もかかってたんでは、実際には無理のような気がしますけど」
「確かに、難しいやろなあ。しかし、逆に市町村に義理立てして、認定審査会が介護度を軽く判定するかもしれん。いずれにしても調査員も医者も認定審査会も、どれだけ中立性を保てるか、これが大問題や」
「それで、その判定に不満の場合は、さっきの不服審査ということになるんですね」
「そういうことや、そやけど、これも難しいで。なにしろ家族が市町村へ行くにしても、年寄りかかえてるし、人は、それほど元気なはずもなし、おまけに、また3カ月やからなあ」
「そやけど、保険科は取られてるんやから、自分の予想よりも貰うお金が少なかったら絶対に腹立ちまっせ。隣のおじいちやんより手がかかるのに、なんでわたしのおばあちやんの認定は低いんかと不満たらたらの人が増えるんと違いますか」
「これが、認定制皮の難しいところ、つまりは介護保険制度の難しいところやなあ」
「スタートから、こう難しいんでは、難しいですなあ」



その八にご期待下さい。
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