貧乏人はみじめな老後になるで


落語医者の介護保険あまから問答 その五
    北畑英樹氏 メディカル・クオール NO.35 1997より

  老人医療費を減らしたいのが本音や
「ご隠居さん、それではボチボチ介護保険の何が一体気にいらんのか、何が心配なんか教えてくれますか」
「そう正面から聞かれると困るけど、ワシの心配してることをボチボチと話しましょか。まずは、大事なお金の問題から。なんというても、国が介護保険を考えだしたんは、いろいろいわれてるけどトドのつまりは、老人の医療費を減らしたいのが本音のところと違うんかと思うんや」
「まあ、お金のことはわたしらも心配ですからなあ。早い話、いくら払えばええんですか」
「それが、それほど単純やないんやなあ。まず被保険者、つまり保険科を払う人のことやが、これが二種類あるんや。まずは第一号被保険者というのが65歳以上の老人や。そして第二号被保険者というのが40歳から65歳の老人予備軍や」
「若い人からは取らんのですか」
「20歳からでも徴収したいけど、40年以上も先のために保険科を払う人は少ないし、そんなことしたら反対する人が増えるやろうと考えて40歳からにしたんやろ」
「なるほど、20歳は老人になるなんて考えてませんもんね」
「いずれ財源不足になったら、だんだん若い人からも徴収するようになるかも知れんで」
「それで、保険料はどうなってます」
「介護保険がスタートする予定の2000年度で介護サービスにかかる総費用は4兆1600億円と国は試算してるんや。このうち利用者が負担する一割分と食費負担などを除いた3兆6700億円を保険料と公費で半分ずつ支出することにして、公費の部分は国と都道府県と市町村で2:1:1の割合にするんや。そやから保険科で3兆6700億円の半分、つまり1兆8250億円いる計算や。この2000年度の40歳以上の人ロが約6500万人の予測やから、一人当たりでは月に2500円ほどになるんや。また、制度の整備が進んだ2010年度には3500円程度にしたいとしてるんや。負担を増やす話の根回しのよさは健康保険科の値上げの時といっしょやなあ」
「やっばり、今から値上げのこというてますか。それでどんな方法で保険科とりますの」
「第二号被保険者、すなわち40歳からの老人予備軍は、今加入している医療保険に上乗せするんや。この場全は事業主が半額出すから、本人は2500円の半分、専業主婦の配偶者の分も、事実主や国から補助があって半分の負担や。ところが第一号の65歳以上の老人は、原則として年金から天引きや」
「ということは、年金が減るということですか」
「そのとおりや。そやけど国も少し考えて、その所得に応じて払う金額を五段階に分けて、1250円から3750円までのランクをつけたんやけど、どちらにしても最低1250円は払わないかんし、この場合は事業主からも国からも補助はないんや」
「へぇ、そりゃかわいそうと違いますか」
「国は、最近のデータでは高齢者だけが一律に経済的に弱いとはいえないというてるからなあ」
「そこまで徹底したら、集金の方は大丈夫ですね」

金の切れ目が命の切れ目になるかも
「いやいや、そうはいかんのや。今の自営業や農業、漁業の人が加入している国民健康保険でも、加入者全員が保険料払うてるかというと、国全体では7%の人が未納や。そんな人から介護保険科とるのは難しいやろな」
「ほんなら、どうなりますの」
「法案では、未納などで赤字がでた市町村には、都道府県単位の『財政安定化基金』が半分の補填をすると書いてあるけど、そのかわり、未納者には、その程度に合わせて、未納期間分は通常の一割負担を三割にするとか、保険給付の一時差し止めをするとかいう罰則もちゃんとあるんや」
「現実に、そんなことできますか。年寄り相手に」
「難しいやろなあ。そんなことしたら、金の切れ目が命の切れ目ということになるしなあ」
「ほんなら、また市町村の赤字は増えることになりますやんか」
「そうや。今でも国民健康保険の赤字で苦しんでる市町村ばっかりやから、ある調査では、介護保険が第二の国保になると大いに心配している市町村が72.9%、少し心配が24.2%、合わせたら98.1%も心配してるんや」
「そりゃ、えらいことですなあ。それで思い出したんですけど、まだまだ介護保険の受け皿がほとんど整備されてない市町村もあるということでしたけど、そこに住んでる人も同じ保険料ですか」
「そこだけは、やっぱり気がひけたんやろなあ。施設その他の整備状態によっては、保険料をしばらくの間、市町村の判断で下げてもよろしいと国もいうてるんや」
「そら、当然ですわなあ。まあ、市町村の赤字は困るけど、それはそれとして、仮にわたしが介護保険を受けたらどれほど必要なんですか」
「前にもいうたけど、まず熊さんが介護保険を受けたいと申請するんや。すると『介護認定審査会』が熊さんの要介護度いうのを決めてくれるんや。この認定制度も問題が多いのやが、その話は後で詳しくするとして…。仮に熊さんが、要介護度。の食事、着替えはなんとか自分でできるが、排泄は一部手助けが必要という状態やったとしたら、月に17円から19万円分のサービスが受けられるんや。そのなかでメニューを考えることになるんやけど、ホームヘルパーの派遣では、身体介護が1時間で3130円、家事援助が1410円、夜間巡回が一回20分で1520円、デイケアに行ったら一回9930円というように値段が決まってるんや。それを熊さんの状態やら、希望に沿ってバイキング料理みたいに熊さんのもらえる金額の範囲で選ぶんや。これが希望どおりに運ぶかどうか、今のところ疑問が多いんやけど、まあ選べたとしたら、その一割が本人の負担ということや」
「そしたら、その範囲よりもう少し何かやって欲しいと思うたらどうなりますの。ちゃんと一時間で終わったらよろしいで、そやけど、その頃は、わたしもスローモーになってますから、『もう20分お願いします』というようなことも多いと思いますけど」
「それは全額が熊さんの負担や」
「ふ−ん。やっぱりお金ないと、年奇りになれませんで」
「それと困ることは、現在、市町村でやってる高齢者サーピスの費用が介護保険の導入で値上げされるものがでてくるんや。特に所得の低い人で」
「どういうことですか。それは聞こえませぬ田兵衛さんでっせ」
「たとえば、今のホームヘルパーの科金は、所得に応じて無科から最高920円まで設定されているんやけど、介護保険が実施されたら、さっきいうた3130円の一割やから300円は払わないかん。訪問看護にしても単価は9000円前後やから、900円は払わないかん、今は250円ですんでるんやけど」
「ということは、ますます貧之人はみじめな老後になりますなあ」
「そういうことになるなあ。これからは丈大で長生きしてコテッと死ぬか、金ためるかせんと」
「わしらはコテッを目指すほうですな」
「厚生省によれば、95年度の65歳以上の高齢者世帯の平均年収は約330万円ということやけど、100万円未満も16.8%いるんや。こんな人をどうするんか、良識の府といわれる参議院でシッカリ考えてもらわんといかんなあ」
「ごもっとも、ごもっとも」


その六にご期待下さい。
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