計画通り進めば世の中バラ色や


落語医者の介護保険あまから問答 その二
    北畑英樹氏 メディカル・クオーレ NO.32 1997より

計画通り進めば世の中バラ色や
「ご隠居さん。それでは、ぼつぼつゴールド・プランについて説明してくれますか」
「それはな、消費税から話をはじめないといけないんでな」
「それは、またどうして」
「熊さんも知ってるとおり、消費税は今年の4月から5%になったやろ。その前は3%やったんやが、これが平成元年の4月から導入されたんや。ところが、これをはじめる時に福祉目的税にするとかなんとかいいながら、結局は普通の消費税にしたもんで、その年の参議院選挙で自民党は社会党にボロ負けしたんや」
「それで、自民党があせったんですね」
「そうや。そこで、早速12月に『消費税の見直しに関する基本方針』というのを作って、高齢化社会に備えるというお題目を具体約に進めるために『高齢化に対応した公共福祉サーピスの充実』という項目の一環として『高齢者保健福祉推進10か年戦略』いわゆる『ゴールド・プラン』が出てきたということなんや」
「へー知らなんだなあ。そこで、あの岡光さんが必死で考えたんですね」
「そういうことや」
「それで、その中身はどんなもんですの」
「それはな、計画の10年間で6兆円ほどのお金を使って、在宅福祉の推進と老人施設の充実、それに老人の生きがい対策の推進なんかを中心にしたもんなんや」
「6兆円、すごいお金ですね」
「いやいや、10年間でやから、1年間、全国で6OOO億円や。国民ひとり1年に6OOO円にもならん。住専処理や旧国鉄の借金に比べたら微々たるもんや」
「それで、国は具体的には、どんなことしたんですか」
「まず、目標の数を決めたんや。国全体で、在宅福祉推進のためにホームへルパーを10万人、ショートステイを5万床、デイサービスセンター1万カ所、在宅介護支援センター1万カ所、また施設の充実として、特別養護老人ホーム24万床、老人保健施設28万床を目標にしたんや」
「それで」
「それから、平成2年に、全国の市町村に、それぞれの市町村の老人の実態と今後の予測に基づいて『老人保健福祉計画』を作るように命令したんや。そんなこと急にいわれても市町村もどうしていいかわからずにウロウロしてたら、平成4年に厚生省から通知が来たんや。
 この通知とか通達いうのがクセ者で、いろいろ問題があるとワシは思ってるんやが、まあ、それはそれとして、とにかく厚生省老人保健部長通知『老人保健福祉計画について』のなかで、サービスの種類やら目標の決め方なんかを、詳しく指示してきたんや」
「そこまでいわれたら、市町村も動かないと仕方ない」
「そういうことや。その結果、平成6年3月には全部の市町村が計画を作ったんや。ところがや、市町村がそれぞれ目標だしたら、国の予想よりも必要数が増えてしもた。仕方なく、10月には数値を上方修正した『新ゴールド・プラン』を厚生省は発表することになった」
「それで、計画は進んでるんですか」
「さあ、そこや。計画はあくまで計画や。計画どおりに物事が進めば、世の中すべてバラ色や。サービスでも、施設でも、計画を実行しようとしたら土地がいる、お金がいる、人がいる。そう簡単に計画どおりには進むはずがない。
 そこで、今年の全国市長会で市長たちが、介護保険についての意見を発表したんや。それによると、『各都市は「新ゴールド・プラン」に基づく介護サービス基盤の整備を推進しているが、多くの都市において、その達成さえ困難な状況にあるうえ、介護保険制度の導入に伴い介護サービス需要が計画を大きく上回ることが予想される』として、介護保険制度をまともに運用するのは、まだまだ無理があると国に泣きついてるのが正直なところみたいやな」
「と、いうことは、ハッキリいえば、まだ介護保険やるには受け皿が不十分やと市長さんらは考えてるということですか」
「まさしく、そういうことや。仮に計画どおりに進んだとしても、その運営費のこともあるから、これからは金持ちで市長が老人問題に理解のある市町村に住むことを考えんと、いい老後は送れませんで」

いい老後は市町村選びから
 「なるほど、しっかり勉強して、引っ越しも考えんといけませんね。ところで、福祉の方はなんとなく動きがわかりましたが、医療のほうはどうなったんですか」
「この前、厚生省が昭和58年に特例許可老人病院という制度を作ったことは話したと思うが、それまでの老人病院は、暗い、臭い、汚いという3Kイメージで、おまけに医者のほうも若い人に対する医療と老人に対する医療の違いも、それほど理解していなかったし、たとえ理解してても、出来高払い制度では無意味に近い点滴や検査をしなければ採算がとれなかったことも事実やったんや」
「それで、問題になった、縛りつけての点滴なんかしたんですね」
「そうや。その点、特例許可老人病院は、点数の包括化、いわゆるマルメやから、検査も点滴も必要以上にすることもないし、老人にとってはいいシステムといえる。そうなると、病院で働く職員も老人を中心に考えるようになってきて、それぞれの患者さんに、その人にあったケアプランというのを作るようになったりして、老人の医療はグッとレベルアップしたんや。今の老人病院は10年前とは全然違ういい雰囲気になった」
「お医者さんも、看護婦さんも年奇りの扱い方がわかってきたんですな」
「そうや、老人には老人の医療があるとわかったんやな。そこで、老人病院でない普通の病院でも、老人の入院が多い病院では、その老人病棟だけを特例許可にしてもらって、いわゆるケアミックスという形式をとる病院も増えてきたんや。この方が経営も安定するしな。そして、今では、全国に約1000病院、ベッドにして14万7000床の特例許可老人病院があるようになったんや」
「へ−。すごい数ですね」
「ところが、この特例許可老人病院というのは、医者や看護婦、介護者の定数によって入院医療管理科のランクが決められていて、その広さについては、あまり問題にされてなかったんや。しかし、やっぱり老人の生活を考えると、廊下の幅とかベッドの周囲の広さとか食堂とか、フロとかいろいろと設備面での改善が必要だということになり、厚生省は療養環境科というのを新設して、設備や広さで、またまたランクづけしたんや、そして、その最高額を長期療養型病床群といわれる施設に与えるようにしたんやな」
「その長期療養型病床群ってなんですか」
「それは、平成4年に、これからの病院は特定機能病院といわれる高度な医療、あるいは教育などの特別な仕事をする病院と一般病院と、主に老人を入院させる長期療養型病床群に大きく分ける方向を示して、この長期療養型の目標を19万床として、介護保険なんかの施設サーピスの受け皿にしようと考えたんや。それで、特例許可老人病院も、今どうにかして長期療養型病床群に転換しようとしてるんやが、それこそ土地とお金の問題とで頭が痛いところなのよ。特例許可というのは、特例の許可やから、いつでもパーにできますということやし、介護保険では長期療養型しか利用させませんと、厚生省は言い出すかも知れんし、つまり、病院は厚生省のアメとムチで介護保険に向けて動かされているということなんや」


その三にご期待下さい。
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